2016/04/09
文芸/Book

青春はジェットコースターのごとし!森見富美彦の描く「夜は短し歩けよ乙女」

疾走感に満ち溢れた京都青春小説

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Image via Amazon

疾走感と小気味の良さに溢れた森見富美彦氏の作品である。歴史と文化の街京都が舞台。主人公で大学生男子の「私」と、彼が恋焦がれる可憐なヒロイン「彼女」の二人を軸に物語は進んでくのだが、そのスピード感がとても心地よい。言うなればこの本は「彼と彼女の青春冒険小説」なのだと思う。事実、私は全力疾走をするかのように一気にラストまで読み切ってしまった。

主人公を取り巻く登場人物が揃って曲者揃いな点も森見作品の魅力なのだが、この作品でも妖術使いに天狗・鯨飲馬食の謎の美女・京都の裏を牛耳謎の老人など、期待を裏切らない魅力的なキャラクターたちが活躍してくれる。そして京都という土地が、観光旅行では味わえない、きっと住んでいる人間にしかわからない生活感と体温を伴って感じられるのも嬉しいところ。この点は、きっと作者自身が京都で大学生活を送ったことによるのだろうと思う。寺の境内で開催される古本市や木屋町のレトロな居酒屋、吉田講堂などを訪れる森見作品聖地巡りをしてみたくなった。

滑稽とも言える主人公の恋路、応援せずにはいられない

Photo via Visual hunt

恋路に於いては外堀を埋めるばかりで、なかなか彼女に近づけない主人公には何とも言えない駄目さと必死さがあって、ページを捲った心の中で何度ヤジとエールを送ったかわからない。迂回するかのように進まなかった二人の距離が、最後にはまるでサヨナラホームランのように急接近して迎えるラストは痛快。

がむしゃらだった自分の青春時代を思い出しながら、余所行き姿でない素顔の京都を、愉快な仲間と共に冒険する。そんな体験ができる特別な一冊だと思う。

内容紹介

「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。

-Amazon作品ページより引用

書籍情報

ジャンル: 文芸

著者: 森見 登美彦

発行日: 2008/12/25

発行元: 角川グループパブリッシング

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