2017/06/09
アートコラム/Column

猫づくし!江戸の猫好き絵師たちが描いた【浮世絵】

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 ’14年頃から続く空前の浮世絵ブーム。

 今や、葛飾北斎だけでなく、歌川国芳、広重、河鍋暁斎、喜多川歌麿、といった浮世絵師の名前を誰もが知っているだけでなく、その作品を直接一度は目にしているのではないでしょうか。

 昔の絵師たちのユーモアのある作品は今の人にも人気があり、「浮世絵」展には毎回多くの人がつめかけます。

 「東海道五十三次」といった風景画。東洲斎写楽といった多くの絵師が手がける役者絵や、百鬼夜行に代表される妖怪絵から春画に至るまで、浮世絵には実に様々なジャンルがあります。

 

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 その中でも特に、他のジャンルには負けない勢いで現代人のハートを掴んでいるのが猫絵です。現代でも「猫カフェ」や「猫鍋」といった新しい猫コンテンツが生まれ続けています。

 そんな日本人の心を掴んで離さない猫。

 江戸時代の浮世絵には猫愛を感じる作品が多く残っています。昔の人々も同じように猫と暮らし、大変に可愛がったようです。

 今回はそんな猫絵を、江戸時代の絵師たちがどう描いてきたか、有名作品とともに振り返ってみましょう。

 

歌川広重(1797-1858)

「名所江戸百景浅草田浦酉の町詣」安政4(1857)年

 広重といえばこの作品を思い浮かべる人も多いのでは?

 吉原で働く女性の控屋があった浅草田甫。遊女屋の窓の格子越しに、田んぼの畦道を、縁起物の熊手を担いで歩く人々が描かれています。格子窓から外を眺める猫。猫の丸い背中と表情にどこか哀愁が漂う作品です。

 

「浮世画譜」の猫スケッチ(1790-1848)

 浮世画譜とは広重の3巻からなるスケッチ画集。こちらの画集、江戸後期に活躍した絵師、渓斎英泉との合作。1~3巻を広重が担当しています。1ページに24匹の猫が軽快な筆致でさらりと描かれています。

 一見簡単そうに見えますが、観察眼に優れていないと普通これだけのスケッチを簡単には描けません。

 

「猫の鰹節渡り」(ねこのかつおぶしわたり)

こちらは街中で行われた興行に合わせて摺られた見世物絵(みせものえ)の一つ。

 この絵で描かれているのは乱杭渡り(らんぐいわたり)という軽業(かるわざ)の1つ。高低差をつけて地面に打ち付けられた杭の上を、落ちないように歩いて渡るというものです。この絵の中ではかつお節をその杭として描き、扇子には「乱杭渡り」をもじって「にゃん喰い渡り」と書かれています。

 画面からは軽快な足取りでかつお節の上を歩く猫の姿が自然と想像されます。静止画なのになぜかアニメーションのような動きを感じるのが不思議です。ビデオや写真の無い時代、浮世絵が如何に当時のメディアとして重要だったかをここから垣間見ることができます。

 

「猫の化粧」 

 ね、猫村さん…??

 にそっくりなこちらの作品。現代のイラストレーターが描いたと言われても信じてしまいそうですね。

 

 

 

 

歌川国芳(1798-1861)

 

「猫絵」ブームの火付け人とも言える歌川広重。

 妖怪絵でも名を知らしめましたが、江戸時代きっての猫好き絵師としても有名な絵師です。他の絵師と比べても、膨大な数の猫絵を残しているほか、役者絵や妖怪絵にも猫を登場させるなど、その猫愛はとどまるところを知りません。

 国芳の「猫絵」作品の主題を細かく見ていくと、実はパロディ作品が多い事に気がつくかと思います。パロディの元をたどっていくと、さらに絵の面白さが深まります。そのあたりにも注目しながら見ていきましょう。

 

 

「ことば遊び」の猫づくし

「其のまま地口猫飼好五十三疋(そのまま-ぢぐち・みやうかいこう-ごじうさんひき)」

 この作品のパロディ元は歌川広重の「東海道五十三次」。

 タイトルにある其のまま地口の地口とは語呂合わせのこと。東海道の五十三の宿駅に日本橋と京都を加えた五十五の地口で、様々な猫の姿を描いています。

 「猫飼好」と書いて「みやうかいこう」と読ませるところも猫好き国芳ならではのユーモア。

 一匹一匹の猫を詳しく見ていくと、どれも言葉遊びになっています。

「沼津」ぬまづ→なまず(鯰をじっと見つめる)

 

 

「大磯」おおいそ→おもいぞ(イカが重いぞ…)

「草津」くさつ→こたつ

「鞠子」まりこ→はりこ(張子の猫)

 ちょっとギャグが厳しい…? お後がよろしいようで。

 

 

猫の「ことわざ」にちなんだ作品

 「たとゑ尽の内」(たとえづくしのうち)(1852)

 

一見普通の猫絵にも見える、こちらの作品「たとゑ尽の内」では、実は猫にまつわる言葉やことわざが絵で表現されています。描かれているのは以下の12の言葉です。

 1.猫(の顔)に鰹節
  =油断できない状況を招くこと。

 2.猫を被る
  =本性を隠しておとなしそうに見せること

 3.猫に小判
  =価値の分からない人に貴重なものを与えても何の役にも立たないこと

 4.猫の尻に才槌
  =割りに合わないこと、ふさわしくないものの例え

 5.猫舌
  =猫のように熱いものを飲食できないこと

 6.猫背
  =座った猫の背中のように背中が丸く反った人、または状態を例えた言葉

 7.猫顔
  =猫に似た顔の系統

 8.有っても無くても猫の尻尾
  =有っても無くてもいいものの例え

 9.猫叱るより猫を囲え
  =猫に魚を取られて猫を叱るより、取られないように用心することが大切という意味のことわざ

 10.猫が顔を洗うと雨が降る
  =昔の人が「猫が顔を洗うと雨が降る」と言い当てた古い言い伝え

 11.猫に紙袋
  =猫に紙の袋をかぶせると後ろの方へどんどん下がることから、尻込みすることのたとえ

 12.猫と庄屋に取らぬはない
  =猫はネズミなどが目の前にあれば必ず取るものだし、庄屋も隙さえあれば必ず袖の下をとるものだという意味

 

今でも使われている言葉がいくつかありますが、昔は猫にまつわる言葉がもっと使われていました。このことからも如何に昔の人々の日常と猫が密接であったかを知ることができます。

 

 

「猫の当字」(1841-43年)

 猫をうまく配置して文字を作り出す「はめ絵」というだまし絵の手法を使った作品です。

 「はめ絵」とは、いちばん外側の輪郭だけ与えておき、内部を自由にデザインする遊びのこと。日本では1800年代の前半に流行しました。

「なまず」

「たこ」

「かつお」

「うなぎ」

「ふぐ」

 猫を用いて魚を描くとは、なんとも「粋」ですね。

 

 

「擬人化」猫づくし

「流行 猫の曲鞠」(はやりねこのきょくまり)

 曲鞠(きょくまり)とは、鞠を用いた曲芸のこと。曲鞠で一世を風靡した菊川国丸の演目を、擬人化された猫が演じています。描かれている曲芸は以下の10種類です。

1.たびぬぎ=足袋を脱ぎながら蹴鞠

2.ひざまり=膝だけで蹴鞠

3.高まり=高く鞠を蹴り上げる

4.たばこのみ=煙草を吸いながら蹴鞠

5.瀧ながし=立てた膝の上で鞠を転がす

6.平た蝶=うつ伏せになり背中の上で鞠を転がす

7.たすきがけ=腕から首の後ろに鞠を転がす

8.下りふぢ=木にぶら下がりながら蹴鞠

9.負まり=背負うように鞠を背中に乗せる

10.花生=生け花しながら蹴鞠

 

 

猫×歌舞伎

「流行 猫の狂言づくし」(はやりねこのきょうげんづくし)

 

当時流行していた歌舞伎狂言の演目を、猫を擬人化して描いた「流行 猫の狂言づくし」。描かれているのは以下の8つの演目です。

1.夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)

2.小稲半兵衛(こいなはんべえ)

3.近頃河原の達引(ちかごろかわらのたてひき)

4.忠臣蔵(ちゅうしんぐら)

5.戻駕色相肩(もどりかごいろあいかた)

6.一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)

7.梅の由兵衛(うめのよしべえ)

8.五代力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ) 

 

右下には丁寧に口上を述べる猫も描かれています。

 口上の台詞には

 「東西東西此度新工夫猫狂言に取仕組おいおいご覧入れ奉りまする。

 そのため口上さやうにゃぐにゃぐ」

 と書かれています。

 

 

「流行猫の戯」(はやりねこのたわむれ)

 広重が江戸後期の戯作家、山東京山とコラボし、当時流行していた歌舞伎を描いたこちらの作品。山東京山もまたその時代、大の愛猫家として知られていました。猫を擬人化したパロディの最高傑作。台詞も面白おかしく改変されており、二人のユーモアが詰まった作品です。5つの演目が描かれています。順に見ていきましょう。

 

1.道行 猫柳婬月影(ねこやなぎさかりのつきかげ)

2.梅が枝無間の真似(うめがえむけんのまね)

3.袂糞気罵責段(たもとふんきこごとぜめのだん)

4.身の臭婬色時(みのくさささかりのいろどき)

5.かゞみやな 草履恥の段(ぞうりはぢのだん)

 

 

 

猫の「扇子絵」

 扇子に貼られる目的で描かれた猫の扇子絵。ここでも擬人化した猫によるパロディを展開しています。猫を通して日本の文化、生活を楽しめるシリーズです。数が多いので少々駆け足でご紹介。

1. 「猫の六毛撰」(1843年〜1846年)

2. 「猫のすずみ」(1839年〜1842年)

3. 「猫のけいこ」(1841年)

4. 「源氏物語」(1842年)

5. 「猫身八毛意」(1840年頃)

7. 「猫のつるけん」(1847年)

8. 「猫のおどり」(1841年)

9. 「猫のけん」(1841年)

10. 「おぼろ月猫の盛」(1846年)

11. 「猫の百面相」(1842年)

12. 「歌舞伎の出語り」(1842年)

13. 「双蝶々曲輪日記」

14. 「くつろぐ夏の猫美人たち」(1842年)

 

 

「猫好きっぷり」が現れる国芳の自画像

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 「枕辺深閏梅」下口絵に描かれた国芳の自画像

 妖怪画を得意とした国芳らしく、そのどてら姿の背中にでかでかと描かれているのは地獄絵。にも関わらず周りには工房でくつろぐ猫の姿が。国芳は「懐に猫を入れながら絵を描いていた」とも伝えられています。

 

 河鍋暁斎 作「暁斎画談」

 国芳の画塾に最後の弟子として入門し、直接絵の手ほどきを受けたのが後に世界的に有名な画家となる河鍋暁斎。猫だらけの画塾で一体彼はどんな事を学んだのでしょうか。

 

 

 

ユーモアのセンスは師匠譲り…?

河鍋暁斎(1831-1889)

 1837年、国芳の画塾に入門した暁斎。しかし国芳の素行を心配した父により、入門を中断、狩野派の絵師に再入門させられた暁斎はそこで「画鬼」という愛称で親しまれます。狩野派の画風を取り入れつつも、生まれつきの反骨精神と国芳の教えもあってか…(?) 風刺的な浮世絵を多く制作しました。これからご紹介する絵からもその非凡さがお分りいただけると思います。

 

 

「惺々狂斎画帖」化猫(1870)

「猫と鯰」(1781)

「鳥獣戯画 鼠曳く瓜に乗る猫」(1879)

「群猫釣鯰図」(19世紀)

「猫と鯰」(1871-89年)

「鳥獣戯画猫又と狸」

「絵解き 江戸庶民のことわざ」より、「猫の尻に才槌(さいづち)」

 猫の尻に才槌(さいづち)とは、目的に対して大げさなことを例えることわざ。才槌は、固く重い物を壊す時に使われる道具。いたずらした猫を叩いて懲らしめるにはちょっと不釣り合いですね。この絵では大黒様が米俵にのった猫のお尻をこつんと小槌で叩いています。大黒様も可愛い猫の前では全面降伏のようです。

 

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