アヴァンギャルド
Avant-garde
アヴァンギャルドとは主に芸術、文化、政治の分野における実験的、革新的な作品や人々のことを指す言葉で、芸術分野では「前衛美術」と呼ばれるもののことです。前衛美術は19世紀末から20世紀にかけて発生した美術上の革命で、1870年代の印象派から始まり、ギュスターヴ・クールベがその起源とされます。クールベはそれまでの美術で描かれることのなかった貧民や労働者、理想化されたものではないヌード絵画など、前衛的な作品を積極的に描きました。「前衛」とは「意味がわからない」ことや「シュール」であることを意味するのではなく、その時代の常識を逸脱した先駆的な表現であることを意味します。国家権力や王侯貴族の注文によるものではなく芸術家の思考や世界観を作品に投影する、独自の自由な創作です。こうして前衛美術は、古典的な写実主義を否定して色や平面性など純粋な視覚表現を目指す方向へ進み、印象派、フォービスム、キュビスム、ダダイスム、シュルレアリスム、表現主義、デ・ステイル、ロシア・アヴァンギャルドなどの絵画様式が生まれることとなりました。さらに戦後になると前衛美術は、大衆芸術への反発に変化していきます。アメリカの美術批評家クレメント・グリーンバーグは論文「アヴァンギャルドとキッチュ」を発表し、前衛芸術を観客の批評能力を高めるものと評価する一方で、具象的な表現を多用する映画、マンガ、イラストレーションなどの大衆芸術を批評し、観客に刹那的な快楽を与えるだけで批評能力を鈍らせる後退的なものであるとして、「キッチュ」と呼びました。その成立時期が示唆するように、アヴァンギャルドという概念は近代芸術の展開と分けて考えることができないもので、無数の主義や様式の誕生と交替で綴られていく近代芸術の歴史は、前衛芸術の歴史そのものであると言うことができるでしょう。