エングレーヴィング
engraving
エングレーヴィングは銅版画の技法のひとつで、金属板に直接彫刻をする直接凹版技法のことです。銅版画技法の中では最も歴史の古い技法です。ビュランと呼ばれる専用の彫刻刀を使って線刻し、その刻みにインクを詰めて刷ります。同じく直接法のドライポイントと異なり、細密な線描表現が可能な点が最大の特色で、写真がない時代には名画の複製技法としてしばしば用いられました。また紙幣や切手などの実用凹版印刷では、鋼板を使ったスチール・エングレーヴィングが採用されています。ビュランは、先端が45度に切断された鋼鉄製の刃に木製の握りがついた彫刻刀です。ビュランの鋭い刃先で彫られた版の断面はV字型となり、描線の始まりと終わりは鋭く細く、線の中になるほど太くなります。掘った溝には金属のまくれが生じるので、これをスクレイパーで削り取り、バニッシャーで磨いて製版します。印刷された描線は、ドライポイントのようなまくれによるにじみもなく、エッチングのような腐食によるくずれもない、明確でシャープな印象になります。ビュランは一定方向にしか掘り進めることができず、思い通りの線を作るには熟練が必要です。エングレーヴィングの代表的な作家はデューラーですが、その作品に見られる面を斜線で埋めたハッチングによる繊細な描写などは、彼の高度に熟練した技術を示すものです。そして印刷された画像は偽造が難しいので、現在では紙幣や証券の印刷などにこの技術が生かされています。