フェティシズム
fetishism
フェティシズムは「呪物崇拝」あるいは「霊物崇拝」と訳され、もともとは宗教学や文化人類学の用語です。ポルトガル語の「フェイティソ(魔術、呪符)」に由来する言葉で、霊的存在への信仰である「アニミズム」と区別し、呪力の宿ると信じられた「物体」を崇拝することを言います。その後マルクスによって商品経済をめぐる独自の「フェティッシュ」論に転用され、さらにフロイトに代表される精神分析の議論においてより深く展開されることになります。19世紀後半に生じたこのフェティシズムの個人化に伴い、「倒錯的な性的嗜好」としての「フェティシズム」という用語が新たに誕生することとなりました。日本で「フェチ」という略語によって広く知られるように、今日この言葉は、一般に特殊な細部や部分対象への執着と偏愛を指す概念として理解されています。美術用語としてのフェティシズムもこの概念の一端に属し、ある物体モチーフへのこだわりと性的かつ倒錯的な作風を意味します。ダリによるパンを男性器に置き換えて表現した作品や、20世紀の画家・写真家のピエール・モリニエによるフォトモンタージュ作品などが代表例です。モリニエの暗く謎めいたエロティックな写真作品は、ユルゲン・クラウケ、 シンディ・シャーマン、ロン・アティ、 リック・カストロなど1970年代に流行り始めたヨーロッパやアメリカの身体改造アーティストに強い影響を与えており、日本では四谷シモンに顕著に表れています。四谷シモンの「過去と未来のイブ」シリーズのひとつ「慎み深さのない人形 8」は、モリニエに対するオマージュ作品です。