エジプト美術
Egyptian art
エジプト美術はおよそ3000年間続いたエジプト王朝の美術で、ほぼ完全に王を中心とする宮廷人と祭職者の美術の性格を持ちます。エジプト美術の最大の特徴はその様式の不変性です。天体や自然の中に存在する多数の神と絶対の支配者であり神の子たる王、永遠の生命と死者の復活という宗教概念はその長い歴史を通じて殆ど変わらず、従って美術様式も数千年にわたって微々たる変化しか認められません。こうして連綿と継承された技術は洗練の度合いを高め、後期には高度に発達した技法も誕生しました。一方でこうした高度な美術はエジプトの社会的歴史的基盤の上に成り立つ特殊な美術だったのであり、ギリシア美術のような影響力を他の美術に与えることはありませんでした。末期王朝時代に入ると王国の衰退とともにエジプト美術も衰え、紀元前332年アレクサンドロス3世によってエジプト征服がなされると、ギリシア美術の影響の中に消えていくこととなりました。エジプト美術の表現の特色は永遠性の造形化にあり、建造物には荘重性が、彫像には静止不動の正面性が強調されます。王の神権的権力が確立する古王国時代には、葬祭複合体として重要な建築物であるピラミッドがギザなどに建てられました。新王国時代に入ると王権の強化とともにエジプト美術は絶頂期を迎え、アモン大神殿やルクソール神殿などテーベを中心に大型の造営事業が進みます。第18王朝期には、従来の様式に豪華な装飾性と色彩主義が加わり、宮廷美術の新境地を切り開くこととなりました。異彩を放つのが、アマルナの地に都を移したアメンホテプ4世の時代のアマルナ美術です。宮廷美術の厳格な形式性から解放され、自然主義的なリアリズム表現の技法が大いに伸張しました。アマルナ美術は後世のエジプト美術にも大きな影響を与え、ツタンカーメンの黄金マスクなどにおいても、その内観的な表現様式の名残を見て取ることができます。