宗教美術
religious art
宗教上の目的から作られた美術のことで、建築、絵画、彫刻、工芸、書などあらゆる分野が含まれます。歴史をさかのぼれば、インダス文明の封印などに刻まれた牛や神像なども宗教美術と呼ぶことができ、ラスコーやアルタミラの洞窟絵画についても原初的な宗教性が認められます。世界宗教の広がりとともに世界各地で多彩なバリエーションを持って展開されてきた美術ですから、美術史のほとんどは宗教美術の歴史と言っても過言ではないでしょう。仏教では、宝輪、宝樹、足跡などをもって仏陀の象徴とされてきましたが、紀元1世紀末頃に神格化された釈迦像が初めて作られました。ヘレニズム美術の影響を受けるに及び、釈迦像は東アジア各地で民族性の濃い美術として展開、普及されることとなりました。キリスト教でも、キリストは初期には小羊、鳩、魚などで象徴的に表されることが多かったのですが、それは超現実的で無限な霊威を備えた存在を人間の形で表すことは、神格の冒涜であると見なされたからです。イスラム教やユダヤ教では偶像崇拝は許されません。そのためイスラム教では、人間的な表出を禁じる反面、草花や幾何学文様など装飾美術が多様な展開を見せるようになりました。アジアにおいては、仏教、イスラム教のほかにもゾロアスター教、ジャイナ教、ヒンドゥー教、チベット仏教(ラマ教)、道教、あるいは日本の神道など、地域によって宗教を基盤にした多様な美術が作られました。宗教美術は鑑賞用の美術と異なり、現実的・感覚的・主観的に表現されてはならず、聖典をよりどころにした決まった型があります。しかしその内容の表出には作者のイマジネーションによる大きな飛躍が反映されており、たびたび独創的で個性溢れる表現となっているのが、興味深いところです。