ローマ美術
Roman art
ローマ美術は、紀元前5世紀頃から 500年頃まで、古代ローマを中心にローマ帝国全地域で展開された美術です。先行するエトルリア美術ならびにギリシア美術の影響から出発し、後に独自の様式を発展させました。建築においてはアーチを用いることで巨大な建造物が可能となり、神殿のみならず劇場、闘技場、凱旋門などの世俗の建築物も多く建てられました。彫刻においてはギリシアの影響が特に顕著で、美術史上グレコ=ローマン時代と呼ばれる一時期を築きました。ギリシア植民都市から戦利品として持ち込まれた美術品に魅了され、ローマ人は第二次ポエニ戦争以降、積極的に蒐集に努めます。均整のとれた古代ギリシア時代の彫刻は素晴らしい規範として高く評価され、その模造品が数多く作られました。そのコピー作品を「ローマン・コピー」と言い、ギリシア彫刻が身体表現における普遍的で理想的な「美」としてその後の西洋美術に大きな影響を与えることとなったのは、ローマン・コピーの功績です。現在では古代ギリシア時代のオリジナルはほとんど失われてしまい、古代ギリシアの彫刻の研究は、ほぼ古代の文献とローマン・コピーによって行われています。帝政末期には、神話的な情景をモチーフとする古典主義が衰退し、現実の情景を記した写実主義がもてはやされるようになってきました。さらに2世紀中頃からは主要人物をより強調して表現する傾向が顕著となり、優美で均整の取れた美しいプロポーションよりも強い精神性が前面に押し出され、デフォルメされた肖像彫刻が生まれ人体表現は単純化されていきます。こうした古典主義から自然主義、そして表現主義への変遷は、この後の初期キリスト教美術へとさらなる変質を遂げていくのです。