百合の中の聖母
Madonna of the Lilies
アルフォンス・ミュシャ
作品解説
もともとはエルサレムの教会壁画として構想された作品であり、民族と宗教を主題とする大作「スラヴ叙事詩」を構想していた時期に制作されただけあって、宗教的かつ民族的な要素が色濃く表れた作品です。ミュシャを宗教画家として見た時、その代表的な作品のひとつと言えるでしょう。画面左下にはスラブ風の民族衣装を身に着けた愛らしい少女が大地に腰を下ろし、その少女を包み守るかのように、画面右側から聖母の長い衣がたなびきます。聖母が囲まれるのは純潔のシンボルである百合の花、少女が手にするのは希望あるいは永遠の生命の象徴である常緑樹キヅタです。写実的ではっきりとした少女の描写と幻想的に淡く表現された聖母の描かれ方によって、無垢な少女と慈愛に満ちた聖母の信仰による結びつき、そして画面全体を浸す清潔で静謐な聖性が、この作品に見事に表現されています。
制作年
1905年
素材/技法
キャンバスに油彩、テンペラ
制作場所
アメリカ