スラヴ叙事詩-ロシアの農奴解放の日
The Abolition of Serfdom in Russia
アルフォンス・ミュシャ
作品解説
ミュシャの最高傑作「スラヴ叙事詩」の第19番目の場面に当たる作品が、この「ロシアの農奴解放の日」です。クリミア戦争の敗戦でその後進性を露呈したロシアは、内政の抜本的な改革を迫られ、皇帝アレクサンダー2世は改革のひとつとして1861年に農奴解放令を出しました。当時のチェコはオーストリアの支配下にあったため、ロシアの改革はミュシャたちスラヴの人々には希望の改革と映りました。1913年にミュシャはこの改革を「スラヴ叙事詩」に描こうとモスクワを訪れました。しかしロシア庶民の生活困窮は50年前と変わらず、ミュシャが見たロシアの現実は悲惨なものでした。ミュシャは当初スラヴ最大の国家ロシアの栄光を祝典の図として描くつもりだったのですが、この旅行から帰ってきて構想を変えました。作品に描かれているのは農奴解放令の発布の瞬間ですが、人々に歓喜や安堵は見えません。解放されてもなお当惑的な人々の表情や異様な静けさすら漂う雰囲気からは、漠然とした将来への不安や緊張が感じられます。薄日に包まれるおぼろげな聖ワリシー寺院のみにただ一点、スラヴ民族の未来に対する勝利の象徴が示されています。
制作年
1914年
素材/技法
壁画 油彩・テンペラ・画布
制作場所
チェコ