糸杉と星の見える道

Country road in Provence by night

フィンセント・ファン・ゴッホ

作品解説
精神を病んだ晩年のゴッホが、サン=レミ=ド=プロヴァンスのサン・ポール・ド・モゾル精神病院での療養中に描いた作品です。糸杉、星、月、麦畑などゴッホの好んだモチーフがすべて登場している作品で、揺れて渦巻く筆致に彼の不安定な精神状態がうかがえます。前年に描いた同モチーフの「星月夜」と比べると、画面中央の糸杉の存在感に気づかされます。弟テオへの手紙でゴッホは「糸杉をなんとかひまわりのような作品に仕上げたいと思っている」などと綴り、糸杉に惹かれていたその頃のゴッホの心情が分かります。ゴーギャンに宛てた手紙の中では糸杉について「エジプトのオベリスクのように美しい」と詳細に語っています。オベリスクとは古代エジプトを起源とするモニュメントの一種で、神殿の一部として建立されたものです。糸杉は花言葉を「死・哀悼・絶望」といい、西洋世界では死を意味する木です。そのためこの絵は、ゴッホの中にある強い死の予兆を反映している作品だと解釈され、黒味をおぴた緑で画面を分断するこの糸杉は「死のオベリスク」を表現していると読み解かれています。
制作年
1890年
素材/技法
油彩
制作場所
フランス