受難

La Passion

アルフォンス・ミュシャ

作品解説
当時パリで上演されていた新作宗教劇「受難」のためのポスター作品です。ミュシャはキリスト教の敬虔な信者であることもよく知られており、この作品からは、広告用ポスターとしての要素を十分に満たしつつミュシャの深い信仰心もまた同時に見出すことができます。宗教劇の演目である「受難」とは、イスカリオテのユダの裏切りによって逮捕されたイエスが、ユダヤの王を自称し民衆を惑わせたとしてユダヤの大司祭カイアファや民衆らから告発を受け、ゴルゴタの丘で磔刑に処されて死ぬまでの一連の出来事を指し、キリスト教の教義においては非常に重要な意味を持つものです。画面中央の受難者イエスは、質素な衣装に身を包み、嘲笑と共に被せられた茨の冠を手に力なく立ちます。しかしその顔には慈愛に満ちた穏やかな表情が浮かんでおり、「受難」という過酷な場面でのイエスの許しと慈愛を対比的に強調するのです。このポスターには、ミュシャ独特の異国情緒や女性の甘美性などの要素が全くありません。しかしミュシャのイエスに対する深い敬愛を感じることができ、ミュシャの宗教的側面を考察するうえで、重要な作品と位置付けられるのです。
制作年
1904年
素材/技法
リトグラフh
制作場所
フランス