白馬の森
Forest with white horse
東山魁夷
作品解説
「白馬の森」は1972年、秘境・富士山五合目を題材に描かれた、改組第4回日展出品作品です。しかし現実の風景以上に、魁夷がその前の年に旅した北ドイツからオーストリアの光景が強く投影されていることで知られています。この北ドイツからオーストリアの地は、ドイツ留学時代の若き日の東山魁夷が何度も訪れなじんだ青春の故郷でした。しかし世の中が戦争へと傾いていく中、魁夷は帰国を余儀なくされ、実に36年間訪れることができませんでした。期待と不安に満ちて再訪した魁夷を、昔懐かしい地はかつての面影そのままで迎えました。魁夷は「白馬は画業の旅を続ける私の分身なのかもしれない。しかし、解釈は見る者の自由である。心の奥の森は誰も窺い知ることはできないのだから」と語ります。36年ぶりに訪れた青春の地で、心の奥の森を介して、魁夷は自らの分身、自らの原点である白馬と再会したのかもしれません。「東山ブルー」と称される深い青が、森の奥に向かうにつれ陰影を濃くし、筆舌に尽くしがたい美しさを生みます。静けさに満ちた空間ながら、過去から未来への時間の流れを想起させる、白馬の身の内に秘めた生命力が感動的です。
制作年
1972年
素材/技法
紙本彩色
制作場所
日本