濤声
Sound of a wave
東山魁夷
作品解説
1973年、東山魁夷が67歳の時に挑戦した大作が、奈良・唐招提寺の鑑真に捧げた障壁画です。日本の風土をテーマに色鮮やかに表現した「山雲」「濤声」と、墨一色で鑑真の故郷中国の壮大な風景を描いた「揚州薫風」「黄山暁雲」「桂林月宵」からなり、「濤声」はその中のひとつです。「濤声」とは「なみのおと」のこと。沖合から迫り来る白波とその波に抗う岩、そして岩に砕かれた白波は優しい穏やかな波となり渚にたどり着きます。唐招提寺は国の重要文化財。そこに現代の作家が障壁画を描くのは戦後初のことでした。魁夷はその難業に挑むため、8か月にもおよぶスケッチ旅行に出かけます。青森龍飛崎から始めた旅は日本海側を南下山口県青海島までおよそ1500 kmにも及ぶものでした。しかし写生では冷たい群青で表現した冬の日本海を、障壁画「濤声」では温かい初夏の緑青の海として表現しています。それは、荒波に5度も航海を阻まれ、そのために視力も失った鑑真に対する慰撫と鎮魂のため。盲目の高僧を初夏の柔らかい風景で包み込み安らぎを届けたいという思いからでした。「濤声」の海の色は、平和と安らぎの祈りを私たちに届けてくれます。
制作年
1975年
素材/技法
障壁画
制作場所
日本