菜蟲譜
伊藤若冲
作品解説
「菜蟲譜」は若冲作品で唯一の絹本着色の画巻です。11メートルにおよぶ巻物を紐解いていくと、前半には四季の野菜や果物が、後半からは昆虫や爬虫類などの小さな生き物たちが次々と現れます。この作品は長いこと行方の知れなかった幻の作品で、1927年の恩賜京都博物館(現京都国立博物館)による特別展覧「若冲画選」展に出陳された後、72年間行方不明になっていました。1999年に栃木県佐野市の旧家で発見され、同市立吉澤記念美術館が所蔵するところとなります。この作品は広い意味での草虫図であり、「動植綵絵」の「池辺群蟲図」の発展形式と見ることができます。わらび・ぶどう・とうもろこしなど野菜、果物の描写で始まり、やがて蝶からヤモリ・トンボ・カブトムシなど昆虫の場面に変化、そして再度野菜の登場となって終わる流れです。彼らの姿はどれもどこかユーモラスで可愛らしく、青物問屋の主人であった若冲の小さい命を慈しむような眼差しが感じられます。若冲が最晩年に到達した画の世界、それまでの人生のその先に開けたもうひとつの世界がそこにあります。
制作年
1790年頃
素材/技法
絹本着色 一巻
制作場所
日本