神秘の降誕
The mystery of the Nativity
サンドロ・ボッティチェリ
作品解説
ボッティチェリ晩年の代表作といえば『神秘の降誕』。ローマのアルドブランディーニ家が旧蔵し、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーが所蔵しています。そのテーマはイエスが聖胎した聖母マリアの御身体から現世に生まれ出た、キリスト教にとって最も神聖とされる≪キリストの降誕≫であるが、本作においては主題よりも、老いたボッティチェリがサヴォナローラからの宗教的影響を受け、孤立した存在ゆえの激しい感情に満ちた表現が注目されています。画面上部にはギリシア語で謎めいた銘文が以下の内容で記されています。それによると、「私アレッサンドロはこの絵画を1500年の末、イタリアの混乱の時代、ひとつの時代とその半分の時代の後、すなわち聖ヨハネ第11章に記される3年半の間悪魔が解き放たれるという黙示禄の第2の災いの時に描いた。そして悪魔はその後、第12章で述べられるよう鎖につながれこの絵画のように≪地に落とされる≫のを見るのであろう」とあるのです。この銘文は友愛の精神と祈りによって罪悪が裁かれることを意味しており、画面全体を支配する激しい感情性や宗教的古典表現などの多様性は、フィレンツェ派の中で孤高の画家となってしまったボッティチェリの内面を表現しているのではないでしょうか。なお本作は画家の作品中、唯一年記がされる作品です。
制作年
1501年
素材/技法
板にテンペラ
制作場所
ローマ