2019/01/15

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琳派とは?知っておきたい琳派の巨匠と代表作

知れば知るほど面白い!
「琳派」の魅力を大解説

「風神雷神図屏風」で有名な日本美術の流派の一つ「琳派(りんぱ)」。

琳派といえば、そのデザイン性の高さや、金地や銀地の背景を効果的に使った豪華な絵画や書・茶器や屏風などが有名ですが、尾形光琳・俵屋宗達といった画家の名前は知っていても、その歴史や特徴についてはまだまだ知らない人も多いのではないでしょうか?

今回は、そんな琳派の成り立ちや魅力、代表的な画家と作品について詳しくご紹介します!

 

そもそも「琳派」とは?

 

琳派(りんぱ)の始まりは桃山時代の後期まで遡ります。
桃山時代といえば、豊臣秀吉が天下を取り徳川家康に滅ぼされる1603年までの約20年間。

戦乱の世の短命な時代ではありましたが、茶の湯の隆盛、ヨーロッパや朝鮮、明、琉球文化との接触、それまでと異なる下剋上の時代感覚の中で簡素な機能美が愛される一方、芸術や工芸に雄大さや豪華絢爛なテイストも求められるようになりました。

そうした機運のもと、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)俵屋宗達(たわらやそうたつ)という2人の画家によって作品が作られるようになったのが「琳派」の始まりです。

琳派の作品には、以下のような特徴があります。

● 背景に金箔・銀箔を使用
● 大胆でインパクトのある構図
● 型紙を使った模様の繰り返し

本阿弥光悦と俵屋宗達が始めた琳派の潮流を大成したのが、尾形光琳(おがたこうりん)。彼の名前の「琳」の字を取って琳派と呼ばれるようになりました。

さらにその後、酒井抱一(さかいほういつ)鈴木其一(すずききいつ)といった江戸琳派の画家たちが、江戸の世に定着させたことで、近代まで琳派は続いたと言われています。

 

画家たちの「私淑(ししゅく)」関係

芸術家の流派というと、能楽や歌舞伎などのように家系に直結するイメージがあります。
しかし琳派は家を超え、血のつながりや縁故がなくても志しを同じくする画家であれば「私淑」として流派を継承することができるのが特徴です。

「私淑(ししゅく)」とは、尊敬する師に直接習って技術や感性を習得するのではなく、個人的に慕い手本として学ぶこと。

つまり、尾形光琳に直接会うことができない現代の画家も「光琳に私淑する」として、作品から特徴や技法を学び、時代や家柄を超えて琳派の芸術家として活躍することができる、ということです。

琳派が永く繁栄し優秀な作家を多数輩出した背景には、家系によらない自由な私淑のシステムがあったといえるでしょう。

 

「琳派」の名前の由来にもなっている尾形光琳は、俵屋宗達に私淑し画家としての道を歩みました。

尾形光琳は京都の高級呉服屋の生まれで、親の遺産を継いで豪遊生活を送ったのち、見事に使い果たしてしまいます。そのとき彼が志したのが、俵屋宗達のような画家だったのです。

俵屋宗達の描いた風神雷神図の屏風を、やがて尾形光琳は自分なりのアレンジを加え、しかし琳派らしい要素はしっかり取り入れながらオリジナルの風神雷神図を作り上げます。
私淑に始まった尾形光琳の芸術は、時を経て酒井抱一へと再び私淑によって受け継がれていくのです。

 

琳派に共通する3つの特徴

多くの琳派作品には技法や構成といった3つの共通点が存在します。

1.たらしこみ

 

たらしこみは、俵屋宗達が初めて生み出したといわれる日本画のテクニックです。

その方法は、まず先に薄い色の絵の具を塗り、それが乾く前に濃い色をたらし、にじませるようにすることで完成します。
先に塗った絵の具の水分で、後から塗った絵の具がぼんやりと広がり、両方の色の境目が曖昧になるのです。

たらしこみのテクニックを使うことで、空に浮かぶ雲のような透け感のあるテクスチャーもリアルに表現することが可能になります。現在では日本画だけでなく、水彩画やネイルアートの世界などでも使われている技法です。

 

2.二曲一双

 

日本の屏風は六曲一双(6つのパネルで1枚)というケースがほとんどで、時々四曲一双の作品も見られます。それに対し琳派では、二曲一双(にきょくいっそう)の屏風絵が基本。そのため、琳派の屏風絵は見分けがつきやすいのです。

例えば前述の俵屋宗達の風神雷神図も、琳派作品の例に漏れず二曲一双となっています。
屏風として立てたときの安定感を考えると六曲や四曲の方が倒れにくく便利ではありますが、絵画作品として考えると、小さなパネル1枚ずつに屏風絵の画面が分割されてしまうという側面もあります。

対する琳派の屏風絵は大画面の二曲だけなので、余白をたっぷり取ったダイナミックな構図を作りやすいというデザイン上の特徴にもつながっています。

 

3.平面的で大胆な構成デザイン

 

琳派の絵画の特徴として、「平面的」なデザインも挙げられます。

描写の写実性や、遠近法といった、「見えたままに忠実に描く」という西洋絵画的な技法は、琳派では重視されていません。
むしろ、実物に迫る写実性とは違ったアプローチで、モチーフの印象や迫力を伝えているのが琳派の魅力といえます。

金箔や銀箔を貼った背景に、モチーフを大胆かつ効果的に配置することでより目立たせ、ゆったりとした余白による高級感も生まれます。

見る者の視線を誘導し釘付けにするような琳派のデザイン性は、現代のデザインにも通じるところがあり、琳派の先駆者たちの視覚的な印象や効果の研究の後が見て取れます。

 

琳派の巨匠とその代表作

ここからは、琳派を語る上では欠かせない、本阿弥光悦、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一の5人の巨匠と、代表的な作品をご紹介します。

 

本阿弥光悦

 

戦国時代の終わりに京都の刀剣を扱う家に生まれた本阿弥光悦(ほんあみこうえつ、1558〜1637年)は、家業を継ぐ道には進まず、書家や陶芸家、漆芸家、画家など芸術家としてマルチな才能を発揮した人物です。
京都の鷹峯に芸術家たちが集まる芸術家村を築いたことでも知られます。

本阿弥光悦は、当時の京都で3本の指に入ると言われた書の腕前や、装飾の美しい漆塗りの硯箱、楽焼の茶碗など、多彩な作品で江戸時代以降の芸術や工芸に大きな影響を及ぼしました。

同時代の画家・俵屋宗達とともに、のちの琳派と呼ばれる作風を築いたのも本阿弥光悦の功績です。
なお、本阿弥光悦の姉が尾形光琳の曽祖父の妻であることから、尾形光琳とは遠い姻戚関係にあることになります。

 

代表作


 

「白樂茶碗 銘 不二山」

 

制作年:17世紀
所蔵:サンリツ服部美術館

本阿弥光悦が江戸時代初期につくった「不二山」の名を持つ楽焼の茶碗。
上半分ほどにかけた白い釉薬が、まるで冬に雪化粧をした富士山のように見える優美な茶碗です。
もともと本阿弥光悦がこの茶碗を作ったのは、大阪へと嫁いでいく娘のためでした。
嫁入り支度の1つとして丹精込めて焼いたこの茶碗を娘に持たせ、その際に振袖に包んでいたことから「振袖茶碗」の異名も持つ茶器です。
陶芸においても才能を発揮した本阿弥光悦でしたが、多作を良しとはせず、現存する茶碗は10点あまりといわれています。
その最高峰がこの「不二山」とされ、国宝に指定されています。

 

「舟橋蒔絵硯箱」

 

制作年:江戸時代・17世紀
所蔵:東京国立博物館

本阿弥光悦の漆芸作品のうち、もっとも有名なのが国宝「舟橋蒔絵硯箱(ふなばしまきえすずりばこ)」です。
箱の表面に金粉をまぶした豪華さに加え、波と小舟の模様が描かれ、蓋が半球のように盛り上がっているのが特徴です。
この硯箱にはさらに独特なデザインとして、蓋に斜めに横たわる橋のような鉛板に銀板で文字が書かれています。
その文字とは、『後撰和歌集』に載っている源等の「東路の/佐野の舟橋/かけてのみ/思い渡るを/知る人ぞなき」の歌。
しかし「舟橋」という言葉が省かれ、デザインに組み込まれた「小舟」と「橋」から、その言葉を読み取るという粋な仕掛けになっています。

 

俵屋宗達

 

俵屋宗達(たわらやそうたつ、生没年不詳)は、「風神雷神図」の屏風など琳派の名作を残した画家です。

本阿弥光悦や尾形光琳と並ぶ偉大な芸術家でありながら、その人生についての記録が少なく、謎に包まれた人物でもありますが、当時京都にあった俵屋という絵画工房で、屏風や扇子の下絵を作る絵師をしていたという説が濃厚と考えられています。

その腕は武士や皇室からの信頼も厚く、名指しで屏風制作などの依頼が来るほど。茶人や文化人との交流もあり、俵屋宗達が描いた絵に本阿弥光悦の書を載せた作品も残っています。

亡くなった正確な時期はわかっていないばかりか、金沢と京都に俵屋宗達のものと見られる墓が見つかり、未だどちらが本物かは明らかになっていません。

 

代表作


 

「風神雷神図屏風」

 

制作年:17世紀前半
所蔵:建仁寺

風雨を起こす風神と、稲妻を起こす雷神が対になったデザインの屏風といえば、俵屋宗達の作品がもっとも有名でしょう。
金箔を貼った背景の二曲一双の屏風の左端と右端の上に風神・雷神がそれぞれ描かれ、見る者を釘付けにする不思議な魅力にあふれています。

モチーフを上の端に寄せた構図は、俵屋宗達が工房の仕事として多く携わっていた扇子のデザインから発想したものではないかといわれています。
また、風神と雷神の両方を目立たせる色味のバランスや、空白部分を三角形に保つことで遠近感に似た奥行きを感じさせる工夫など、俵屋宗達が一流の絵師である理由が手に取るようにわかる名作にして国宝です。

 

「舞楽図屏風」

 

制作年:17世紀
所蔵:醍醐寺

重要文化財に指定されている「舞楽図屏風(ぶがくずびょうぶ)」。
舞楽の5つの演目を二曲一双の屏風にまとめた作品で、「法橋宗達」という署名が残されています。

法橋とは、朝廷が絵師に与える最高位の称号です。
その称号にふさわしく俵屋宗達は、舞楽という当時としてはよくある題材を、オリジナリティーあふれる大胆な構図で表現しています。

俯瞰するような視点から描かれた演者たちは、金地の背景の上に絶妙な距離感で点在し、かつ全ての人物に等しく目が向くような工夫もされています。

ただの舞楽の演目を絵で紹介しているのでなく、屏風絵として緊密な完成度に仕上げる俵屋宗達の審美眼と高度な技術が際立つ作品です。

 

「蔦の細道図屏風」

 

制作年:17世紀
所蔵:相国寺・承天閣美術館

伊勢物語の一場面からイメージを膨らませて描いた俵屋宗達の絵に、感銘を受けた江戸時代の歌人・烏丸光広が7首の歌を描いた作品。

和歌は伊勢物語ではなく俵屋宗達の絵からインスピレーションを得てうたったものといわれています。
琳派の屏風絵は二曲一双のものが一般的ですが、この「蔦の細道図屏風」は六曲一双。

現在の静岡県にある宇津の山の「蔦の細道」と呼ばれる古道をシンプルに描き、6枚の絵は図柄が途切れることなく1枚の作品のように連なっています。
俵屋宗達の絵と同じように、7首の歌もまた、連続した物語のように読むことができるというユニークな作品です。 

 

番外編:光悦と宗達のコラボ作品

ともに琳派の祖と呼ばれる本阿弥光悦と俵屋宗達には、コラボレーションと呼べる共同制作の作品がいくつかあります。
ここからは、そんな二人のコラボ作品をご紹介!

 

「色紙貼付桜山吹図屏風」

 

制作年:1605年頃
所蔵:東京国立博物館

桜の薄紅色と山吹の黄色、そして山の緑が美しい春の屏風絵は、俵屋宗達によるもの。
そこに、古今和歌集の句を本阿弥光悦が書いたたくさんの色紙の書が貼り付けられています。
踊るように配置された書は六曲一双の屏風にリズムを生み出し、春の訪れに心踊るような感覚を伝えてくれます。
対になった屏風は右と左どちらに置いても絵がつながるように描かれており、物語を感じさせる仕上がりです。

 

「鶴図下絵和歌巻」

 

制作年:17世紀
所蔵:京都国立博物館

ただ鶴のみを無数に描いた俵屋宗達の下絵を用いた、本阿弥光悦の書巻。
羽を休める鶴、羽ばたく鶴、たたずむ鶴など、見る者を決して飽きさせず、まるで今にも動き出しそうな鶴の群れに、俵屋宗達の絵師としての本領が発揮されています。
しかも、全ての鶴はシルエットのみで描かれ、使われた色は金銀泥だけ。
宗達の限りないイマジネーションと表現力に、和歌を書き記した本阿弥光悦の腕も鳴ったことでしょう。
この作品も、重要文化財に指定されています。

 

「鹿下絵和歌巻」

 

制作年:17世紀
所蔵:五島美術館ほか

金銀泥で俵屋宗達が描いた鹿に合わせて、本阿弥光悦が『新古今和歌集』から選んだ28首の秋の歌を書写した作品。
長さ22メートルにもおよぶ巻物でしたが、分割され、静岡のMOA美術館、東京の五島美術館、山種美術館、アメリカのシアトル美術館などがそれぞれ所蔵しています。
表情のある鹿の動きに、生き生きとした躍動感を感じられる作品です。

 

尾形光琳

 

江戸時代中期の画家・工芸家の尾形光琳(おがたこうりん、1658〜1716年)は、都会的なセンスを持つ粋な芸術家です。
裕福な家の生まれですが、相続した莫大な遺産を使い果たしてやっと画業に向き合うようになったといわれています。

しかし芸術の才覚については人並みならぬものを持ち、特に富裕層に好まれる装飾的な作品を多く残しました。
尾形光琳は俵屋宗達の作品に私淑し、屏風絵、水墨画、扇子のほか、着物や蒔絵などの作品も手がけました。

子供時代から古典文学のほか能楽や茶道、書道などに親しみ、生来の文化人であったといえるでしょう。
少年のころから磨かれた感性は、琳派を確立し、琳派を代表する画家として、独自の模様を生み出すなどして後世にまで影響を与えました。

 

代表作


 

「燕子花図屏風」

制作年:18世紀
所蔵:根津美術館

気高く咲き誇るカキツバタの群生を金地の背景に描いた同作は、言わずと知れた尾形光琳の代表作で、国宝でもあります。
群青色と緑色のカキツバタの織り成すリズミカルな画面は、六曲一双の対の屏風として、日本の美術界をも代表する存在です。
凛と咲く花の表現の美しさもさることながら、計算しつくされた余白とのバランスにも、尾形光琳のセンスが表れています。

 

「八ツ橋図屏風」

 

制作年:1711〜1714年頃
所蔵:メトロポリタン美術館

伊勢物語の「八橋」の場面を描いた、尾形光琳の晩年期の名作。
カキツバタの花を描いた前述の「燕子花図屏風」も有名ですが、こちらの「八ツ橋図屏風」はなんといっても、画面を切り裂くように斜めに横たわる橋が特徴的です。
花の描き方も少し異なり、前作が記号的なパターン化された花だったのに対し、今作ではより本物の花らしく、柔らかく優美な曲線を描いています。
花の描き方の曲線美は、直線的に抽象化された橋と対比され、双方のインパクトをよりいっそう強めています。
なお、江戸時代後期の琳派絵師・酒井抱一は、この「八ツ橋図屏風」にインスピレーションを受け、「八橋図屏風」という作品を描きました。

 

「紅白梅図屏風」

制作年:18世紀
所蔵:MOA美術館

琳派の最高傑作といわれるのがこの「紅白梅図屏風」です。
尾形光琳の晩年の作品で、金地を背景に左に白梅、画面上から下に向かって末広がりに流れる川を中心に、右に紅梅という大胆な構図に、見覚えがある人も多いかもしれません。
この左右対称の三角形を基調とする構図は、俵屋宗達の「風神雷神図」と似通ったもので、宗達を意識し自ら風神雷神図も描いた尾形光琳の、私淑による影響かもしれません。
梅の木の部分には、琳派でよく用いられるたらしこみの技法が見て取れます。
また、川の流れを表現した波線模様は、型紙を使って描かれたことがわかっています。

 

「風神雷神図屏風」

制作年:18世紀
所蔵:東京国立博物館

俵屋宗達の「風神雷神図屏風」と同様、二曲一双で制作された尾形光琳の「風神雷神図屏風」。
構図など、宗達の原図を丁寧に模倣して描かれた要素が目立つ一方、細部に目を向けると尾形光琳のオリジナリティーも感じられます。
原図においては風神と雷神の目線は交わることなく、下界へ向けられていました。
それに対し光琳の作では風神と雷神の視線がぶつかるように描かれています。
また、宗達の作品の風神と雷神は威風堂々と、恐ろしさも感じさせる表情や表現であったのに対し、光琳の作品ではやや人間的で柔和に描かれていると考えられています。
原図と尾形光琳の風神雷神図を比較してみると、さまざまな発見がありそうです。

 

酒井抱一

 

酒井抱一(さかいほういつ、1761〜1829年)は、江戸時代の後期、幕末の頃に活躍した絵師で俳人です。
尾形光琳に私淑した酒井抱一は、優雅で粋な琳派の気風に風雅な俳句の世界観を取り入れることで、より洗練された画風を生み出しました。
その作風は江戸琳派と呼ばれ、酒井抱一は江戸琳派の祖とされています。
由緒正しい武家に生まれた酒井抱一は早くから芸術に親しみ、狩野派の絵師や浮世絵師に師事していたこともあります。
1797年、37歳で出家して武家のしがらみから解放されてから、江戸時代に細々と続いていた琳派の流れを尾形光琳の作品から汲み取り、独自のアレンジを加えながら絵師として活躍します。
酒井抱一は、尾形光琳の作品に私淑しながら、円山・四条派や伊藤若冲などの要素も取り入れ、瀟洒な江戸琳派の作品を次々と生み出しました。

 

代表作


 

「風神雷神図屏風」

 

制作年:19世紀初頭
所蔵:出光美術館

俵屋宗達が描き、尾形光琳が描いた風神・雷神のモチーフを表現する二曲一双の屏風絵に、酒井抱一も50歳代で挑戦しています。
ただ酒井抱一は尾形光琳の作に原図があることを知らずに取り組んだそうです。
光琳の風神雷神図を模倣しているものの、写生に十分な時間を取ることができなかったことから、ポーズや配置には若干の違いも見られます。
酒井抱一らしい洒脱な雰囲気も加わり、親しみやすい絵に仕上がっています。

 

「夏秋草図屏風」

 

制作年:1821〜1822年
所蔵:東京国立博物館

正式名称「風雨草花図」と呼ばれるこの作品は、「夏秋草図」の通称で親しまれている重要文化財です。
銀地の二曲一双の屏風絵ですが、実は尾形光琳の風神雷神図の裏面に描かれた作品。
制作は、酒井抱一の風神雷神図の完成から数年後のことと考えられています。
風神の裏面には風に揺れる秋の草と紅葉、雷神の裏面には露に濡れたような夏草と涼やかな青の流水が。
表面の風神の「風」と雷神の「水」と意識した構図は、洒脱な俳人でもある酒井抱一ならではのアイディアといえるでしょう。

 

「八橋図屏風」

制作年:19世紀初頭
所蔵:出光美術館

酒井抱一の風神雷神図と同時期に描かれたとみられる、「八橋図屏風」。
その名の通り、尾形光琳の「八ツ橋図屏風」を模した作品です。
伊勢物語で都落ちした主人公が、遠くまで来たことに対する感慨を表した歌がモチーフとなっています。
尾形光琳の作品との大きな違いは、カキツバタ花の数と全体の色調。
光琳作は130本のカキツバタが描かれているのに対し、抱一作は80本。
抱一は花の色に、明るい群青色を多く使いました。
そのため、花の数は少なくともバランスが取れ、なおかつ画面全体が明るい印象に仕上がっています。
オリジナルをしっかり観察した上で、独自の解釈を表現に入れ込むのは、酒井抱一の得意とするところでしょう。

 

「雪月花図」

 

制作年:1820年
所蔵:MOA美術館

3幅(3枚)でセットになった「雪月花図」は、日本の季節感を端的に美しく表した作品です。
左にうっすらと雪の積もった松の木、中央には雲のかかった月、右に満開の桜の花。
左から順に、上から下へとなめらかに視線が流れるように計算された意匠が、とりわけ目を引きます。
酒井抱一が60歳のときに仕上げたこの作品は、江戸琳派の完成を雄弁に物語るような気品に満ち溢れています。

 

鈴木其一


ソース

鈴木其一(すずききいつ、1795〜1858年)も、酒井抱一と同じく江戸後期の絵師です。
酒井抱一の弟子であり後継者として知られていますが、生い立ちについては詳しいことは不明で、近江の紺屋の息子という説が一般的です。

私淑を基本とする琳派の絵師には珍しく、鈴木其一は酒井抱一の生前から師事し絵を学びました。
師の死後は古い寺をめぐるなどして絵や書に触れ、独自の道を追求していきます。

鈴木其一の絵の特徴は、斬新でオリジナリティーあふれる構成やカラーリング、そして面白みや機知に富んだ工夫です。
晩年にかけてはいっそうダイナミックさに磨きをかけ、次の時代の到来を予感させる江戸琳派の旗手として活躍しました。

 

代表作


 

「朝顔図屛風」


ソース

制作年:19世紀中頃
所蔵:メトロポリンタン美術館

六曲一双の金地の対の屏風絵「朝顔図屏風」は、アサガオの花の鮮烈な青と葉の緑が印象的な作品です。
大画面の爛漫たるアサガオの花は美しさと迫力にあふれています。
この色彩構成は、尾形光琳の「燕子花図」の影響を如実に反映しており、琳派の流れが鈴木其一にしっかりと私淑されていることを感じられる屏風絵です。
この時期の鈴木其一は、ほかに「林檎図」など写実性に富んだ近代的な絵画も残しています。

 

「夏秋渓流図屏風」

 

制作年:19世紀
所蔵:根津美術館

六曲一双の画面全体に、豊かな水をたたえヒノキの木の間を縫うように走る渓流、夏らしい山百合の花と、秋色に染まる桜の葉が描かれた「夏秋渓流図屏風」。
金地の背景に、川の青や植物の緑が美しく映える作品です。
生き物のように活気ある水の流れや凛とした花の姿に、日本人の原風景としての自然の美しさが力強く凝縮されています。
大胆に渓流にフォーカスした構図は、近代絵画的といえるかもしれません。
鈴木其一が若い頃に描いた浮世絵の鮮やかな色彩感覚も、十分に生かされた屏風絵です。

 

「風神雷神図襖」

 

制作年:19世紀
所蔵:東京富士美術館

俵屋宗達が描いた風神雷神図を、鈴木其一は屏風ではなくダイナミックな8面の襖絵として完成させました。
風神と雷神の躍動感も、そのまわりを取り巻く薄墨の雲の妖しさも増し、師匠であった酒井抱一の風神雷神図ともまた違った趣きです。
この頃の鈴木其一はもはや師の影響の範疇を脱し、ひとりの絵師として十分なオリジナリティーを発揮するに至っていたことが伺えます。
鈴木其一の風神雷神図が完成したのは、俵屋宗達の風神雷神図から1世紀ほどを経た江戸時代末期のことでした。
その後も琳派は、近代的な要素を吸収しながら永く続く日本美術の潮流となり、世界からも注目される存在に成長していきました。



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