アーティストインレジデンス(AIR)とは?応募方法、国内・海外のAIRプラットフォームについて詳しく解説
アーティストが一定の期間その土地に住みながら作品制作や展示、成果発表を行う「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)」。
AIRのプログラムは海外をはじめとして、現在は日本各地で国際交流や地方創生、アーティスト・文化の育成を目的に実施されています。
今回はAIRとはそもそも何?というところから、AIRに参加するメリット・デメリット、応募方法、国内・海外のAIRプログラムを調べる際に便利なプラットフォームについて詳しくご紹介します。
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アーティスト・イン・レジデンスとは?
アーティスト・イン・レジデンス(略称:AIR)とは、アーティストが一定期間特定の場所に滞在し、非日常的な環境で作品制作やリサーチ活動を行うこと、またはアーティストの滞在制作を支援するプログラムを指します。
運営主体は、地方自治体、NPO、美術館、民間企業など多岐にわたり、国際交流や地方創生、文化振興、アーティストの育成など目的はさまざまです。
アーティストの制作活動を支援することで、現代におけるパトロンの役割を果たすとも言われています。
アーティスト・イン・レジデンスの歴史
AIRの起源は、17世紀フランスの王立アカデミーであると言われています。
現代におけるAIRのシステムが確立したのは、ベルリンの「Künstlerhaus Bethanien(キュンストラーハウス・ベタニエン)」が最初と言われ、ここでは老朽化した病院の一部をアートセンターとして活用し、世界各国のアーティストを招いて創作活動を支えるシステムを作り上げました。
日本では1990年代から自治体による公的支援が行われ、徐々に広まっていきました。
参加する側(アーティスト)のメリット・デメリット
メリット
・制作に専念できる場所がある
・他のアーティストと出会える
・地域の人々とのコネクションができる
・作品を発表する機会がある
・広報活動をしてもらえる
・キャリアとしての意味合いがある
最近ではAIRへの参加も、コンテストの受賞歴同様に作家のキャリアとして認められるようになりました。
作家にとっては非日常的な環境に身を置くことで自分と向き合う時間を持ったり、新しい表現を模索する機会にもなります。
デメリット
・(プログラムによっては)一定の資金が必要
・海外のプログラムは、一定の語学力が必要
プログラムにもよりますが、自己負担額が多い場合はあらかじめ資金を用意しておく必要があります。
また海外のAIRでは現地のレクチャーやワークショップがあるため、日常会話レベルの滞在国の言語力か英語力が求められます。
AIRを受け入れる側(主催者・自治体)のメリット・デメリット
メリット
・地元の人がアートに触れる機会が増える
・移住者が増えるなど、地方創生のきっかけになる
・海外アーティストと国際交流できる
実際に過疎地域だった徳島県の神山町は、AIRをきっかけに移住者が増え注目を集めています。
海外からも豊かな自然と地域の人との交流を求め、多くアーティストが足を運んでいます。
デメリット
・人材育成と雇用が厳しい
・評価が難しい
AIRのコーディネーターはアートの知識だけでなく、言語力や人脈などが求められるため、人材を確保することが困難です。
またAIRは成果としての作品ではなく、制作過程やアーティストの将来性を重視するため、評価をつけるのが難しいと言われています。
AIRへの応募方法
それぞれのメリット、デメリットがわかったところで、具体的な応募手順、参加方法について解説します。
AIRは主に公募での募集が行われています。
選考方法や募集期間は運営団体によって様々ですが、多くの場合はポートフォリオを含む書類選考と面接審査が行われます。
では実際に応募する際の流れを紹介します。
1.参加したいプログラムをリサーチし、リストを作成する
自分が応募したいプログラムが見つかったら、まず「応募資格」と「費用」を確認しましょう。
パスポート、年齢、キャリア、言語、その他の基準に自分が適しているか、まず確かめる必要があります。
また、全てのプログラムが手頃な価格で参加できるとは限りません。
申請料や参加費がかかるものもあれば、生活費、旅費、食費、住居費、画材費も補助されるものもあります。
設備や経済的支援が充実している施設は、選考の倍率が高く、一定のキャリアが求められる場合があります。
2.過去の参加者の話を聞いたり、レビューを見る
応募する前に、そのプログラムが自分の制作に必要なサポート、設備、環境を備えているか予め確認しておくと良いでしょう。
過去に参加した人の口コミ・レビューを見たり、直接連絡をとるなどの手段があります。
リサーチを通して、そのプログラムが自分にとって「本当に価値があるものか」を判断する必要があります。
自分がそのプログラムに参加したい理由(場所、歴史、周辺のコミュニティ、参加する他のアーティスト、運営側の価値観 etc,)を明確にすることで、滞在制作をより有意義なものにすることができます。
3.書類選考の準備をする
書類選考で作品提出が求められる場合には、最新の作品を提出しましょう。
またWebサイトやポートフォリオ、またはSNSのプロフィールなどを提出する場合には、作品の新しい写真をアップし、更新しておくと良いでしょう。
滞在中に制作するプロジェクトの計画書も提出します。
計画書は、運営側がアーティストの思考プロセスや能力を知り、その作家が実現したい制作プランに対応できるかを確認するのに役立ちます。
合格通知を受け取ったら、現地で会いたい人や行きたい場所をリストアップし、プロジェクトの作業計画を細かく立てていきます。
AIRを探せる地域別プラットフォーム一覧
では、早速レジデンスプログラムを探してみましょう。
AIR専用のプラットフォームを活用すれば、地域や条件を絞り込んで検索できるので、効率よくプログラムを探すことができます。
日本「AIR_J(エアージェイ)」
京都市と京都芸術センターが運営するAIRサイトです。
日本全国のおよそ80のレジデンスに関する情報を提供しています。
施設の基本情報に加え、写真や募集情報が充実。AIRに関するレポートやインタビューも掲載されています。
海外「Res Artis」
Res Artisは、世界最大級のAIRサイトで、75か国以上のレジデンス情報が掲載されています。
地域だけでなく、施設や費用、言語などで細かく絞り込んで、プログラムを検索することができます。
海外「Trans Artists」
Trans Artistsは、オランダのDutch Cultureが運営しています。
世界中のおよそ1300のAIRプログラムに関する情報や関連記事が掲載されています。
https://www.transartists.org/en
海外「Host an Artist」
Host an Artistは、不動産の所有者とアーティストのためのオンラインプラットフォームです。
サマーハウス、アパート、倉庫、空きオフィスの所有者は、一時的にAIRとしてアーティストとスペースを共有することができます。 その代わりに、アーティストは芸術作品、歌や絵画のレッスン、プライベートコンサートをホストに提供します。ホストからもアーティストを探せる仕組みになっている点も特徴的です。
国別のおすすめAIRプラットフォーム
国別に探したい場合におすすめのAIRプラットフォームをご紹介します。
すべてのサイトが英語対応で、参加者のレビューなども豊富に掲載されているので、複数のプラットフォームを活用しながら探すと良いでしょう。
中国「China Residencies」
Chine Residenciesは、中国に滞在するアーティストや受け入れ機関のためのオンラインプラットフォームです。アーティストやプログラムへの財政支援や、現地生活のアドバイスなども行っています。
http://www.chinaresidencies.com
台湾「Arts Residency Network」
Arts Residency Networkは、台湾の文化省が運営しています。
国内外のアーティスト、キュレーター、芸術文化期間の交流のプラットフォームです。AIR関連の政策や政府の助成金に関する情報も掲載されています。
アメリカ「Alliance of Artists’ Communities」
Allianceは、米国内全てのAIR情報、アーティストの経験やノウハウなどに関する情報を提供しています。
およそ500以上の、アーティストコミュニティにAIRを提供しています。
http://www.artistcommunities.org
アルゼンチン「Red Quincho」
2020年に設立したアルゼンチンのAIRに関するネットワーク。
ホームページのプレゼンテーションスライドに各施設の情報や写真が掲載されています。
各スライドのURLから、レジデンスのホームページに飛ぶことができます。
ドイツ「Touring Artists」
グローバルに活躍するアーティストのための情報ポータルサイト。
ビザ・滞在、交通・税関、税金、社会保障、その他保険、著作権などに関する総合的な情報を提供しています。
イタリア「Art In Residence」
アーティストやキュレーターのためのイタリア国内外のレジデンス・プログラムに特化したプラットフォームです。
イタリアのレジデンスに関する情報(応募方法、参加条件、コーディネーターへのコンタクト、各プログラムの特徴)を掲載しています。
北欧諸国「Nordic Culture Point」
Nordic Culture Pointは、北欧諸国におけるすべてのAIRのデータベースを提供しています。
アーティストへの助成金プログラムの募集も多数行っています。
オンラインのアートイベントや、北欧の言語を学べるイベントの情報が載っています。
https://www.nordiskkulturko
フィンランド「Finnish Artists’ Studio Foundation」
Finnish Artists’ Foundationは、フィンランド・アーティスト・スタジオ財団が運営しています。
レジデンスの交換留学、タピオラゲストスタジオ、海外のスタジオビルの情報などを提供しています。
また、フィンランド国内のAIRプログラムのデータベースも管理しています。
スイス「Artist in Residence ch」
AIR間、そしてスイスのアーティストとのネットワークであり、スイス内外のAIRとゲストスタジオの情報を提供しています。
スイス国内は60近くのスタジオが紹介されています。
スイス国外はおよそ70のスタジオ情報、特にヨーロッパの施設情報が豊富です。
リストの施設名をクリックすると、各スタジオに関する情報を閲覧することができます。
ロシア「AiR of Russia」
ロシアのAIRに関する情報を集約したサイトです。
ロシアのアート・レジデンス協会によって設立されました。およそ30のAIR情報のほか、募集情報が掲載されています。
「アーティストインレジデンス」のおすすめ関連書籍
アーティストインレジデンスに参加する前に、「もう少し詳しく知りたいな」と思った方はこちらの本がおすすめです。
世界の、アーティスト・イン・レジデンスから ARTISTS IN RESIDENCIES AROUND THE WORLD
世界のAIRから厳選した90件のレジデンスと、そこで暮らす100名以上のアーティストについてまとめられた本です。
合計520件のレジデンス情報を掲載。百科事典並みの情報量で、参加したアーティストたちインタビューも掲載されています。
まとめ
アーティスト・イン・レジデンスは地域や施設によって様々なプログラムがあり、その多様性こそがAIRの魅力とも言えます。
知らない土地で、知らない国のアーティストと交流するだけでも、新たな創作の意欲となることは間違いありません。
アーティストを受け入れる地域にとっても、人々がアートに触れ、コミュニティを復活するきっかけとなり、地域創生を目的として今後さらに多くの地域で取り入れられていくことが予想されます。
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