ナビ派ピエール・ボナールモーリス・ドニ絵画美術史
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ナビ派とは?ボナール、ドニなど有名な画家と作品について分かりやすく解説

19世紀末のパリで活動した前衛芸術家グループ「ナビ派」。

ナビ派は、後期印象派の画家 ポール・ゴーギャンに影響を受けた若き画家たち、ポール・セリュジェ、ピエール・ボナール、モーリス・ドニ、エドゥアール・ヴュイヤール、ポール・ランソンらによって結成されました。

当時、ジャポニズムが流行していたパリで、日本の浮世絵(木版画)に衝撃を受けた画家たちは、伝統的な西洋絵画とは異なる表現を模索し、それぞれの制作スタイルを確立しました。

この記事では、ナビ派の歴史と有名な画家、代表作品について分かりやすく解説します。

 

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「ナビ派」とは?

ゴーギャンの影響を受けた画家たちの集団

「ナビ派」とは、19世紀末のフランスで活動した、後期印象派(ポスト印象派)の流れをくむ芸術家集団です。

1888年の夏、フランス・ブルターニュの芸術家村、ポン=タヴァンで過ごしていた若きポール・セリュジェは、後期印象派の画家 ポール・ゴーギャンに絵の指導を受けます。

ゴーギャンの指導は以下のようなものでした。

あの樹はいったい何色に見えるかね。

──多少赤みがかって見える?

よろしい、それなら画面には真赤な色を置きたまえ。

 

それからその影は?

──どちらかと言えば青みがかっているね。

それでは君のパレットの中の最も美しい青を画面に置きたまえ。

(引用:Wikipedia「ナビ派」

これまでの伝統的な西洋絵画の技法のように、見たものをリアルに描くのではなく、画家が自由な筆致と色彩で描くことを善しとしたゴーギャンの指導に感銘を受けたセリュジェは、パリに戻ったあと美術学校の仲間達にゴーギャンの言葉を伝えます。

それに共鳴したピエール・ボナール、モーリス・ドニ、エドゥアール・ヴュイヤール、ポール・ランソンら若い芸術家たちによって立ち上げられたのが「ナビ派」です。

 

詩人アンリ・カザリスが「ナビ派」と命名

ナビ派(Les Nabis)という用語は、詩人のアンリ・カザリスによって造られました。

「Nabis(ナビ)」とは、ヘブライ語で「預言者」を意味します。

カザリスは、かつて古代の預言者がイスラエルを活性化させたように、ナビ派の画家たちが業界を盛り上げていくことを願い、命名したと言います。

 

デザイン・工芸・舞台の分野でも活躍

ナビ派の芸術家たちは、絵画だけでなくポスター・リトグラフ・木版画などのグラフィックアートをはじめ、屏風・ステンドグラス・天井画・皿の絵付けといった装飾美術、また劇場の舞台装置や衣装デザインなど、幅広い分野で活動しました。

 

彼らがナビ派として活動した時期は1888〜1900年の約12年間です。

1900年の展覧会を最後にグループを解散し、以降はそれぞれが独自の方向に進んでいきます。

ナビ派の活動は、印象主義からフォービズムへの足掛かりとなり、さらにはキュービズムやシュルレアリスムへと続く20世紀近代絵画の動向を方向づける、重要なムーブメントとして評価されています。

 

「ナビ派」の画家・芸術家

ポール・セリュジェ(1864〜1927)

ポール・セリュジェ(Paul Sérusier)は、ナビ派結成のきっかけとなった人物です。

彼は1864年、フランス・パリの裕福な中流階級の家に生まれました。

美術学校で絵画を学び始めたセリュジェは、1888年にブルターニュのポン=タヴァンを訪れ、ポール・ゴーギャンに出会います。

 

セジュリエは、ゴーギャンの助言を受けて「タリスマン」(上)を制作。パリに持ち帰った作品を美術学校の仲間たちに見せ、ゴーギャンの教えを伝えます。それに感銘を受けた仲間たちと共に、ナビ派を結成しました。

1893年以降はフランス北西部のシャトーヌフ=デュ=ファウに移住し、ブルトンの風景や人々をモチーフとした作品を多く制作しています。1927年62歳のときに交通事故で亡くなりました。

 

ピエール・ボナール(1867~1947)

ピエール・ボナール(Pierre Bonnard)は、「ナビ・ジャポナール(日本かぶれのナビ)」という愛称で呼ばれるほど、ナビ派の画家の中でも特に、日本の浮世絵に影響を受けた作品を多く制作しています。

彼は1867年、パリ郊外で陸軍省の役人の息子として生まれました。

大学では法学を学びながら夜間の美術学校に通い、セリュジェらと共にナビ派を結成しました。

1893年にマリア・ブールサンと結婚し、以降は「浴室の裸婦」など、妻をモデルとした絵を数多く残しています。

シカゴで個展を開催するなど、存命時から絵がよく売れた画家で、晩年は南仏に移住し、1947年79歳で亡くなるまで制作を続けました。

 

モーリス・ドニ(1870〜1943)

モーリス・ドニ(Maurice Denis)は敬虔なカトリック教徒として知られ、宗教や家族、海辺の風景を題材とした作品を多く残しています。

彼は1870年、ノルマンディー近郊の海辺の町で生まれました。

幼い頃から宗教と芸術に強い関心を抱いていたドニは、頻繁にルーブル美術館を訪れ、フラ・アンジェリコやラファエロ、ボッティチェリの絵を好んで鑑賞したと言います。

美術学校でナビ派の仲間たちと出会い、ナビ派の主要メンバーとして活躍しました。

 

ナビ派解散後は自分自身を「宗教芸術家」と称し、神聖芸術のグループ「Ateliers d’Art Sacré」を結成して大聖堂の修復や祭壇画や壁画(上)を手掛けています。

1943年73歳のとき交通事故で亡くなりました。

 

エドゥアール・ヴュイヤール(1868〜1940)

エドゥアール・ヴュイヤール(Édouard Vuillard)は、家庭の室内風景といった身近なモチーフを多く描いたことから、「アンティミスト(親密派)」の画家として知られています。

1868年、フランスの小さな村に生まれ、1888年にドニの誘いを受けてナビ派に参加しました。

ヴュイヤールは個人邸宅を飾るための「装飾パネル」といった、インテリア装飾も多く手掛けています。

他にも、劇場の衣装デザインや舞台装置、ポスターなど、絵画以外のジャンルで活躍しました。

1940年、71歳のときに心臓発作で亡くなっています。

 

ポール・ランソン(1864〜1909)

ポール・ランソン(Paul Ranson)は、「ナビ・ジャポナール(=ピエール・ボナール)よりも、日本人のナビ」と称されるほど、日本の浮世絵(木版画)に大きな影響を受けた画家です。

1861年、フランスのリモージュで政治家の息子として生まれ、美術学校に入学しナビ派に参加しました。

 

ランソンは、ナビ派のなかでも特に装飾芸術に熱心に取り組み、敷物やタペストリー(壁掛けなどに使われる室内装飾用の織物)、ステンドグラス、邸宅用の装飾パネルなども多く制作しています。

1908年、ランソンは妻のマリー=フランスと共に「アカデミー・ランソン」を設立し、ナビ派の思想と技術を教えました。

1909年、腸チフスにより47歳という若さで亡くなりました。

 

ナビ派の特徴

神秘的で装飾的な表現

ナビ派の画家たちは、それまでの伝統的な西洋絵画のように、見えたものをそのまま描くのではなく、画家の感情や精神世界を表現しようとしました。

彼らは自然の模倣ではなく、現実を超越した美しさを求めたのです。

敬虔なカトリック教徒だったモーリス・ドニは、宗教を題材とした作品を多く制作し、ナビ派の中でも特に、神秘的な作品を残しました。

また、ナビ派の画家たちは、絵画だけでなく室内装飾やグラフィックアート、舞台美術など装飾芸術の分野でも広く活躍し、「美術と装飾芸術は違うものである」というアカデミックな価値観を壊すことにも貢献しました。

 

奥行のない平坦な構成

ナビ派は、西洋絵画で伝統的に用いられてきた「遠近法」や「明暗法」など、立体感を出すための技法を否定し、奥行きのない平坦な絵を制作しました。

そこには、当時パリで流行していたジャポニズム、特に日本の浮世絵(木版画)の存在が大きく影響しています。

ナビ派の芸術家たちは、日本の版画を集めてアトリエの壁に貼り、奇抜でデフォルメの効いた構図、配色などを研究しました。

「ナビ・ジャポナール」と呼ばれるほど日本美術に傾倒したボナールは、屏風型の作品も制作しています。

 

鮮やかな色彩の調和

ナビ派のもう一つの特徴は、鮮やかな色彩とその調和です。

日本の浮世絵とゴーギャンの指導に影響を受けた画家たちは、チューブから出した絵の具の色に近い(=混色の少ない)、鮮やかな色を用いるようになりました。

初期は、グレーがかったような淡く柔らかい色調の作品を制作していましたが、次第に鮮やかな色彩と、色同士が画面全体で響き合うような作品を多く制作しました。

 

ナビ派の画家たちの代表作品

タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴェン川(1888)ポール・セリュジエ

「タリスマン(護符)、愛の森を流れるアヴェン川(1888)」は、セリュジエがゴーギャンの指導を受けて制作したもので、ナビ派結成のきっかけになった作品です。

この絵はスケッチとして描かれたもので実は完成していません。しかし、セリュジエはあえてこの作品を未完成のまま残していたようです。

 

八角形の自画像(1890)エドゥアール・ヴュイヤール

ユニークな八角形のキャンバスに描かれた自画像です。

髪はレモンイエロー、髭は明るいオレンジで描かれ、黄土色がかった緑色の背景には、木の実のような赤色のドットが模様のように描かれています。

 

ナビの風景(1890)ポール・ランソン

1890年に制作された「ナビの風景(Nabis landscape)」。

オレンジ色の大地に草を摘む青い衣の男性と孔雀、鳥に乗って飛んでいる女性が描かれています。

この絵画は、ランソンの作品のなかでも特に平面的で形が簡略化されています。

 

庭の女性たち(1890~1891)ピエール・ボナール

4つのパネルで構成された「庭の女性たち」は、日本の屏風のような形状をした作品で、1枚ずつは独立していますが、4枚が並ぶとそれぞれの色彩や線のリズムがリズミカルに調和します。

ボナールが手掛けた最初の装飾芸術で、ナビ派の「装飾芸術も芸術である」という考えをもとに制作されました。

 

踊る女たち(1905)モーリス・ドニ

ドニはフランクフルト近郊のミュッツェンベッカー男爵邸内にある奏楽室のために、「永遠の夏」と題された装飾画(現在は紛失)を手掛けています。

この装飾画は5枚のパネルで構成されており、それぞれ「オルガン」「声楽」「四重奏」「舞踏」「オラトリオ」というタイトルがついていました。

本作の「踊る女たち」は、そのうちの「舞踏」のための習作もしくはレプリカとして制作されたものと推測されています。

 

川岸の少年たち(1906)ポール・セリュジェ

セリュジェは風景を題材にした作品を多く制作しており、「川岸の少年たち」も川辺で水浴びをする子どもたちを描いた素朴な作品です。

装飾的に描かれた水面の模様が特徴的です。

 

ナビ派の作品を所蔵する美術館

オルセー美術館(パリ)

フランス、パリにあるオルセー美術館は、ナビ派の作品を世界で最も多く所蔵している美術館です。

ナビ派の作品は常設展でも見られるほか、企画展としてナビ派展が開催されることもあります。

2017年には日本の三菱一号館美術館でも、オルセー美術館のコレクションを借りて「オルセーのナビ派展」が開催されました。

オルセー美術館

住所:1 rue de la Légion d’Honneur, 75007 Paris

営業時間:火~日曜 9:30~18:00(木曜は21:45まで)

休館日:月曜日 1/1(祝)、5/1(祝)、12/25(祝)

公式サイト:https://www.musee-orsay.fr/en

 

国立西洋美術館(東京都)

国立西洋美術館には、ピエール・ボナールの「坐る娘と兎(1891)」やモーリス・ドニの素描などが所蔵されています。

また、ナビ派の原点となったポール・ゴーギャンの作品も所蔵されています。

常設展示では見ることができないため、随時、展示情報をご確認ください。

国立西洋美術館

住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園7番7号

営業時間:9:30~17:30

金曜・土曜日 9:30~20:00

休館日:毎週月曜日
※ただし、月曜日が祝日又は祝日の振替休日となる場合は開館し、翌平日が休館
※年末年始(12月28日〜翌年1月1日)

公式サイト:https://www.nmwa.go.jp/jp/

 

「ナビ派」のおすすめ関連書籍

もっと知りたいボナール 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション) 

もっと知りたいボナール 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション) 

2018年に国立新美術館で開催された「オルセー美術館特別企画ピエール・ボナール展」に合わせて出版された本です。

同時代の画家との交流や作品にインスピレーションを与えた私生活などが紹介されています。

もっと知りたいボナール 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

2,200円 (税込)

 

ヴュイヤール:ゆらめく装飾画 (「知の再発見」双書166)

ヴュイヤール:ゆらめく装飾画 (「知の再発見」双書166)

オルセー美術館館長を務めるのギィ・コジュヴァルの著作。

日本で出版されているヴュイヤールの専門書の中では一番おすすめです。

絵はカラーで載っており、分かりやすい解説と共に楽しめます。

ヴュイヤール:ゆらめく装飾画 (「知の再発見」双書166)

1,760円 (税込)

 

まとめ

ナビ派の活動は12年程と短いものの、20世紀の絵画シーンにおいて重要なムーブメントとして高く評価されています。

浮世絵の影響を受けていることから、日本人にとっては、どこか馴染み深い印象を受ける作品も多いのではないでしょうか。

芸術と装飾の垣根を越え、近代絵画の発展に大きな貢献を残したナビ派。

ぜひ皆さんも、ナビ派の画家たちの作品とその制作背景に注目してみてください。

 

 

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