世界で開催されているアジア系アーティストの展示をまとめて紹介!河鍋暁斎、中谷芙二子など
現在、世界で開催されている、アジア系アーティストの展覧会をまとめてご紹介します。
幕末の浮世絵師、河鍋暁斎。霧の作品を長年制作する日本人芸術家、中谷芙二子。ベトナム系アメリカ人の世界的な現代アーティストであるディン・Q・レ。LGBTQIA+を扱うスニル・グプタのポートレイト展示など、ジャンルや年代を問わず、アジア系アーティストの展覧会が世界各地で開催されています。
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河鍋暁斎 – イスラエル・ゴールドマンコレクション|Royal Academy of Arts
ロンドンでは、河鍋暁斎(かわなべ・きょうさい、1831-1839)の約30年ぶりとなるイギリスでの展覧会が開催されています。
展覧会と主軸となるのは、世界屈指の河鍋暁斎コレクターとして知られる美術商、イスラエル・ゴールドマンのコレクション。
彼のコレクションから貴重な約80点がロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(Royal Academy of Arts)に大集結しました。
河鍋暁斎は1831年生まれ、幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師であり日本画家です。
伝統的な狩野派の絵画から浮世絵、風刺画までを数多く制作し、近年特に再注目されています。
浮世絵の伝統と大衆的な形式を組み合わせた彼の作品は、民話や能、宗教的な物語に加え、現代的な風刺画を特徴としています。
また、反骨精神を持った野性的な性格のため、明治政府を強烈に風刺した絵を描いて逮捕されたり、「席画」という観客の前で即興的に描く作品で人気を博していました。
暁斎は日本初の漫画雑誌とされる「絵新聞日本地」(1874年)も創刊しています。
「百鬼夜行図屏風」(1871-1889)、「地獄太夫と一休」(1871-89)など妖怪や幽霊などをモチーフにした作品のほか、派手な色彩でダイナミックに描かれた「名鏡倭魂 新板」などが彼の代表作にあたります。
Kyōsai: The Israel Goldman Collection
会期: 2022年3月19日-6月19日
住所: Royal Academy of Arts
Burlington House, Piccadilly
London W1J 0BD, United Kingdom
中谷芙二子 – Nebel Leben|Haus der Kunst
世界で初めて人工雪の結晶を作った物理学者、中谷宇吉郎の娘である中谷芙二子。
彼女は50年以上にわたり「霧の彫刻」シリーズを制作する現代アーティストとして知られています。
中谷芙二子は、1967年に設立された芸術家と科学者のコラボレーション組織である非営利団体「E.A.T.(Experiments in Art and Technology)」のメンバーとして活動しており、1969年の大阪万博のペプシ館で霧の彫刻を初めて発表しました。
また彼女は、日本におけるビデオアートの発展にも重要な役割を果たしています。
1970年代初頭、日本初のビデオアート展の開催に協力。社会問題を扱ったビデオ作品やビデオ彫刻を制作し、1980年には日本初のビデオアートギャラリーの一つである「ビデオギャラリーSCAN」とビデオ作品の配給などを行う法人「プロセス・アート」を設立させました。
ドイツ、ミュンヘンのハウス・デア・クンスト(Haus der Kunst)では、透明性と不透明性、自由と支配の間で絶えず対話する壮大な霧の彫刻が展示されています。
Fujiko Nakaya. Nebel Leben
会期: 2022年4月8日-7月31日
住所: Haus der Kunst
Prinzregentenstraße 1
80538 Munich公式HP
https://hausderkunst.de/en/exhibitions/fujiko-nakaya-nebel-leben
スニル・グプタ – Songs of Deliverance, Part I and Part II |Studio Voltaire
ロンドンのスタジオ・ヴォルテール(Studio Voltaire)で開催中のスニル・グプタ(Sunil Gupta)の展覧会。
インド生まれでロンドンを拠点とするカナダ人のスニル・グプタは、1960年代以降、ニューヨークでの初期のストリート写真からインドのゲイの男性の生活まで、世界中のLGBTQIA+や移民コミュニティを作品の題材としてきました。
彼は作品制作を通して、植民地時代から存在する同性愛を禁じるインド刑法第377条を廃止するための活動も支援しています。
最新の展覧会「Songs of Deliverance Part I and Part II」では、ロンドンの2つの病院に1年間滞在し、HIV治療と性別適合手術を受けるLGBTQIA+の人々を被写体とし、彼らの人生を写した大規模なポートレートシリーズが展示されています。
自身がHIV陽性であることを公表しているスニル・グプタの作品は、LGBTQIA+としての医療への関心を細密に表現しています。作品は病院でも展示される予定です。
Sunil Gupta, Songs of Deliverance, Part I and Part II
会期: 2022年3月25日–5月4日
住所: Studio Voltaire
1A Nelsons Row
London SW4 7JR公式HP
https://www.studiovoltaire.org/whats-on/sunil-gupta-songs-of-deliverance-part-i-and-part-ii-2/
Cui Jie – New Model Village|Focal Point Gallery
上海を拠点とする中国人アーティストCui Jie。
彼女は、モダニズム芸術と20-21世紀の建築様式から、中国の急速な都市開発に伴う均質化と流動感、近未来的な都市風景を重層的に描くアーティストです。
Cui Jieが描く建築物は渦巻く形状に囲まれ、常に動きと変化の状態にある「中国」を感じさせます。
今回、イギリスのフォーカル・ポイント・ギャラリー(Focal Point Gallery)で開催する展示は、イギリスのエセックス州の海岸線にある工場や労働者住宅を、1950年代に繊維工場労働者のために開発された上海の「労働者新村-草陽逸村」の歴史と結びつけたテーマで展開されています。
Cui Jie: New Model Village
会期: 2022年3月6日-6月12日
住所: Focal Point Gallery
The Forum, Elmer Square, Southend-on-Sea
Essex SS1 1NS, United Kingdom
ディン・Q・レ – Photographing the thread of memory|Musée du Quai Branly
ベトナム系アメリカ人の現代アーティストであるディン・Q・レ(Dinh Q. Lê)は、アジアを代表するアーティストとして、世界各地で作品を発表するアーティスト。
日本では、2015年に森美術館でアジア初の大規模展覧会となる「ディン・Q・レ展:明日への記憶」が開催されました。
彼は10歳の時にポル・ポト派の侵攻を逃れるため、家族とともに渡米し、現在はホーチミン市を活動拠点に戦争や移民の問題を扱った作品を制作しています。
写真とメディアアートをアメリカで学んだ後、ベトナムの伝統的なゴザ編みから着想を得た、写真を裁断してタペストリー状に編む「フォト・ウィーヴィング」シリーズを発表し、一躍注目されます。
アメリカで移民として育ったディン・Q・レ自身とアメリカ文化、ベトナムの複雑な文化的・政治的歴史と自身の関係を探求するため、写真をつなぎ合わせ、歪曲させた作品が有名です。
パリのケ・ブランリ美術館(Musée du Quai Branly)で開催中の「The Thread of Memory」では、過去15年の間に制作された20の作品を展示。カンボジアの歴史やクメール・ルージュ政権によって行われた大量虐殺への表現方法を追求した作品「Splendor and Darkness」シリーズなどが見どころとなっています。
DINH Q. LÊ: Photographing the thread of memory
会期: 2022年2月28日-11月20日
住所: Musée du quai Branly – Jacques Chirac
37 Quai Branly, 75007 Paris, France
ウォン・ピン – Earwax|Times Art Center
香港出身のウォン・ピン(Wong Ping)は、香港国内で最もエキサイティングな新進アーティスト。香港の現代生活の疎外感を、ユーモアと不条理感を混合させたビデオアニメーションで表現しています。
ベルリンのタイムズ・アート・センター(Times Art Center)では、「Earwax(耳垢)」と題した展示を開催。最新のビデオ作品とサイトスペシフィックなマルチメディア・インスタレーションを展示しています。
メインビジュアルとなっているのは、コンピュータで作成された自身の顔を巨大な耳で挟んだユニークな自画像です。
Wong Ping: Earwax
会期: 3月5日–6月26日
住所: Times Art Center Berlin
Brunnenstraße 9
10119 Berlin, Germany
グエン・タイ・トゥアン – A solo exhibition|Sàn Art
ベトナムのアーティスト、グエン・タイ・トゥアン(Nguyen Thái Tuan)は、老朽化した室内に黒く塗られた人間、荒廃した建物に遭遇した人々や動物などが登場する薄暗い雰囲気の絵画を手がけています。
ホーチミンにあるギャラリー、サン・アート(Sàn Art)では、グエン・タイ・トゥアンの最新展「Waiting for the end of the wind」を開催中。
昼も夜も風の気配すらも感じさせないような彼の一貫した雰囲気を持つ作品群は、夢の中を連想させます。
A solo exhibition by Nguyễn Thái Tuấn
会期: 2022年3月1日–4月23日
住所: Sàn Art
195/14 Xo Viet Nghe Tinh, Ward 17
Binh Thanh District
Ho Chi Minh City, Vietnam.公式HP
https://san-art.org/exhibition/waiting-for-the-end-of-wind/
Present Continuous / Sekarang Seterusnya|Museum MACAN
「Present Continuous / Sekarang Seterusnya」は、ジャカルタにあるミュージアムMACAN(Museum MACAN)がインドネシア国内の5つのアート団体や現代アートビエンナーレと共同で立ち上げたプロジェクトです。
このプロジェクトは、インドネシア国内でのCOVID-19の流行と同時に活動を開始しました。展覧会の開催だけでなく、講演、プレゼンテーション、オンライングループディスカッションのプログラムを通じ、アートコミュニティを繋ぐプラットフォームとして機能しています。
この展覧会には、インドネシア国内の5つの地域から4人のアーティスト、2つのコレクティブ、5人のキュレーターが参加。
インドネシアの先住民族の政治、集団的・歴史的記憶、音や植物と人間の関係、アーティストが主導する「創造産業」が社会・経済の変化をもたらす可能性といった問題をテーマとした作品が紹介されています。
Present Continuous / Sekarang Seterusnya
会期: 2022年1月15日–5月15日
住所: Museum MACAN
AKR Tower Level M, Jalan Panjang No. 5 Kebon Jeruk
Jakarta Barat 11530, Indonesia公式HP
https://www.museummacan.org/exhibition/present-continuous?lang=en
ワエル・シャウキー – Wet Culture, Dry Culture|Museum Leuven
エジプト人アーティスト、ワエル・シャウキー(Wael Shawky)は、幼少期をエジプトのアレクサンドリアとサウジアラビアのメッカで過ごし、遊牧民社会から近代化社会への移行を目の当たりにした経験をもとに制作を行っています。
ベルギーのルーヴェン美術館(Museum Leuven)で開催されている大規模な回顧展「Wet Culture, Dry Culture」では、国や芸術、宗教のアイデンティティに関する問題とともに、母国エジプトや中東の近代化によって引き起こされた社会の変化に関する問題を根幹にしている作品が展示されています。
回顧展のメインとなっているのは、十字軍の歴史をアラブの視点からドローイング、木版画、人形劇で再現した「Cabaret Crusades」3部作(2010-2014)です。
Wael Shawky「Wet Culture, Dry Culture」
会期: 2022年3月11日-8月28日
住所: Museum Leuven
Leopold Vanderkelenstraat 28
3000 Leuven, Belgium
ナズゴル・アンサリニア – Lakes Drying, Tides Rising|Green Art Gallery
イラン、テヘラン出身のナズゴル・アンサリニア(Nazgol Ansarinia)は、様々なメディアを用いて作品を制作していますが、主に日常生活に密着した問題やシステムを、より大きな社会構造と結びつけて作品を展開するアーティストです。
ドバイのグリーン・アート・ギャラリー(Green Art Gallery)で開催されている彼女の最新の展覧会「Lakes Drying, Tides Rising」では、イランのペルシャ建築に不可欠な要素である「水」に焦点を当てています。
イランの家屋にはハウズ(hows)と呼ばれる小さな池やプールがあり、かつて加湿や家事の場として機能していました。ハウズの存在は家族に安心感を与えるものでしたが、砂漠地帯で深刻な水不足が発生し、現在はその多くが干上がってしまっています。
ナズゴル・アンサリニアはその歴史を辿り、彫刻、映像、ドローイングを通して表現しています。
テヘランの水不足や電力不足という問題に対して、彼女は水をノスタルジーの場として、また地球規模の資源危機、地球の生態系の変化を映し出すものとして捉え直しています。
Nazgol Ansarinia: LAKES DRYING, TIDES RISING
会期: 2022年3月8日-5月7日
住所: Green Art Gallery
Al Quoz 1, Street 8, Alserkal Avenue, Unit 28
P.O. Box 25711 Dubai, UAE
澤田知子ほか – Role Play|PRADA AOYAMA
プラダ青山店では、プラダ財団の支援を受けて企画された、アメリカで大学教授や作家として活動するメリッサ・ハリス(Melissa Harris)がキュレーションを担当した展覧会プロジェクト「ロールプレイ(Role Play)」を開催中。
現代文化における別のアイデンティティ、分身、複数の自己の投影と適応を探求する「ロールプレイ」。
参加アーティストは、ロールプレイングや分身の創造、自己の拡散などを切り口として、個人の本質や人格の追求とその理解に迫る作品を提示しています。
セルフポートレイトの手法を使い、作品を通して内面と外見の関係性をテーマに作品を展開する澤田知子の写真シリーズを中心に、ジュノ・カリプソ(Juno Calypso)、ベアトリーチェ・マルキ(Beatrice Marchi)、ハルカ・サカグチ、グリセルダ・サン・マルティン(Griselda San Martin)、ボゴシ・セクフニ(Bogosi Sekhukhuni)といった国際的に活躍するアーティストの作品群が展示されています。
Role Play
会期: 2022年3月11日-6月20日
住所: PRADA AOYAMA
東京都港区青山南6-2-5公式HP
https://www.prada.com/jp/en/pradasphere/special-projects/2022/role-play-prada-aoyama.html
Sun Xun – An Infinite Journey|Shanghart
絵画、木版画、中国の伝統的な水墨画や木炭画を組み合わせ、長編アニメーションを制作するアーティスト、Sun Xun。
伝統的な手仕事と現代的なデジタル技術を融合させた独自の手法で、中国の伝統を生き生きと表現しています。
上海のShanghartで開催されている展覧会「An Infinite Journey」は、長編アニメーション作品「Magic of Atlas」(2021)が主軸となっています。
図像や日本のアニメから着想を得た要素と伝統的な木版画などの形式を組み合わせている作品です。
幻想的な世界観のSun Xunの作品は、デジタル時代における東洋文化の現代性も反映しています。
服を着た人型の豚、牛、鶏、雄羊、教会、アバター、兵士、機関銃兵などのキャラクターやモチーフが、時空を超えて、どこか別の場所へと導いてくれるようなアニメーションになっています。
Sun Xun: An Infinite Journey
会期: 2022年3月12日–4月26日
住所: ShanghART
West Bund, Bldg.10, 2555 Longteng Avenue
Xuhui District, Shanghai, China公式HP
https://www.shanghartgallery.com/galleryarchive/index.htm
Zhang Ruyi – Speaking Softly|UCCA
UCCA北京では、Zhang Ruyiの彫刻とインスタレーションが展示されます。
上海を拠点とする1985年生まれのZhang Ruyiは、抽象的なドローイング、ペインティング、彫刻、インスタレーションを主に制作しています。
彫刻作品では、都市生活での人工物と自然物を混合した作品を制作し、都市生活の心理的影響に焦点を当てています。
2012年に上海の「Creative M50 Young Artist Award」、2017年には北京の「YISHU 8 Creative Young Artist Award」を受賞、2018年にはロンドンの「Frieze London Artist Award」にノミネートするなど、今勢いのある若手アーティストです。
Zhang Ruyi: Speaking Softly
会期: 2022年6月11日-9月11日
住所: UCCA Beijing
798, No. 4 Jiuxianqiao Street
Beijing
世界的に注目を浴びているアジア系のアーティストとプロジェクトをご紹介しました。
アートマーケットの世界でも、香港などを中心にアジアでのオークションの取引は近年熱を帯びています。
中国は屈指の現代アート大国として、北京のUCCA(2007年開館)をはじめ次々と新しい美術施設が建設され、若手アーティストの世界進出の勢いも止まりません。
一口に「アジア系」といっても、制作背景や表現ジャンルは実にさまざま。
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今後もアジア系アーティストたちの活躍から目が離せません。
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