イワミズアサコ(ASAKO IWAMIZU)さんインタビュー|布で描く「キメコミアート」の世界
こんにちは!thisismedia編集部の武田です。
アーティスト、クリエイターなど自分の「好きなこと」を仕事にしている作家たちの「想い」を伝える連載インタビュー。
今回は、廃材の布を用いたオリジナル絵画「キメコミアート」の制作を行っている イワミズ アサコ さんにお話を伺いました。
ファッション業界からアーティストへの道を志したイワミズさん。
今回は、元ファッションデザイナーとして、アーティストとして、作品に込められた「布」への想いを、改めて語っていただきました。
イワミズさんの人間としての暖かさ、面白さも感じることができ、彼女の周りに笑顔が絶えない理由を、今回少し理解できた気がします(笑)
作品をまだ見たことのない方にも楽しんでいただける内容になっていますので、ぜひ最後までご覧くださいね。
Feature Artist
イワミズ アサコ(ASAKO IWAMIZU)
Profile
ファッション業界でコレクションブランドのデザイン、ニットデザインなどを経験。2008年よりアート活動を本格的にスタート。2016年 工芸の「木目込人形」の技法からインスピレーションを受けた「キメコミアート」に本格的に目覚め、布を使ったポップでお洒落なアート作品を発表する傍ら、各地でワークショップやイベントを開催。2010年エステーデザインアワード特別賞。2015年松濤美術館賞優秀賞。SHIBUYA ART AWARDS 2019 区長賞など数々の賞を受賞。
HP:https://www.asakoapa.com/
Instagram:@asakoiwamizuart
talk.1
ファッションで感じた「限界」
───
まずはじめに、イワミズ さんがアーティスト活動を始めたきっかけは何だったんでしょうか?
イワミズ
私はファッションが好きだったんで、もともとはファッションデザイナーになりたくて。
都会は怖そうだなっていうのがあったんで、高校卒業してからすぐには東京には来ずに、地元でちょっと社会勉強してから東京に来ました。
上京してからは東京でファッションの専門学校に3年通って、東京コレクションとかをやってるような、エッジが効いたファッションブランドで3年ぐらい働いていました。
でもその頃にファストファッションの流れがやってきて、流行を追ってる服を安く買える時代がやってきたんですよね。H&Mとか、ユニクロとか。
私はドメスティックなブランドで働いていたので、一生懸命こだわってものづくりをしていたけど、それが別のところでは安く買えちゃうっていう。
なんかこう、自分のやりたいことに限界を感じてきたんです。
───
売りたいものが売れなくなってきた、ということでしょうか。
イワミズ
そうですね。
消費者はそこまで素材とか細かいところにまで意識がいかなくて、「安くて可愛いのが買えるんだったらいいじゃない」って感覚になって崩壊したというか。
とにかく「売れない時代」ですね。
自分の働いていたブランドでもリアルに限界を感じて、自分の理想とするファッションが今の時代にはそぐわないんじゃないかっていう所で、ヤーってなって(笑)
───
ヤーってなって(笑)
イワミズ
それで、NYに行ったんですよ。
「そうだ、アートをやろう!」ってなって。
それから2008年ぐらいに会社辞めた退職金を握りしめて、本場NYに行きました。
アートをやるなら本場が良いだろうって。
ファッションじゃなくてアートがやりたかったので。
talk.2
「キメコミアート」ができるまで
───
その頃から作品に「布」は使っていたんですか?
イワミズ
全然使ってなかったです。
やっぱりなんかファッションから離れたかったんでしょうね、きっと。
自分の中で「服はいいや」って感じで。
作るより着る方、みたいな。
そういう風に感覚が変わって、NYで相当H&Mとか買ってました(笑)
───
あれ?(笑)
イワミズ
あんなに敵視してたはずなのに(笑)
そんなこんなで、色々素材を変えて、画材もアクリル使ったり日本画の画材使ったり和紙に描いてみたり。
私は美大とかアカデミックなところを通ってきてなかったので、技術とかバックボーンとか、オリジナルのスタイルはなかったんですよ。
───
日本画はアート系の高校時代にやった経験が?
イワミズ
それが全くなくて。
ネットで、膠の溶き方みたり(笑)
全部自分のオリジナルのやり方でやってました。
それを8年くらい、展示とかやってたんですけど全部鳴かず飛ばずで。
「うーん…」ってなっていた時、2016年のある日ふっと、「布を使ったら面白いんじゃないの?」って思いつきました。
ちょうど家に発砲スチロールがあって、「布で絵を描いて作ってみたら面白いんじゃないの?」って思いついて、そこから突き詰めていった感じです。
「ファッションは好きだから何かしら布を使いたいな、でもファッションとはちょっと違うしアートだし、何かないかな?」って自分で模索していた時に、色んなピースがピタッとはまったみたいな感じでしたね。
talk.3
IWAMIZU STYLE
───
イワミズ さんは、作品のモチーフとかってどういうきっかけで見つけていますか?
いろんなテーマで毎回展示されていますよね。
イワミズ
そうなんです。
「これ面白そうだな」っていうのを。
───
いま渋谷で開催されている展示は「レコード」がテーマでしたよね。
RECORD MANIA @WIRED TOKYO 1999 (SHIBUYA)
イワミズ
そうですね。
お店自体がレコードのジャケットをいっぱい飾ってあったので、レコードのジャケットみたいな感じの作品をスクエアに置いたら面白いかもね、っていうのを店長とミーティングしてる時に話して決まりました。
「やりましょう!」っていうノリで(笑)
───
そうなんですね(笑)
イワミズ さんの作品は、モチーフ自体がすごい多国籍というか、南米ぽかったり日本ぽかったり、色々な国の文化を融合しているような気がして、イワミズ さんが今まで見てきたものが融合されて一つの国になっている感じがして、そこがとても面白いなと思いました。
イワミズ
そうそう、そうなんです(笑)
それがやっぱり自分も楽しくて。
一貫性がないわけじゃないんですけど、木目込っていう一つの大きい枠の中で自分がテーマを変えると、その度に自分の違う引き出しが開くみたいで、それがすごく楽しくて。
「早く木目込みたい!」ってなるんですよ(笑)
毎回下準備が結構大変で、最初テーマは決まってるけど、モチーフを何にしようかなってすごく考えてる時間は長いです。
ただ、自分の中で「これだ!」っていうピースが自分の中ではまった時、それからはすごい作業が早いです。
布を木目込んでいく段階になったら、すごく早いし楽しいです。
そうなってくると寝ても覚めても「木目込みたい!」ってなります(笑)
───
なるほど(笑)
イワミズ さんの作品は、作る過程とその楽しさがすごい人に共有しやすいですよね。
イワミズさんは、キメコミアートのワークショップも定期的に開催されています。
イワミズ
そう、分かりやすいんですよね。
───
パッチワークでもないし編み物とも違うけど、みんなが親しみを感じて「やりたい」って思えるような。
イワミズ
そうですね、みんな「やりたい」って言ってくれますね。やったらハマるんですよ。
───
ですよね、布を嵌め込んでいく感じが楽しそうだなと思って(笑)
イワミズ
すごい楽しいですよ(笑)
───
海外で色々な活動されていらっしゃいますが、海外と日本の反響の違いって、何か感じたりしますか?
イワミズ
台湾とかは若者が結構アートに積極的で。
買うし、見るし。
「台北藝術自由日 Free Art Fair 2019」で開催されたワークショップの様子
───
日本人の方があまり、アートを買ったり部屋に飾ったりっていうイメージが少ないですよね。
イワミズ
そうですね。
やっぱり十数年間やってきてて、個展とか見には来てくれるけど、それで終わり。みたいな(笑)
あまり買おうとはしないですよね。
でも、ここ数年は「買う文化」が出て来たのか、日本でも結構売れるんですよ。
若い人でも買ってくれて、意識が変わってきているのかな?とは思います。
それか私の作品が良くなってきたのか(笑)
───
(笑)
でもイワミズ さんの作品の場合、「飾りやすさ」っていうのは圧倒的にありますよね。
軽いし、作品自体に温かみがあって、部屋に飾りたくなります。
talk.4
「浮世」を描く
───
これまでの作品を見ていて、一番気になったのが浮世絵のシリーズなんですが、あれはどういうきっかけで生まれたんでしょうか?
イワミズ
自分が日本人っていうのもあるから、日本らしいものを木目込で表現してみたいなっていうのがあったんです。
作っている途中に気づいたことがあるんですけど、ゴッホが浮世絵を版画だと知らずに油絵で描いた作品があるじゃないですか。
そんな感じで、私が生きてきた過程で感じた自分のツールを使って、今の「浮世」を作品にするってなったら、こういう感じなのかな、っていう。
私なりの現代的な解釈で表現している浮世絵のようなものが、布を使った作品になった感じです。
───
なんというか、日本人から見た日本じゃなくて、外国人から見た日本のような印象を受けるんですよね。
イワミズ
私自身も「なに人ですか?」ってよく聞かれるんですけど(笑)
───
(笑)
イワミズ
日本人が作っているとは思えない感じで受け取れられたりします。
───
そうですよね。
日本のいわゆる「可愛い」ではなくて、どこか多国籍な匂いがするというか。
イワミズ さんの作品を見ていて、江戸の「粋」を布で蘇らせている感じがとても素敵だなと思いました。
talk.5
「布」でつながる世界
───
ところで、イワミズ さんにとって布ってどういう存在ですか?
イワミズ
去年、世界の民族の布だったり布の原点だったりを調べまして、やっぱり衣食住にも「衣」ってあるし、布っていろんな用途に使われたりしているんですよね。
アフリカに「カンガ (kanga)」っていう布があって、布に自分のメッセージみたいなものが書かれてあって、それを着るんです。
───
着る…?
それは外に向けたメッセージなんですか?
イワミズ
そうです。
女性の地位が低い時代に、布に書いたメッセージで対抗するような。
このアフリカの布には、「愛の涙は心に秘めて」って書いてあって、これは「もしも自分のことをわきまえていたのなら、そんなに自慢はしなかった」とか。
───
すごい!これは知らなかったです。
めちゃくちゃ面白い。
イワミズ
すごいでしょ、シュールですよね(笑)
これは二枚一組になってて、スカートとトップスとして着たりします。
写真は白黒なんですけど本当はもっとカラフルで面白いんですよ。
カンガを着た女性(ケニア)
───
これは調べたら出てきたんですか?
イワミズ
そうです。これを1960年代とかに、日本で作ってアフリカに輸出してたっていう歴史もあったりするんです。
───
日本で作ってたんですか!?
イワミズ
京都でこの布が作られてて。
だからこういう布を作品に使ったりもしてますね、布自体にストーリーがあるので。
───
今回のプロジェクトで制作された作品にも使われているんですか?
イワミズ
そうです。
───
いつも布はどういったルートで手に入れているんですか?
イワミズ
旅も好きなので、世界中行くとどこでも生地市場があるんです。
そういうところに行ったりすると現地の生活も垣間見れるしい良いんですよね。
たとえばタイに行ったときも、主婦の人が生地を沢山買いに来ていたりとか、問屋街に行くと量り売りしていたりして面白かったです。
市場からその国の特徴が見れたりもするので。
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───
国によって着るものも違いますもんね。
イワミズ
海外行くと思うんですけど、布ってやっぱりすごく人と密接にあるものだなあと感じます。
だから布は奥深くて面白いと思います。
今年の3月に大きな展示があるんですけど、そこでは日本のメーカーさんから廃材の生地を提供してもらって、その生地を使ったワークショップもやる予定です。
───
ファッションの世界から一度リタイアされて布と関わることは一回途切れたと思うんですが、その時と今では布に対する価値観はだいぶ変わりましたか?
イワミズ
そうですね、逆にいろいろあったから古着について調べてみると、日本ですごく服が捨てられているっていう現状を知ったり。
自分の作品を通じて「物を大切にする想い」を感じてもらうっていうのも一つ大事なところです。
また、自分が作る側でもあったから一生懸命作ったものの良さも、私が廃材を使って作品を作ることで伝えられるかもしれないな、と最近思っています。
なので日本の生産者ともコミュニケーションをとりながら、「Made in Japan 」のいいところを世界に伝えていけたらいいなと思っています。
それが次の目標です。また10年越しにNYにも行きたいです。
───
10年前、NYには当時どんな作品を持っていったんですか?
イワミズ
当時は平面の作品だけでした。
スケッチブックみたいなのを持って、飛び込んだだけです(笑)
───
NYは結構厳しい環境だった、ということをおっしゃっていましたよね。
実際どういう感じだったんでしょうか?
イワミズ
あれは私がまだ未熟だったっていうだけの話です…(笑)
ファッションしかやってきていなくて、あまりにもルールを知らないままアートをやったので、「スケッチブックでも持っていけばギャラリーの人が会ってくれるんじゃないか」っていうノリで行っちゃってました。
でも老舗のギャラリーとかは、そこにキュレーターがいるわけでもなく受付のお姉さんがいるだけだったりして(笑)
NYだから、とにかく行けば大物に会えるんじゃないかっていう感じだったけど、実際ちゃんとしなくちゃいけないな、と思いました。
当時は結構ドリーミーになってて、「これだけ勢いがあるから行けばどうにかなるんじゃないか」と思っていたんですけど、実際ちゃんと契約をしなくちゃいけなかったりとかルールがあるのに、なにも考えずに行っちゃってましたね。
───
イワミズ さんは何でもパッションで向かっていく姿勢がすごいですよね。
イワミズ
パッションで行くのが一番いいっていうことに最近気づきました(笑)
NYにまたリベンジしたいです。
───
なるほど。
でも今のイワミズさんを見てて、特定のギャラリーに所属せず、フリーで自由にやられてるスタイルが良いのかな、と思いました。
イワミズさんは、アートチーム「ODEN(おでん)」のメンバーとしても活動中。
イワミズ
そうなんですよ。
3月の展示も私がとあるテレビ番組に出たのを主催者の人が見て「すごい!」ってなってくれたみたいで。
ちょうどその時個展をやっていたので、その人が見に来てくれて「是非やりましょう」ってなったんです。
直接の契約なので条件もすごくいいし、逆にラッキーみたいな。
ガチガチのところにいないので、自分で動けていいなと思ってます。
talk.6
作品=コミュニケーションツール
───
イワミズ さんは作品を見る人にどんなことを感じてほしいですか?
イワミズ
さっき言ったファッションの話ももちろんそうなんですけど、自分が生きてきたバックボーンの中に今の表現があると思うから、それを感じて欲しいです。
たとえば「これって古着なんですか?」「そうです、古着が一日に何万枚って捨てられていて…」みたいな会話が生まれたり、作品が一つのコミュニケーションツールみたいに、その作品のことを伝えられたらいいなと思っています。
見てもらうだけで終わるんじゃなくて、よく見たら「これってこうなんだ」とか「これって何なんだろう」といった発見も楽しんでもらえたらいいなと思います。
とにかく見る人にわくわくしてもらえたらいいなと思います。
見る人にちゃんと感じてもらえる、というか。
───
本来捨てられるはずだった布とイワミズ さんが出会ったことによって、その布と私たちが繋がるような、本当はゴミ箱に行くはずだった布が、昇華されているような感じがします。
イワミズ
そうですね。
───
これからどういう作品を作りたいとか、他にやってみたい活動はありますか?
イワミズ
去年ぐらいからある一つのテーマみたいなのが自分の中で浮かび上がってきて。
それが超自然系、プリミティブなアートというか、原始的な表現で、それを突き詰めていったら面白いんじゃないかと思っています。
メキシコっぽい民族風の感じだったり。
マヤ文明が作った、宇宙が全部集約されている、でっかいマヤカレンダーっていうのがあるんですけど、4月に展示があるので、そこではそのマヤカレンダーと曼荼羅を融合させたようなものを作ったらすごい良いんじゃないかと思っています(笑)
曼荼羅ってどこか宇宙的であり、その中に色々世界があるからすごい面白いと思っていて、昔、曼荼羅みたいな絵を書いたりしていたんですよ。
円が好きなのかな。円形の作品は平面の頃から作ってきたので。
木目込でそれを作ったらどうなるかなと思って(笑)
───
それはまた壮大な、すごいのができそうですね(笑)
イワミズ
自然を感じたままを表現したら面白いんじゃないかなって思っていて。
現代って災害が増えたり今色々なことが起こっていると思うんですけど、昔の人も災害とかを乗り越えてきたり、知恵を持っていたりして、そこにアートが結びついている部分があるなと思うんです。
現代的解釈としての超自然的な部分を作品にできたら面白いんじゃないかっていうのが次のテーマです。
今を生きる私のプリミティブ、「アサコプリミティブ」を表現していきたいな、と思っています(笑)
───
各国の宗教がイワミズ さんの中で融合して、一つになるイメージですね(笑)
イワミズ
そうそう(笑)
それが見ている人にとって「どっかで見たことあるかもしれない」と感じたりすることも面白いと思ってます。
新しいって感じる人もいれば懐かしいって感じる人もいたりとか、それも面白いし。
ある布をインドっぽいって感じる人もいれば日本的だと着物っぽいと感じる人もいたり、そうやって布が主張していることも沢山あるから、色々組み合わせていくのも面白いんじゃないかと思っています。
イワミズ アサコ さんの他の作品は、thisisgalleryのアーティストページからもご覧頂けます。
>> イワミズ アサコ アーティストプロフィール|thisisgallery
thsisimediaでは、今後も様々なアーティストをご紹介します。
作家さんの想いや制作の裏側を知ることで、作品の魅力をより感じて頂けたら嬉しいです。
皆さんもぜひ、気になる作家さんのHPやSNSをチェックして、実際の作品に触れてみてくださいね。
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