インタビュー
ART

Yuko Kimoto(@yuco150cm)さんインタビュー|モノクロで描く「夢」

こんにちは!thisismedia編集部の武田です。

アーティスト、クリエイターなど自分の「好きなこと」を仕事にしている作家たちの「想い」を伝える連載インタビュー。

今回は、モノクロイラストをメインに活動されている、Yuko Kimoto(@yuco150cm)さんにお話を伺いました。

海外でテキスタイルデザイナーとして活躍し、現在は一児の母として、子育てに奮闘しながら、アーティスト活動をされているYukoさん。

今回は、デザイナー時代の経験や「好きなことを仕事にする」生き方について、詳しく語っていただきました。

Yukoさん自身から感じる強さ、しなやかさが、作品に描かれた大きな世界観へ繋がっているように感じた今回のインタビュー。

画像に収まらない、作品の魅力、作家さんの魅力を感じて頂けたら嬉しいです。

作品をまだ見たことのない方にも楽しんでいただける内容になっていますので、ぜひ最後までご覧くださいね。

 


 

Feature Artist 
yuco150cm (Yuko Kimoto)

 

Profile
ロンドン芸術大学ファッション科を卒業後、英国を中心に数々のグランメゾンでファッション・テキスタイルデザイナーとして経験を積む。その経験をもとに、手作りにこだわった自身のブランドyulto.coを設立し、ウェディングドレス、藍染の日傘などをプロデュース。英国、そして日本を拠点に広告・パッケージなどのデザインも手がけている。現在は拠点を京都に移し、自身の世界観を表現する場として、イラストの個展に取り組んでいる。
HP:www.yulto.com
Instagram:@yukokimoto_art

 


 

talk.1
ファッションからアートへ

 

───

まずはじめに、yuco150cm さんがアーティスト活動を始めたきっかけは何だったんでしょうか?

 

 

yuco150cm

私はもともとヨーロッパで、布を作るテキスタイルデザイナーをしていました。

もともと絵を描くのがすごい好きだったので、ずっと布の上に絵を描く仕事をしている中で、一度立ち返って「平面の紙に描いてみたい」と思った時があったんです。

油絵とか水彩だと沢山の道具とか、大きなアトリエとか多くの時間も必要だったりすると思うんですけれど、私の場合はもうペンと紙さえあればいいので、空き時間に描いたり飛行機の上だったりで描き始めました。

そうする中でどんどん絵を描くことが楽しくなって、本格的にアートを志したいと思うようになりました。

 

───

好きな作家さんや、影響を受けているアーティストの方はいますか?

 

yuco150cm

本当にたくさんいるんですけど、私はマティスが好きです。

自分は白黒の絵を描くんですけれど、もともと明るいカラフルな絵の人が好きなので彼の作品が好きなんですよね。

 


アンリ・マティス「赤い部屋(赤のハーモニー)」

 

影響を受けている人は、絵を描いている人より建築家の人が多かったりします。

ガウディとかもすごい好きで、「彼がもし絵を描いたらこんな絵を描いたんじゃないか」とかを想像するのがすごく楽しいです。

ガウディの作品の曲線とかを見て、それを自分も絵にしてみたいと思うことがとても多いです。

 


カサ・バトリョ内部。ガウディは「フニクラ」という曲線実験装置を発明し、自身の作品に多くの曲線を用いている。

 

───

ガウディと聞いてすごくしっくりきたのですが、絵の持っているスケール感、広がっていく感じが yuco150cmさんの絵の魅力の一つだなと思います。

描いててすごく楽しんでいる感じが伝わってきます。

最初からモノクロで描いていらっしゃったんですか?

 

yuco150cm

そうですね。描き始めた当初からモノクロです。

 

───

ファッションをやっている頃から?

 

yuco150cm

そうです。テキスタイルデザイナーの時はもちろん色をたくさん使うんですけれど、デザイナーとして渡り歩いていたブランドの中の一つに、モノクロで有名なブランドがあったんです。

ヨーロッパってシックなファッションが沢山あるんですけれど、その中の一つで働いているときに、白と黒をずっと見ている時間があったんです。

そこでキャリアを積んだので、自分でも白と黒の服を作ったりしていました。

だから一番白黒が身近だったっていうのがありますね。

 

 

あと、周りに一番あったのは黒ペンだったので、それを使って自分の好きな世界観を描けたら面白いんじゃないか、と思っていたのもあります。

白黒だけでも様々な世界観を出せるのかも」と思い、それからずっと白黒で作品を作っています。

 

───

絵を描くときは、最初に全体像を決めますか?

それとも一か所から広がっていく感じで 描いていますか?

 

 

yuco150cm

一か所から広がる感じで描いています。

今回の三菱電機さんの作品は構図から考えました。

でも自分の想いだけを乗せて描くときは、少しずつ増殖させる感じで、細胞分裂するようなイメージで広げて描いています。

 

 

全く計画がないわけではないんですが、あんまり考えすぎずに、思ったまま楽しく描くスタイルが基本です。

 


 

talk.2
子どもの頃の夢

 

───

作品のモチーフは、どういうきっかけで生まれているんでしょうか?

 

yuco150cm

私はあまり人間を描くことはなくて、自分の好きなものをよく描いていますね。

小さい時は宇宙飛行士になりたくて、空にかかわる仕事をしたいと思っていた時期があったりして。

小さい時って夢が無限にあるじゃないですか(笑)

 

ある時は宇宙飛行士になりたかったり、ある時は花屋だったり科学者だったりパイロットだったり。

そんな子どもの頃の記憶がすごく強くて。

絵を描くときには自分が小さいころ好きだったものを思い出して描いています。

 

 

あと、私は小さなものや点の中に、「もしかしたらすごい世界が広がっているのかも」とか想像するのが好きな子でした。

絵の中に細胞みたいな物を小さく描いて「この小さな水滴の中にすごい世界が広がっているかもしれない」みたいな、そんな風にイメージを膨らませて描いています。

 

 


 

talk.3
文化の違い

 

───

イギリスでお仕事をされていたということですが、いつ頃日本には戻ってこられたんですか?

 

yuco150cm

生まれは日本で、19歳の時にイギリスに渡って芸大に入りました。

そのままイギリスで就職して10年ほど生活をしていて、2015年に30歳になった時、日本に戻ってきました。

 

───

最初からファッションの仕事をしたくてイギリスに留学されたんですか?

 

yuco150cm

そうです。もともと小さい時から絵は好きで描いていたんですけど、悩める高校生・大学生の時に、「じゃあ何をして食べていけるのか?」ってリアルに考えたりして。

その時に絵じゃなくてファッションを勉強しようと思いました。

ちょうどロンドンにいい学校があると聞いて、そこに入ることに決めました。

 

───

留学時代のことを色々聞きたいなと思いました。

そういう話を聞きたい人がいっぱいいると思うので(笑)

日本と一番違うと感じたことがあれば教えてください。

 

yuco150cm

私の場合10年位イギリスにいて、しかも20代っていう人生で一番色々なことを覚えて色々な人に出会って沢山挑戦をするのに一番パワーがある時に、ロンドンの町で過ごしたので、ものの考え方や感じ方は「イギリス的な考え方になっているのかな」と思うときはあります。

よくある話かもしれないですが、日本にいる時って周りからどう見られるかっていうのをすごく考えなくちゃいけないな、と思っていて。

もともと日本人なので知ってはいるんですけれど、そこにカルチャーショックのようなものを感じました。

 

 

私の場合、ファッションやアートが身近な生活をずっとしていたので、自分の考え方とか自分を表現することだったりで、「人と違えば違うほど、人から認められて仲間にしてもらえる」っていうのがロンドンだったんです。

なので、グループで仲が良かったとしてもメンバー全員が全く違った考え方をしているし、好きなことを言って好きなことをしてそれをお互いに尊敬しているからすごく仲が良くて。

日本に帰ってくると、人と違うことをしたり言ったりしていると、「私とは違う」と思われてしまって、仲間になれなかったりするなと思いました。

違うことを美しい・かっこいいとするのか、または違うことを逆に警戒してしまうのか、それが一番大きな違いだなと思いました。

 

───

確かに、日本では「他人と違うことに対する恐怖」を少し感じますよね。

 

yuco150cm

ロンドンでは違わないと興味を持ってくれないので、「右の人と同じです」と言うと、「じゃあ、あなたがそこにいる意味は何?」みたいな。

そう思われてしまうので、実は右の人と同じことを思っていてもとにかく違う表現で言ったりとか、自分は違って感じているっていうのを言わないと透明人間状態にされるくらいの感じでした。

だからそれがロンドンのいいところでもあるんですけれど厳しいところでもあったな、と思います。

 

───

自分のアイデンティティを主張できないと、逆に仲間外れみたいになる感じなんですね。

 

yuco150cm

そうなっちゃいますね。

 


 

talk.4
好きなことを仕事にする

 

───

yuco150cm さんのように、子育てしながら絵を描いて生活をしているスタイルは、多くの人の憧れでもあると思うのですが、周りにそういった人はいますか?

 

 

yuco150cm

私もそれが出来ているのか、って言われるとそういうわけでもないのですが(笑)

ずっと絵を描いてはいたのですが、正直違う仕事も並行してやっていないとやっていけなかったり。

結婚して出産したときに、「現実を見て他の仕事もしなくちゃなあ」と思った瞬間もありました。

 

でも、お母さんが自分の好きなことだけでご飯を食べているのを見ると、子どもも好きなことで一生頑張っていく勇気をもらえるんじゃないかと思うようになりました。

生まれる前は保険をかけて他の仕事をしようともしていたのですが、逆に子どもに勇気をもらって覚悟を決めました。

私は絵だけでやっていくんだ」っていうのを決めたばかりなんです。

 

 

───

これからもっと本格的にやっていくんですね。

 

yuco150cm

そうですね。

それを見せていくために「頑張っていかなきゃ」っていう気持ちだけでやっています。

 

───

素晴らしい決意だと思います。

 


 

talk.5
ただ「楽しい」を描く

 

───

yuco150cm さんは、作品を見る人にどういうことを感じてほしいですか?

 

yuco150cm

私が絵を描いているときに一番大事にしていることは、見た人に「楽しい絵だ」と思ってもらえることです。

社会問題を扱っていたり、心に何か突き刺さったり、悲しくなったり、そういう作品も素敵だと思うのですが、私は本当に楽しい気分になってもらえれば、それが一番だと思っています。

それこそ、ガウディとかグエルパークとかに行って、辛い気持ちになる人はいないじゃないですか(笑)

 

───

確かに(笑)

 

yuco150cm

すごい楽しいし色々なところで写真を撮りたくなったり、身近に感じたり。

そんな風に、単純な喜びを感じてもらえることを一番大事にしています。

あえて言うとすれば、「描いているときにすごい楽しい気持ちで描いていたんだな」ということを見る人には感じて欲しいです。

 

 

───

yuco150cm さんの作品を見ていると、子どものころの記憶を思い出しているような気分になります。

絵本のような、現実のモチーフを描いていても、現実的ではない別の世界観がありますよね。

 

yuco150cm

そうですね、ちょっとファンタジーな感じで。

 

───

過去の作品を拝見したら、ガイコツのモチーフの絵だったり、ちょっとシリアス系の作品もあったのですが、それはまた違うテーマで描かれたんですか?

 

yuco150cm

そんなに暗いテーマではないんです。

ガイコツって「死の象徴」でもあると思うのですが、作品ではガイコツの周りに花があったり木が育っていて実もなっていたりしていて。

人は死ぬけれど、その人の思いは色々な実になってまだ生きているし、死んでもなお植物が芽吹いていて、その人の気持ちは死んでいないし、本人は愉快であったり。

そんな楽しさを込めて描いています。

 

───

これから描いてみたいものはありますか?

 

yuco150cm

沢山あります。

今回の作品で初めて赤ちゃんの絵を描いたんですけれど、「自分もこういうのを描くようになったんだな…」と思いました(笑)

それが新しい発見で、今後も描いていきたいと思います。

 

 

あとは日々の生活の中で「あ、これ描きたい」と急に思ったりして、それを単純に描いたりしてます。

ペン画って細かいので大きさに限界があるんですけれど、びっくりするくらい大きいサイズの作品も作りたいです。

細かく描くんじゃなく、勇気をもって細いペンで大きく描いてみたりしたいです。

 

 

───

大きい壁とかに描いてもすごく良さそうですね。

 

yuco150cm

描いてみたいですね。

 

───

作品からすごい物語性を感じるのですが、絵本にされたり、文章とかは書かれないですか?

 

yuco150cm

書きたいんですけど難しいんですよね(笑)

実は、絵本コンテストに一回挑戦したことがあるんですけれど、その時に絵本の難しさを知りました。

ストーリーを先に決めるとそれに合わせた絵を描かなくちゃいけないし、だからといって絵から描くとストーリーがよくわからない方向にいっちゃったり。

私向いてないな、と思いました(笑)

 

───

オチまで辿り着かない(笑)

 

yuco150cm

そうなんです(笑)

 

───

逆に、絵を描くときにはどうやって終わりを決めていますか?

 

 

yuco150cm

終わりどころを決めるのは本当に難しいです。

「これ以上画用紙に描けないほど描く」というのが私のスタイルでした。

でも白いところがあるからこそ黒い部分が目立つっていうのもあるんですよね。

だから自分の作品を遠くから俯瞰して見て、「これだったら見る人が素敵だ、お洒落だと思ってくれる」と思ったときに終わりにしています。

 

───

今回の作品は、描いてみてどうでしたか?

 

yuco150cm

すごく楽しかったです。

自分が子どもだった時に夢をもって覗き込んだ世界がどんどん現実になっていく。そんな夢あふれる気持ちを表現しました。

 

───

絵の構図からもそれがすごく伝わってきますね。

「夢は見ないと実現できない」ということを、この絵を見て改めて気付かされた気がします。

 

 

yuco150cm さんの他の作品は、thisisgalleryのアーティストページからもご覧頂けます。

>> yuco150cm アーティストプロフィール|thisisgallery

 

thsisimediaでは、今後も様々なアーティストをご紹介します。

作家さんの想いや制作の裏側を知ることで、作品の魅力をより感じて頂けたら嬉しいです。

皆さんもぜひ、気になる作家さんのHPやSNSをチェックして、実際の作品に触れてみてくださいね。

 

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