ミレーの絵画「オフィーリア」を解説!川に浮かぶ王妃の悲話
英国の美術作品の中でも、最高傑作と言われる、ミレーの「オフィーリア」。
一度目にすると忘れられない、美しい描写が人々を魅了し、現在でも多くのファンがいます。
この作品に描かれている女性は、ウィリアム・シェイクスピアの悲劇『ハムレット』の主人公の恋人、オフィーリアです。
今回は多くの人を虜にするオフィーリアの題材から、隠れた花言葉までを詳しく解説します。
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「オフィーリア」の作者・ミレー
「オフィーリア」の作者はジョン・エヴァレット・ミレーです。
19世紀(1829年6月8日~1896年8月13日)のイギリスの画家で、ラファエル前派の一員として数えられます。
ミレーの幼少期、彼には優れた画才があることに気がついた両親は、ミレーにさらなる美術教育を受けさせるため、1836年ロンドンへ移住します。
ミレーは、わずか11歳にして、ロンドンのロイヤル・アカデミー付属美術学校に、史上最年少で入学しました。
それからアートを精力的に学び、16歳の時にロイヤル・アカデミー賞の年次展に入賞。これを機に、ミレーの類稀なる才能が世に知れ渡ることになります。
その後「ロレンツォとイザベラ」「両親の家のキリスト」などの作品を生み出しましたが、世間からの評価が最も高かったのが「オフィーリア」です。
オフィーリアはミレーを代表する傑作となりました。
ミレーの絵画「オフィーリア」の物語
シェイクスピアの「ハムレット」
では、この絵画の題材となったオーフィリアとは一体誰なのでしょうか?
オフィーリアとは、シェイクスピアの4代悲劇の一つ、『ハムレット』に登場する、ヒロインです。
『ハムレット』は、ある日、急死したハムレットの父の死因が、ハムレットの叔父にあたるクローディアスによる毒殺だと知ったハムレットの復讐を描いた物語です。
そのハムレットの恋人がこの絵画に描かれたオフィーリアなのです。
「ハムレット」のストーリー
主人公ハムレットは、オフィーリアと恋仲の青年。
ある日、国王(ハムレットの父)が急死してしまい、王の弟が代わりに即位します。そして、亡くなった王の妻(ハムレットの母)は新たに王となった弟と結婚します。
しかし、後日ハムレットは王の亡霊から「私は弟に殺された。王位と妻を簒奪された」と伝えられます。
実は、弟が国王を毒殺していたのです。
事実を知ったハムレットは狂気を装い、弟を殺して復讐することを誓います。ハムレットはその後、過激な言葉で物事を批難するようになります。
恋人オフィーリアはそのハムレットの変貌ぶりに驚き戸惑いますが、宰相ポローニアス(オフィーリアの父)はハムレットの狂気をオフィーリアへの恋わずらいによるものだと予測します。
オフィーリアの悲劇の結末
ある日、ハムレットは王妃(ハムレットの母)と会話しているところを、隠れて盗み聞きしていた宰相ポローニアス(オフィーリアの父)を、王と誤って刺殺してしまいます。
復讐に燃える恋人に、冷たい態度を取られ続けられたうえ、自身の父親を殺されてしまったオフィーリアは、自ら川に身を投じ、溺死に及びます。
ミレーの「オフィーリア」は、悲劇的な運命を遂げた彼女の最期を描いた作品なのです。
絵画「オフィーリア」の鑑賞ポイント
ラファエル前派の様式にならった絵画
当時のロイヤル・アカデミーの教育は、ルネサンス期のラファエロを頂点としたものでした。
それ以外の表現を認めない方針に不満を持ったミレイら若い画家が集まって1848年に興した芸術運動が、ラファエル前派です。
彼らはラファエル以前の中世や初期ルネサンス美術を規範とし、伝説や文学を題材として、素朴な信仰心や美に対する純粋な思いを描きました。
敬虔で清楚な優雅さ、自然観察を重視し細部まで丁寧に描き上げられた描写が特徴です。
「オフィーリア」はラファエル前派の最高傑作のひとつ。
鋭い観察から生まれる緻密なシチュエーションと斬新な構図や、背景のみずみずしい自然と繊細な筆づかいなど、ラファエル前派の理想がこの一枚にちりばめられています。
切ない花言葉
夢の中を漂っているようなオフィーリアの姿、虚ろな表情は、緻密な写実描写でありながら、むしろ非現実の幻想的な世界を思わせます。
オフィーリアを囲むように水に浮かぶ草花も印象的ですよね。
これらの意味を理解すると、絵画に込められた切なさを、より深く感じ取ることができます。
描かれている花は12種類です。
ケシ | 死 |
スミレ | 貞節 |
ひな菊 | 無邪気 |
パンジー | 無駄な愛 |
バラ | 愛 |
柳 | 見捨てられた愛 |
いらくさ | 後悔 |
野バラ | 孤独 |
西洋ナツキソウ | 幸福 |
ミソハギ | 愛の悲しみ |
勿忘草 | 私を忘れないで |
きんぽうげ | 可愛い子 |
これらの花言葉からは、正気を失い、色々な感情が入り交じったオーフィリアの気持ちが絵画の情景となっていることがわかります。
「オフィーリア」のモデル
「オフィーリア」のモデルとなったのは、19世紀イギリスの詩人、美術家のエリザベス・エレノア・シダル。
シダルは、多くのラファエル前派の画家のモデルを務めたことで有名な女性です。
しかし、画家のロセッティと結婚後、モデルを務めることを許してもらえない上に、夫に振り回される生活を送っていました。
次第に体調が優れなくなり、麻薬を多用することになります。
その結果、わずか32歳という若さで生涯を終えたのです。その人生はまるでオフィーリアの悲劇のようでもあったのです。
数少ないスケッチ
本来、絵画ができるまでには、念入りにスケッチがされます。
しかし、ミレーの「オリーフィア」に関しては、残されたスケッチがとても少ないのが特徴です。
ミレーは自分のイメージに合う景色を探し、ロンドン郊外にあるホッグズミル川を見つけました。
背景のイメージを掴んだミレーは、人物を描くときはリアリティを出すために、モデルにバスタブに湯を張り浸かってもらうという要求をしました。
そのためミレーはそのお湯が冷めてしまう前に、スケッチを終える必要がありました。
残されたスケッチの数が少ないのは、スケッチを短時間で済ませなければなかったためだったのです。
絵画「オフィーリア」の評価
公開当時はそれほど評価は高くなかった
1852年、ロイヤル・アカデミーで展示された「オフィーリア」。
称賛の声もありましたが、当初の評判は芳しくないものでした。
「雑草に囲まれた川にオフィーリアを水浸しにする神経は理解しがたく、悲哀と美しさを奪っている」というタイムズ紙の批評をはじめ、オフィーリアの放心したような表情に、知性の欠如を指摘するものまでありました。
ラファエル前派の支持者であった批評家ラスキンも、技術は認めながらも背景の描写については疑問を呈しています。
しかしやがて、精緻な草花や風景の正確な描写を賞賛されるようになり、後世の画家に影響を及ぼしていきます。
サルバドール・ダリの賞賛
ミレーの没後40年となる1936年、「オフィーリア」は再び注目を集めこととなります。
シュルレアリスムの画家、サルバドール・ダリが、シュルレアリスムの雑誌でこの作品を高く評価したのです。彼は、
「眩いばかりに美しく、同時に最も理想的で、最も恐ろしい女性像を描きだして見せた」
と、オフィーリアを高く評価しました。
何度もオマージュされる「オフィーリア」
ミレーの「オフィーリア」は、現代でもさまざまな場面でオマージュされています。
ファッション雑誌から芸術写真、映画やCMなど形式は様々。
悲劇のヒロイン・オフィーリアは時代を超えて、作家の創作意欲を掻き立てるモチーフなのです。
こちらは、樹木希林さんがオフィーリアに扮した2016年の宝島社の企業広告。
”死ぬときぐらい好きにさせてよ”は、新聞の広告で目にした人も多いのではないでしょうか。
原画に忠実に再現されていますが、周りの花に日本的エッセンスが加えられています。
胸元の赤い花は椿。「気取らない美しさ」「慎み深い」が花言葉です。
こちらは、ポーランドの女性写真家ドロータ・ゴレッカの作品。幻想的な空気感までもが再現されています。
水に浮かぶ女性、というモチーフはこのように何度もオマージュされているのです。
ミレーの「オフィーリア」と夏目漱石
夏目漱石の初期の名作「草枕」。
実は、この小説が書かれた背景には、ミレーの「オーフィリア」が関わっています。
当時英語教育の研究のため、ロンドン2年間のロンドンでの研修を言い渡された夏目漱石。
異国の地で神経衰弱になってしまった彼の精神を救ったのが、ミレーの「オフィーリア」でした。
漱石は、「この女性は、どうしてこんな表情でこの場所にいるのだろうか」と考え、妄想を繰り広げます。
ミレーの「オフィーリア」には、漱石の病んだ心に響く美しさが溢れていたのです。
「オフィーリア」と出会ったのち、漱石は「草枕」を執筆することになります。
小説「草枕」は、オフィーリアの絵画からのインスピレーションが反映された小説なのです。
ミレーの「オフィーリア」が見れる美術館
ミレーが描いた「オフィーリア」はロンドンにある「テート・ブリテン」で見ることができます。
テート・ブリテンでは、1500年代のテューダー朝美術にはじまり、現代に至るまでの絵画を中心とした、イギリス美術を時代順に展示しています。
特にラファエル前派のコレクションが充実していて、ロンドンを訪れたら是非行きたい美術館の一つです。
ロンドン テート・ブリテン詳細
住所 Millbank, London SW1P 4RG
電話 020-7887-8000
アクセス 地下鉄ピムリコ駅から徒歩9分
営業時間 10:00~18:00 (最終入場時間17:00)
毎月第一金曜日は21:00まで開館
休館日 12月24~26日
入場料 無料(特別展は有料)
まとめ
悲劇のヒロインを描いた絵画「オフィーリア」。
その美しい描写の意味を知ると、絵画の見え方も変わってくるのではないでしょうか?
オフィーリア描いた絵画はたくさんありますが、その中でも、ミレーが描くオフィーリアは、切ない情景が美しく描かれた素晴らしい作品です。
もし機会があれば、ぜひ、本物の作品を味わいたいですね。
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