インタビュー
CREATIVE

NEW CREATOR,NEW INTERVIEW. vol.1高橋漠(ガラス作家)

高橋漠

 

こんにちは。thisismedia編集部の久保です。

 

「NEW CREATOR,NEW INTERVIEW.」は、注目のクリエイターにスポットを当て、その人のクリエイションの根源や物語を新たな角度から聞き出す企画です。

 

記念すべき第1回目は、ガラス作家の高橋漠さん。

 

高橋漠

 

2015年より福岡県の工房でガラス作品を制作し、東京をはじめ様々なギャラリーで展示しています。2016年からはガラス作家の和田朋子さんとガラスウェアブランド「TOUMEI」もおこなっており、今注目のガラス作家です。

 

クリエイションのスタートや大切にしているもの、今後展示をしたい場所や気になっていることなどお伺いしました。

 

ぜひごゆっくりとお読みください。

 


 

talk.1
作家の始まりと制作について

 


 

ーガラスに興味を持ったきっかけを教えてください。

 

昔から絵を描くことや工作が好きでした。高校生で進路を選ぶタイミングで、美大行きたいなと思いました。それで美大予備校に通って専攻を考えたとき、漠然と手を使った作品を作ることができる学科に行きたいと思ったんですね。フィーリングに近いです。

 

ー具体的に何科に進みたいと思ったんですか?

 

彫刻科や工芸科のイメージでした。手を使って立体物を作りたいなと思って、結局多摩美術大学の工芸科に進みました。

大学でガラスをやってみて、あまり知識はなかったんですけど、作業が楽しかったんです。それで、これやってみようという感じでした。

あと素材として不思議な感じがしたんですよ。透明で向こう側が見えていたりすることが、単純に不思議で。マテリアルの面白さが未知なものに感じました。それで興味を持った、という感じですね。

 

ー大学に入ってから今までガラス一筋ですか?

 

そうですね。卒業後はガラス作家である高橋禎彦さんのアシスタントにつきました。そのあと若手作家を育成する、長野県のあづみ野ガラス工房で5年間働きました。そして、2015年に地元の福岡県に戻ってきて作業場を作り、今に至るという感じですね。

 

ーあづみ野ガラス工房で働いていたときから今のスタイルになったのですか?

 

5年目で今のような技法を始めました。その前はコップを作ったり、インスタレーションをやってみたり、色々なことに挑戦していましたね。

 

ー今のスタイルが確立されたのはどういう経緯ですか?

 

色ガラスの粉を透明なガラスにふりかけて定着させていることで今の作品ができます。そのテクニックに出会ったのは、伊豆大島の新島にある新島ガラスアートセンターというガラス工房でした。

その工房ではワークショップをやっていて、外国人の先生など呼んで授業を行なっていました。そこに僕はボランティアスタッフとして行ったんです。

ジョー・ベンベヌートさんというガラス作家さんが授業をしたときに手伝いをして。そのとき、色ガラスの粉をかける技法をやっていて、そこから彼に教えてもらいました。

ガラスの技法というのは、そうやってシェアしていく文化があります。それでジョーさんから学んだ技法を、長野に戻って始めました。それが5年目のときですね。

 

ーガラス作品の制作過程を教えて欲しいです。

 

最初に僕、絵を描くんです。パーツの絵を描くんですよ。それをたくさん描いていきます。

 

高橋漠

 

ーどれくらい描くんですか?

 

一回の展示にスケッチブック二冊くらい描きますね。たくさん描いていると、思いもよらない形が出てきます。脳みその引き出しをどんどん開けるような感覚です。いっぱい描いて面白いと思ったものを選んでいき、それをガラスにするんですよね。

 

高橋漠

 

ーガラスをどうやると、あの形や色になるのですか?

 

ガラスは、溶けているガラスの窯から棒で巻き取ってきて、それを絵の形に造形します。

そのあとジョーさんに教えてもらった色を振りかける技法を行います。色をコーティングしたら、冷ます。

常温になったら加工をするんですけど、削って合体させる部分を平らにするんですよね。どんどん磨いていって、最終的にピカピカな部分になるんです。そしてひとつひとつのパーツを組み合わせていく。

 

高橋漠

 

ーパーツを組み合わせることで作品ができるんですね。

 

はい。僕の作品は、パーツをたくさん作っていって、最終的に合体させて作品にするっていう流れです。作品の特徴は、最初にゴールがないこと。パーツからどんどん作っていって、それを組み合わせていい組み合わせになったら完成です。

 

ー組み合わせはいくつも試すんですか?

 

そうです。展示に並んでいる作品は、最初に頭の中にあったわけではなくて、最終的に出来上がったゴールがこれです、という感じ。

 

ースケッチは頭の中を整理するためのものに近くて、ひとつひとつのパーツを精密に作るというより、どんどんパーツを作っていく感じですか?

 

パーツを作るためのスケッチですね。パーツがたくさんできて、それを100個くらい机に並べて。ずっと、ああでもないこうでもない、って言ってますね。

 

高橋漠

 

ー色の組み合わせがいつも独特だなと思うんですけど、どう組み合わせているんですか?

 

色は新鮮に感じるかを大事にしています。あんまりダメな色っていうものはない気がして。どんな色でも、組み合わせていったら綺麗にみえることがあると思っています。自分の好きな色の組み合わせをしようというよりも、見たことのない色の組み合わせができないかな、と考えています。

 

 


 

talk.2
影響を受けたもの

 


 

ーインスピレーション源はどこからきているんですか?

 

どうしてこういう色の組み合わせが好きなんだろう、と考えたときに、子供の頃から同じような組み合わせが好きでしたね。

 

ー例えばどんな色の組み合わせですか?

 

カラフルなものだったり、原色がぶつかっている感じだったり。子供の頃、ゲームやアニメが好きでした。

 

高橋漠

 

ーゲームやアニメは具体的に何でしたか?

 

ドラゴンボールやドラクエ、ポケモンですかね。ああいう色の組み合わせは、今でもいいなと思ったりします。昔のゲームやアニメの色って、今よりもワントーン渋かったと思うんですよ。子供の頃(大体1990年代)のテレビアニメは、今でも影響を受けているなと自分で思いますね。

 

ー他にはどんなものから影響を受けていますか?

 

他だと、植物が好きですね。人間に手入れされている、植木とか庭の木とか好きで。僕、団地に住んでいるんですけど、そこに生えている木って園芸屋のおじちゃんが切っていると思うんですが、ふと見たときに「この枝の切り方ある!?」とかあるんですよ。アンバランスな感じで。そういうのは、思わずじーっと見ちゃいますね。不思議に思いながら写真を撮ったり。

あとは自然な植物も好きですね。森の中の植物や石なんかも面白いなと思います。植物の不思議なところが、かっこよくなろうと思って生えていないところ。陽を浴びようと思ったら、そんな形になったはずで。その作為がない部分が、かっこいいと思いますね。

 

高橋漠

 

ー漠さんはそういう自然を見ているイメージがありますが、好きな美術作品や影響を受けた作家はいますか?

 

作品に繋がっているかはわからないんですが、美術は好きです。

高校生の頃に好きだったのは、シュルレアリスムの作家ですね。ダリとかシャガールとか。

大学生の頃は、影響受けているのかもしれないんですけど、アントニー・ゴームリーという作家が好きでした。彫刻家です。他にも横尾忠則さんもすごく好きでしたね。

あとはアシスタントしていた高橋禎彦さんは影響受けていると思います。そしてやっぱり、子供の頃に夢中になったテレビゲームや1990年代のアニメのビジュアルは今でも好きですね。

 

 


 

talk.3
今の作品について

 


 

 

ー最近は立体作品だけでなく、ポスターも販売していますよね。ポスターを作るようになったきっかけは何ですか?

 

「何かモチーフはあるんですか」とよく聞かれるんです。でも僕は作品に、具体的なモチーフを持たせないようにしていて。

どういうものを作っているのかという問いに対して「みたことあるようでみたことないもの」だと解釈しているんですね。みたことあるものを作っているわけでもないし、みたことないものを作っているわけでもなくて。みたことあるようでみたことない、そういうものを僕は目指しているんだなと思います。

少し前に、作品をポスターにできるんじゃないか、という話があって。ビジュアルとしてみせることができるかなと思いました。そして、作品を写真として表現するのは面白いんじゃないかと、ポスターを作ってみました。

 

高橋漠

 

ーポスターにしている作品もそうですが、漠さんの作品はどんどん大きくなっている気がします。

 

それは要望があったのもありますが、僕の中でもどんどん組み合わせていくことで、みたことあるようでみたことないものを作りたい感覚の表現ができる実感がありました。すごく楽しいです。面白い作品は組み合わせていくことで作れているなという実感があるので、そんなアプローチで作っていますね。

 

ーこれからはどうなっていく予定ですか?

 

もっと大きい作品も作りたいです。

 

ーこれ以上大きくなると彫刻に近くなりますね。

 

そうですね。手に持てる大きさの、小さい作品の持つその存在感も好きなんですけど、大きな作品はまた違った存在感のあるものとして、挑戦しがいがあるんです。難しくもありますが、もっと挑戦したいです。

エネルギーを使って作品制作に打ち込みたいなと思いつつも、一年前に子供が産まれて。

自分のライフスタイルも含めてムキにならないでいたいです。僕の作品制作は、そもそも楽しくてやっていることだから、そういう気持ちをちゃんと維持できるようにしたいです。心のゆとりみたいなものを大事にして、作品を作りたい。それが目標ですね。

 

ーお子さんが産まれて作品は変わりましたか?

 

変わったような気はします。子供の人生を考えると、自分に問いが返ってくるんですよ。楽しく生きて欲しいな、って思ったら、じゃあ僕は楽しいの?というふうに考えるようになりました。

 

ー価値観を見つめ直した感じですかね。

 

そうですね。それとともに作品にも問い直す感じでした。そういうことしていると、作品制作の道筋を整理できた気がします。頭の中がスッキリしましたね。ごちゃごちゃしていたものが晴れた感じがします。

 


 

talk.4
これからのこと、気になっていること

 


 

ークリエイターの皆さんにひとつだけ同じ質問をしています。漠さんは、どんな能力を奪われたら困りますか?

 

ぱっと出てきたのは、しつこさですね。

 

ーちょっと意外です。

 

僕、納得しないと次に進めないんです。そういう性格だから作品を作れているなと思います。僕の中で、納得することやしつこく追求することがすごく大事だし、それで悩むことも多いです。僕を形成している大きな性格のひとつに、しつこさがありますね。

 

ーしつこさゆえ、あれじゃない、これじゃない、とパーツの組み合わせで悩むと思うんですけど、パーツをボツにすることはあるんですか?

 

スケッチでボツにすることはいっぱいあるんですけど、ガラスになったらあまりありません。あった場合は、しばらく取っておきますね。「なんなのこれ?」と自分で作っていても思うんです。それを一回机の真ん中に置いて、何か作れないかなあと考えたりします。一年後に引っ張り出したり。

 

高橋漠

 

ーこれから展示してみたい場所はありますか?

 

中国でやってみたいですね。ただ中国に行ってみたいだけなんですけど。ちょっと不思議なイメージがあって。

 

ーどういう不思議さがありますか?

 

中国は大きくて、それだけ都市の数もある。日本だったら大阪と東京、アメリカだったら西海岸と東海岸でそれぞれのイメージがあると思うんです。サンフランシスコに行った時は、もともと自分の持っていたイメージと比較して、そんなに驚きがありませんでした。

でも、中国は都市ごとのイメージがつかなくて。地域ごとの特徴なんかも知らない。僕にとって今のところ未知の世界です。それで行ってみたい気持ちと、作品を見せてどういうリアクションがあるのか気になります。

アメリカで展示したときは、反応や感想が日本とほぼ同じでした。だから、中国は違うのかなという期待もあります。

 

ー各地でお客さんからたくさん質問を受けていると思います。今までで、面白かった感想や覚えている質問ありますか?

 

あづみ野ガラス工房にいた頃なんですが、展示に1人のおじいさんがきて、僕と2人きりになったんです。

僕の作品って、その頃から「可愛いですね」と言われることが多かったんです。でも、可愛いものを作ろうと思って作っていないので、僕としてはしっくりこない部分が少しありました。

でも、そのおじいさんが「楽しいですな」と一言言ったんです。そのときに「僕は楽しいものを作りたいんだ!」と思って、「そうなんですよ!」となりました。その出来事が、今でも僕の中に残っています。楽しいものを作りたいとかワクワクしたいとか、そういう気持ちを言葉にして伝えてくれたのがそのおじいさんでしたね。

 

ー確かに漠さんの作品は楽しい気持ちになります。話は変わりますが、今気になってることや、興味があること、勉強したいことはありますか?

 

心理学ですね。メンタルカウンセリングのことを勉強したいです。

 

ーなぜですか?

 

僕、一年ぐらいメンタルカウンセリングを受けているんです。悩む癖があるんですけど、先生と会話をすることで、気が晴れたりするんです。そういう経験から心の仕組みとか、カウンセリングというものの構造とかに興味を持つようになりました。

それって、美術にもつながる気がしています。心をどう動かすかみたいなこと。

 

ーそうですね、心の動かし方は美術にも通ずるところがありそうです。他に興味があることはありますか?

 

他には、鍼灸の勉強もしたいですね。通っているところの先生に聞くと、インスピレーションを大事にされているらしくて、科学的な理屈じゃない部分もあるみたいで。実際に受けていて体の調子が良くなると不思議に思います。ガラスで食べていけなくなったら鍼灸の勉強をしてみたいくらいです。

 

ーカウンセリングと鍼灸、漠さんのガラス作品から想像できない答えでした。ありがとうございました!次回も新たなクリエイターの方にインタビューします。お楽しみに!

 

今回のクリエイター  
高橋漠 Takahashi Baku

高橋漠

Profile
1986年福岡県生まれ。多摩美術大学でガラス工芸を学び、卒業後は修行を経て2015年に地元である福岡へ帰郷。様々あるガラス技法の中でも、主に宙吹きという技法を用いて制作している。宙吹きならではの”溶けたガラス”を使った作品からは、不思議で豊かなガラスの表情を垣間見ることができる。2016年より、ガラス作家の和田朋子と共にガラスウェアブランド、「TOUMEI」を開始。

HP:https://www.bakutakahashi.com
Instagram:@baku_glass

 

 

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