佐藤可士和とは?ロゴ、ブランド戦略を得意とするクリエイティブディレクターの経歴と代表作品を紹介
セブン・イレブンや楽天など、有名企業のブランディングを多数手がけるクリエイティブディレクター、佐藤可士和(かしわ)。
佐藤の手がけたデザインを目にしない日は無いほど、日常のいたる所に彼のプロデュースしたロゴやプロダクトが溢れており、彼が一体どんな仕事をしているのか、その全貌を把握するのは困難です。
今回は佐藤可士和の経歴と代表作品、その特徴を徹底解説します。
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佐藤可士和とは?
有名クリエイティブディレクター、アートディレクター
佐藤可士和(1965年2月11日生まれ、東京都練馬区出身)は、広告の企画立案から最終の表現まで全体を監督する「クリエイティブディレクター」かつ、商品のデザインなどのビジュアル面に特化した「アートディレクター」です。
ブランド戦略のトータルプロデューサーとして、コンセプトの構築からコミュニケーション計画の設計、デザインまで手がけています。
有名企業のブランド戦略など、プロデュースをメインに活動
日本では、2000年代頃から広告制作の枠を越え、企業や商品のブランディングに携わるクリエイティブディレクターが徐々に出現してきました。
佐藤可士和はその筆頭に挙げられる人物です。
「ユニクロ」や「セブン-イレブン」など、名だたる企業のブランド戦略からロゴデザイン、パッケージデザインまで、幅広く活動しています。
大学客員教授や文化庁文化交流使なども務める
佐藤可士和は、2008年から多摩美術大学で客員教授を務めているほか、2012〜2020年には慶應義塾大学特別招聘教授、2021年からは京都大学経営管理大学院特命教授を務め、教育にも注力しています。
2017年からは文化庁・文化交流使としても活動し、日本の優れた文化、技術、コンテンツ、商品などを海外に広く発信しています。
佐藤可士和の経歴
多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン科を卒業、博報堂に就職
佐藤可士和は16歳でアートの道に進むことを決断し、私立成城高校を卒業後、東京藝術大学を目指し2浪しています。
1985年、20歳で多摩美術大学 美術学部グラフィックデザイン科に進学。
グラフィックデザイナー・大貫卓也の手がけた、としまえんの「プール冷えてます」の広告に衝撃を受け、博報堂への就職を決意。1989年に24歳で博報堂に入社しました。
独立し「SAMURAI」を設立
2000年に35 歳で独立し、東京・南尾青山に「SAMURAI」を設立します。
独立後、最初に手がけたプロジェクトはSMAPの広告キャンペーンで、CDジャケットからコンサートグッズ、広告までをトータルプロデュースしました。
赤・青・黄の三原色をアイコニックに使用し、SMAPというブランドを印象づける試みでADC賞グランプリをはじめ、数多くの広告賞を受賞しました。
広告やブランド戦略を中心に幅広く活動
CDジャケットやロゴのデザインを手がけるほかにも、2005年、東京の「ふじようちえん」では、園舎の立替を含む幼稚園のコンセプト全体を手がけました。
さらに「ユニクロ」のグローバルブランド戦略のプロデュースや、カップヌードルミュージアム(横浜)のトータルプロデュースなど幅広く活動しています。
後進の指導にも注力
活動を幅広く広げながら、近年は後進の育成にも注力している佐藤可士和。
2007年度には明治学院大学の客員教授になり「創造的な思考を身につける」ための授業を担当。
2008年からは、出身大学である多摩美術大学で客員教授としてグラフィックデザインの講義を行うほか、2012年からは慶應義塾大学の特別招聘教授として「未踏領域のデザイン戦略」を始動しました。
2022年からは京都大学経営管理大学院で特命教授として、クリエイティブ人材の育成を行っています。
佐藤可士和の作品の特徴
無駄を削ぎ落としたシンプルなデザイン
佐藤可士和の手がける作品は、一度見たら忘れられないシンプルな造形と色彩が特徴です。
佐藤はプロデューススタイルを「アイコニック・ブランディング」と呼んでいます。
「シンプルで明快、一度見たら忘れられないようなロゴを手がかりに人々はブランドを認識していく」という前提のもと、「アイコンを一目見ただけでそれが何を表現しているのか分かる」ことを大切にデザインされています。
原色を使った鮮やかな配色
原色に近いシンプルな配色も、彼の作品の大きな特徴です。
情報過多な現代社会において、人々の目を瞬時に引きつけるために、人間の視覚の特性を意識的に利用しています。
色の力を戦略的にデザインに活かし、全体がパワフルなひとつのイメージを形成する。
これが、一度見たら忘れられないデザインを作る秘訣のようです。
佐藤可士和が手がけたロゴ・ブランディング
楽天(2003)
佐藤可士和は、2003年から楽天のチーフディレクターを務めています。
多数のサービスを展開する楽天。佐藤可士和は「デザインによる事業の整理」を行い、制作したブランドロゴをサービスごとに異なる色で表記しました。
現在のロゴは、創業20周年を迎えた2018年に、さらなる世界展開を見据えてリニューアルしたもの。
「R」と物事の始まりやNo.1を意味する漢字の「一」を組み合わせています。
TSUTAYA「Tカード」(2003)
2003年、当時のTSUTAYAの社長から「20年先のTSUTAYAを一緒に考えて欲しい」とのオファーを受け、その核として「T」をかたどったロゴマークをデザインしました。
「見れば誰もが一発でそれとわかる、地図に載るようなマークをカッコよ作りたかった」と佐藤自身が述べており、佐藤の「アイコニック・ブランディング」の原型とも言えるデザインです。
明治学院大学(2004)
佐藤にとって初の大学のブランディング案件です。
始動した2004年当時は、まだUI(ユニバーシティアイデンティティ)という言葉も一般的ではありませんでした。
「押しが強くないけれどハッキリした色」であるイエローと、「正当派の品格に加え、モダンさも宿している」明朝体を組み合わせ、控えめだが芯が強い校風を表現しています。
ヴィッセル神戸(2004)
佐藤可士和は、2004年にヴィッセル神戸のロゴリニューアルを手がけています。
「VISSEL」の「V」、「VICTORY」の「V」をモチーフに、攻撃的でシャープ、ファッショナブルなデザインにしました。
2005年には、スタジアムを離れても街中でカッコよく着こなせるカジュアルファッションブランド「FOOTBALL FASHION BRAND」も提案しました。
FOMA N702iD(2006)
2006年、初のプロダクトデザインとしてNTT docomo「FOMA N702iD」(上)を手がけ、販売台数100万台を超えるヒット商品になりました。
シンプルを極めた潔いフォルムのデザインの魅力とともに、最先端技術とデザインを融合し、横向きの本体に、iモードから配信されるトピックが文字情報として流れるように設計しています。
ユニクロ(2006)
2006年、ユニクロの「ソーホー ニューヨーク店」オープンを機に、佐藤可士和がグローバルブランド戦略のクリエイティブディレクターに抜擢されました。
創業時のコーポレートカラーだった赤色を採用し、ロゴとオリジナルフォントを開発。
日本発のブランドであることを伝えるカタカナの「ユニクロ」と、欧文の「UNIQLO」をセットで用いることで、グローバルに浸透させました。
今治タオル(2007)
imabariの頭文字「i」をかたどり、今治のタオル生産を支える自然環境を赤・青・白の3色で表したロゴデザインです。
タオルの品質と安全性をアピールする工夫として、ロゴを品質保証のマークのように一定の基準を満たしたタオルに用いることを提案。
ブランドのポジションを揺るぎないものへと進化させました。
東京都交響楽団(2009)
2015年の楽団創立50周年に向け、VI(ビジュアル・アイデンティティ)を依頼されたところからスタートしたプロジェクトです。赤と青の5本のラインが交差するロゴは、五線譜の五線がモチーフ。
交差する2色の様子は、情熱と冷静など、相反するモノが混ざって出来上がる強さがコンセプトになっています。
キリンビール「極生」(2002)、キリンラガービール(2010-2020)
2002年に発売されたキリン「極生」のデザインでは「発泡酒はビールの代わりに飲む安いお酒」というイメージを払拭し、キリンビールのブランド力を向上させました。
2010年の「キリンラガービール」のリニューアル時には、これまでのエンブレムの要素を分解し、何がラガーらしさを構成しているのかを検証。
エンブレムの縁取りを銀から金に変えるなど、王道の風格を際立たせました。
2020年には、ネーミングを「ラガービール」から「キリンラガー」に変更するとともに、瓶と缶のデザインを統一し、キリンブランドの強化をはかっています。
セブンイレブン(2011)
2011年にプライベートブランドの「セブンプレミアム」の約1,000アイテム以上にも上るパッケージデザインを刷新。
ロゴの配置や写真の撮り方、商品名の書体やワンポイントアイコンの使い方、文字数に至るまでを全てルール化し、商品の統一感を創出しました。
カップヌードルミュージアム(2011)
2011年9月に横浜にオープンした「カップヌードルミュージアム」。
数々の発明を生んだ日清食品創業者・安藤百福の発想力やベンチャーマインドを「クリエイティブシンキング=創造的思考」と言い表しました。
このコンセプトを体現すべく、ロゴから建築デザイン、展示内容、ミュージアムグッズまでプロデュースしました。
ヤンマー「FLYING-Y」(2012)
2012年の創業100周年を機にブランディングの依頼を受け、新しいブランドロゴ「FLYING-Y」を作成しました。
またフェラーリのデザインを手がけていたカーデザイナー・奥山清行とコラボし、「カッコいい農業」をイメージしたSF感あるデザインのトラクターなども発表。ヤンマーの新しいブランドアイデンティティを大々的にアピールしました。
三井物産(2013)
2013年に佐藤をトータルプロデューサーに迎え「三井物産ブランド・プロジェクト」が始動。
佐藤は、三井物産の「井桁三」(井桁紋の中に「三」の時を配したマーク)の歴史あるロゴを、線の太さや長さ、角度のバランスを綿密に調整したうえで英語の社名と組み合わせ、グローバルに使用できるようアップデートしました。
ふじようちえん(2017)
佐藤が教育現場にデザインの力を活用した最初の仕事です。
園舎の建て替えにあたり、園長らへの徹底的な聞き取り調査をもとに「園舎自体を巨大な遊具にする」というコンセプトで、リニューアルの方向性を定めました。
このコンセプトから、建築家の手塚貴晴、手塚由比はユニークな楕円型の建築プランを提案。
新しい教育施設のあり方を提示し、リニューアル後大きな反響を呼びました。
佐藤可士和が手がけたCDジャケット
SMAP(2000)
2000年、デビュー10周年の記念としてリリースされたアルバム「S map 〜SMAP 014」では、赤・青・黄の三原色を、SMAPを象徴するアイコンとして認識されるようデザインしたCDジャケットと広告を展開しました。
その後も「Smap Vest(2001)」や「pamS(2001)」(ウラスマ)、「SMAP 015 / Drink! Smap!(2002)」などのプロデュースを手がけています。
Mr.children(2004)
2004年、Mr. Childrenの「シフクノオト」のCDジャケットやプロモーションを手がけています。
音楽を奏でる喜びや、ありのままの音を聞いて欲しいという、アルバムに込められた純粋な思いを視覚化するために、自らがアクリル絵の具やパステルで描いたドローイングを、CDジャケットにプリントしました。
T.M.Revolution(2006)
2006年に発売された、T.M.Revolutionのベスト盤「1000000000000」のデザインを手がけています。
「T.M.Revolutionの10年間の活動は変化しているが、グラデーションのようにつながり、その全てが輝きを放っている」というコンセプトを、光沢を帯びた色彩のグラデーションを規則的なグリッドで区切ることで表現しました。
L’Arc〜en〜Ciel(2003)
2003年に3枚同時リリースされたL’Arc〜en〜Cielのベスト盤アルバム「1994-1998」、「1998-2000」、「c/w」のジャケットのアートワークを3作とも手掛けました。
3作品でそれぞれ異なる色合いの細かいストライプを、縦・横・斜めの配置し、3枚セットで統一感のあるジャケットとなっています。
その他
この他にも、Hi-STANDARDのアルバム「ANGRY FIST(1997)」(上)のデザインを手がけたほか、Bank Bandの「沿志奏逢(2004)」では、ウォーホル+ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのバナナのイラストのパロディを思わせるきゅうりの絵のジャケットを制作しました。
My Little Loverの「FANTASY(2004)」では、エモーショナルなパワーを、スプレーで描いた赤いハートで表現したジャケットを制作しています。
その他の有名な作品
団地の未来プロジェクト(2015)
「団地の未来プロジェクト」は、神奈川県の洋光台団地を、少子高齢化社会に適合するコミュニティとして再活性化させることを目指すプロジェクトです。
佐藤はこのプロジェクトが長期的なものになると予想し、プロジェクト自体のブランディングを着想。
「団地の未来プロジェクト」というネーミングを考案し、ロゴのデザインを手がけました。
有田焼「DISSIMILAR」シリーズ(2016)
佐賀県の有田焼創業400年事業の一環として実施された「ARITA 400project」にゲストクリエイターの一人として参加。
有田焼400年の歴史を調査した上で、「変化に対応する力」に有田焼の本質を見いだし、「対比 DISSIMILAR」をコンセプトに、1つの作品の中に「静」と「動」の対比を表現した磁器を発表しました。
八代目中村芝翫襲名披露公演(2016)
2016年、三代目中村橋之助が八代目中村芝を襲名する家族4人の同時襲名披露公演にて、祝幕から手ぬぐいまでのアートワークを手がけています。
4種類の祝幕のデザインのほか、4人それぞれのオリジナルロゴを考案。
伝統的な歌舞伎に現代的な新しさを加えた演出は、SNSでも話題となりました。
佐藤可士和の受賞歴
亀倉雄策賞(2002)
世界のデザイン界にも影響を与え続けた故・亀倉雄策の業績を讃え、「グラフィックデザイン」のさらなる発展をめざして設立された亀倉雄策賞。
佐藤は、Smapデビュー10周年のCD「Smap」で、本人たちのビジュアルを一切露出せず、その人気、実力、存在感をロゴデザインに集約したデザインが評価され、2002年に受賞しています。
朝日広告賞(2004)
朝日広告賞は1952年に設立され、各時代のすぐれた「新聞広告」を顕彰する賞です。
紙面に掲載された広告を対象とする「広告主参加」と、若きクリエーターが腕を競う「一般公募」の2部門で展開されており、佐藤は2004年に「Smap」の広告で受賞しています。
毎日デザイン賞(2006)
グラフィックやインテリア、クラフト、ファッション、建築など、あらゆるデザイン活動で年間を通じて優れた作品を制作・発表し、デザイン界に大きく寄与した「個人」「グループ」「団体」を顕彰する賞です。
特定の作品ではなく、活動の内容が評価され、佐藤は2006年に「グラフィックデザインを中心とする領域を超えた活動」で受賞しています。
日本パッケージ大賞 金賞(2011)島森路子賞(2003)
日本パッケージ大賞は、2年に1度、パッケージというデザイン領域のプロフェッショナル達が集い、作品のデザイン性や創造性を競うコンペティションです。
佐藤は、2003年に発泡酒の新しい価値を世の中に提示した「キリン極生」のデザインで島森路子賞を受賞したほか、2011年には「伊丹米」食品パッケージのデザインで金賞を受賞しています。
東京ADC賞(2021)
東京ADC賞は、東京ADC(東京アートディレクターズクラブ)全会員が審査員となり、ポスター、新聞、雑誌、テレビ、ウェブなど多種のジャンルの中から、ADC会員賞1点、ADC賞10点がそれぞれ選出され、さらに、ADC会員賞とADC賞を同時に審査してADCグランプリ1点が決定されます。
2020-2021年度に佐藤は、「『佐藤可士和展 国立新美術館』の環境空間」でADCグランプリを受賞しています。
日経広告賞
日経広告賞は、1952年にスタートした日本の代表的な広告賞で、これまで多くの優れた広告作品を表彰してきました。
日経広告賞、日経産業新聞広告賞、日経MJ広告賞、日経ヴェリタス広告賞、日経サイエンス広告賞、日経電子版広告賞など、媒体ごとに賞を設けており、佐藤は日経トレンディ広告賞などを受賞しています。
「佐藤可士和」のおすすめ関連書籍
プロフェッショナル仕事の流儀 佐藤可士和 アートディレクター ヒットデザインはこうして生まれる
NHKの人気番組 「プロフェッショナル 仕事の流儀」をもとにした書籍で、時代の最前線にいる「プロフェッショナル」がどのように発想し、斬新な仕事を切り開いているのかを紐解いています。
商品の本質をとことん突き詰め、デザインという「処方箋」を与えることによって、あふれかえるモノのなかで際立つ商品にする手法が見えます。
新1冊まるごと佐藤可士和。[2000-2020]
博報堂から独立し、SAMURAIを設立してからの20年の活動を1冊に凝縮した書籍です。
プロジェクトの個別の事例を紹介するほか、「デザイン」の活動領域が単にグラフィックや空間のデザインから、ブランディングまで広がっていく様子をみることができます。村上隆との対談や「佐藤可士和クリエイティブ語録」も収載。
まとめ
有名企業のロゴや広告だけでなく、企業全体のブランディングまで幅広く手がける、日本を代表するクリエイティブディレクター、佐藤可士和。
徹底的な聞き取りを行い、対象の本質を掴んだ上で、コンセプトをシンプルな形と色、明快な言葉で表現する彼の制作スタイルは、多くのクリエイターに影響を与えました。
この記事を通して、佐藤可士和がそれぞれの作品に込めた想いと、彼の徹底した美意識を感じていただければ幸いです。
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