成田亨とは?ウルトラマン・怪獣デザインの裏側と生涯について詳しく解説
成田亨作品集より《真実と正義と美の化身》
ウルトラマンの生みの親である芸術家、成田亨。
彼が生み出したヒーローや怪獣は、その一目見たら忘れられないデザイン性の高さから、時代を超えて多くの人に愛されています。
劇場公開された『シン・ウルトラマン』では、彼の目指したウルトラマンの姿である『真実と正義と美の化身』をリスペクトしたデザインが採用され、話題になりました。
そんな、注目を集める芸術家・成田亨のデザインにかける想いと彼の人生に迫っていきます。
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成田亨とは?
成田亨は『ウルトラマン』をはじめとする特撮の美術デザインを手がけた、彫刻家兼特撮美術監督です。
1965年に円谷特技プロダクション(現:円谷プロダクション)に入社し、美術監督として『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』『マイティジャック』などのデザインを担当しました。
美術家としての高い感性によって生み出された、シンプルかつインパクトのあるデザインは、後のサブカルチャーやアーティストに影響を与え続けています。
成田亨の意匠と信念
特撮という、いわば子供向け番組の美術監督だった成田亨ですが、そのデザインには一切の妥協がない芸術家としての信念が込められています。
その意匠と想いを『ウルトラマン』『怪獣』『メカニック』の3つに分けて、ご紹介します。
ウルトラマン
誰もが知る国民的ヒーロー、ウルトラマン。
一切の無駄を排した美しいシルエットと、銀と赤のみで構成されたシンプルなカラーリングは、ヒーローを呼ぶにはあまりにも神秘的です。
そんなウルトラマンですが、初期段階では今の姿とは似ても似つかない姿だったのはご存知でしょうか?そこで今のウルトラマンに至るまでの過程を、初期・中期・決定稿の3つの段階に分けてご紹介します。
ウルトラマン初期デザイン案
初期のデザインとして、頭部は甲冑や兜を思わせる形状に、体は衣服か素肌か判別がつかないようなデザインになっているのが特徴的です。
成田氏自身、特徴的な模様は火星を、体は宇宙服をイメージしたと語っており、さらに宇宙人という設定なので服なのか肌なのかわからないようにしたそうです。しかしこの段階では、体の模様こそ今のウルトラマンに通ずるものがありますが、体の棘や頭部の顔つきも相まって悪役に近いデザインとなっています。
ウルトラマン中期デザイン案
中期では、初期に見られた体の棘が取り除かれ、ラインもよりシンプルなっています。そして頭部も甲冑や兜のような形状から、今のウルトラマンに近いヒロイックなデザインに変更されています。
成田氏は、初期デザインからこのデザインに至った経緯について、
突破口はギリシャの哲学者プラトンが唱えた『混沌(カオス)と秩序(コスモス)』という概念です。
様々なパーツを合成する怪獣がカオスなら、ヒーローは単純で美しいコスモスでなければならない。
そのコスモスとして生まれたのが、この姿です。
「美の巨人たち」成田亨『MANの立像』
と語っており、この「秩序(コスモス)」こそがウルトラマンのデザインにおいて重要なキーワードとなっています。
アルカイックスマイルとウルトラマン誕生
これまで、成田氏が思い描く宇宙人の要素や「秩序(コスモス)」という哲学的テーマなど、様々なアイディアやアプローチがウルトラマンを形作ってきましたが、最後に加えられた重要な要素が「アルカイックスマイル」です。
アルカイックスマイルとは、弥勒菩薩やギリシャ彫刻にみられる、口元に微笑を浮かべた表情のことを指します。見る人によって表情の意味が異なって見える不思議な微笑みです。
成田氏はインタビューでこう語っています。
── 本当に強い人間はね、戦うときかすかに笑うと思うんですよ。
「美の巨人たち」成田亨『MANの立像』
こうして一切の無駄を排し、美と単純化の極致へ至ったウルトラマン。
しかし、成田氏の望んだ形で世に出ることはありませんでした。
目に開けられた覗き穴、背中のファスナーを隠すためにつけられた背ビレ、そして放送時間とストーリー性のためにつけられたカラータイマー。
これら全てはテレビ番組という性質上、仕方のない要素ですが、成田氏の美学からは大きく反するものであり、その悔いは晩年まで続くこととなります。
怪獣
成田亨は「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の後期までの3作に渡ってウルトラ怪獣のデザインを手がけており、ウルトラマンでは「秩序(コスモス)」をコンセプトにしていたのに対し、怪獣は「混沌(カオス)」をコンセプトに制作しました。
成田亨のデザインする怪獣は斬新で革命的。プロポーションや発想の意外性や芸術性の高さは、ただ既存の動物や昆虫を巨大化するだけだったそれまでの特撮怪獣とは一線を画しました。そんな革命的な怪獣デザインの背景には、成田氏が定めた3つの規範がありました。
1.怪獣は怪獣であって妖怪(お化け)ではない。だから首が2つとか、手足が何本にもなるお化けは作らない。
2.地球上のある動物が、ただ巨大化したという発想はやめる。
3.身体がこわれたようなデザインとしない、脳がはみ出したり、内臓むき出しだったり、ダラダラ血を流すことはしない。
「成田亨作品集」
さらに、この3箇条に彫刻家としての芸術性や造形の知識が加わったことにより、特撮怪獣の可能性が大きく広がることとなります。
成田亨がデザインした代表的な怪獣
ゴモラ
頭部の曲線型の角が特徴的なゴモラ。
戦国武将の黒田長政の兜を見たときの感動をそのままデザインに落とし込んでおり、この曲線型の角は後の成田氏のデザインでもよく見られるお気に入りになっています。
レッドキング
レッドキングはプロポーションの意外性を追求して誕生した怪獣です。
怪獣の大きさを出すため、顔は小さく、体には階段状の起伏をつけることによって、カメラが下から見た際に怪獣全体に遠近法がつくように作られています。
ペスター
海獣ペスターは見てわかるように、ヒトデがモチーフとなっている怪獣です。怪獣デザインの3箇条にて「動物を巨大化しない」という信条を掲げた成田氏ですが、生物から発想することも多くありました。しかし、その際は決してそのまま出さすにイメージの中で発酵させて、別の形にしました。
その結果、直立させたヒトデを2つくっつけ、コウモリの顔をあしらった奇抜なデザインが誕生しました。
メカニック
成田亨というと、どうしてもウルトラマンや怪獣の印象が強いですが、実はメカニックに関しても今に通ずる革命的なギミックがデザインに施されています。
あなたはスーパー戦隊シリーズやロボット映画などで、複数の機体が合体して巨大ロボットや巨大な機体になるシーンを見たことあるでしょうか。成田亨はその合体システム、そして合体ロボの生みの親と言われています。
成田亨が最初に合体システムを世に放った作品は「ウルトラセブン」。この作品では成田亨がウルトラセブンや怪獣から、ウルトラ警備隊のユニフォームやメカニックに至るまで全てのデザインを監修しています。そこで登場する戦闘機「ウルトラホーク1号」と怪獣「キングジョー」に日本で初めて合体システムが採用されました。
ウルトラホーク1号
ウルトラホーク1号はα、β、γの3機に分離・合体できるシステムの斬新さもさることながら、巨大な翼とT字型尾翼によるシルエットの美しさからファン人気が非常に高い機体です。
キングジョー
キングジョーは脚部・腰・胴体・頭部の4つが変形・合体する人気怪獣の1体です。ウルトラホーク1号が日本初の合体メカであるならば、キングジョーは日本初の合体ロボといえます。成田氏がいなければ今のロボット映画やアニメは変形だけに留まっていたのかもしれません。
成田亨の生涯
幼少期
1929年、神戸市で生まれた成田亨は、父方の故郷である青森市で育ちます。
生後8ヶ月の時に囲炉裏の炭を掴み、生涯癒えることのない火傷を左手に負ってしまいます。8歳の時に兵庫県の尼崎市に移りますが、言葉遣いと左手の火傷を理由にいじめにあいます。そんな成田氏の心の拠り所は、右手だけで描ける絵であり、いつしか画家になることを夢見ます。
彫刻家への転身
思春期を経て、さらに画家になりたいという想いが募った成田氏は、1950年に武蔵野美術学校西洋画科に入学します。
しかし、そこで教えられる平面的なデッサンには満足できず、「地面から立ち上がるような、構造的な」デッサンを求めて彫刻科へ転科します。当初は彫刻家になる気はなかったものの、多くの彫刻家たちの作品に新たな芸術性を見出していく中で、自身も制作にのめり込んでいきます。そして1962年、「八咫」で第26回新制作展の新作家賞を受賞。新進気鋭の彫刻家として注目を集めました。
その一方で、彫刻制作を続けるためにと、1954年の怪獣映画「ゴジラ」の制作にアルバイトとして参加した成田氏は、その非凡なセンスを高く評価されます。彫刻家としてのキャリアを築きかけていた成田氏は、これをきっかけに映画美術の世界へ足を踏み入れることになります。
特撮の世界へ
彫刻家として新作制作を続ける傍で、徐々にテレビや映画制作の仕事の比重が大きくなっていきます。
そんなある日、「ゴジラ」の特技監督を務めていた円谷英二に誘われた成田氏は、1965年に円谷特技プロダクション(現:円谷プロダクション)の契約社員となり、その後「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「マイティジャック」などの作品の美術監督を務めることとなります。そこで、自身のデザインセンスを遺憾なく発揮した成田氏は、円谷英二と共に今に続く「ウルトラ」の礎を築き上げていきました。
円谷プロとの決裂
円谷プロの美術監督として、ヒーロ、怪獣、メカニック、建造物に至るまで数多くのデザインを手がけた成田氏。
しかし、その功績とは裏腹に抱えていた苦悩も大きいものでした。
自身のデザインしたウルトラマンには本来なかった覗き穴やカラータイマーをつけられ、スポンサーとの兼ね合いでデザインの変更を余儀なくされるなど、デザイナーとしてのプライドが傷つけられることが多々ありました。成田氏自身、社員であることからデザインの著作権は会社にありました。
そのため成田氏の給与は安く、決して裕福でなかったといいます。このことから円谷プロにデザインの著作権料の支払いを交渉するも決裂。その他にも不満が募り、成田氏は1968年に円谷プロを退社します。
不遇の後年
円谷プロを退社した成田氏は、その後「突撃!!ヒューマン!」「円盤戦争バンキッド」などの特撮テレビ番組の美術を手がけるが、どれも低視聴率のまま放送を終了している。その後も何度か特撮番組やアニメの依頼が来るたびにキャラクターのデザインを行うが、企画の段階で頓挫し、放送には至っていません。
そして成田氏は、原告として円谷プロを相手取り著作権に関する民事訴訟をおこしましたが、裁判は判決を待たずに「原告側の訴訟取り下げ」により終了しています。その際、円谷プロ側から「訴訟を取り下げれば、次回作に参加させる」という話がありましたが、成田氏が後の円谷作品に携わることはありませんでした。
晩年
このように不遇な後年を過ごした成田氏ですが、晩年は作品制作やデザイン画に注力しました。その作品点数は200点以上に及び、怪獣以外にも鬼を模したものから原爆を描いた絵画まで幅広く制作しました。
そして2002年2月26日、多発性脳梗塞により、72歳でこの世を去ります。
死後、成田氏が所有していた番組製作当時のデザイン画稿やウルトラにまつわる絵画の内、187点が青森県立美術館に譲渡されました。
シン・ウルトラマン
そして2022年、樋口慎二監督、庵野秀明総監修のもと公開された「シン・ウルトラマン」。
子供から当時ウルトラマンを見ていた大人世代まで幅広い層から好評を得て、大きな話題となった作品ですが、この作品で50年以上の時を経て成田亨がデザインしたウルトラマンの本来の姿がスクリーンで蘇ることとなります。
庵野秀明によって汲み取られた成田亨の意思
本作の総監修を務めた庵野秀明は、幼少期にリアルタイムでウルトラマンを視聴し、大学時代には自身をウルトラマンとした自主制作映画を制作するほど筋金入りのウルトラシリーズのファンです。そして芸術家・成田亨を心から敬愛していました。
そんな庵野氏が、本作のウルトラマンのデザインにあたって行ったのは原点回帰でした。
我々が『ウルトラマン』というエポックな作品を今一度現代で描く際に、ウルトラマン自身の姿をどう描くのか。その問題の答えは、自ずと決まっていました。
それは、成田亨氏の目指した本来の姿を描く。
現在のCGでしか描けない、成田氏が望んでいたテイストの再現を目指す事です。
「シンウルトラマン公式サイト」 庵野秀明コメントより一部抜粋
そして庵野氏によって、成田氏の望んだ本来の姿のウルトラマンが誕生します。
令和に甦る『真実と正義と美の化身』
当時は中に人が入るという仕様上叶わなかった成田氏の願いが、現代のCGの技術によって実現します。
成田氏が望んだ、古谷敏氏をベースとした体躯。成田氏が望まなかった、目に開けられた覗き穴、スーツ着脱用ファスナーを隠す背鰭、そしてカラータイマーをつけないことを理念に、美しさを追求して誕生したウルトラマン。その姿は、まさに成田氏が後年に描いた『真実と正義と美の化身』そのものです。
こうして約56年の時を経て、成田氏の願いはスクリーンに蘇りました。
成田亨の関連書籍
成田亨作品集
ウルトラシリーズから後年の絵画・彫刻、未発表作品や幻の企画案まで、全515点を収録した成田亨作品集の決定版です。成田氏の圧倒的なセンスに打ちひしがれること間違いなしの一冊となっています。
特撮と怪獣 わが造形美術
芸術家・成田亨が、怪獣デザインの発想、自身の彫刻作品、映画特撮美術などその類稀なるアートセンスのすべてを語り尽くした名著です。成田氏を知る上では欠かせない一冊です。
成田亨の特撮美術
特撮美術のバイブル。成田氏の特撮美術監督としての技術面に関して多く記述されており、54作品と貴重写真235点を通して伝える成田亨のミニチュアワークの真髄が詰まっています。
まとめ
今回はウルトラマンの生みの親である、成田亨の人生とそのデザインについてご紹介しました。
芸術と特撮美術の間で苦悩し、その後年は決して煌びやかなものではありませんでしたが、成田氏の残した意匠と想いは今でも多くのカルチャーやアーティストに多大な影響を与え続けています。
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