ロシア文学とは?ロシア文学の歴史と名作・おすすめ作品14選
皆さんは「ロシア文学」と聞いて、どんな本のタイトルを思い浮かべますか?
ドストエフスキー、チェーホフなど有名な作家の名前は知っていても、各作家の具体的な著作やロシア文学そのものについて、漠然としたイメージを抱いている人も多いのではないでしょうか。
ロシア文学は特に、 長い・暗い・難しい といった印象から、懸念されがちなジャンルでもありますが、中にはテイストの違った面白い作品や、短くさらっと読める作品もあります。
今回はロシア文学初心者の方に向けて、その歴史と特徴、おすすめの作品をご紹介します。
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ロシア文学とは?
ロシア文学とは、ロシア語で書かれた作品や作者がロシアに関わっている文学全般を指します。
西欧諸国とは異なり、ロシアには11世紀以前、文書自体が存在していませんでした。
そのため、11世紀に始まったイギリス文学や、12世紀に始まったフランス文学と比べ、ロシア文学の起源は17世紀頃から、とだいぶ時代が下ります。
旧ソビエト連邦体制下の作品や、現在のウクライナ出身の作家の作品も、ロシア文学の枠に当てはめて考えられることが多くあります。
ロシア文学の3つの特徴
社会問題、政治背景を反映した作品が多い
ロシア文学最大の特徴として、社会問題や政治的な出来事を反映した作品が多いことが挙げられます。
ナポレオン戦争をはじめとしたヨーロッパ諸国との戦争、ロシア革命をはじめとする国内の革命運動など、時代ごとの政治的背景を反映した作品が多く、他国と比較してもその割合が高くなっています。
他にも貴族・農民といった階級差、男女の身分差などに言及した、風刺的な作品も多く発表されています。
キリスト教、ロシア正教の思想を反映
2つ目の特徴は、キリスト教の思想を反映したストーリーが多いことが挙げられます。
ロシアでは10世紀末頃からキリスト教が国教とされ、現在でも国民の約半数がキリスト教徒です。
そのため、とりわけ「ロシア正教」の思想を反映した作品が多く発表されています。
心理描写、感情表現の繊細さ
3つ目の特徴として、心理描写・感情表現の繊細さが挙げられます。
ロシア文学は人物の心情に焦点を当てた作品が多く、物語の中で登場人物が心境を独白したり、過去の心情を回顧するといったシーンが多く描かれています。
これは現代ロシア語の確立者とされるプーシキン(上)の影響が大きく、ロマンティックな心情を真摯に表現した彼の作品に、のちの多くの作家が影響を受けています。
ロシア文学の歴史
17世紀頃、詩・戯曲が誕生
17世紀頃のロシアでは、他の西欧諸国に習い、悲劇、風刺詩といった、詩・戯曲が盛んに発表されました。
ロシア社会の世俗化、西欧化・近代化を推し進めた、ピョートル1世の母 ナタリヤ(上)は、西欧諸国の文化に強い関心を持っていました。
そうした背景もあり、西洋の演劇が次々とロシアに導入され、劇曲を起点として、近代ロシア文学が築き上げられていきます。
検閲緩和とともに物語文学・散文が広まる
18世紀頃、母のナタリヤに続き、ピョートル1世(1672-1725)がロシア文化の世俗化をさらに推し進めました。
検閲緩和により、それまで厳しく取り締まられてきた「恋愛もの」が許可されると、物語文学が発表されるようになりますが、この頃はまだ詩がメインの時代でした。
当時はまだ国民のほとんどが文盲だったロシア。
ピョートル1世は、大北方戦争に対する国民の理解を得るため、1702年にロシア初の本格的な新聞「ヴェドモスチ」を創設し、時には自ら編集長となり、読者層を増やすため新聞を居酒屋で無料配布もしています。
文学上の言語にまつわる論争
文学に使用する言語として、「古典的なロシア語」と「通俗的なロシア語」のどちらを用いるか、激しい論争が起こりました。
1755年、モスクワ大学の創始者であるミハイル・ロモノーソフが「ロシア文法」(上)を初版し、作詩理論をうちだすことで、古代教会スラブ語(それまでのロシア語)とロシア語の関係を、文学作品のジャンル別にととのえました。
フェードル・エミンがロシア語による初の小説を発表
18世紀頃、西欧諸国の小説が続々とロシア語に翻訳されるようになります。
フェードル・エミン(1735-1770)はロシア出身ではありませんでしたが、ロシア語で創作した初の小説家として知られています。
エミンの小説は、ありふれた筋書きをロシア語化して組み合わせたもので、文体も凡庸なものでしたが、当時の大衆の心を掴み大きな成功を収めました。
ロマン主義の出現
19世紀初頭、ロシアでは従来の古典主義、主情主義と並んで、新たに「ロマン主義」がおこりました。
こうした芸術的潮流は、大詩人として知られるアレクサンドル・プーシキン(1799-1837)によって統合されます。
韻文小説、叙事詩、小悲劇など、多彩な作品を生み出したプーシキンの偉業とともに、ロシア文学は国民文学として成立しました。
さらにプーシキンの死を悼む詩「詩人の死」で名声を博したミハイル・レールモントフ(1814-1841)が登場し、19世紀は「ロシア文学の黄金時代」と呼ばれるようになります。
他にもドストエフスキー、ゴーゴリ、トルストイ、ツルゲーネフなど、ロシアを代表する作家が次々と誕生し、世界の文学史に名を残しました。
スターリン時代
1930年代にスターリンが最高権力者となると、レーニン率いるボリシェヴィキ政権により、出版物に創作的自由が認められていた時代が終わり、プロパガンダを説く手段として文学が用いられるようになります。
ボリシェヴィのプロパガンダ政策に非協力的な作家たちは、亡命・収監・強制労働などを余儀なくされ、自殺を選んだ作家もいました。
検閲を逃れるために児童文学や歴史的伝記を隠れ蓑とする者、「サミズダート」という秘密出版社を通して作品を発表する者も現れ、内密にロシア文学の創作活動は継続されていきました。
現代ロシア文学
ソ連崩壊後の20世紀末には、社会主義時代に損なわれたロシア文学の復興に向けた動きがはじまりました。
出版社は市場の復活と若手作家育成のため、三流小説を多く出版し資金を獲得。共産主義時代の作品やサミズダートの出版作品は積極的に再版しませんでした。
他国と同様に、推理小説の国内需要が高まると、ダリヤ・ドンツォヴァの推理小説(上)は数百万部を売り上げる大ヒットとなり、ヨーロッパ諸語にも翻訳されています。
現代では映像化される作品も多く、ロシア文学は再び賑わいを見せ始めています。
ロシア文学の有名作家
アレクサンドル・プーシキン(1799-1837)
プーシキンは、1799年6月6日にモスクワで生まれました。
現代ロシア語を確立したともいえる存在で、ロシアの詩人=プーシキンと言われるほど著名な詩人・作家です。
またプーシキンは叙事詩、恋愛詩、おとぎ話など、幅広いジャンルやテーマを取り上げました。
性格的には、勇敢かつひょうきんな人物で、美女には目がなかったのだとか。
最期には自身の妻に言い寄る人物と決闘し、その時に受けた傷が原因で亡くなっています。
ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)
ゴーゴリは、1809年4月1日に現在のウクライナ・ポルタヴァ州に位置するソロンツィで生まれました。
ロシアのリアリズム文学創始者とも呼ばれ、社会の腐敗について風刺した作品を多く残しています。
「鼻」や「外套」などのゴーゴリの作品は、ドストエフスキーや作家芥川龍之介などの文豪たちに大きな影響を与えました。
アマチュア劇作家である父の影響もあってか、演劇の才能があり俳優をめざしたこともありました。
イワン・ツルゲーネフ(1818-1883)
ツルゲーネフは、1818年11月9日にモスクワで生まれました。
芸術作品として今もなお高い評価を得ているのが「初恋」などの作品です。
1847年から雑誌に発表された「猟人日記」(1852年)では貧しい農奴の生活を描き、農奴制を批判したとして投獄されたこともあります。
大貴族の御曹司で社交界でも色男だったというツルゲーネフ。
ヨーロッパで過ごすことの多かった彼は、西欧の作家・芸術家たちと幅広い交友関係を築き、西欧へのロシア文学の紹介に大きな役割を果たしました。
1883年の夏にパリの郊外で亡くなっています。
フョードル・ドストエフスキー(1821-1881)
ドストエフスキーは、1821年11月11日にモスクワで生まれました。
ロシア文学と言えばドストエフスキーというくらいの偉大な作家です。
「カラマーゾフの兄弟」や「罪と罰」はあまりにも有名です。
人間の普遍的な性質を上手く捉えたその作風に、現代でも根強いファンが多くいます。
実際に経験した父親の惨殺事件、死刑宣告、シベリア流刑など、彼の人生はまさに「小説よりも奇なり」です。
レフ・トルストイ(1828-1910)
トルストイは1828年9月9日にトゥーラ郊外の町で生まれました。
ドストエフスキーと同じくらい著名な作家で、「戦争と平和」や「アンナ・カレーニナ」が有名です。
幼い頃に両親を亡くし、親戚のもとを転々とする生活を送っていたトルストイ。
20代の頃に戦争を経験し、その後は非暴力主義を強く掲げるようになります。
文豪としての地位を築きながら、自身の思想や哲学を広める思想家としても活躍しました。
アントン・チェーホフ(1860-1904)
チェーホフは、1860年にタガンローグというロシア南方の町で生まれました。
「かもめ」や「ヴァーニャおじさん」、「桜の園」など多くの劇作を残しています。
医師として働いていたという異例の経歴を持つチェーホフ。
医師業を通してあらゆる人間を観察してきた彼の短編小説には、人間の本質を見抜き皮肉ったようなものが多いです。
チェーホフの家系はもともと農奴だったため、貴族出身のツルゲーネフやドストエフスキー、トルストイとは出自が大きく異なります。
ロシア文学の名作 おすすめ作品14選
カラマーゾフの兄弟(1880年)
まずは言わずと知れたドストエフスキーの名作「カラマーゾフの兄弟」から。
父親であるフョードル・カラマーゾフは、粗野で好色極まりない男でした。
そんな彼の3人の子供たち、ドミートリィ、イワン、アレクセイの3兄弟が家に集まると、ミーチャと父親フョードルが妖艶な美人をめぐって激しい言い争いを始めます。
アリョーシャは慈愛溢れるゾシマ長老に救いを求めますが──
帝政崩壊の予兆をはらんだロシアのある町で殺人事件が起きる、ミステリータッチの物語です。
アンナ・カレーニナ(1878年)
トルストイの代表作「アンナ・カレーニナ」。
美貌の人妻アンナは、青年将校ヴロンスキーと激しい恋に落ち、夫カレーニンに2人の関係を正直に打ち明けてしまいます。
一方地主貴族リョーヴィンのプロポーズを断った侯爵令嬢キティは、ヴロンスキーに裏切られたことを知り傷心のままドイツへ・・・。
19世紀後半のロシア貴族社会の人間模様を描いた名作です。
罪と罰(1866年)
貧困・孤独・狂気の渦巻く大都会のかたすみに、「理想的な」殺人をたくらむ青年の姿がひとり。
彼の名はラスコーリニコフ。
彼はどうして、歩いて七百三十歩のアパートに住む金貸しの老女を殺さなければならないのか。
それは一つの命と引き換えに、何千もの命を救えるから、、、。
かもめ(1896年)
舞台は19世紀ロシア。作家志望の男と女優を夢みる女の恋の物語。
チェーホフが「恋だらけの物語」として構想した、100年以上も人々に愛される戯曲です。
恋愛、そして表現することの難しさが巧みに描かれています。
静かなドン(1928年)
ミハイル・ショーロホフの作品。
第一次世界大戦から十月革命にいたる近代ロシア最大の激動期の中に置かれたドン地方のコサックの運命はいかになるのか。
主人公グリゴーリーの悲劇的運命をたどりながら、さまざまな階層の人間を描き出している作品です。
イワン・イリイチの死(1886年)
トルストイの作品。
社会的地位のある地主貴族の主人公が嫉妬ゆえに妻を刺し殺してしまいます。
19世紀ロシアの一裁判官が「死」と向き合う過程で味わう、心理的葛藤を描いた作品です。
自らに迫る死と向き合っていく姿が胸に迫ります。
戦争と平和(1865年)
こちらもトルストイの代表作。
1805年の夏、ペテルブルグでの夜会が発端でおきた独裁者ナポレオンとの戦争を舞台に、ロシア貴族から農民にいたるまで、国難に立ち向かうロシアの人々を描いた作品です。
戦争を経験したトルストイの描く本作には、生々しさと迫力があります。
初恋(1860年)
ツルゲーネフの作品。
16歳の少年ウラジーミルは、隣に引っ越してきた年上の侯爵令嬢ジナイーダに一目ぼれします。初めての恋に戸惑うウラジーミル。
取り巻きの青年たちと恋のさや当てが始まる中、ジナイーダが誰かに恋に落ちたことがわかります。
果たして相手は誰なのか。初恋のときめきと切なさが味わえる作者の自伝的名作です。
オネーギン(1878年)
プーシキンの作品。
オネーギンは、少女タチヤーナの切々たる恋情を無残にも踏みにじります。
後にタチヤーナへの愛に目覚めるオネーギンですが、時すでに遅く、彼の愛が受け入れられることはありませんでした。
ロシア文学史上に残る韻文小説の金字塔です。ストーリーもさながら美しい文章に心打たれます。
白夜(1848年)
ドストエフスキーの作品。
舞台は夜のペテルブルグ。
内気で空想家の少年と少女の出会いを描いた、ドストエフスキー初期の傑作です。
「カラマーゾフの兄弟」や「罪と罰」とは一味も二味も違ったドストエフスキーの世界を味わえます。
戦争は女の顔をしていない(1985年)
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの作品。
第二次世界大戦期、ソ連では100万人をこえる女性が従軍し、看護婦や軍医としてのみならず兵士として武器を手に戦いました。
しかし戦後、世間からは白い目で見られ、自身の戦争体験をひた隠しにしなければなりませんでした。
500人以上の従軍女性から取材をし、戦争の真実を明らかにした名作です。
ロリータ(1955年)
ウラジーミル・ナボコフの作品。
中年男性ハンバート・ハンバートは滞在先で出会った少女へ何とも言えない恋心を抱きます。
映像化もされている作品ですが、その倒錯した恋は小説の方が気持ち悪さや不気味さをより伝えます。
男性と女性では読後の感じ方が大きく変わる作品かもしれません。
現代の英雄(1840年)
ミハイル・レールモントフの作品です。
「私」はカフカス旅行の道中に知り合った壮年の二等大尉マクシム・マクシームイチから、かつての彼の若い部下ペチョーリンの話を聞きます。
身勝手だけれどどこか憎めないペチョーリンの人柄に興味を覚えた「私」は、彼の手記を手に入れるのですが・・・。
友人との決闘で亡くなったカリスマ的作家の代表作です。
鼻/外套/査察官(2006年)
ゴーゴリの作品。
自分の鼻が一人歩きをして物議をかもす「鼻」。
貧しい官吏が思い切って新調した外套(がいとう、オーバーコート)を奪われてしまい、幽霊となって徘徊する「外套」。
戯曲「査察官」では、ある地方都市にお忍びの査察官が来るという噂が広まり、市長をはじめ小役人たちがあわてふためく──
代表作3篇を収録した名著で、奇妙な設定と巧みな文章は、後を引くおもしろさがあります。
まとめ
今回はロシア文学の特徴や有名な作家、おすすめの作品を紹介しました。
ロシア文学は他国との戦争、厳しい検閲、プロパガンダ政策とともに歩んできた歴史があり、スターリン時代には多く作家が亡命あるいは収監・強制労働を余儀なくされ、中には自殺を選んだ作家もいます。
そうした厳しい歴史の中でも名作が数多く誕生し、世界の文学史に大きな功績を残しました。
知れば知るほど面白いロシア文学。皆さんもぜひ、ロシア文学の名作に触れてみてください。
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