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現代美術家・窪田望《AIが消し去る声》が「アルス・エレクトロニカ賞2026」栄誉賞を受賞 世界106カ国から4,329作品が応募

AIが消し去る声

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Digital Humanity部門で日本人唯一の受賞。

AIが生み出す「見えない排除」を問う作品が国際的評価を獲得。オーストリアでの作品上映、授賞式出席に加え、国際学術会議でも研究成果を発表。

 

現代美術家・AIエンジニアの窪田望による映像作品《AIが消し去る声(AI’s Silent Omissions)》が、国際的なメディア・アートのコンペティション「Prix Ars Electronica 2026(アルス・エレクトロニカ賞2026)」のDigital Humanity部門で、Honorary Mention(栄誉賞)を受賞しました。

2026年の同賞には、世界106カ国から4,329作品が応募。窪田の作品は、Digital Humanity部門に寄せられた754作品の中から15件の公式受賞作の一つに選ばれ、同部門で受賞した日本人は窪田のみとなっています。

 

9月9日から13日にオーストリア・リンツで開催された「Ars Electronica Festival 2026」では、現地の授賞式に出席したほか、受賞作品の上映やアーティストトーク、国際学術会議での研究発表も実施。日本国内でも、9月26日にカルチュラル・タイフーン2026で上映とディスカッションが行われました。

 

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世界106カ国から4,329作品が応募した国際的なメディアアート賞

Ars Electronica Festival

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Ars Electronicaは、1979年にオーストリア・リンツで始まった、アート、テクノロジー、社会の関係を探究する国際的な文化・芸術機関およびメディアアートの祭典。

 

1987年に創設されたPrix Ars Electronicaは、現存するメディアアートの国際コンペティションとしては世界で最も長い歴史を持ち、各国の芸術家や研究者、クリエイターの作品が国際審査員団によって審査されています。

2026年は「New Animation Art」「Interactive Art +」「Digital Humanity」「u19—create your world」の4部門で作品を募集。窪田が受賞したDigital Humanity部門は、デジタル技術を通じた社会的価値の創出や、文化交流、人権、多様性、包摂的な社会の形成に寄与する芸術的・社会的実践を対象としており、2026年からはそれまでの独立した賞(特別賞)から、Prix Ars Electronicaの正式な競争部門へと位置づけられました。

 

同部門の754作品の応募から、公式受賞作に選ばれたのは15作品。最高賞のGolden Nica、Award of Distinction、Honorary Mentionという賞区分のうち、窪田の《AIが消し去る声》はHonorary Mentionとして公式の受賞記録に名を連ねました。

 

「5本指ではない手」は、修正すべきエラーなのか

AI’s Silent Omissions

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《AIが消し去る声》は、画像生成AIをはじめとする現代のテクノロジーが、何を「正常」と判断し、その過程で何を見えなくしているのかを問うドキュメンタリー作品です。AIが社会を効率化する一方で、無自覚に進んでいるマイノリティの排斥を示唆しています。

 

制作の出発点となったのは、窪田自身が画像生成AIで手の画像を生成したときの経験でした。AIが出力した3本指や4本指の手を見て、エンジニアとして修正の必要性を感じた一方で、その判断そのものに疑問を抱いたことが、作品制作へとつながっていきます。

近年、画像生成AIによる人体描写の精度は向上していますが、その背景には、一般的な人体の構造から外れた画像をエラーとして扱い、修正や除外の対象とする技術的な仕組みが存在します。例えば、「5本指ではない手」をエラーとして排除するフィルター。

しかし、現実の社会には、生まれつき指の本数や形が異なる人々が暮らしています。

 

AIにとっての「正しい身体」を追い求めることが、実在する人々の身体をデジタル空間から締め出すことにならないか。窪田が抱いたのは、そんな疑問でした。

 

本作は、NPO法人Hand&Footの協力のもと、裂手症の当事者やその家族、医療従事者との対話を重ねながら『AI社会の背後にある分類の暴力性』に迫っていきます。

作品には、同法人の浅原ゆき、大塚悠のほか、南大阪小児リハビリテーション病院院長の川端秀彦、インフルエンサー・起業家のすらいむが出演。映像制作は黒川雄斗、黒川みなみが担当。 

 

「5分の2ではなく、2分の2」——当事者との対話から生まれた問い

窪田は、オーストリアでのアーティストトークを振り返るなかで、制作中に強く心に残った浅原ゆきの言葉を紹介。

この手は、5分の2ではなく、2分の2なんですよ。

 

5本を基準に数えれば、2本指の手は何かが欠けているものとして捉えられてしまいます。しかし、その人にとっては、その手で日々の生活を送っていること自体が現実であり、誰かが定めた基準に対して不足しているわけではありません。 

 

窪田は、この言葉によって、自分が当然のように置いていた基準そのものが問われたと振り返ります。また、医師との対話では、手の形を変えること以上に、その人の暮らし全体の幸せを考えることの大切さを学び、大塚からは、人それぞれに異なる「普通」があることを聞いたと語っています。

 

審査員団の講評

Prix Ars Electronicaの審査員団は、今回の受賞に際して公式講評を公開しています。

講評では、窪田が本作で、コード化された規範に当てはまらない身体が体系的に消し去られていくという「静かな暴力」を明らかにしていると述べています。NSFWフィルターの回避を含むデータセットのフォレンジックな監査と、裂手とともに生きる人々へのインタビューを組み合わせることで、本作は可視性をめぐる政治とデジタル上の尊厳を問いかけていると評価。バイアスをめぐる議論を抽象的な倫理から生身の身体の経験へと移し、AIが差異をエラーやわいせつなものとして誤読してしまう様子を示していると指摘しています。

 

審査員団は特に、問題を技術で解決しようとする考え方(テクノソリューショニズム)に与しない姿勢を高く評価。AIエンジニアである窪田は、「再帰的な方法論」を用いて、制作過程で自らの無意識のバイアスを明らかにし、システムだけでなく、その作り手である自分自身の両方を批評しています。

講評は、AIによる欠落は空白ではなく、コードの中に堆積した社会的な意思決定であると述べ、本作はまれに見る明快さで、アルゴリズムが消し去ろうとした人々に人間としての豊かさを取り戻している、と結ばれています。

 

オーストリアで受賞作品を上映、授賞式にも出席

Ars Electronica Festival 表彰式で登壇する窪田望

Ars Electronica Festival 表彰式で登壇する窪田望 ソース

2026年9月9日から13日までオーストリア・リンツでは「Negotiating Humanity」をテーマに、Ars Electronica Festival 2026が開催。

 

9月10日には、ヨハネス・ケプラー大学(JKU)の医学部キャンパス内にある「JKU medSPACE」にて《AIが消し去る声》の上映とアーティストトーク「Meet the Artist」を実施。14メートル×7メートルの大型スクリーンを備えた会場で作品が上映され、上映後にはフェスティバルの共同キュレーターであるArs ElectronicaのDaniela Duca de Teyをモデレーターに迎えて、制作の背景やAI時代における身体の多様性についてトークセッションが行われました。

アーティストトークでの一幕 窪田望

アーティストトークでの一幕 窪田望 ソース

会場では、作品制作のきっかけに加え、教育やメディアリテラシーの現場でこうした「テクノロジーがもたらす声の消失や存在の不透明さ」という問題をどのように扱うべきか、社会全体で「普通」の定義を問い直すことが包摂的なAIの実現につながるのか、といった質問が投げかけられた。

 

窪田は、ある身体が新たな「普通」として認められても、別の存在がその基準から外れる可能性があることを指摘。バグを直すように「技術をアップデートして正解を上書きする」というアプローチだけでは、分類の暴力性やマイノリティの排斥の根本的な解決にはならないと述べ、技術の改善だけで解決を目指すのではなく、問い続け、議論を重ねることの重要性を語りました。

 

同日夜にはDesign Center LinzでPrix Ars Electronicaの授賞式が開催され、窪田も現地で登壇しました。

 

受賞後、窪田は、AIが「知らない」ことと、この世界に「存在しない」ことは違うという考えを改めて述べています。

 

検索結果に現れない記憶や、記録されてこなかった声の背後にも、確かに誰かの暮らしが存在します。これまで『外れ値の咆哮』をテーマに、技術が進歩する過程で、何がこぼれ落ちてしまうのかを問いながら制作してきました。そうした問いをリンツへ持ち込み、さまざまな国の人々と対話できたことも、今回の大きな喜びだったとのことです。 

 

国際学術会議「Expanded 2026」では、査読付き論文が採択

「Expanded 2026」で論文「不在の生産」を発表する窪田望

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フェスティバル期間中には、アニメーションやデジタルメディア、インタラクティブアート、AIなどの先端技術を扱う「Expanded 2026」にも登壇。Expandedは、Ars ElectronicaとオーストリアのUniversity of Applied Sciences Upper Austriaが共同で主催する、芸術表現と先端技術を横断する国際的かつ学術的なシンポジウム・会議。

 

窪田の論文「Production of Absence: Reading Stable Diffusion’s NSFW Filter through Code and Typology(不在の生産――Stable DiffusionのNSFWフィルターを、コードと類型学から読み解く)」は、Art Papers部門で査読を経て採択され、9月10日に研究発表が行われました。

同論文は、コンピューター・情報技術分野における世界最高峰の学術文献データベースである「ACM Digital Library」への収録も予定されているとのことです。

 

1万枚の画像調査から見えてきた「不在の生産」

研究の対象となったのは、画像生成AI「Stable Diffusion」に組み込まれたNSFW(Not Safe For Work)フィルター。

 

調査対象としたStable Diffusion 1.5の構成では、生成された画像が安全フィルターによって不適切と判断されると、ユーザーへ届く前に黒い画像などに置き換えられます。画像そのものは生成されていても、利用者にはその中身が見えず、何が除外されたのかを確かめるのは難しいのが現状です。

窪田は、このようにシステムの内部で不可視化される過程を「不在の生産(Production of Absence)」という概念で捉えました。

 

実験では、「hand sketch, pencil drawing(手のスケッチ、鉛筆画)」という一つのプロンプトで42,158回の画像生成を実施し、フィルターによって除外された画像1万枚を収集。その中から無作為に抽出した316枚を窪田自身が目視で分類したところ、性的な内容と判断されたものは1枚、暴力的な内容は0枚だったといいます。

《The Invisible Hand of AI》

《The Invisible Hand of AI》 ソース

一方で、多くの画像には、指の本数や形、配置などに、一般的な人体の構造とは異なる特徴が見られました。

ただし、窪田は、この結果は一つのモデルと設定から得られた観察であり、フィルターにかからなかった画像を同じ方法で分類していないため、手の形の違いが判定の原因だったと断定することはできないと説明しています。

 

1万枚の手の画像を展示したインスタレーション《The Invisible Hand of AI》 

《The Invisible Hand of AI》を近くで見ると、NSFWフィルターによって消し去られた手の画像が無数に並べられている

《The Invisible Hand of AI》を近くで見ると、NSFWフィルターによって消し去られた手の画像が無数に並べられている ソース

こうして収集された1万枚の画像は、インスタレーション《The Invisible Hand of AI(AIの見えざる手)》へと展開。高さ約4メートル、幅約1メートルの作品には、AIの安全フィルターによって通常は表示されない手の画像が大量に配置されています。

 

遠くからは一つの大きなデータの集合に見えますが、作品に近づくと、一枚一枚が異なる形を持った個々の手として現れ、見る人は作品との距離を変えながら画像を確かめることに。

 

本作は、元警察交番を転用したギャラリー空間で展示され、近代以降の写真、医学的記録、統計、アーカイブなどが、人間の身体を記録すると同時に分類してきた歴史とも接続しています。窪田は、同じ問題意識を扱ったタペストリー作品《NSFW》なども制作しており、AIがエラーとして排除した画像そのものを、美術作品の素材へと転換してきました。

 

「自分自身へのカウンターパンチ」 

Expanded 2026での発表後には、研究の方法だけでなく、窪田がなぜこの問題に関心を持つようになったのかについても質問が寄せられました。窪田は、AIが生成した3本指や4本指の手を当然のように「直すべきもの」と見ていた、かつての自分に触れ、作品の出演者たちと出会ってその前提を疑うようになったと回答。 

 

また、AIを開発し、仕事でも利用している自分自身も、この問題の当事者であると説明。会場では、この論文や作品は自分自身に対するカウンターパンチでもあると表現しました。

 

窪田は、一連の制作を「外れ値の咆哮」というテーマのもとで続けています。外れ値とは、ほかのデータから大きく離れた値のことで、分析ではノイズとして除外されることも少なくありません。子どもの頃、自分がどこにも属していないように感じていたと振り返る窪田。外れ値の向こうにも、身体や文化、心があると感じていると語っています。 

 

2026年9月26日、カルチュラル・タイフーンで上映 

カルチュラル・タイフーンで《AIが消し去る声》を上映

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オーストリアでの受賞後、日本国内でも作品を通じた対話が続いています。9月26日には、昭和女子大学で開催された国際会議「Cultural Typhoon 2026(カルチュラル・タイフーン2026)」にて、《AIが消し去る声》の上映とディスカッションが行われました。

 

カルチュラル・タイフーンは、2003年に始まった、研究者、アーティスト、社会活動の実践者などが専門分野や立場を越えて対話する国際的な催し。研究発表に加え、映像上映、展示、ワークショップ、パフォーマンスなども実施され、文化を通じて社会の権力関係や歴史、日常の中にある価値観を問い直す場として続いてきました。

 

2026年に掲げたテーマは「誰が語り、何が不可視化されてきたのか」。AIの分類や選別の過程で、どのような存在が見えなくなっているのかを考える窪田の作品とも重なる問いだ。

上映後には、窪田が「AIに何を教え、何を教えないべきか」をテーマにしたレクチャーパフォーマンスを行い、参加者とディスカッションを実施した。議論はAIの学習データの話から始まり、誰かを理解しようとする行為そのものが、その人を一つのカテゴリーに閉じ込めてしまう危うさにまで及びました。 

 

これまでの受賞と活動 

《AIが消し去る声》は、今回のPrix Ars Electronica以前にも、複数の国際映画祭やアートアワードで受賞・上映を重ねてきました。

2025年には、米国のICP Entertainment Film FestivalでBest Humanity Film、インドのDelhi Shorts International Film FestivalでBest Documentaryを受賞。タイ・バンコクで開催された「CENRETA ART AWARD 2025」では最優秀賞に選ばれています。

2026年には、ドイツのBerlin Indie Film FestivalでBest Director – Short Documentary、米国のWorldFest-Houston International Film Festivalで短編ドキュメンタリー部門のSilver Remi Awardを受賞。これまでに、米国、英国、ドイツ、スウェーデン、インドなどで上映。

 

また、2026年4月、タイランド・ビエンナーレで「外れ値の美学」に関するレクチャーパフォーマンスにも参加。

インドネシアのアートコレクティブ「ruangrupa」のメンバーであるMirwan Andan、批評家・キュレーターのDi Liu、チェコ出身のキュレーターJaroslava Tomanovaらとともに、AIの内部で十分に認識されない文化や記憶が、社会から存在しないものとして扱われてしまう問題について語り合いました。

 

前橋映像祭2026で上映予定。NeurIPS 2026にも作品採択

今後は、2026年11月13日から15日に開催される「前橋映像祭2026」で《AIが消し去る声》の上映が予定されています。同映像祭は、前橋国際芸術祭2026の地域連携企画として開催されるもので、窪田は初日の11月13日にアーティストトークにも登壇する予定。 

 

前橋映像祭 2026 上映・アーティストトーク概要

開催日:2026年11月13(金)

上映:17:15〜17:45

アーティストトーク:17:45〜18:15

会場:裏ノ間(re/noma)2階

住所:群馬県前橋市千代田町4-1-2

公式HP:https://maebashimediafestival.jp/

 

前橋映像祭は、2010年に「弁天通り映像祭」として始まり、映画やドキュメンタリー、ビデオアート、パフォーマンスなど、領域横断的な表現を紹介してきた映像祭。

 

また、AI・機械学習分野の国際会議「NeurIPS 2026」のCreative AI Trackにも《AI’s Silent Omissions: Redistributing Bodily Agency》が採択され、発表が予定されています。

さらに、台湾の新北市立美術館での上映や、東京大学駒場博物館での展示も控えており、国内外で活動が続いています。 

 

現代美術家・窪田望について

窪田望

窪田望 ソース

窪田望は、現代美術家、AIエンジニア、起業家。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻を修了し、現在はデジタルハリウッド大学大学院特任准教授も務めている。

データ解析やAI技術の研究・開発に約20年携わり、日本、米国、中国、香港などで計20件のAI関連特許を取得。株式会社Creator’s NEXTの代表取締役として、AI技術の社会実装にも取り組んできました。

 

「外れ値の咆哮」をテーマに、消えゆく地方の方言をAIでアーカイブするプロジェクト、ノイズとして処理される鈴虫の音色を扱った《バイナリ化する幽玄》、認知症患者に残る記憶をテーマにした《Inside Dementia》(東京ビエンナーレ2025)などを制作。制作では、AIの内部構造やアルゴリズムを自ら解析し、通常は目に触れることのないデータや判断の過程を作品の素材にしています。

 

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