「表現主義」とは?代表的な画家と作品を解説
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「表現主義」とは?
表現主義(表現派)は、1900年代前半にドイツを中心に興った美術や建築の潮流です。
特に表現主義の美術については、画家自身の心の内部の世界を表現するという点において、外部の世界の印象を描き出すそれまでの美術とは大きく異なります。
解剖学に基づいた人間の写実性などを重視せず、感情など心の中の様子をモチーフに託して描写するというのが表現主義の特徴です。
表現主義は、19世紀後半からヨーロッパで栄えていた印象派が物事の外見的特徴を強調して描写するのとは対照的な動きでした。1914〜1918年には第一次世界大戦も起きるなど、世界が不穏な空気に包まれた時代でもあります。
表現主義の画家は、北ドイツの「ブリュッケ(橋)」や南ドイツの「青騎士」などのグループごとに異なる特徴を持っています。
ブリュッケにはエルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー、オットー・ミュラー、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーなど、青騎士にはワシリー・カンディンスキーやフランツ・マルクなどがいます。
表現主義と象徴主義の影響を受けたエゴン・シーレも有名で、また、1893年に傑作「叫び」を完成させたエドヴァルド・ムンクは不安や恐怖の表現を追求したことで表現主義のパイオニアとされています。
活躍したアーティスト
エゴン・シーレ
エドヴァルド・ムンク
ワシリー・カンディンスキー
エゴン・シーレ
1890年6月12日-1918年10月31日(享年28歳)
シーレは、表現主義の影響を受けつつも、裸体や死、性行為など倫理的に避けられるものを強烈な個性の画風で描き、独自の絵画を追求したオーストラリアの画家です。
工芸学校を卒業後ウィーン美術アカデミーへ進学したものの、保守的で時代錯誤な古典主義を継承するアカデミーに価値を感じなかったシーレはアカデミーから離れ、クリムトに弟子入りしました。表現の制約から自由になったシーレは、積極的に人型だけでなく性表現の追求、またフランス印象派の影響のもと表現主義の方向へスタイルを移し始めました。
クリムトが企画した展覧会で、初めてゴッホの作品を目にし自らの芸術観に多大な影響を与えたと言われており、自身も「ひまわり」を描いています。
妹をヌードモデルにし、13歳の少女を誘拐した容疑で逮捕され、経済的な基盤を得るためだけに4年間連れ添った恋人と関係を突然断ち両家の子女と結婚するも、妻の姉と不倫関係を続け28歳で病死したシーレの人生はとても濃く異端で、2016年にシーレの半生が映画化されるなど、作品だけでなくシーレ自身の人生も後世に大きな影響を与えています。
エドヴァルド・ムンク
1863年12月12日-1944年1月23日(享年80歳)
エドヴァルド・ムンクは、画家・版画家として有名な作品を残した後期印象派時代の象徴主義や表現主義のノルウェーの画家です。
誰もが知っている「叫び」という作品は世界で最も有名な絵画の一つであり、ノルウェーでは国民的画家として親しまれています。
ムンクは「芸術は呼吸し、感じ、悩み、恋する人々を描くべきである」という信念をもっており、人間の内面の奥底にある“生”と“死”対する“不安”や“恐怖”、“性愛”を主題に、見る者の感情や本能に訴える作品を描き続けました。
1892年のベルリンでの最初の展覧会を行った際には、抗議と激しい非難を浴びてわずか一週間で閉鎖されてしまいますが、皮肉にもこのスキャンダルによって、ムンクの名は広く知られるようになりました。
1908年には過労と暴飲、過剰な精神的ストレスのため精神を病んで入院しますが、この頃に大作を多く生み出しています。
病状が回復すると、ムンクの作品は愛情が感じられる明るい色彩で描かれ、虚ろな人物の表情は生き生きと描かれるようになっていきました。
ワシリー・カンディンスキー
1866年12月4日-1944年12月13日(享年78歳)
ワシリー・カンディンスキーは、美術理論家としても活躍したロシア出身の抽象絵画の画家です。
カンディンスキーは神智学から大きく影響を受けており、抽象絵画の先駆者として位置づけられています。
ドイツの前衛芸術運動「青騎士」のメンバー時代は、音楽の影響を強く受け、作品中に音楽用語をよく使用するなど、彼の作品の中で音楽は抽象絵画を生み出すのに重要なものでした。
この時代からカンディンスキーの絵画は大きく、その表情豊かな色合いは形状や線と独立して評価されるようになりました。
彼は、心理学の研究と同時進行で作品を制作しており、幾何学的要素を中心とした知的な作品が多く制作されました。1922年からバウハウスで教官を務め、芸術初心者向けの基礎デザイン授業から高度な美術理論授業まで幅広く授業を受け持ち、絵画教室やワークショップなどを行ったり、ゲシュタルト心理学要素のある色彩理論を発展させました。
表現主義の傑作3選
1.死と乙女
作者 エゴン・シーレ
制作年 1915年
所蔵 オーストリア・ギャラリー
解説
オーストリア・ウィーン出身の画家エゴン・シーレは、体の捻じ曲がった人間などを独特のタッチで描くことで知られています。
そのインパクトの強い表現方法から表現主義の画家として語られることが多く、24歳のときに制作した「死と乙女」はエゴン・シーレの代表作の1つです。
「死と乙女」に描かれる死んだ男と、男にすがるように抱きつく女は、シーレ自身と長年の恋人ヴァリの愛を表していると考えられています。
同作が完成した1915年は、シーレが別の女性と結婚した年でもありました。
結婚してもヴァリの心をつなぎ留めて共にいようとしたシーレに、ヴァリはショックを受け彼の元を去ってしまいます。
くすんだ色合いでどこか荒廃したイメージの「死と乙女」には、シーレの複雑な心理が如実に表現されているといわれています。
2.叫び
作者 エドヴァルド・ムンク
制作年 1893年
所蔵 オスロ国立美術館
解説
ノルウェー出身の画家エドヴァルド・ムンクの「叫び」は、世界で最もよく知られた絵画の1つといえるでしょう。
鳴り止まぬ幻聴に耐えきれず耳をふさぐ人物の恐怖と不安に歪んだ表情、色鮮やかに波打つ背景、作品全体に漂う不吉な空気。
「叫び」が制作されたのは、厳密には表現主義の時代の数年前ですが、ムンクはこの頃、愛と死をテーマに内面を描写した「星月夜」「不安」など数多くの傑作を生み出しました。
写実的な描き方に頼らない画風は、表現主義のさきがけといわれています。
幼少の頃の母と姉の病死や父のキリスト教への狂信、大人になってからも弟の病死や妹の精神病などから、死と生をめぐる不安はムンクを苛み続けます。
画家としての地位も高まっていた1908年には、ムンク自身も精神病院に入院するなど、メンタル面で厳しい局面もありました。
しかし自身の内面への観察眼と表現力に優れていたムンクは画家として創作を続け、その後の芸術や人間心理の研究に多大な影響を与えました。
3.即興 渓谷
作者 ワシリー・カンディンスキー
制作年 1914年
所蔵 レンバッハハウス美術館
解説
ワシリー・カンディンスキーは、ドイツやフランスで活躍したロシア出身の画家です。
表現主義の一派「青騎士」の代表的な芸術家として知られ、抽象絵画の生みの親ともいわれています。
モスクワ大学で法律や政治経済を学んだカンディンスキーですが、フランスで観たモネの絵画に触発され、ドイツのミュンヘンで絵画を学び芸術の道を歩み始めます。
カンディンスキーは生涯にわたり画風を変え続けましたが、「即興 渓谷」に代表される抽象画は現代芸術につながるものとして特に有名です。
具象的な形を描写するのではなく、色彩と構図を極限まで突き詰めた「即興 渓谷」からは、ほとばしる水の流れのような勢いとリズミカルなイメージが伝わってきます。
カンディンスキーは『抽象芸術論』などの著作もあり、芸術学校バウハウスで教官も務めるなど、芸術理論においても優れた画家でした。
「表現主義」のおすすめ関連書籍3選
『 エドヴァルト・ムンク―「自作を語る画文集」生のフリーズ』
ムンクの代表作の1つ「マドンナ」が表紙になった、ムンクの画文集(八坂書房、2009年)。
ムンクが遺した手紙や手記、作品や芸術観についてのコメントなどを基に、ムンクの芸術と心を読み解く試みです。
「生のフリーズ」とムンク自身が名付けた一連の絵画シリーズが取り上げられ、現代芸術にも通じるムンクを知る上で鍵となる書籍です。
価格¥2,376 八坂書房
● 読者の感想
”ムンクが抱き続けた「生への不安」を垣間見る1冊”
八坂書房の「自作を語る画文集」という珍しいシリーズからの1冊です。
商品説明にある通り、このシリーズの特徴は、画家が残した言葉と作品を共に載せる事によって作品鑑賞・理解の手引きとしている点です。
このような体裁の本は意外と少なく(雰囲気的構成の本はありますが、美術書として耐え得るものはあまり無い)、ムンク作品から感じる、生に対する不安と孤独、病的なまでの思慮深さを、ただ漠然と図版を眺めるのではなく自身の言葉からも紐解いていくように作られています。
『エゴン・シーレ―ドローイング水彩画作品集』
約350点にもおよぶ作品を年代順に、詳細な作品データとともに掲載した同書は、エゴン・シーレをもっと深く知りたい人にも最適です(新潮社、2003年)。
28歳で早逝したシーレですが、約10年間のキャリアの中で数多くの作品を生み出し、今なお世界中に多くのファンを持っています。
特に水彩画とドローイング(線画)には、シーレの世界観の特徴であるエロスと美をしっかりと感じることができます。
価格¥4,860 新潮社
● 読者の感想
”全てが分かります”
なかなかここまで詳しくエゴン・シーレについて書かれている本はないと思います。油彩は少ないけれど、水彩・ドローイングに関しては彼に関する本の中でもかなり上位を占めていると思います。彼の作品を紹介するだけではなく、彼の生い立ちや考え方についても詳しく書かれているので、読んでみるだけの価値はあります。シーレファンなら必見です。この本は裸婦を描いたものが多いのですが、ただ単にエロスを求めているのではなく、彼の精神的な成長とともに確実に芸術性を高めているのが分かります。そういった彼の小さな変化にも目を配ると、よりいっそうシーレの魅力にはまるでしょう。
”充実した作品集”
エゴン・シーレがまだ16歳だった少年期から28歳で亡くなるまでの作品を年代順に編纂し、収録しています。
作品の合い間にシーレに関する伝記的な記述や絵に関する文章がありますが、抑えた分量にとどめられており、絵の掲載に多くのページがあてられているので、たくさんの作品を鑑賞することができます。
シーレの作品は色彩がとても美しいと思いますが、私としてはそれ以上に線が魅力的だと感じます。本書では、シーレの描いた鉛筆や黒チョークによる線描を存分に楽しむことができ、おすすめです。
『点と線から面へ』
カンディンスキー本人による、芸術理論の解説書(筑摩書房、2017年)。色彩や線、コンポジション(構成)など、絵画を形作る構成要素のすべてを徹底的に分析しています。
今から約1,000年前にアートにサイエンスを取り入れ、デザインや絵画以外の芸術分野にも影響をおよぼした、現代でも色褪せない歴史的名著です。
価格¥1,080 筑摩書房
● 読者の感想
”観察と感性による思考”
実のところ「絵画の構成要素の理論的・科学的吟味」という点は、私には難しく感じました。具体的例が図示されない部分で、文による記述だけをたどっていくと、理論的というよりは直観的にも感じましたし、こうした文章を科学的と評することができるのか疑問に思いました。しかし付録の魅力的な図版の数々を見て、点や線による構成が「なぜ画像のこの位置にピタリと嵌まるのか」について考えてみるとき、カンディンスキーが画面構成過程の見通しについて実に的確な判断をもって、それをなるべく簡潔に文章化しようとしたことが分かりました。
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