ピエト・モンドリアンとは?「コンポジション」などの代表絵画や見どころを解説
ピート・モンドリアンという画家をご存知でしょうか。
近代の抽象絵画を最初に描いた画家の一人で、キュビズムから影響を受けた独自の美術理論を追求し抽象絵画を完成させた人物としてよく知られています。
この記事では、彼の生い立ちと作品を紹介し、現代社会に大きな影響を与えた画期的な理論とそのスタイルについて振り返っていきます。
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モンドリアンとは
新造形主義の画家
ピート・モンドリアンは19世紀末から20世紀に活躍したオランダの画家です。
1920年ごろに「新造形主義」と呼ばれる画期的な美術理論を提唱した人物としてもよく知られています。
「新造形主義」は水平線や垂直線を多用し、原色と無彩色を組み合わせた色彩を用いることであらゆる抽象表現を幾何学的に実現しようとする理論です。
そして、この理論は諸芸術のジャンルを統合し、美術理論としての普遍的な存在を目指すといった大きな理念を持っていました。
度重なる抽象表現の実験や試行錯誤を経て制作されたモンドリアンの作品は、近代芸術作品のみに留まらず、タイポグラフィーや建築、工業デザインなど幅広い分野に大きな影響を与えました。
コンポジションシリーズが有名
モンドリアンの作品の中でも、最も有名なのがコンポジションシリーズです。
1921年から制作されて始めた「コンポジション」の題が付けられたシリーズ作品は、モンドリアンが新造形主義の理論を確立するために様々な試行錯誤が重ねられており、年代順に追っていくことでその変化の過程を見ることができます。
幾何学的アプローチを駆使した究極の抽象化ともいえる構図や配色は、後世に大きな影響を与えました。
モンドリアンの生涯と作風の変化
初期
モンドリアンは1892年から3年間、アムステルダム国立美術アカデミーにて伝統的な美術教育を受けたといわれています。
アカデミー在学中は写実主義の作風でしたが、卒業後は印象派やポスト印象派から影響を受けたものへ変化していきました。
初期の作品では「赤い水車」や「月の出と木」などのように自然主義的な風景画を多く描いていましたが、この頃からすでに線描よりも色彩を重視する傾向がみられ、赤、青、黄の原色に対する強いこだわりがあることが見てとれます。
パリ時代
1911年に、モンドリアンはアムステルダムで開催された美術展「モダン・クンストリング」にて、キュビズムの作品から深い感銘を受けます。
同年にモンドリアンはオランダからパリへ移住し、この間にピカソやジョルジュ・ブラックらのキュビズムの影響を大きく受けます。
そして、彼らの提唱するキュビズムの理論を元に抽象化と幾何学的な形態を用いた美術理論を構築し始めます。
この頃のキュビズムの影響による抽象・単純化は「Still Life with Ginger Pot」などの作品からみることができます。
再びのオランダ時代
1914年、第一次大戦の影響によりモンドリアンはパリからオランダへ活動拠点を戻します。
この頃に出会ったオランダの画家テオ・ファン・デュースブルフと共に、1917年「デ・ステイル」という芸術雑誌を創刊し始めます。
ここでは新造形主義の理論が唱えられており、抽象表現の可能性を追求するために様々な試みが行われています。
極限までの幾何学化と単純化を目指したモンドリアンは、それらの試行錯誤を行った作品に「コンポジション」の題名を付け、水平・垂直の直線と三原色から成る彼の代表的な作風を完成させていきました。
ロンドン・ニューヨーク時代
1930年代のモンドリアンは、抽象画家グループ「アプストラクシオン=クレアシオン」に参加しながら、コンポジションシリーズの制作を継続していました。
1938年、迫る戦火を避けるためにモンドリアンはロンドンへ移ります。
この頃から、「コンコルド広場」のように特定の地名を題材にした作品が描かれるようになりました。
さらに1940年にはニューヨークへ移り住みますが、アメリカに移ってからは上下左右の直線の数が多くなり、色彩もより鮮やかなものへ変化したことから作品の華やかさが増していきました。
そうして制作されたのが「ブロードウェイ・ブギウギ」であり、モンドリアン晩年の代表作となりました。
モンドリアンの代表作品
赤い風車
制作年 | 1911年 |
所蔵 | デン・ハーグ市美術館 |
「赤い風車」は、1911年に制作された作品です。
モンドリアン初期の作品であり、印象派やフォービスムなどから影響を受けていた彼のスタイルがよく表れています。
また、この作品は赤と青の原色を大胆に使用しており、この後に形成されていく彼の新造形主義の片鱗を感じ取ることもできます。
モンドリアンは風車をモチーフにした風景画を度々描いていましたが、この作品はそれらの情緒的な趣とは異なり、激しい色彩を用いることによって攻撃的な様相を帯びているいえます。
灰色の木
制作年 | 1912年 |
所蔵 | デン・ハーグ市美術館 |
「灰色の木」は1912年に制作され、モンドリアンがキュビズムの影響を受け始めた時期の作品です。
派手な彩色は使わず原色に近い色彩構成が見られ、線画にも極端な単純化が見られます。
作品のリアリティは純粋造形によって確立されるという彼の信念をよく表している作品であり、後のコンポジションシリーズにも繋がる作風の起点であるといえます。
格子のあるコンポジション3:菱形のコンポジション
制作年 | 1918年 |
所蔵 | デン・ハーグ市美術館 |
1920年代半ばから、モンドリアンは正方形のキャンバスを45度傾けた「菱形」シリーズのコンポジションを制作するようになりました。
「格子のあるコンポジション3」は、そのシリーズの一つであり、製図のようなアプローチを用いて幻想世界を表現した作品であるといわれています。
それまでの現代絵画でこのような作品は存在しなかったため、当時の美術界に大きな衝撃をもたらしましたが、後援者からの支持を失ってしまった作品でもあります。
赤、黄、青のコンポジションC
制作年 | 1935年 |
所蔵 | 個人所蔵 |
1935年制作の「赤、黄、青のコンポジションC」は、モンドリアンの名を世間に知らしめた代表作です。
戦争の勃発と共に変化したモンドリアンの作風ですが、この作品にはその変化が顕著にみられます。
原色と無彩色の平面を用いた抽象表現は、モンドリアンが「力学的平衡」と呼んでいた、絵画における純粋なリアリティ。
従来の絵画に見られる奥行などの空間表現を排除した先にあるという思想がよく表れています。
作品を通して個人の精神に働きかけ、より広い社会的影響を与えようとするモンドリアンの意志が表れた作品であるといえるでしょう。
ブロードウェイ・ブギ・ウギ
制作年 | 1943年 |
所蔵 | ニューヨーク近代美術館 |
「ブロードウェイ・ブギ・ウギ」は、1943年に完成したモンドリアン晩年の傑作です。
アメリカに移り住んだモンドリアンが、初めてジャズの「ブギ・ウギ」を聞いたときに触発されて作られた作品であるといわれています。
それまでの作品に比べて直線の数や色彩が増えたことから、より華やかさを感じさせる作品となっています。
完全な抽象絵画でありながら、ネオンの輝きやニューヨークの街を彷彿とさせるようなリアリティを帯びているこの作品は、モンドリアンがそれまで実践してきた美術理論の集大成ともいえるべき傑作です。
コンポジションシリーズの鑑賞ポイント
原色と直線で構成された絶妙なバランス
コンポジションシリーズの作品は、垂直線と水平線で区切られた面に赤、黄、青の原色を配置するといった抽象表現が特徴的です。
しかし、これらの線や色がバランスよく配置されることで、平面にもかかわらず造形を感じさせる趣があり、モンドリアンの提唱した新造形主義の本質が遺憾なく発揮されているといえます。
同じような絵柄の作品が存在している本シリーズですが、作品一つ一つでそのバランスが異なっていることからそれぞれで異なる造形を感じさせる点が大きな鑑賞ポイントであり、鑑賞者の創造性を刺激してくれます。
コンポジションの構成は、後世にも大きな影響を与え、ファッションやインテリアの生地にもよく取り入れられています。
単純で平面化された表現
モンドリアンの唱えた「力学的平衡」では、純粋なリアリティとの調和は平面のみで実現可能であるとされています。
つまり、従来の絵画のような奥行などの空間を排除した先に、その調和が実現すると考えられていました。
モンドリアンがその理論を実現するために制作を続けた作品がコンポジションシリーズであり、理想的な平面化を実現するにあたってはその構図を決めるために苦心と試行錯誤を繰り返しました。
その試行錯誤の過程や完成された新造形主義の本質を、シリーズを通して鑑賞することで感じることができます。
色の重なりによるリズム感
モンドリアンはジャズやブギウギなどのリズム感の強い音楽やダンスが好きな人物でした。
コンポジションシリーズの作品にも、そのリズム感がよく表れています。
原色や無彩色がバランスよく配置された構成では、その色の占める面積や隣り合う色などがモンドリアンによって緻密に計算されており、色の重なりによってリズム感を表現しているといえるでしょう。
また、これらのリズム感は「ブロードウェイ・ブギ・ウギ」などの後の作品にも繋がっていきます。
モンドリアンの作品が鑑賞できる美術館
京都国立近代美術館
国内でモンドリアンの作品が見られる施設は、京都国立近代美術館です。
1903年制作の「へイン湖畔の樹」や1916年制作の「コンポジション(プラスとマイナスのための習作)」、1929年制作の「コンポジション」が所蔵されています。
国内でモンドリアンの作品を鑑賞できる貴重な施設です。
京都国立近代美術館詳細
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
毎週金曜日・土曜日/9:30~20:00(入館は19:30まで)
休館日:月曜日
入館料: 大人430円 大学生130円 高校生以下・65歳以上は無料
オランダのデン・ハーグ市立美術館(世界最大級のモンドリアンコレクション所有)
オランダにあるデン・ハーグ市立美術館には、モンドリアンの作品を多く所蔵しています。
初期の作品からコンポジションシリーズ、晩年の傑作である「ビクトリー・ブギウギ」などが展示されており、世界最大級であるその所蔵数から多くのモンドリアンのファンが訪れる美術館です。
デン・ハーグ市美術館詳細
開館時間:10:00~17:00(祝日は11:00~)
休館日:月曜日 、1月1日、王の日(4月27日)、5月5日、12月25日
入館料: 大人13.5€ 18歳以下無料
ニューヨーク近代美術館(ブロードウェイ・ブギ・ウギ収蔵)
近代美術作品を多く所有しているニューヨーク近代美術館では、モンドリアンのコンポジションシリーズを中心とした作品を多数所蔵しています。
その中には、晩年の傑作である「ブロードウェイ・ブギウギ」も展示されているため、モンドリアンのファンなら一度は行っておきたい美術館といえます。
ニューヨーク近代美術館詳細
開館時間:10:30~17:30(土曜日は19:00まで)
休館日:サンクスギビングデー(11月第4木曜日)、12月25日
入館料: 大人25$ 学生14$ 65歳以上18$ 16歳以下無料
もっとモンドリアンについて知ることのできる本
モンドリアンと抽象絵画
「モンドリアンと抽象絵画」はモンドリアンを中心とした世界的な抽象画家の作品を掲載した書籍です。
モンドリアンの初期の作品から、コンポジションシリーズ、ニューヨーク時代の作品まで多数掲載しており、鑑賞のポイントなどの解説も加えられています。
発売日 : 2016/2/6
Piet Mondrian
2019年に発売された「Piet Mondorian(Artist Monographs)」は、210ページに渡り、印象派の風景画からキュビズム、抽象画までのモンドリアンの作品を収録し、分析を行っている書籍です。
モンドリアンに関する本の中でも、ボリュームが大きい内容となっており、モンドリアンのファンならぜひ一冊は持っておきたいところです。
発売日 : 2019/7/1
まとめ
「ブロードウェイ・ブギウギ」やコンポジションシリーズの作品が有名なモンドリアンですが、彼の作品を振り返ると、独自のスタイルを完成させるまでには多くの試行錯誤が行われてきたことがよくわかります。
彼が追求した新造形主義は、近代美術のみならず多くの分野に影響を与えました。
これを機にモンドリアンの作品を振り返ってみることで、より深く彼の作品を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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