第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展、日本館キュレーターは大西麻貴
2023年5月20日(土)〜11月26日(日)にかけて、イタリア・ヴェネチアで開催される「第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」。
日本館展示を主催する国際交流基金(ジャパンファウンデーション)は、建築家・大西麻貴がキュレーターを務めることを発表しました。
今回の日本館の展示テーマは「愛される建築を目指して」。
大西麻貴をはじめ、日本館の展示に関わる建築家、アーティスト、展示の詳細について詳しくご紹介します。
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ヴェネチア・ビエンナーレ(Biennale di Venezia)
ヴェネチア・ビエンナーレは、イタリア・ヴェネチアの市内各所を会場として、ビエンナーレ財団が主催する国際文化展です。
美術、建築、音楽、映画、演劇、舞踊の各部門の国際展が定期的に開催され、美術展と建築展は2年ごとに交互に行われています。
建築展は国別にパビリオンを構え、現代の建築の動向を俯瞰できる場として、世界的に注目されています。
ヴェネチア・ビエンナーレは、1895年の初開催以来、毎年開催されており、120年以上の歴史を持つ最も古い国際展です。
「ビエンナーレ」は「2年に一度」を意味するイタリア語で、他の国際展の多くが「ビエンナーレ」や「トリエンナーレ」(3年に一度)と名付けられているのは、ヴェネチア・ビエンナーレをモデルとしているためです。
日本館の展示は毎回キュレーターが選考によって決まるため、選考段階からキュレーター候補者自身が展示内容とチーム構成を決め、プレゼンテーションを行います。
キュレーター・大西麻貴
今回、日本館展示のキュレーターとして選出された大西麻貴(おおにし・まき)は、1983年愛知県生まれの建築家です。
2006年に京都大学工学部建築学科を卒業、2008年には東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程を修了し、2008年より「大西麻貴+百田有希/o+h」を共同主宰しています。
主な作品には、「シェルターインクルーシブプレイスコパル(山形市南部児童遊戯施設)」 (2022年)、「多賀町中央公民館 多賀結いの森」(2019年)、「Good Job! Center KASHIBA」(2016年)、「二重螺旋の家」(2011年)などがあります。
主な受賞歴として、第2回日本建築設計学会賞大賞(2018年)、JIA新人賞 (2018年)、日本建築学会作品選奨・新人賞(2019年)などを受賞しています。
展示テーマ「愛される建築を目指して」
大西麻貴が提案した日本館のテーマは、「愛される建築を目指して」(英語タイトル:Architecture,a place of mind)。
自身のキュレーター・ステートメントには以下のように記されています。
東日本大震災以降、地域におけるつながりや、ともにつくる大切さが見直されている現在もなお、都市では新たな開発が進み、均質で管理された空間が再生産され続けています。発注者や設計者の顔は見えず、施工は複雑・分業化し、誰も知らないところで建設が進んでいくことで、建築はますます人々から遠ざかり人々を孤立させているように感じられます。現代において、果たして建築は愛されているでしょうか。一方で、互いの違いを認め、違いを大切にするインクルーシブな考えが芽生えてきたことで、一つの価値観が全体を覆うのではなく「個」から出発した小さな共感の輪が重なりあいながら、全体を包摂していく社会へと変化していく兆しが見られます。そのような社会では、均質化や効率化から離れた、個性的で寛容な建築が必要となるはずです。それらを仮に「愛される建築」と名付けたいと思います。建築は通常、人や自然から離れた人工物だと思われていますが、ふとした瞬間、それらに生命が宿るように感じることがあります。例えば縄文時代の竪穴式住居や、茅葺き屋根の民家を見ていると、どこか毛むくじゃらの動物がうずくまっているような、あるいは蓑を来た旅人が一休みしているような様子を連想してしまいます。そのように、部材を組み合わせたというよりは、撫でてみたくなったり、体温が感じられたり、自分の思い通りにならないところがある、生き物のような建築を考えてみるところから、建築を捉え直せないでしょうか。建築が自らの意志を持ってそこに佇むような、寛容であたたかく、多くの人が自然と巻き込まれる「愛される建築」の可能性を、ともに考え、深めていくことが本展示の狙いです。愛される建築とは分節的というよりは、有機的組み立てるというよりは、生まれ育っていく美しいというよりは、愛おしいアノニマスというよりは、個性がある人工物というよりは、生き物のような「ある」というよりは、「いる」
なお、副キュレーターを務めるのは、「大西麻貴+百田有希/o+h」の共同主宰者でもあり、大西の夫でもある百田有希(建築家、一級建築士事務所 大西麻貴+百田有希/o+h 共同主宰)。
その他にも、森山茜(テキスタイルデザイナー・アーティスト)、水野太史(建築家、水野製陶園ラボ代表)、dot architects(建築家)、高野ユリカ(写真家)、原田祐馬(デザイナー、UMA/designfarm代表)、 多田智美(編集者、MUESUM代表)などが出展メンバーとして参加しており、分野横断的なメンバーで構成されています。
メンバー同士は、対話を通して「愛される建築」を考えるというプロセスに重きを置き、展示アイディアを変化させていきます。
最終的には全員が居心地が良く、 生き生きとした一つの日本館をつくることを目指しています。
これは、個から出発した小さな共感の輪が次第に全体を包摂していくという新たな場所づくりの方法論を、日本館を具体的な場として実践していくものです。
展示構成
展示は、主に外観、内部、ピロティという3つの場所で構成される予定です。
言葉を介さずとも空間体験として感じ取ることのできる展示を目指し、日本館そのものを展示物と捉え、パビリオン自体が「愛される建築」を体現化する、という構想です。
外観にはテキスタイルのマントを纏わせ、人々が自然と近寄りたくなる、生命を感じさせる佇まいに変化させます。
ストックホルムを拠点にするテキスタイルデザイナー・森山茜によるマントの庇は、日陰を作り出すと同時に、風を可視化することで心地良い空間を生み出します。
このテキスタイルは、繊維の過程から福祉施設との対話をもとに作られ、ビエンナーレ終了後には他の用途に転用される予定です。
内部空間は、天窓から降り注ぐ光が満ち、光を柔らかく反射するタイルによって、愛おしいものや大切なものをしまっておく宝箱のような空間を作る予定です。
「愛される建築」を考える上でヒントとなるインタビューの映像や、リサーチをまとめた模型などの資料展示を通して、来場者それぞれがテーマについて考えることを促します。
タイルは水野製陶園ラボ代表・水野太史によるもので、会期終了後には「愛される建築」を目指す場所へと再利用されます。
半屋外空間のピロティにはバーを備えつけ、人々が集まり語り合うことの出来るスペースをつくります。
この空間は来場者との対話を通して、ともに考える場として育っていきます。
定期的にトークイベントを開催し、建築家、施工者、運営者、地域の使い手や研究者など、様々な立場の人が話し手となる予定です。
建築家・家成俊勝が代表を務める「dot architects」がプロデュースを手がけます。
建築界のオリンピックと言われる「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」。
会期中には優れたパビリオンに、最高賞である金獅子賞が受賞されます。
現代社会において建築が何を実現すべきなのか、最新の建築の動向を垣間見に、来年の旅行の目的地に加えてみてはいかがでしょうか。
第18回 ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展
会期:
2023年5月20日(土)~11月26日(日)会場:
ジャルディーニ地区(Giardini di Castello)、アルセナーレ地区(Arsenale)ほか総合ディレクター:
Lesley Lokko総合テーマ:
The laboratory of the Future公式ウェブサイト:
http://www.labiennale.org
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