丹下健三とは?「世界のタンゲ」と呼ばれた有名建築家の生涯を詳しく解説
「世界のタンゲ」と呼ばれ、日本のみならず世界中で活躍した建築家、丹下健三(たんげ けんぞう)。
戦後から高度成長期にかけて活動し、日本の建築レベルを世界トップレベルまで引き上げた人物です。
1946〜1974年まで東京大学で教鞭を取り、現在活躍する日本の建築家たちに大きな影響を与えました。
この記事では、丹下健三の生涯や建築の特徴について解説します。
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丹下健三とは?
丹下健三(1913-2005)は、20世紀を代表する建築家の一人です。
日本の伝統的なスタイルとモダニズムを融合させた建築様式で高く評価され、公共施設など大規模建築を数多く手掛けました。
1913年に大阪府堺市に生まれた丹下は、幼少期を中国の漢口や上海で過ごします。
7歳の頃、父親の出身地である愛媛県今治市に家族で移住し、1930年には旧制広島高校(現・広島大学)へ進学するため、広島へ引越します。
在学中に建築家、ル・コルビュジエの作品をみて感銘を受けた丹下は、建築家になることを志します。
丹下は1941年、東京帝国大学(現・東京大学)工学部建築科に入学。
卒業後は建築事務所での仕事を経て東京帝国大学の大学院に進学し、建築のコンペで1等に入選します。
1946年には東京大学助教授となり、丹下研究室を設立しました。
丹下は都市計画家としても名高く、日本各地の戦災復興都市計画に参加し、戦後の復興に尽力しました。
1980年には文化勲章受章、1987年にはプリツカー賞を受賞しています。
丹下健三の生涯
幼少期を中国で過ごす
1913年、大阪府堺市に生まれた丹下は、幼少期を中国の漢口や上海で過ごします。
7歳の頃、父親の出身地である愛媛県今治市に家族で移住し、茅葺き屋根の日本家屋で暮らしていました。
1930年には、旧制広島高校(現・広島大学)へ進学するため広島へ引越します。
丹下はここで初めて、ル・コルビュジエの作品と出会いました。
図書館で偶然手に取った外国の美術雑誌に掲載されていた、ル・コルビュジエの建築模型「ソビエト宮殿の図面」(上)に感銘を受け、建築家になることを志します。
東京帝国大学工学部建築科に進学
丹下は旧制広島高校を卒業後、東京帝国大学(現・東京大学)工学部建築科を受験しますが、2回とも不合格となります。
徴兵から逃れるため、日本大学芸術学部映画学科へ入学したものの、授業にはほとんど出ずに西洋文学を読み耽ったり、名曲喫茶に出入りしていました。
1935年には念願だった東京帝国大学工学部建築科に合格し、内田祥三・岸田日出刀・武藤清らに師事します。
1938年には、優秀な建築学部の学生に贈られる辰野賞を受賞しました。
前川國男建築事務所に就職、大学院へ
1938年、東京帝国大学工学部建築科を卒業した丹下は、前川國男建築事務所に就職しました。
代表の前川國男(1905-1986)は、ル・コルビュジエやアントニン・レーモンドの元で学んだ有名な建築家です。
前川の元でモダニズム建築を学んだ丹下は、就職から3年後の1941年、東京帝国大学工学部の大学院へ進学。
高山英華(1910-1999)の研究室に参加した丹下は、都市計画の研究に着手し、翌年の1942年に大東亜建設記念造営計画設計競技で1等入選を果たします。
東京大学建築科 助教授に就任
1946年に大学院を修了した丹下は、東京大学建築科助教授に就任し、丹下研究室を主宰しました。
丹下研究室はその後、黒川紀章、磯崎新、浅田孝、槇文彦など、多くの有名な建築家を輩出しています。
丹下は61歳になる1974年まで東京大学で教鞭を取りました。
また日本国内のみならず、ミラノ工科大学、ハーバード大学、清華大学など世界各国の大学で建築の教育にも携わりました。
1970年、大阪万博の会場設計・プロデュースを手掛ける
1970年に開催された大阪万国博覧会で、会場のマスタープランを任された丹下は、各国の個性的なパビリオンが並ぶ会場をまとめるための構造が必要だと考えます。
そこで登場したのが、中央広場と広場全体を大屋根で覆うという案でした。
東西108m・南北291mに渡る大屋根の重さは、推定5,000トン。
さらに、大屋根の下に設置するモニュメント制作を任された芸術家・岡本太郎の要望によって、太陽の塔を設置するための大屋根に大きな穴を開けることになります。
丹下は、スペースフレーム工法を駆使して、巨大な大屋根をたった6本の柱で支えてみせ、世界に日本の建築技術力の高さをアピールしました。
日本人として初めてプリツカー賞を受賞
丹下は1987年74歳のときに、日本人として初となる「プリツカー建築賞」を受賞しました。
アメリカのホテルチェーン「ハイアットホテルアンドリゾーツ」を経営するプリツカーファミリーによって運営されているプリツカー建築賞は、「建築界のノーベル賞」とも言われ、毎年優秀な建築家に授与される賞です。
プリツカー建築賞を受賞した日本人建築家
丹下以降、国籍別では現在最多となる、8名の日本人建築家が受賞しています。
丹下健三(1987)
槇文彦(1993)
安藤忠雄(1995)
妹島和世(2010)
西沢立衛(2010)
伊東豊雄(2013)
坂茂(2014)
磯崎新(2019)
退官後、都市計画の分野に注力
丹下は1974年61歳のときに東京大学の教授職を定年で退官し、その後は、国家規模のイベントや都市計画に携わるようになりました。
国内のみならず20カ国以上で建築や都市計画を手掛けており、丹下が提案した「ナイジェリア新首都都心計画(1979)」、「ナポリ市新都心計画(1980)」、「ルンビニ釈尊生誕地聖域計画(1976)」などは、現在進行形で実現されようとしています。
晩年
丹下は2005年3月22日に心不全のため91歳で亡くなります。
亡くなる3年前まで活動を続け、高松宮殿下記念世界文化賞や、フランスの最高勲章「フランスレジオンドヌール勲章」を受賞しています。
カトリック教徒であった丹下の葬儀は、自身の設計した東京カテドラル聖マリア大聖堂(上)で執り行われました。
作品の特徴
柱や梁を見せたダイナミックな構造
丹下作品の特徴の一つは、柱や梁を組み上げて見せる、日本の伝統的な木造建築の様式を取り入れている点です。
丹下の初期の傑作といわれる香川県庁舎(1958)では、打ちっぱなしのコンクリートで作られたダイナミックな柱梁(ちゅうりょう)を見ることができます。
香川県庁舎の建築スタイルは、その後の庁舎や公共施設などのお手本になりました。
コンクリートを使った柔軟性のあるデザイン
丹下はコンクリートや鉄など、堅牢な素材を使いながら、柔軟性のある優美なデザインの作品を多く設計しました。
東京カテドラル聖マリア大聖堂(1964)は、「HPシェル」と呼ばれるコンクリートでできた8枚の曲面板をつなぎ合わせており、上空から見ると十字架の形になっています。
教会内部には柱がなく、打ちっぱなしのコンクリートの内壁が空間をより荘厳に見せます。
一見すると無機質に思えるコンクリートですが、丹下はデザインによってさまざまな表情を作り出しました。
丹下健三が育てた門下生たち
磯崎新(1931〜)
磯崎新(いそざきあらた)は1931年生まれ、大分県出身の建築家です。
1960年に丹下研究室に所属し、丹下健三の都市構造改革案「東京計画1960」にも関わりました。
1963年には丹下研究室を退職し、自身の磯崎新アトリエを設立。
ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展金獅子賞やプリツカー賞を受賞しています。
磯崎新の代表作品
ロサンゼルス現代美術館(1986)
東京造形大学(1993)
奈義町現代美術館(1994)
槇文彦(1928〜)
槇文彦(まきふみひこ)は1928年生まれ、東京都出身の建築家です。
1952年に東京大学工学部建築学科を卒業した後の数ヶ月間、丹下研究室に在籍し、外務省庁舎のコンペを担当しました。
その後アメリカへ渡り、クランブルック美術学院及びハーバード大学大学院の修士課程を修了します。
現地の大学で教鞭を取ったあと日本に帰国し、槇総合計画事務所を設立しました。
1979年には東京大学の教授に就任。1993年にはプリツカー賞を受賞します。
槇文彦の代表作品
京都国立近代美術館(1986)
幕張メッセ(1989)
横浜アイランドタワー(2003)
黒川紀章(1934〜2007)
黒川紀章(くろかわきしょう)は1934年生まれ、愛知県出身の建築家です。
1957年に東京大学大学院へ進学、丹下研究室に所属します。
大学院に在籍中に「株式会社黒川紀章建築都市設計事務所」を設立しました。
1986年にフランス建築アカデミーのゴールドメダルを受賞、2006年には文化功労者として表彰されています。
2007年に膵臓がんで亡くなりました。
黒川紀章の代表作品
国立新美術館(2007)
日本赤十字社本社(1977)
国立文楽劇場(1983)
六本木プリンスホテル(1984)
谷口吉生(1937〜)
谷口吉生(たにぐち よしお)は1937年生まれ、東京都出身の建築家です。
慶應義塾大学工学部を卒業後、ハーバード大学建築学科大学院へ進学し、修了後はボストンの建築設計事務所で勤務しました。
1965年から丹下研究室および丹下健三都市・建築研究所への所属を経て、谷口建築設計研究所を設立しています。
谷口吉生の代表作品
東京都葛西臨海水族園(1989)
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(1991)
ニューヨーク近代美術館新館(2004)
丹下健三の功績、後世への影響
丹下は、欧米でのムーブメントであったモダニズムの建築様式のなかに、日本の伝統的な建築美を取り入れたことで高く評価されています。
コンクリートや鉄といった新時代の素材を用いた合理的なデザインと、日本の木造家屋に見られるような梁や柱の構造を融合させ、世界の建築の流れをポストモダニズムへと動かしました。
また、丹下は国内外の都市計画も多く手掛けました。
現在でも、ナイジェリアやネパールでは丹下のマスターピースを元に都市計画が実行されています。
「丹下健三」のおすすめ関連書籍
丹下健三建築論集
「丹下健三建築論集」は、豊川斎赫による2021年発売の建築論集です。
「丹下健三都市論集」との二巻構成となっており、丹下の仕事を年代ごとに振り返ることができます。
丹下健三―戦後日本の構想者
「丹下健三――戦後日本の構想者」は、豊川斎赫による2016年発売の論考書です。
戦後からバブル経済期にかけての丹下の業績を振り返ります。
また、丹下シューレ(丹下の門下生のこと)が、どのように活動していったかを知ることができる一冊となっています。
まとめ
丹下健三の活躍は、戦後日本の建築を世界トップレベルにまで押し上げました。
東京大学に教授として長く在籍し、丹下研究室からは多くの優秀な建築家を輩出、彼らは現在の建築界を牽引しています。
建築史に多大な功績を残した丹下健三に興味を持った方は、ぜひ現存する建築を訪れてみてください。
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