菱川師宣の浮世絵「見返り美人図」を解説!見どころはどこ?
赤い着物を着た女性がこちらを振り返っている「見返り美人図」。
浮世絵の中でも特に有名な一枚で、教科書や広告などで見たことがあるという人も多いのではないでしょうか。
ユニークな構図や色合いなどがとても印象的な作品ですよね。
今回は「見返り美人図」の特徴や時代背景、また作品の見どころを徹底解説いたします。
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「見返り美人図」とは?
制作年 | 17世紀 |
作家 | 菱川師宣 |
作品サイズ | 63.0cm × 31.2cm |
所蔵 | 東京国立博物館 |
”浮世絵の祖”と呼ばれる菱川師宣の代表作「見返り美人図」。
師宣の晩年の作品で、1693年頃に描かれたと言われています。
「見返り美人図」はその美しさもさることながら、当時の文化や流行をもひも解くことができる一枚で、浮世絵の歴史の中でも重要な作品とされています。
1948年の戦後初となる週間切手に採用されたことも、この作品が有名になったきっかけの一つでした。
「見返り美人図」の記念切手は現在でも人気が高く高値で取引されています。
「見返り美人」の語源にもなった作品
「見返り美人」の意味は、振り返って横顔を見せた姿が美しい女性のこと。
現代でも、美しい女性を称賛する言葉として多く使われている言い回しです。
菱川師宣の「見返り美人図」は日本美術を代表する作品として有名であったため、この作品と同じ立ち姿を表す言葉として広く定着しました。
菱川師宣の浮世絵
戦国時代が終わり平和な世の中になった、江戸時代の前期に活躍した菱川師宣。
それまでは芸術文化といえば特権階級・支配階級のもので、庶民には無縁のものでした。
江戸の町の発展と共に、日本の歴史上初めて庶民が文化の担い手となったのが江戸時代の元禄文化。
特に江戸の町民による文化の1つに、地本と呼ばれた版本がありましたが、その地本の挿絵で人気を得たのが菱川師宣です。
菱川師宣「好色一代男」の挿絵(1684年)
そして菱川師宣は、庶民に人気だった浮世絵版画を独立した一枚の絵画のレベルまで高めます。
彼は浮世絵をアート作品にした”浮世絵の祖”と呼ばれた人物なのです。
その浮世絵を代表する1つの作品が有名な「見返り美人図」。
「師宣の美女こそ江戸女」と称されるほど、菱川師宣の美人画は当時の町人の間で大人気で、彼の名前をさらに高めていきました。
江戸の「美人画」とその背景
浮世絵の中でも特に人気だったのが、美人画と呼ばれる女性を描いた絵画です。
庶民は遊里と芝居町には行けなかったのですが、手頃な値段の版画で美しい芸者さんを見られるということで、美人画が庶民の間に美人画が人気となって広まっていきました。
江戸時代の美人画は、現代のアイドルのプロマイド写真のようなもので、歌舞伎役者や遊女からお茶屋さんの看板娘まで多く描かれています。
「難波屋おきた」の看板娘
美人のポロライド写真が人気なのは、アイドルの写真が多く流通する現代と変わらないようです。
また、江戸時代の美人画は写実性を重要視したリアルなものではなく、女性の美しさをより強調して描かれています。
面長で切れ長な目、鼻筋がスッと通り小さな口ときめ細やかな白い肌がより強調されているのが特徴的です。
「見返り美人図」の特徴
”一人”の美人画
それまで日本の絵描きは、当時の風俗を伝えるため、庶民を書く場合数人以上の大人数を描くことが一般的でした。
しかし江戸時代に、依頼主である町人が興味を引く画題である美人や遊女などを好んだため、1人の女性のみを描く作品が登場します。
人々の集まっている様子ではなく、一人の人物を描くようになった流れを代表する作品が「見返り美人図」なのです。
ユニークで計算された構図
「見返り美人図」では、女性が歩く途中でふっと振り返った瞬間的な動きの中に美しさを見出しています。
多少、女性のポーズが捻じれすぎて不自然な感じもありますが、着物と帯のデザインと身体のラインをしっかり見せながらも女性の顔が見えるようにした計算されたポーズとも言えます。
無背景に一人立ちの女性像は、浮世絵に先行する近世初期風俗画の寛文美人図の構図に倣ったもの。
女性の動きと美しさを際立たせるために背景は描かれていません。
女性の目線の先に何も描かれていないことによって、あえてどこを見ているのか分からない神秘性も、この作品が名画と言われている理由の一つです。
「見返り美人」の鑑賞ポイント
当時の流行ファッション
「見返り美人図」にも多分に漏れず、江戸時代前期の最新ファッションが取り入れられています。
それぞれポイント別に解説していきます。
まずヘアスタイルですが、これは玉結びといいます。
前髪は別にとって立てて膨らまし、後ろ髪は輪状に結んでいるスタイルが「玉結び」。べっ甲製の差し櫛と笄がを刺しており、笄の先端には家紋の透かし彫りまで入っています。
次に注目したいのは着物。
当時高級品であった紅で染められた生地には絞りが入り、白と水色の糸での刺繍・そして黄色の花は金糸による刺繍が施されています。
師宣は縫箔師の家で育ったこともあり、着物の柄が細密に描かれています。
そして帯は、当時流行していた「吉弥結び」になっています。
また、この女性は振袖を着ているので、まだ未婚の女性です。
そして左手は手先を袖から出さず、右手は着物の褄を持ち上げて裾を引きずって歩いているので、経済的に豊かな女性であることがわかります。
お金持ちの美人女性が最新・最高級のファッションに身を包んでいるのがこの「見返り美人図」。
当時の美人画が、ファッション紙のような役割を持っていたことが伺えます。
「見返り美人図」を所蔵する美術館
東京国立博物館
「見返り美人図」が収蔵されているのは東京・上野の東京国立博物館。
国宝89点、重要文化財646点を含む約12万点を収蔵しており、これとは別に寄託品も約2600点を収蔵しています。
常設としては約3,000点が展示されており、それ以外にも特別展が随時行われています。
残念ながら「見返り美人図」は常設展示ではありませんが、数年に1度は特別展として展示されているので、タイミングが合えば直接お目にかかれるかもしれません。
東京国立博物館の詳細
開館時間
9時30分~17時00分(入館は閉館の30分前まで)
休館日
月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)
住所
〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
アクセス
JR上野駅公園口より徒歩10分料金
大人 ¥1,000 大学・高校生 ¥500
まとめ
今回は「見返り美人図」の特徴から、作品から読み取れる当時の流行についてなどを解説しました。
上野の国立博物館でまた公開されましたら、是非本物を見に行ってみてくださいね。
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