村上春樹の代表作品や経歴を解説
日本で最も有名な作家といえば、「村上春樹」ではないでしょうか。
近年では唯一ノーベル文学賞候補となっている日本人作家であり、英国ブックメーカーサイトでは毎年必ず有力候補に挙げられるほど世界的にも知名度が高い作家です。
ノーベル賞の発表される秋頃には毎年ニュースで取り上げられるため、老若男女問わず広く知られています。
そんな村上春樹には、ジャズバーを経営していた過去や、洋書の翻訳やエッセイの執筆も行っているという、あまり知られていない側面があります。
今回は、村上春樹の経歴から代表作品を詳しく解説していきます。
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村上春樹とは?
現代日本を代表する作家
村上春樹は、日本のみならず海外からも愛される、現代日本を代表する作家です。
代表作である「ノルウェイの森」は全世界で累計1000万部を突破。世界中にmurakamiファンが存在します。
また、文壇からの作品の評価も高く、2006年にはチェコの文学賞である「フランツ・カフカ賞」を、アジア人で初めて受賞しました。後のノーベル賞作家が数多く選ばれているこの賞は、ノーベル賞の登竜門と呼ばれている賞です。
海外サイトからもノーベル文学賞候補として挙げられている通り、村上春樹は海外からも非常に高い評価を受けています。
村上春樹作品の特徴
村上春樹作品の際立った特徴は「文体」と「メタファー」です。
文体は平たく言えば緩く、平易な表現です。「敷居の低さ」「心に訴えかける」文体をアメリカ作家のブローティガンとヴォネガットから影響を受けたと、村上春樹自身が語っています。
また、メタファーが多いことも村上春樹の大きな特徴になります。メタファーとは比喩の中の一種で、暗喩のこと。局所のみならず、登場人物や世界全体をメタファーで表現し、不可思議な世界を作り上げます。
医師で批評家の斎藤環は、村上春樹のメタファーについて、
隠喩能力を、異なった二つのイメージ間のジャンプ力と考えるなら、彼ほど遠くまでジャンプする日本の作家は存在しない
と評しています。
こうした独特の文体やメタファーから作り上げられる「世界観」により、多くの人々が心がつかまれています。村上春樹を専門に、文学研究をしている研究者も多く存在するほどです。
翻訳家・エッセイストとしての活動
英語が堪能な村上春樹は、翻訳家としても活動しています。
中でも、サリンジャーの名作「ライ麦畑でつかまえて」を新訳した「キャッチャー・イン・ザ・ライ」は、まるで村上作品を読んでるかのような強い村上色がある翻訳がされています。
また、多趣味である村上春樹はその軽い文体や表現が好まれ、エッセイも大人気。処女作「遠い太鼓」は、村上春樹が3年間イタリア、ギリシャを中心にヨーロッパを旅しながら旅とは何かを考えたエッセイです。
他にも、趣味のマラソンを通して考えた、走ることの哲学や、書くこととの強いつながりを綴った「走ることについて語るときに僕の語ること」など、幅広いテーマのエッセイを執筆しています。
村上春樹の経歴
生い立ち
京都府京都市で生まれた村上春樹は、まもなく兵庫県西宮に転居。
高校まで西宮・芦屋市にて育ちました。幼いころより本が大好きだった村上は、自宅にあった数多くの書籍を読破します。
兵庫県立神戸高校高校時代には、外国語文学に傾倒。辞書を片手にわからない単語があれば調べる、という独自の方法で洋書を乱読しました。
高校卒業後、1年の浪人を経て早稲田大学第一文学部に入学。映画演劇学科に進みます。
なお、入試科目だった英語は「洋書」で、世界史は「世界の歴史」と読書の中で学んだため、入試のための勉強は全くしていなかったとのこと。
ジャズ喫茶を開業
早稲田大学に進学後、村上春樹は映画脚本を読みふけるようになり、ほどなくして学校に通わなくなります。
レコード屋でアルバイトし、ジャズ喫茶に入りびたる日々。
入学から3年後の1971年には、高橋陽子さんと学生結婚をしました。
そして、1974年に二人で貯めた250万円と借りた250万円を元手に、国分寺にジャズ喫茶「ピーターキャット」を開業します。
その後小説家として専業になることを決意するまで、7年間ジャズ喫茶を続けることになりました。
小説家デビュー
1978年4月1日、明治神宮球場で野球観戦中だった29歳の村上は、ふと小説家を志します。
ジャズ喫茶を経営する傍ら処女作「風の歌を聴け」を書き上げ、「群像」に応募。
この作品で、見事「第22回群像新人文学賞」を受賞。小説家デビューを果たしました。
「風の詩を聴け」は、アメリカ文学に強い影響を受けた、都会生活を克明に描く表現が高く評価され、大きな注目を集めます。
そして、村上春樹は次世代の作家として、次々と話題作を発表していくことになりました。
小説家としての成功
「風の歌を聴け」に続いて、「1973年のピンボール」、「羊をめぐる冒険」を出版し着々と評価を高めていった村上。
そして1987年”100パーセントの恋愛小説”と銘うった「ノルウェイの森」が430万部以上の超大ヒットを記録します。
これにより、作家としての人気が不動のものとなりました。
その後も、「ねじまき島クロニクル」「1Q84」「騎士団長殺し」など出すたびに100万部を超える売り上げを記録。
直近に出版された「女のいない男たち」も30万部を記録するなど、今なお根強い人気を誇ります。
海外でも、ノルウェイの森は600万部近くを売り上げるなど非常に高い評価を受けました。
初期の「鼠三部作」
「風の歌を聞け」 1979
デビュー作であり、村上春樹という作家の始まりともいえるのが、「風の歌を聞け」。
29歳の「僕」が8年前の夏の経験を、文章に書き起こすところから物語が始まります。
「僕」「友人の鼠」「小指のない女」の3人を軸に、過ぎていく夏を淡々と展開されていき、ストーリーには大きな起伏はありません。音楽を聴いて酒を飲んだりしながら、僕と鼠の会話と僕の独白で物語が進んでいきます。
「1973年のピンボール」1980
1973年のピンボールは、風の詩を聴けの翌年に発行された、鼠三部作の2部に当たる作品。
「翻訳家である僕」と「大学をやめて放蕩している鼠」の日常が軸になっています。「僕」は、双子の少女と出会い、やがて彼女たちと生活していくことに。
一方時間の感覚を喪失した友人の「鼠」は、何をしていても心は孤独を感じています。そしてふいに僕と鼠は、かつて共に情熱を注いでいた、ピンボール台”スペースシップ”のことを思い出します。
「1973年のピンボール」もまた、ストーリーの大きな起伏はありません。
「風の詩を聞け」より数年が経過していることから、青年期の焦りや諦めの感情描写が作中で多くなっていると言われています。
「羊をめぐる冒険」1982
鼠三部作を締めくくる「羊をめぐる冒険」。
前作から数年が経過し、結婚も離婚も経験した「もうすぐ30歳になる僕」は、娼婦でもあり耳専門のモデルでもあり、事務員でもある女の子「キキ」と知り合います。
そして「鼠」から送られてきた写真に映りこんだ「羊」を探しに、キキと共に旅に出ます。
鼠三部作にして初めて、「羊を追いかける」というストーリーの筋が存在する作品です。
羊の行方を捜しながら時間が過ぎるにつれて多くの登場人物と出会い、物語に波が生まれていきます。
村上春樹の代表的な長編小説
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」 1985
村上春樹初の描きおろし長編小説である「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」。
「第21回谷崎潤一郎賞」を受賞したことで、更なる注目を浴びるきっかけとなった作品でもあります。
作品の構成は、「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という二つの世界の物語が交互に展開するというもの。
1つは、一角獣が生息し壁に覆われ外界と隔絶されている街「世界の終わり」にいる「僕」の物語。
もう1つの「ハードボイルド・ワンダーランド」は、暗号解析をする計算士・「私」が、自身に組み込まれた「装置」の謎を解明していく物語です。
この「2つの世界を行き来する」構成は、その後も「海辺のカフカ」や「1Q84」でも使われていきます。
「ノルウェイの森」1987
村上春樹作品の中で最も売り上げが高く、唯一のリアリズム作品と呼ばれるのがこの「ノルウェイの森」です。
主人公・ワタナベは37歳。
ドイツ行きの飛行機を降り、ビートルズの「ノルウェイの森」を聴いたことがきっかけで、若い頃の様々な物語(高校時代に親友を自殺で失ったこと、彼の恋人であった直子と大学時代に再会することなど)を思い出すところから、物語が始まります。
その矢先に直子は彼女は精神の調子を崩し、京都の施設に入ります。ワタナベは偶然出会った女性・緑に惹かれていきます。
ファンタジー色が強かったこれまでの作品とは打って変わって、非常に現実的な雰囲気のある物語になっています。
村上春樹作品の世界観をとくと味わえる大ヒット作です。
「ダンス・ダンス・ダンス」1988
羊をめぐる冒険から、4年後の「僕」が語る後日譚となっています。
主人公は、友人の鼠を失った喪失感で絶望しながらも、フリーランスのライターとして日々を過ごしていた「僕」。
ある日、偶然再会した「羊男」に、「失ったもののせいで、君は現実の自分結び付いていない」ことを告げられます。
そして、僕が自分を取り戻すために選んだ道は、音楽の続く限り「踊る」ことでした。
リアリズムで評価されたノルウェイの森の次回作ながら、非常に世界観の強い作品。
洗練された継ぎ目のないシームレスな展開の美しさは、村上作品の到達点との呼び声も高いものとなっています。
「国境の南、太陽の西」1992
「国境の南、太陽の西」は、長編ラブストーリー作品です。
舞台は、バブル絶頂期の東京。前半は、「僕」が会社を辞めバーを開店するまでの半生、そしてバーに成功し子宝にも恵まれて、安定した人生を手に入れるまでが描かれています。
後半は、絵にかいたような幸せを手にした僕が、小学校の同級生で、かつて好きだった島本さんが店に現れ、不倫関係になっていきます。
「ねじまき鳥クロニクル」1994
村上春樹史上最大の長編小説が「ねじまき島クロニクル」です。
この作品のベースとなったのは1986年に書かれた短編「ねじまき鳥と火曜日の女たち」。
仕事を辞めて主夫として日々を送る「僕」と、雑誌編集者「クミコ」の結婚生活は、飼っていた猫が失踪したことを境に少しずつバランスが崩れ始めます。
そしてある日、「クミコ」は僕に何も言わず失踪。やがてクミコの失踪の裏に、彼女の兄「綿谷ノボル」の存在があったことが見えてきます。
ねじまき鳥クロニクルは、1939年に発生した「ノモンハン事件」に関係した描写が多数あります。村上春樹が、初めて明確に「歴史的事実」を取り入れた作品でもあります。
「スプートニクの恋人」1999
22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちます。
相手は17歳年上で、既婚者で女性のミュウ。小学校の教師である「ぼく」はすみれと出会って以来、すみれに恋をしている…。
8月のはじめ、ローマ消印の手紙をもらった「ぼく」は、すみれとミュウがヨーロッパで働いていることを知り、「ぼく」は急いでギリシャの小さな島へ向かいます。
これまでの村上の特徴であった緩い文体を封印し、厳格な文章で書いた実験的作品。
その結果、作品全体が非常にきっちりしていて、タイトな印象を与えています。村上作品の中でも状況描写が克明で美しく、あまり癖がないことも特徴だと言われています。
「海辺のカフカ」2002
15歳の少年「田村カフカ」は、父親からかけられたある呪いの言葉から脱するために、家出を決意。
途中カフカは、猫語を話せる老人「ナカタさん」と出会います。
ナカタは「猫殺し」に出会い、ひょんなことからその男を殺してしまいます。そして、2人の人生は交錯し不思議な世界に迷い込んでいきます。
これまで青年の主人公がほとんどだった村上作品において、子供、そして老人が主人公の珍しい作品。一人の少年と一人の老人が織りなす、ファンタジーな冒険です。
「ねじまき島クロニクル」と「世界の終りとハードボイルドランド」が融合したような、幻想的で重厚な旅を描いた作品です。
「アフターダーク」 2006
深夜の「デニーズ」で食事をとっている19歳少女・マリに、話しかけたのは、高橋という若い男。
姉「ユリ」のことを高橋と会話したのち、マリはラブホテルで暴行を受けたという娼婦グオ・ドンリの元を訪れます。
街周りの事件や人間模様を視点を変えながら「私たち」は観察を始めます。
ニューヨーク・タイムズ選「2007年注目の本」小説部門ベスト100に入るなど、海外からの注目度も高かった作品がこちら。
都会の深夜の深夜の闇からから夜が明けていくまでの約7時間を、18の短い章で描いています。
章によって視点は切り替わらず、語り手は一貫して実体や質量を持たない「私たち」であることが特徴です。
「1Q84」2009
前作「アフターダーク」から5年ぶりに出版された「1Q84」は、当時大ヒットして世間を多くにぎわせた作品です。
タイトルの通り、ジョージ・オーウェルの近未来小説「1984年」がモチーフ。
孤独な10歳の少年少女であった「天吾」と「青豆」は、お互い相思いになるも、実ることなくそのまま離れ離れになります。
月日が経過した1984年4月、2人はそれぞれ現実世界とは少し異なる「1Q84年」の世界に入り込んでしまいます。
そこで、さまざまな出来事、試練に遭遇。
20年ぶりの再会を果たし、そして1984年の世界に戻るまでの物語です。
「色彩を持たない多崎つくると、 彼の巡礼の年」 2013年
「1Q84」完結後最初の長編小説。発表と同時に予約が殺到し、出版後は7日で100万部を突破するなど大変話題になりました。
主人公・多崎つくるは、高校時代からの中である友人たちに、大学2年の夏に突然「絶縁」を宣言されてしまいます。深いショックを受けた多崎。絶望の淵に立ちますが、友人の灰田のおかげでなんとか踏みとどまります。
それから10数年後、36歳の多崎は、2歳年上の沙羅と親密な関係になります。傷ついた過去のことを話すと、沙羅は、「そろそろ理由を聞いてもいいんじゃないか」と進言。
そして多崎は、かつての友人に絶縁の理由を聞く「巡礼の旅」に出ることを決めます。
「騎士団長殺し」2017
「騎士団長殺し」は、2017年に村上が67歳の時に出版した作品で、ページ数は1000を超える超大作。
主人公「私」は、友人の父親のアトリエに居候する、肖像画家。
ある日、アトリエの屋根裏で「騎士団長殺し」というタイトルの日本画を発見し、そこから不可思議な世界に迷い込んでいきます。
幻想的かつ継ぎ目のないシームレスに展開されていく様は、村上ワールドの真骨頂と言える作品です。
村上春樹の代表的な短編集
「中国行きのスロウボート」1983
村上春樹作品の中で初の短編集。
「1973年のピンボール」の後に書かれた四編と「羊をめぐる冒険」の後に書かれた三編を収めています。
そのためか、幻想的な編やリアリズムな編が入り混じっており、村上春樹の作家としての変遷が感じられる短編集です。
表題になっている「中国行きのスロウポート」は、主人公が知り合った3人の中国人の記憶についての物語です。
「カンガルー日和」1983
前作の「中国行きのスローポート」とほぼ同時期に書かれた、村上春樹2作目の短編集。
今は存在しない雑誌「トレフル」で連載された、短めの18話が収録されています。
短いながらもその一つ一つは明確に特色があり、奇妙な物語だったり、風刺的なものだったり、ハードボイルドタッチなものだったりと様々。
星新一に代表されるような、いわゆるショートショートに分類される短編集で、非常にテンポ良く読むことができます。
「螢・納屋を焼く・その他の短編」1984
カンガルー日和の翌年に発行された、5作からなる短編集。
これまでの短編よりも少し長めにしっかりと書き上げているため、読後には長い余韻を感じられます。
収録作の一つである「蛍」は、かの「ノルウェイの森」の元となっている短編で、ノルウェイの森の序文にあたるとのこと。
蛍は非常にリアリズムな作品で、文章から鮮明なイメージが浮かんでくるような細かな描写がなされています。
まとめ
今回は、世界中から評価される村上春樹の、経歴・代表作を見てきました。
小説家として有名な一方、エッセイや翻訳なども人気で、幅広い活動を行っていることがわかりますね。
また、音楽に造詣が深い村上春樹の作品には、多数の海外音楽が出てきます。そういった点に注目して村上作品を読んでみるのも面白いかもしれません。
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