ウクライナロシア
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ウクライナ文化機関の公開書簡全文、ロシアへの文化的制裁を求める声明を発表

ウクライナの文化機関であるウクライナ研究所は世界各国に対し、ロシアとの国際的な文化協力を断ち切ることを要求した公開書簡を発表しました。

ウクライナのアーティストや文化事業に関わる人々は、ロシアの文化人たちが長年にわたり政治に消極的な姿勢を示してきたことが、今回の戦争に繋がっていると考えています。

ウクライナとロシアの戦争に対する意識の違い、民主性と政治的主体性取り戻したウクライナの歴史について詳しく解説します。

 

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ロシア、ウクライナ両国の戦争に対する意識の違い

2022年3月1日、ロシアはキエフのテレビ塔に弾道ミサイルを打ち込みました。

この場所は、1941年にナチス占領下のヨーロッパで最大級のユダヤ人大量虐殺が行われたバビ・ヤールに隣接しています。

 

この出来事を受けて、ウクライナの著名なアーティスト、ニキータ・カダン(Nikita Kadan)は、

「Russia bombed Babyn Yar today 」

というキャプションとともに、1941年当時の虐殺現場の記録写真をSNS上に投稿しました。

 

この投稿に対して、ロシアの美術史家兼キュレーターのエカテリーナ・デゴ(Ekaterina Degot)は、

「ロシアじゃない。プーチンがやったのだ。」

とコメント。彼女の投稿に対し、ウクライナのアート関係者がSNS上で猛反発しました。

両国の意見相違は、文化、政治、戦争に対するロシアとウクライナの考え方の深い溝を象徴しています。

 

政権から距離を置くロシア文化人

エカテリーナの言動について、ウクライナのアート関係者たちは「リベラルなロシア文化人の典型的な姿勢」という風にも捉えています。

ロシアの文化事業関係者は、ロシア政府の攻撃的な内政・外交政策に対する説明責任を拒絶し、政府から完全に距離を置く傾向があるからです。

エカテリーナのコメントは、彼女が1ロシア人としての説明責任を放棄していることを世界にアピールする形となり、この事実はウクライナの関係者を落胆させました。

 

「ロシア帝国主義」下のロシア文化機関

エカテリーナをはじめとするロシア文化人らの言動には、自分たちがこれまで政治に対して受動的な姿勢を取ってきたことと、今回の戦争が密接に繋がっているという意識が感じられません。

現在のロシア政府は、一見文化事業と距離を置いているように見えますが、そこには完全に切ることが出来ない複雑な関係が存在しています。

 

ロシアの芸術文化機関は、石油やガスなどで富を得たロシアのオリガルヒ(政治的権力を持つ新興財閥)からの資金と、ロシア政権に反対する団体の支援を目的とした非営利団体からの資金の両方によって支えられています。

 

このように相反するスポンサーの資金を得て、2019年にパリのグランパレで開催された「赤: ソビエトの国での芸術とユートピア(Red: Art and Utopia in the Land of Soviets)」展や、2021年にドイツ、フランス、ロシアが共同で企画した大規模な現代アート展「ディバーシティ・ユナイテッド(Diversity United)」など、近年ヨーロッパやアメリカでロシアの芸術文化が広く紹介されるようになりました。

 

「偉大なるロシア文化」

しかし、こうした活動は悲しいことに「偉大なるロシア文化」というイメージを後押し、今回の戦争を止めることは叶いませんでした。

国際的な協力を得て実現したロシアの芸術文化プロジェクトは、ロシア政府による隣国での紛争を防ぐことはできず、むしろ人々の関心をロシア政府が起こした事から逸らすことに成功しているとも考えられます。

ロシアの芸術文化が国際社会で注目されればされるほど、ロシア帝国主義に苦しめられてきた隣国のマイナスな要素に目を向ける機会が少なくなっていた、という意見もあります。

 

民主性を取り戻したウクライナ文化機関

ロシアのこうした状況に対し、ウクライナでは2013〜14年にかけて内政が一変し、全く異なる思想、文化が確立されました。

2014年にウクライナの人々は、当時の親ロシア派ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領(Viktor Yanukovych)にEUとの連合協定締結を求める大規模な抗議デモを行いました。

平和的に始まったデモは、司法省や各都市の市庁舎を占拠し、警官も含めた数十名の死傷者、千人規模の負傷者を出す大規模な衝突に発展。

「ユーロマイダン革命(尊厳の革命)」と呼ばれるこの一連の出来事は、最終的にヤヌコヴィッチ大統領を国外に亡命させ、親ロシア政権が崩壊しました。

 

この革命により、ウクライナ国内には新しい国家機関や組織が誕生し、文化事業に関わる人々にも密接に政治と関わろうとする動きが生まれました。

今回の戦争でウクライナ人の抵抗の原動力となっているのは、革命の経験により個々人に備わった民主性と、政治的主体性です。

そのためロシアの文化人たちが政治に対して受動的な姿勢を示したり、自分を無垢な犠牲者として表現することは、ウクライナ人には偽善的な姿勢として映るのです。

 

公開書簡全文

以下は、ウクライナ研究所による公開書簡全文です。

 

親愛なる友人、同盟者、同僚たちへ

 

2022年2月24日午前5時、ロシア連邦の軍隊がウクライナを攻撃し、わが国への全面的な侵攻を開始しました。

2月28日現在、子ども14人を含む352人の民間人が死亡、1684人が負傷し、市民インフラに大きな破壊をもたらした、まったく不当な攻撃です。

爆発、爆撃、空襲がウクライナのすべての主要都市を襲っています。

侵略者の戦車と重砲は、北、南、東からウクライナ国境を超えて攻めています。

 

2月27日、プーチン大統領はウクライナで核兵器を使用すると脅しました。

これは1945年以来ヨーロッパで見られなかった規模の戦争であり、全世界がその成り行きを見守っています。

私たちは、同盟国がロシア連邦に経済的・政治的制裁を課していることに感謝しています。

しかし、侵略者はその無数の戦争犯罪、侵略行為、人権侵害、国際法違反を正当化し、世間の注目をそらすために、「偉大なるロシアの文化」という比喩を使い続けています。

 

何十年もの間、ロシア国家に属する文化機関や個人は、帝国主義のプロパガンダ、戦争、そしてプーチン政権の犯罪的行為の美化のための道具として使われてきました。これは今すぐ止めなければいけません。

そこで、ウクライナの文化団体・機関を代表して、皆様の連帯と支援をお願いする次第です。

ロシア国家がウクライナから完全に撤退し、その戦争犯罪の責任を問われるまで、今すぐロシアをボイコットすることを呼びかけます。

 

・ヴェネチア・ビエンナーレのロシア館を含む、フェスティバル、ビエンナーレ、展覧会、アートフェア、文学フェアなどの国際文化イベントへのロシアの参加を一時停止すること

 

・プーチン政権やロシア資本との直接的・間接的なつながり、資金提供を受けているロシアの機関や国際的な財団が主催するイベントをボイコットすること

 

・ロシアのアーティストが、いかに偉大で有名であっても、プーチン政権を公然と支持し、その犯罪を黙認し、公然と直接反対しない限り、その協力は一切取りやめること

 

・ロシア国家やロシア資本に属する代表者を、あなたの組織の監督や諮問委員会から排除すること

 

・ロシアの団体やその代理人、他国に拠点を置く関連団体からの寄付、資金提供、後援を拒否すること

 

今日、「偉大なロシア文化」という図式は大変危険です。ロシアの芸術文化は植民地と帝国の遺産に基づいており、それは人道に対する犯罪を促進します。

ロシア連邦とのいかなる文化協力も止めることでウクライナを助けてください。あなたの意見を周囲に公表し、仲間に呼びかけてください。

私たちは流血と戦争を止める力を持っています。私たちの力を結集し、自由、民主主義の価値、真実、そして文明世界全体に対するロシアの戦争を終わらせましょう。

 

各国でロシアへの文化的制裁が加速

国連の難民機関の報告によると、少なくとも260万人のウクライナ人が祖国を離れて近隣諸国に避難し、今後、その数は600万人に上ると推定されています。

そんな中、世界の主要な芸術文化機関は迅速にロシアへの文化的制裁、協力関係を断つ動きを開始しました。

ロシアと西ヨーロッパの複数の美術施設間における美術品の国際貸し出しは無期限で停止され、ロンドンのテートモダンは美術館に資金を提供していたロシアのオリガルヒとの関係を断絶。

フランス政府は、ウクライナのアーティストや芸術関係者、ロシアから逃れてきた「反体制」側のアーティストに対して、100万ユーロの救済基金を設けると発表しました。

経済だけでなく全ての分野においてウクライナへの連帯が求められています。

 

 

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