オスロ国立美術館が2022年6月にオープン!「ムンクの叫び」など見どころを詳しく解説
2022年6月11日、構想から約30年の時を経て、ノルウェーの首都オスロに「オスロ国立美術館」(Nasjonalmuseet)が開館しました。
ドイツの建築事務所「Kleihues +Schuwerk」が設計した巨大な建物は、584,480平方メートルもの広大な面積を誇り、パリのルーヴル美術館、ロシアのエルミタージュ美術館に次いでヨーロッパ最大級の美術館となります。
「ムンクの叫び」など、ノルウェーに代表される作家作品をメインとした常設展示や現代美術の展示スペースなど、同館の見どころを詳しくご紹介します。
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構想から30年を経て実現した、巨大美術館プロジェクト
構想から約30年以上を経て、ついに開館したオスロ国立美術館。
ノーベル平和センターの隣に現れたスレート張りの建物は、窓が極端に少なく、巨大な要塞を思わせる威厳のある佇まいが印象的です。
この美術館プロジェクトは、1990年代にノルウェー文化省がナショナルギャラリー、建築博物館(Museum of Architecture)、装飾芸術・デザイン美術館(Museum of Decorative Arts and Design)、コンテンポラリーアート美術館(Museum of Contemporary Art)の4つの既存施設を統合し、新たに「Nasjonalmuseet」として設立するというもので、構想から約30年の時を経て実現しました。
美術館の建設には6億4500万ドル(約871億円)の予算が投入され、運営予算の90%は政府が負担。
残りはチケットやショップの売上、スポンサーや寄付などから捻出されます。なお、初年度は100万人の来館者を見込んでいます。
ディレクターを務めるKarin Hindsboは、インタビューでこう語っています。
美術館にとって、これ以上最高の環境はないでしょう。
振り返ってみると、すべての施設をひとつの建物に収めるべきかどうかという疑問がなかったことが、いかに幸運だったかを実感しています。
保管やコレクション管理は、もっと安い予算で別の場所に置くこともできたはずです。
ムンクなどノルウェー作家による常設展示
19世紀半ば以降に収集された絵画、彫刻、織物、家具、建築模型など約40万点の収蔵品のうち、約6,500点が87部屋あるギャラリースペースに展示されています。
常設展示のメインとなるのは、ノルウェーを代表する画家、エドヴァルド・ムンク(Edvard Munch)の展示スペース。
1893年の「叫び」や「マドンナ」などムンクの代表作品を同時に複数鑑賞できるのは、世界でもこの美術館だけです。
他にも、ノルウェーを代表する女性画家ハリエット・バッカー(Harriet Backer)、建築家のスヴェレ・フェーン(Sverre Fehn)、ロマン主義の風景画家ヨハン・クリスチャン・ダール(Johan Christian Dahl)など、ノルウェーを代表する各時代のアーティストを幅広く紹介しています。
年代別に膨大なコレクションを公開
美術館の新しい常設展示室は、各時代のテーマが設定されており、キュレーターを含む専門家チームが構成を担当。
新たに作られた展示スペースには、修復作業を終えたばかりの作品も初公開されました。
ディレクターのKarin Hindsboは、常設展示の構成プロセスについて、
美術館内の複数の部門から学芸員、教育者、プロジェクトマネージャー、コミュニケーションマネージャーらが参加し、各展示室に何をどのように展示するかを検討しました。
時間はかかりましたが、各部門のプロフェッショナルが協働しなければ、これほど重層的な展示にはならなかったでしょう。
とコメントしています。
1100〜1530年代の作品を紹介する「Serving Faith(信仰に仕える)」の展示スペースは、オスロ国立美術館のコレクションがいかに広大なものであるかを示しています。
貴重な作品としては、ロシア革命後にソ連が売却した、ロシアのゴスチノープル修道院の聖ニコラス教会にあったダビデ王と預言者エゼキエルのイコン(聖母,聖人などの聖画像)などが有名です。
17世紀に教会で発見されたバルディショル・タペストリー。
現存するロマネスク様式のタペストリーは数少なく、ヨーロッパで保存されている1200枚の織物のうちの一つです。
さらに、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」の模写をはじめ、6世紀にわたる絵画の歴史を辿ることができます。
1500〜1900年代を代表する、ティツィアーノ、ルーカス・クラナッハ(Lucas Cranach)、パウル・ブリル(Paul Bril)、アルテミジア・ジェンティレスキ(Artemisia Gentileschi)。
1900〜1960年代を代表する、ロダン、ピカソ、そしてハラルド・ソールベリ(Harald Sohlberg)、グスタフ・ヴィーゲラン(Gustav Vigeland)など巨匠たちの作品が多数展示されています。
現代美術の常設展示
同館の開設にあたり、新たに現代美術の常設展示が追加されました。
北欧の少数民族サーミ人アーティストとして知られるマーレット・アンヌ・サラ(Máret Ánne Sara)が、2017年に「ドクメンタ14」で発表した作品などが大きな見どころです。
400体のトナカイの頭蓋骨を集め、カーテン状に並べたこの作品は、北欧諸国によってサーミの土地の権利利益が奪われ、トナカイの牧草地が減り、淘汰されていく様子を象徴しています。
また、ノルウェーのトップコレクターとして知られるセシリエ・フレドリクセンとカトリーヌ・フレドリクセン姉妹(Cecilie Fredriksen and Kathrine Fredriksen)のコレクションからなる展示スペースも重要な位置を占めています。
シモーヌ・リー(Simone Leigh)、シーラ・ヒックス(Sheila Hicks)、ルイーズ・ブルジョワ(Louise Bourgeois)、リネット・ヤドム・ボアキエ(Lynette Yiadom-Boakye)、エヴァ・ヘッセ(Eva Hesse)、ヘレン・フランケンサーラー(Helen Frankenthaler)、リー・クラズナー(Lee Krasner)、カルメン・へレラ(Carmen Herrera)、アリス・ニール(Alice Neel)などの作品が展示されています。
アート初心者に向けた配慮と工夫
フィレンツェを拠点とする「Guicciardini & Magni Architetti」が手がけた館内のインテリアデザインは、一般の鑑賞者が快適に過ごせるよう、専門性や難解さを極力排除し、アート初心者にも分かりやすい展示が印象的です。
各展示室には、音声ガイドや点字のタブレット、子供用の工作セット、タッチスクリーンなど、あらゆる年代、ハンディキャップを持つ鑑賞者に向けた展示の工夫が見られます。
さらに、スタンフォード大学が開発したNABC(Needs, Approach, Benefits, Competition)アプローチに基づき、一般の人々の意見をもとに構成された展示も公開。
19歳から25歳の若者のグループに、展覧会に何を期待するか、展覧会のデザインやテキスト、美術館のソーシャルメディア戦略やプログラムについてどう思うかなど意見を求め、彼らの意見をもとにキュレーターがノルウェーを拠点とするアーティストやコレクティブを紹介しています。
2022年11月から始まるグレイソン・ペリー(Grayson Perry)の展覧会をはじめ、翌年以降に開催される展覧会でも、こうした一般の人々の意見が積極的に取り入れられていく予定です。
オスロ国立美術館(Nasjonalmuseet)
開館時間:10:00-21:00
休館日:月曜日
住所:Pb. 7014 St. Olavs plassN–0130 Oslo
ルーブル美術館、エルミタージュ美術館と並び、ヨーロッパ最大規模となるオスロ国立美術館。
同美術館の新しい活動によって、他の美術施設にも更なる変化が期待できそうです。
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