「古典×現代2020」レビュー|今も昔も、人は同じものを表現してきた
こんにちは。静物です。ただの美術好きとして、Twitterで美術に関するツイートをしています。
「古典×現代2020ー時空を超える日本のアート」が六本木の国立新美術館で開催されています。本展は、日本を代表する現代アーティストと日本古来の芸術作品を組み合わせる形式で紹介する、一風変わった展覧会です。
今回は本展のうち、個人的に特に印象深かった展示について感想レビューを書かせていただきます。
「アート診断」
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Q2.気になるジャンル・モチーフは?
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一歩先の、花鳥画の味わい方
まずご紹介したいのが、第2章の「花鳥図×川内倫子」。こちらでは江戸時代に描かれた花鳥画と、写真家・川内倫子さんの作品を同居させるかたちで展示されています。
花や虫、鳥などを主体として描きだす「花鳥画」は、繊細で緻密な描かれ方が特徴です。こうした作品をみると「こんなに描きこんでスゴイ」「昔の人は観察力が高かったんだね」というような感想を抱く方が多いのではないでしょうか。
左:伊藤若冲「紫陽花白鶏図」 右:川内倫子「無題」
しかし、本展の第2章をみると、そこから一歩先へ進んだ花鳥画の味わい方を知ることができます。
川内倫子さんの「AILA」という作品集の中に、一本の細長い草に水の雫がたくさんついている様子を映した作品があります。草の鮮やかなグリーンと、透明でキラキラと輝く水滴がとても美しい作品です。
一見するとただ草をクローズアップして写しただけの作品なのですが、なぜか私はこの作品を見ながら、心がドキドキとするような高揚感を感じたのです。写真の中に引き込まれて、いつまででもその作品世界の中に没頭してしまいたくなるような、そんな感覚です。
川内倫子写真集「AILA」
私にはこれと似たような感覚に陥ったことが、かつてありました。それは、家の近くにある河川敷や公園で、飽きるでもなく虫や草をじっと見つめていた幼少期の頃のことです。
子どもの頃って、見るものすべてが新鮮で、何事にもとてつもない集中力と興味をもって向き合っているものです。
川内さんの作品によって私の心に押し寄せたのは、そのころのみずみずしい感覚でした。草や木や花や虫を、飽きることもなく見つめていた頃に感じていたワクワク。自然が持つパワーや生命の息吹を、一点の曇りもないまなざしで見つめていた頃のドキドキ。
川内倫子「はじまりのひ」
この気持ちを思い起こさせられたあとに見る江戸時代の花鳥画は、これまでの見え方とは全く異なって迫ってきます。江戸時代の絵師たちが、虫や草花を描いていた時に表現しようとしていたことが、心にダイレクトに肉薄してくるのです。「ああ、この高揚感を伝えたかったのか」。そう思わされます。江戸絵師たちと魂で繋がることができるのです。
描き方に感嘆するだけでは終わらせない、さらに深い花鳥画の鑑賞体験に出会うことができる、素晴らしい展示空間でした。
畏怖そのものを体感する
真っ暗な展示室の中央に、日光・月光菩薩像が静かにたたずんでいます。
その周囲に吊るされているのは、黄色みがかった光を放つ8~10個ほどのライト。それらはゆっくりと上下に動いており、たまに全てのライトが消えて真っ暗になります。スピーカーからは、ゆっくりと低い声で唱えられているお経や、おりんの音が響いています。
これが第5章の展示内容です。「日光・月光菩薩像に祈りを捧げるためにふさわしい空間とは何か」を追求した建築家・田根剛さんの研究成果ともいえる作品になっています。
「日光菩薩・月光菩薩立像」
お経の声を聴きながら、ライトに照らされる菩薩像を見ていると、不思議なことが起こりました。だんだんと自分の動悸が早くなってくるのです。それは第2章で感じたようなワクワクとはまた別の、ピンと張り詰めるような緊張感を伴った感覚でした。
黄色い光に照らされる菩薩を見つめながら、この気持ちこそが「畏怖」なのだ、と気づきました。思わず跪き、手を合わせ、自らの過去・現在・未来を見つめなおしたくなるような、そんな気持ちにさせられてしまったのです。
これまでの人生において、私は何度も仏像をみてきました。京都や奈良で、あるいは「仏像展」のような展覧会の場で。ですが今回のように、動悸を伴うほど心に迫ってくるような体験をしたことはありませんでした。
私はこの空間に身を置くことで初めて、私は真の意味で仏さまと向き合うことができたように感じます。
400年の時を越える、愛にあふれた二次創作
北斎としりあがり寿さんのコラボというだけで、ニヤニヤが止まらない方も多いことでしょう。かくいう私もその一人。本展の中でも特に楽しみにしていた章でしたが、その上がり切ったハードルを易々と飛び越えてくれました。
会場では、おなじみ富嶽三十六景の作品ひとつひとつの横に、しりあがりさんによるパロディ作品が展示されています。赤富士を描いた《外風快晴》の横には、富士の木々が髭剃りで削り取られた『髭剃り富士』が。《神奈川沖浪裏》の横には、波が太陽の熱波に、富士が地球に見立てられた『太陽から見た地球』が。一目見ただけで老若男女誰もがくすっと笑えてしまうユーモアさは、さすがしりあがりさん作品です。
左:葛飾北斎「神奈川沖浪裏(富嶽三十六景より)」
右:しりあがり寿「太陽から見た地球」
さらに本展では、しりあがりさんによるヴィデオ・インスタレーション『ー葛飾北斎ー 天地創造from四畳半』も展示。これがもう最高に良かったです。しりあがりさんによる北斎への愛とリスペクトがあふれるほどに感じられるのです。
しりあがりさんらしい、ゆる~い画風で描かれた北斎が四畳半のなかで踊っては描き、踊っては描きを繰り返します。軽快な音楽に合わせて富士や滝、江戸商人や動物を描いて生み出していくさまには、神様というよりも奇術師のようなポップさがあります。
しりあがり寿「葛飾北斎 天地創造from四畳半」
あくまで軽妙にユーモアをもって作品を生み出すさまは、まさにしりあがりさんが体現し続けている姿と重なります。しりあがりさんにとっての北斎は、一生目指し続ける憧れの存在なのではないでしょうか。
第6章を一言でいうと「愛にあふれた二次創作」。400年の時を超え、多大なる愛とリスペクトを捧げられた北斎はきっと、天国からニコニコ笑って眺めていることでしょう。
悪魔的なアーティストが競演
本展のラストは、江戸と現代の悪魔的アーティスト2名による濃い味な展示で締めくくられます。激烈で奇天烈な画風でしられる「奇想派」の筆頭・曽我蕭白と、彼に何度もオマージュを捧げてきた横尾忠則の作品が対峙。
両者の作品をみていると、「創作とは自由である」と教えられているように感じます。蕭白はあの狩野派など古典的な技法に学びつつ、奇怪な画風をもちいて新しい日本画の境地を切り開きました。対する横尾さんは、グラフィックデザイナーとして創作活動をスタートさせるも、ピカソに触発されてからは画家として活躍。本展でも紹介されている具象画には、古今東西のモチーフが潜んでおり、またあらゆる種類の画法が使われていることがわかります。
左:曾我蕭白「群仙図屏風」
右:横尾忠則「戦場の昼食、寒山拾得2020」
ギョッとするような作品ばかりですが、2人のアーティストがのびのびと創作を楽しんでいるピュアな気持ちを感じとれるのがこの章の醍醐味。ちょっぴりニヒルに、いたずらっぽく笑いながら創作を行う蕭白と横尾さんの姿を思い浮かべながら、展覧会を楽しむのも良いのではないでしょうか。
今も昔も、人は同じものを表現してきた
自然を慈しむ目線や、仏に抱く祈りの気持ち、そして創作を楽しむ心。この国で生まれた創作物を通じて、人間が時を超えて普遍的に持つものの存在を強く意識させられる展示でした。
本展では、まったく違う顔を持った作品を通じて、あらゆる時代の人間がずっと向き合い続けてきた共通の気持ちや心を感じることができます。作品を通じて、鎌倉時代の人間とも、江戸時代の人間とも対話し、通じ合うことができるのです。「アートを通じたタイムトラベル」と言っても、言い過ぎではないような気がいたします。
今回は「古典×現代2020ー時空を超える日本のアート」についてご紹介いたしました。
本展は国立新美術館にて、8月24日(月)まで開催中。みなさまもぜひ、美術を通じた時間旅行を体験してみていただければと思います。なお、チケットは事前予約制ですのでご注意を。
古典×現代2020−時空を超える日本のアート
会期:2020年6月24日(水)~8月24日(月)
料金:一般 1,700円 / 大学生 1,100円 / 高校生 700円
休館日:火曜日
開館時間:10:00~18:00*入場は閉館の30分前まで
新型コロナウイルス感染防止のため、時間指定の入館となっています。
オンラインでの「日時指定観覧券」もしくは「日時指定券(無料)」の予約が必要です。
国立新美術館
(THE NATIONAL ART CENTER)
住所 〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
開館時間 10:00~18:00
(※現在はコロナウイルスの影響により変更があります。HPをご確認ください。)
休肝日 毎週火曜日、年末年始
公式HP https://www.nact.jp/
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