アルチンボルドとは?「奇想の画家」の生涯と代表作品について詳しく解説
植物や果物、野菜などで構成された奇妙な肖像画で知られる画家、ジュゼッペ・アルチンボルド。
彼の作品を教科書などで一度は目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
彼の代名詞とも言える「寄せ絵」によって描かれた肖像画は、一度見たら忘れられなくなるほどの強烈なインパクトがあり、他の古典絵画には無いユーモアが感じられます。
「奇想の絵師」と呼ばれ、後のシュルレアリストたちにも大きな影響を与えた宮廷画家、アルチンボルド。
その生涯と作品について詳しく解説します。
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アルチンボルドとは?
マニエリスムを代表するイタリア人画家
ジュゼッペ・アルチンボルドは、16世紀に活躍したイタリアの画家です。
ルネサンス後期に活躍したマニアリズムを代表する美術家であり、果物や野菜、動植物を寄せ集めて描いた奇抜な肖像画を制作していたことでよく知られています。
それらは「寄せ絵」と呼ばれており、遊び心のある作風が大きな特徴です。
独特な作品は当時の貴族から高く評価され、現在も多くの人を魅了しています。
宮廷画家として神聖ローマ帝国の皇帝3代に仕えた
アルチンボルドは1562年、ウィーンでフェルディナンド1世の宮廷画家となり、その子息マクシミリアン2世、孫ルドルフ2世の3世代に仕えました。
画家としてはもちろんのこと、宮廷の装飾や衣装の制作を行うなど、マルチな才能を発揮していたといわれています。
1587年に引退するまでの25年間に及ぶ宮廷画家としての安定した身分は、芸術に没頭するうえでこの上ない環境であったと推測されます。
「奇想の画家」として知られる
「寄せ絵」で知られるアルチンボルドですが、動植物で構成された肖像画は当時他に類を見ない発想であり、彼の代名詞として知られています。
独自の作風からアルチンボルドは「奇想の画家」とも呼ばれており、高い芸術性のみならず、鑑賞者を楽しませる遊び心も彼の作品の大きな魅力といえます。
アルチンボルドの生涯
23歳からステンドグラスのデザインを開始
1526年に画家の息子として生まれたアルチンボルドは、父ビアージョのもとで仕事を習い、23歳のときにミラノ大聖堂のステンドグラスのデザインを手がけています。
父ビアージョはレオナルド・ダ・ヴィンチの弟子、ベルナルディーノ・ルイーニと親交があり、アルチンボルドもレオナルドの作品から大きな影響を受けていたといわれています。
ミラノ修行時代、フレスコ画やタペストリーのデザインを手掛ける
1556年にはモンツァ大聖堂のフレスコ壁画を制作。1558年にはコモ大聖堂のタペストリー「聖母就寝」のデザインを手掛けるなど、室内装飾の制作を中心に仕事をしていました。
ミラノ修行時代のアルチンボルドは、画家というよりも職人としての活動がメインだったようです。
36歳でハプスブルク家の宮廷画家に
ミラノでの修行を経たアルチンボルドは、1562年、36歳のときにハプスブルク家の宮廷画家として迎えられます。
記録によれば、「再三催促されてハプスブルグの宮廷に赴いた」と残されていますが、大きな実績のなかったアルチンボルドがなぜ宮廷に迎えられたのか、未だに詳しいことがわかっていません。
肖像画を数多く制作
アルチンボルドは宮廷画家として王族の肖像画を制作する一方、奇想天外な絵を多く制作していたことで知られています。
これらの奇抜な絵は何を目的として制作されたのか、何がきっかけで描かれたのか、今も詳細はわかっていませんが、当時の皇帝からも気に入られていたようで、アルチンボルドに好んで描かせていたといわれています。
ミラノに帰郷後も作品を多数制作
晩年のアルチンボルドは、1587年に宮廷の公務を引退し、ミラノへ帰郷しました。
彼は引退後も数多くの作品を制作し、「フローラ」「ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世」などの傑作も生まれました。
1593年、アルチンボルドはミラノの自宅でその生涯を終えました。
シュルレアリストたちによる再評価
アルチンボルドの死後、バロック絵画が主流となったこともあり、彼の作品は人々から忘れられていきました。
しかし、ルドンやダリ、デュシャンなどシュルレアリスムの先駆者たちから、独創的な作風と発想力が再評価されるようになります。
アルチンボルドの作品は後世の画家たちにも大きな影響を与えており、「シュルレアリスムの祖父」とも呼ばれています。
アルチンボルドの作品の特徴
野菜や果物、植物などを組み合わせた肖像画
アルチンボルドの作品の最も大きな特徴は、野菜や果物、木の根、動物などを組み合わせ、リアルに描かれた肖像画です。
この奇想天外な肖像画は後に生まれるシュルレアリスムの先駆けともいわれており、アルチンボルドの想像力とユーモアが高く評価されています。
当時、王族の間では珍しい芸術品や動植物を収集することが流行っていたことから、アルチンボルドの「寄せ絵」は万物を支配するといったコンセプトと相性が良く、宮廷で歓迎されたようです。
高い観察力・写実性
アルチンボルドは奇抜な発想だけでなく、その観察力と写実性も高く評価されています。
「寄せ絵」でパーツとして使われる動植物は実に精緻な描きこみがされており、肖像画でありながら静物画としても評価することができます。
この高い写実性は、レオナルド・ダ・ヴィンチの手法から影響を受けていたアルチンボルドが、レオナルドの弟子たちから間接的に技術を学んだ結果であると考えられます。
アルチンボルドの代表作品10選
司書(1566)
「司書」は1566年頃に制作された作品で、本を積み上げて構築されたユニークな肖像画です。
16世紀に制作された作品ですが、現代アートにも通じる近代性が専門家から指摘されており、シュルレアリスムの先駆的作品として語られることもあります。
「虚栄心の強い知識人を揶揄している」など、本作について風刺的な要素を指摘する専門家もいます。
四大元素(1566)
「四大元素」はアルチンボルドが制作した4枚からなるシリーズ作品です。
作品は世界の構成要素である「大気」「火」「大地」「水」の四つで構成されており、それぞれのテーマに相応しい表現がなされています。
「大気」では鳥が、「火」では火打石やオイルランプ、「大地」では陸上の野生動物、「水」では水棲の生物が構成要素として使われており、自然科学への強い関心が伺えます。
この「四大元素」は、アルチンボルドのもう一つの連作「四季」とともに当時高く評価されたといいます。
水(1566)
「水」は上記の連作「四大元素」のうちの1つです。
水棲生物によって構築された肖像画で、タコやヒトデ、貝、エビなどがぎっしりと組み合わされています。
一説によれば甲殻類や貝は軍事力を表し、画面下部に描かれている真珠のネックレスはハプスブルク家の大きな繁栄を示しているといわれています。
コック(1570)
「コック」は1570年ごろに制作された作品で、肉料理とプレートの寄せ集めによって人の顔が構成されています。
絵を上下ひっくり返して見ると普通の肉料理を描いた静物画に見えることから、アルチンボルドの遊び心と卓越した表現力がうかがえる作品です。
四季(1573)
「四季」は「四大元素」と同様に4つのテーマによって制作されたシリーズ作品で、自然科学に強い関心を寄せていたマクシミリアン2世への贈り物として描かれました。
それぞれの肖像画は、その季節を象徴する植物で構成されています。
この作品は、プスブルク家の統治が自然世界にも及んでいることを示唆しているとも言われており、当時大きな歓迎を受けたといいます。
ソムリエ(1574)
「ソムリエ」は、酒樽やワインボトル、コルクなどを寄せ集めて描かれた肖像画です。
人物の右肩にある蓋には、ハプスブルク家の紋章が刻まれていることがわかります。
ちなみに、日本で所蔵されているアルチンボルドの作品は、唯一この1点のみ。大阪中之島美術館に所蔵されています。
Portrait of Adam(1578)
「Portrait of Adam」は旧約聖書で最初の人間であるアダムを描いた作品です。
アダムの顔が小さい子供の寄せ集めで構成されており、コンセプトも見た目もユニークな肖像画です。
同作は連作であり、アダムの他にイヴを描いたものがもう1点あります。
庭師(1590)
「庭師」は野菜で構築された肖像画で、アルチンボルドの作品の中でもよく知られています。
本作も「コック」と同様に、上下逆さまにみると静物画にも肖像画にもなる作品です。
描かれている人物は、ギリシャ神話の生殖と豊穣を司る神プリアーポスで、豊穣と生命の繁栄を願った作品であるという説があります。
ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像(1591)
本作は、ルドルフ2世をローマ神話における豊穣の神ウェルトゥムヌスに見立てて描かれた作品であるといわれています。
「寄せ絵」の中では、50種類以上の野菜や果物、植物が使われている大作です。
今までの肖像画とは違い、正面を向いた姿が描かれている本作は、皇帝による統治とその永続性を表現しているといわれています。
フローラ(1591)
「フローラ」はアルチンボルド晩年の大作で、彼の集大成ともいえる作品です。
花を寄せ集めて構築された肖像画ですが、従来の「寄せ絵」とは異なり、小さな花を大量に使用し構成することで人物の特徴を繊細に描き出し、肖像画としての美しさをより強調した作品であるといえます。
緻密に描かれた植物と肖像画としての立体感が高く評価されており、アルチンボルドの高い技術力がよくわかる作品です。
アルチンボルドの作品を観ることができる美術館
ウイーン美術史美術館
ウィーン美術史美術館は、オーストリアのウィーンにある美術館で盛期ルネサンスとマニエリスム、バロック期のコレクションはヨーロッパ屈指の量を誇ります。
アルチンボルドの作品も所蔵されており、代表作「四季」の「夏」と「冬」の2作が鑑賞できます。
ルーブル美術館
アルチンボルドの「四季」は何種類か同様のテーマの連作が制作されており、そのうちの一つのシリーズ4作品「春」「夏」「秋」「冬」がルーブル美術館で所蔵されています。
ウィーン美術史美術館所蔵のものとは装飾などが異なっており、その違いを比較して楽しんでみてはいかがでしょうか。
もっとアルチンボルドを知ることができる本
アルチンボルド アートコレクション
本書は、アルチンボルドの初期デッサンから代表作までを網羅しており、作品とともに彼の生涯や背景などの解説も充実しています。
作品の詳細が拡大されて掲載されているため、より細かい部分までアルチンボルドの魅力を知ることができます。
アルチンボルドのファンであれば、保存版として一冊は持っておきたい本です。
出版年 : 2017年
奇想の宮廷画家 アルチンボルドの世界
本書は2017年に開催された「アルチンボルド展」にあわせて出版されたムック本です。
アルチンボルドの代表作73点を掲載しており、気軽に彼の作品を楽しみたい方にもおすすめの一冊です。
大きなサイズで作品が鑑賞できる点も、「寄せ絵」の緻密に描かれたディテールを楽しむ上で役に立ちます。
出版年 : 2017年
まとめ
奇想の画家として知られるアルチンボルドですが、作品のユニークさに加えて、精密に書き込まれた静物のクオリティやそれらを寄せ集めて構築された人物の表情やバランスなどからは、画家としての才能と高い技術力から成り立っていることがわかります。
これを機会に、彼の作品をより深く味わってみてはいかがでしょうか。
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