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ヴィジブル・ストレージとは?オランダに誕生した巨大美術倉庫「Depot Boijmans Van Beuningen」について詳しく解説

オランダ、ロッテルダムにあるボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館は、所蔵作品の全てを一般公開するための巨大倉庫「Depot Boijmans Van Beuningen」(デポ・ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン)を2021年11月6日に新しく創設しました。

 

美術館が一度に公開できるのは所蔵作品のうち10%程度と言われており、残りの90%は他館への貸出を除いて、ほとんどが倉庫に保管されています。中には一度も美術館の表舞台に出ない作品も無数にあると言われています。

 

そんな中、全ての所蔵作品を一般公開できるようにと新設されたのが Depot Boijmans Van Beuningen です。

新しい美術体験を提供する施設として業界で注目されている、巨大な美術倉庫について詳しく紹介します。

 

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美術館の改修工事から生まれたアイディア


Maquette Depot Boijmans Van Beuningen Miniworld Foto: Aad Hoogendoorn

ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館の隣に開館した Depot Boijmans Van Beuningen は、アートコレクターや美術関係者だけでなく全ての人が、美術館の全ての所蔵作品を閲覧できる施設です。

 

これまで美術館の倉庫が一般に公開されることはなく、人々は美術館の倉庫がどのようになっていて、どれぐらいの作品を所蔵しているのか知る術はありませんでした。

そのため「倉庫を一般公開する」という世界初の試みに、美術関係者の注目が集まりました。

 

施設の構想は、ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館の改修工事をきっかけに始まりました。

この美術館はレンブラント、ヴァン・ゴッホ、ダリなど、中世ヨーロッパ美術から近代美術まで15万点を超えた作品を所蔵しています。

 

当館は過去に所蔵庫が何度も浸水するトラブルが発生しており、所蔵作品は一時的に敷地外で管理されていましたが、今回倉庫を新たに開設することで、彼らは半永久的な解決策を見出しました。

所蔵作品を誰もが自由に閲覧できるような設計・展示構想が練られ、2004年の発案から約20年の時を経て実現に至ったのです。

 

151,000点の作品が詰まった巨大なボール

ロッテルダムに完成したばかりの巨大倉庫は、建築界では「鏡のミキシングボウル」という愛称で呼ばれています。

カーブして反射するボウルの中には、改修工事のため閉鎖されたボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館の所蔵作品が全て収納されています。

 

63,000点もの絵画、写真、フィルム、デザインオブジェ、現代美術のインスタレーション、彫刻から、88,000点のプリントやドローイングに及ぶコレクション。レオノーラ・キャリントンやサルバドール・ダリなど、めったに公開されない作品を含む、151,000点ものアート作品がこのボウルに詰まっています。

 

美術館の裏側を公開

来館者は作品鑑賞だけでなく、スタッフが作品を修復したり、再梱包・輸送する様子など、「美術館の裏側」を間近に見ることができます。

作品の保存修復を専門とする美術修復師たちの仕事は、これまで美術館の表舞台に出ることはなく、一般公開されることはめったにありませんでした。

 

作品の梱包・輸送から設営・展示会終了後の撤去まで担っているアートハンドラーと呼ばれる専門家たちもいます。

彼らは梱包資材の種類を作品の素材や状態によって選り分け、作品を入れるための木箱をひとつひとつ手作りします。

高価な保険金がかけられているアート作品を輸送するには、慎重かつ効率的な技術が求められるのです。

 

このように作品自体だけでなく、美術館で作品がどのように保存され、展示されているのか、裏側に関わる人々とそのストーリーを見せることで、美術業界そのものに興味を持ってもらおうという試みがここでは行われています。

 

キューレーションのない作品展示

美術館は通常キューレーターと呼ばれる、展示の企画運用を専門とする人々によって、作品のテーマや時代、アーティストごとに展示場所が細かく決められます。

そうしたキュレーションが全く無い形で展示されているのが、この施設の大きな特徴です。

 

作品はメタル、プラスチック、有機物/無機物、写真など、作品の素材や大きさ、保存方法によって5つの異なるセクションに分類され、陳列されています。

各保管スペースは温度管理を徹底し、光や熱に弱いものは収納箱に入れられ、厳重な保管環境が必要な作品は別途予約をすることで閲覧が可能になります。

 

温度調整が徹底された倉庫内では、来館者が作品を間近で見ることが可能です。

また、インターネットからもイメージライブラリーで全ての所蔵作品を閲覧できます。

 

キュレーションされていない作品を鑑賞できることによって、来館者やアートコレクターはそれまで知る機会がなかった作品に出会うことができ、先入観のない目で作品鑑賞ができます。

これは、コレクションの「民主化」という意味を持つだけでなく、美術館で働くスタッフたちも作品をより深く知る機会に繋がります。

と美術館のディレクター、シャレル・エックス氏は言います。

 


M. en Winterdagen tijdens de viering van het hoogste punt Depot Boijmans Van Beuningen. Foto: Rob Glastra

当館のコレクションのうち、約3万3000点はプライベートアートコレクターからの寄贈作品で占められており、倉庫の一部は民間のコレクターや企業の収蔵品を保管する倉庫、他の美術館に貸し出すレンタル倉庫としても機能しています。

 

この施設は第二の美術館ではなく、一般鑑賞者やアートコレクター、全ての人に新しい美術体験を提供する場所であり、これまでにない新しいモデルです。

と、エックス氏は待ち望んでいた施設への期待を語ります。

 

ヴィジブル・ストレージという新しい美術館の提示


Puzzel Depot Boijmans Van Beuningen – Samen bouwen

Depot Boijmans Van Beuningen の開館により、Visible storage(ヴィジブル・ストレージ)=「見える倉庫」という新しい美術鑑賞あり方が提示されました。

「芸術作品は全て等しく人々に公開され、役立つものである」という考え方が世界的に主流になりつつあります。

日本では2024年にリニューアルする宮城県美術館の構想として、ヴィジブル・ストレージを採用した「見える収蔵庫」の開設が検討されています。

美術館には今後さらにオープンな環境と情報公開が求められていくでしょう。

Depot Boijmans Van Beuningen は美術館業界に新しい可能性を示しました。

 

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