ゴッホの浮世絵コレクション500枚をゴッホ美術館が無料公開!見どころを詳しく解説
500枚の浮世絵から紐解く
浮世絵がゴッホに与えた影響とは?
ジャポニズムの影響を受け、日本に傾倒したパリの画家たち。
ゴッホもその例外に漏れず、日本に深い憧れを持ち、日本に行きたいとさえ願った画家の一人です。
浮世絵にインスパイアされた油絵をゴッホは多く残しましたが、彼が実際にどんなものを見て、そのような影響を受けたのかは広く知られていませんでした。
そんな中、ゴッホの生まれ故郷オランダにあるゴッホ美術館が、ゴッホが残した500枚の浮世絵をアーカイブ化し公開するサービスを開始。無料ダウンロードが可能となっています。
今回はそれらの浮世絵から、浮世絵がゴッホに与えた影響についてご紹介したいと思います。
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500枚の浮世絵がダウンロード可能に
ゴッホ美術館が開始した、ゴッホの浮世絵無料公開サービス「Van Gogh collects: Japanese Prints」。
ここでは、ページを読み込むたびにゴッホが収集した浮世絵がランダムに表示されるほか、モチーフや季節といったカテゴリ別に作品を検索することができます。
主な作品カテゴリ
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また、高画質な作品画像を3種類のサイズから選択してダウンロード、個人利用が可能となっています。
アーカイブストーリーにも注目
公開された浮世絵コレクション以上に特筆したいのは、「Inspiration from Japan」(日本からのインスピレーション)と題されたコレクションに関するアーカイブストーリー。
まるで一つの展覧会を見ているようなクオリティの高さ。ゴッホファンは必見のページです。ここからは、その翻訳をご紹介したいと思います。
1.日本からのインスピレーション
浮世絵はゴッホのインスピレーションの源の一つであり、彼は熱狂的な浮世絵コレクターになりました。
浮世絵は彼を刺激し、世界の新しい見方・捉え方を示唆しました。
しかし、結果として彼自身の作品は本当に変わったのでしょうか?
”そして、私たちは日本の芸術を学ぶことなどできないでしょう。
それらは私にとって、幸せで陽気な気分にならずにはいられないものです。また、私たちの世界の慣習としての教育や労働とは関係なく、私たちを自然に還すのです。”
ゴッホが弟テオに宛てた手紙
(1888年9月23もしくは24日)
2.東洋の美術を発見する
19世紀後半、日本文化は世界的に高い評価を受けていましたが、ゴッホは当初ジャポニズムの流行にはあまり注目していませんでした。
当時、オランダで日本の芸術を知るアーティストはほとんどいませんでした。
対照的に、パリではジャポニズムが大流行。ゴッホが自身の作品を近代的に発展させていこうと決心したとき、彼は東洋の芸術がヨーロッパに与えている強烈なインパクトに注目したのでした。
ゴッホはアントワープで初めて日本の浮世絵を買い、部屋の壁にそれらを飾りました。
そして彼は自身の中にあるエキゾチックな日本の街のイメージを弟のテオに語りました。
”私がとても面白いと思う「浮世絵」を飾っているおかげで、私のスタジオはとても居心地が良いです。あなたもよく知っている、庭や岸辺にいるそれらの小さな女性たち、騎手、花、節のとげがある枝の版画です。”
ゴッホがアントワープから弟テオに宛てた手紙
(1885年10月28日)
3.パリの中の日本
1886年初頭、ゴッホは弟がいるパリのアパートに引っ越しました。
兄弟二人はともに浮世絵のコレクションを築き上げ、ゴッホは早い時期から浮世絵に骨董品以上の価値を見出していました。
彼は浮世絵を芸術品として鑑賞し、それらが西洋美術史の傑作と等しい価値を持っていると考えました。
ゴッホの浮世絵コレクションがかつてどれほどの規模であったのか、正確には分かっていません。
彼は弟に宛てた手紙の中で、何百数もの浮世絵について言及しています。
“日本の芸術は、古代ギリシャ人や、私たち祖先のオランダ人、そしてレンブラント、ポッター、ハルス、フェルメール、オスタデ、ルイスダエルといった画家のようなに、原始的なものです。それは永遠に終わることがありません。”
アルルからテオに宛てた手紙(1888年7月15日)
4.構成と色彩
日本の芸術家たちは、作品の中で大地を描くときに空白を多く用いました。
同時に彼らは、前方にある絵のモチーフをわざと大きく誇張して描いたり、地平線を排除したり、描かれたモチーフの途中で構図を切り取ったりしました。
西洋の芸術家たちは、まるで拡大鏡で遠くを見渡したかのように写実的で伝統的な方法を用いて絵を描く必要がないということを、こうした浮世絵の特徴から学んだのでした。
ゴッホはこれらの日本の視覚的発明を自分の作品にも取り入れました。
彼は浮世絵の珍しい空間演出、鮮やかな色彩、日常的なモチーフ、そして自然の造形物を描くときの細部へのこだわりが好きでした。そしてもちろん、エキゾチックで楽しい雰囲気も。
5.新しいスタイル
ゴッホは単に浮世絵を模写する以上のことに取り組みました。
彼は同じく芸術家であり友人であったエミールバーナード(のちに現代美術の方向について新しい考えを発表する人物)から、部分的に影響を受けていました。
バーナードは浮世絵を手本にしつつ、彼自身の絵を様式を確立。シンプルな色と大胆な構図を用いました。
バーナードに触発されたゴッホは、平面的な表現を多用し空間に奥行きが出るのを抑制し始めました。
そして彼は絵画の平面性を追求しつつ、自身の渦巻き状の筆致を組み合わせていきました。
”見ての通り、私たちは日本の絵が大好きで、またその影響を受けています。
– すべての印象派の画家に共通することですが –
しかし、私たちが日本に行くことはないでしょう。
とどのつまり、新しい芸術への可能性は南仏にあると私は信じているのです。”
ゴッホがアルルから弟テオに宛てた手紙
(1888年6月5日)
6.南仏の中の日本
2年後、ゴッホはパリの喧騒から離れます。
1888年2月に、彼はフランス南部のアルルに向けて出発しました。
穏やかな環境に加えて、浮世絵に描かれた「透明感のある空気と鮮やかな色彩」をその地で見つけることを望んでいました。
ゴッホは列車の窓を見ながら、同じく日本に興味を持っていた友人のゴーギャンに手紙を書いていました。
「もしここが日本だったらどんなに素敵だろう!幼稚な考えだと思うかい?」
ゴッホはゴーギャンと同じく、芸術家は鮮やかな色彩を求めて南の原始的な地域に進出していくべきだと信じていました。
それは彼らの芸術を新しいステージへと導くでしょう。
そうした目的のために、ゴッホはアルルに移住したのでした。
”しばらくすると視界が変わり、もっと日本人のような目でものが見えるようになって、色の違いを感じます。
私はまた、ここに長期滞在することで自分の個性を引き出すことができると確信しています。”
ヴィンセントがアルルから弟テオに宛てた手紙
(1888年6月5日)
7.粉々になった理想
ゴッホは、一つの同じ集団の中に暮らしていた日本の僧侶たちのスタイルに倣って、アルルに芸術家のコミュニティを作ることを望んでいました。
しかし結局、やって来たのはゴーギャン一人だけでした。
彼はイメージをもとに絵を描きましたが、ゴッホにはもっと絵を様式化するように勧めました。
絵は写真のようになるはずではありませんでした。
悲しいことに、ゴッホとゴーギャンは喧嘩が絶えず、数ヶ月後にゴーギャンはパリに戻ってしまいました。
この頃、ゴッホは精神疾患の兆候を示し始めていました。
彼は病院に入院した後、精神病院に入院しましたが、自分の才能に対する自信を失っていました。
新しい芸術を生み出したいという願望は、あまりにも途方の無い目標でした。
次第に、ゴッホが手紙の中で浮世絵について言及することも減っていきました。
8.日本を模倣した後の革新
生涯を通じて、自然はゴッホにとって美の原点でした。
それは日本の芸術家たちにとっても同じで、彼はそこに共感し、同時に浮世絵は彼の絵を発展させるために必要な模範となりました。
ゴッホはより近代的で原始的な絵を求める社会の要求に応えることに熱心でした。
浮世絵はその色彩と様式によって、ゴッホが自然を模範として描くことを諦めず進むための道を示しました。それが彼にとっての理想でした。
”私の全ての作品は、どれも少なからず日本の芸術に基づいている…”
ヴィンセントがアルルから弟テオに宛てた手紙(1888年7月15日)
まとめ
いかがでしたか?
アーカイブストーリーでは、浮世絵とゴッホの密接な関係が紹介されています。
日本に憧れ、日本に行きたいと切望していたゴッホ。
日本人の多くがゴッホの絵に魅せられ、強く惹かれるのには、彼の絵に込められた日本への切なる思いが一因としてあるのかも知れません。
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