壮大な英国ドラマを堪能。「KING&QUEEN展」レビュー
こんにちは。静物と申します。
ただの美術好きとしてTwitterで美術についての情報を呟いています。
今回は現在開催中の「KING&QUEEN展 -名画で読み解く 英国王室物語-」の個人的なレビューをご紹介いたします。
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上野の森美術館で開催中「KING&QUEEN展」
本展は、英国王室の約500年にわたる歴史の中で描かれてきた王たちの肖像画と、彼らのエピソードを楽しめる展覧会です。
いわゆる美術界の巨匠による名画と呼ばれるような作品はほとんどありません。しかしながら、波乱万丈にみちた英国の歴史を形づくってきた君主たちをリアルに感じられる、かなり濃い展覧会になっています。
今回は、本展の中から私が個人的に面白い!と思ったエピソードを持つ王についてご紹介します。
ぜひ本物の肖像画を前に、現代の常識では考えられないような人生を生きた彼らの息吹を体感していただければと思います。
人々を震え上がらせた、残忍で邪悪な王/ ヘンリー8世
本展は、1480年代から始まる王朝「テューダー朝」の話から始まります。この時代に特に注目していただきたい王は、ヘンリー8世です。
このヘンリー8世、なんと6度結婚し、そのうち2人と離婚、2人を斬首したというエピソードの持ち主。こんなにも離婚・斬首を繰り返したその最大の理由は「男子を出産できなかったから」です。
元々ヘンリー8世は世間から、王としての正当な血筋を引いていないのではないかという嫌疑がかけられていました。その疑いを晴らすためにも、なんとしてもお世継ぎとしての男子を授かる必要があったのです。しかしながら、何度結婚しても産まれてくるのは女の子ばかり。
独裁政治をしいていたヘンリー8世は、躊躇うことなく妻たちを捨てていきました。
彼の逸話の中でも、特に驚いたお話を一つご紹介します。
最初の妻であるキャサリン・オブ・アラゴンが女の子しか出産できなかったことから、彼女と離婚することを望んだヘンリー8世。しかしながら当日の英国王室はカトリックを信仰しており、離婚ができませんでした。そこでヘンリー8世は驚くべき行動に出ます。
なんとカトリックを取り潰して、「イギリス国教会」という新たな宗教を作り上げてしまいました。
自分のワガママを通すために、国として宗教改革を行ってしまったのです。これによって晴れてキャサリン・オブ・アラゴンと離婚することができました。
その直後、アン・ブーリンという女性を2番目の妻として迎えることになります。(しかしながらこのアン・ブーリンも男児を産むことができず、あっさりと斬首されてしまいます……)
ちなみにこのヘンリー8世ですが、いわゆる「ハイスペ男子」だったそう。身長は190cm、スポーツ万能で語学も堪能、作詞や作曲を嗜むなど芸術センスもあったのだとか。これだけ邪悪なエピソードを残した男に欠点がないというのは、なんだか皮肉なものです。
肖像画の表情からは、彼の冷酷さと、どこか自信に満ち溢れた雰囲気が感じられるような気がしてきます。
誰よりも強くあろうとした、カリスマ女王/エリザベス1世
ヘンリー8世の2番目の妻、アン・ブーリンが産んだ女児が、のちのエリザベス1世です。
この肖像画は見たことがある人も多いのではないでしょうか。血色の良い顔は凛としていて気品に満ち溢れています。
ヘンリー8世という傍若無人な父をもったためか、英国のために身を捧げる献身的な王というイメージ作りに奔走。
「私は英国と結婚した」と語り、生涯独身を貫きました。(ちなみに全身に纏っている真珠は処女性の象徴です。)
さらに書物の挿絵やトランプの柄に自身の肖像画を描かせるなどして、精力的なプロモーションを行いました。
また、エリザベス1世は国民から愛された女王として知られています。
1588年にはスペインの無敵艦隊を撃破。さらにカトリック教徒を迫害しなかったことで国に平穏をもたらしました。こういった政治的成果や数々のイメージ戦略によって、いわば「カリスマ」とも言えるほどの支持を集めたのだとか。
しかしながら、そんな強い女王にも弱さが垣間見えるエピソードがあります。老年には年齢がかなり下の愛人を何人も作っていたのだそう。さらに、自分の老いた姿から目を背けるためでしょうか、宮殿の鏡を全て取り外させたのだとか……。常に強くあろうとした人生の裏には、多くの苦労や心の傷があったのではないでしょうか。
一見すると美しく力強いエリザベス1世の肖像画から、そういった人間臭さを感じとってみるのも良いでしょう。
一流の政治家でありながら酒に溺れた、異端の女王/アン女王
本展で私が個人的に一番「かっこいい女王」だと思ったのが、アン女王です。
しかし一般的にアン女王は、悲劇の女王として知られています。生涯で17回妊娠したものの、その子供のほとんどが流産や夭折。最も長く生きた子供でも、11歳で死亡してしまいました。
そのストレスからか、ブランデーを飲み続けてアルコール中毒に。戴冠式の時には歩くこともままならず、輿に乗っていたのだとか。ブランデーが好きすぎるあまり「ブランデーおばあちゃん」という不名誉な渾名もつけられてしまっていました。
これだけ聞くとどうしようもない女王のように感じられますが、政治的手腕はかなりのもの。イングランドとスコットランドを統合して、歴史上最初の国家となるグレートブリテン王国を建国したのは、何を隠そうこのアン女王なのです。
子供たちに次々に先立たれ、アルコールに溺れながらも政治家として偉業を成し遂げたアン女王。なんだかとってもかっこよく感じられないでしょうか。
本展で紹介されている肖像画からは、ぜひアン女王という人間の面白みを感じ取って欲しいです。
2人の男性からの愛を知った、孤独な女王/ヴィクトリア女王
ヴィクトリア女王は愛に生き、愛に苦しんだ女王です。
彼女が結婚したのは、実のいとこである21歳のアルバート。互いに一目惚れをした二人はすぐさま結婚。アルバートは妾なども作らず、理想的なオシドリ夫婦として生活していました。そのために国民からの好感度も高かったそう。
そんな愛に溢れた人生を送っていたヴィクトリア女王ですが、アルバートに先立たれると「幸せな人生は終わった、この世は無きに等しい」と語り、悲嘆に暮れた生活を過ごします。なんと約10年間も黒い喪服で過ごし、宮殿の奥に引きこもって公の場から姿を消したのだとか。
その後、第二の運命の人・使用人のジョン・ブラウンに出会います。
ブラウンの存在によってアルバートの死による傷も癒え、だんだんと公の場にも出てこれるようになったヴィクトリア女王。しかしながらそんなジョン・ブラウンにも先立たれてしまいます。再び未亡人となったヴィクトリア女王は激しく取り乱し「私は独りぼっちだ」とポツリ呟いたのだとか。このエピソードは、なんとも涙を誘います。
ここで肖像画を見てみましょう。
豊かな体つきと美しい白髪からはあたたかい包容力が感じられます。
しかしながらその瞳はどこか険しくも見えるのではないでしょうか。孤独の苦しみを味わってきた女性の生き様が表れているかのようです。ヴィクトリア女王の肖像画からは、ぜひ彼女が舐めてきた辛酸を感じ取っていただければと思います。
希望の時代を生きる女王と妃/エリザベス2世とダイアナ妃
本展の最後のセクションでは、現代の英国王室を象徴するエリザベス2世やキャサリン妃、ダイアナ妃に関する肖像画・エピソードが紹介されています。
約500年にわたる英国王の歴史を総覧したのちに彼女たちを見ると、その先進性がとてもよくお分かりいただけるはずです。特にダイアナ妃の肖像画は、それまでの富と権力を誇示するような英国王室の図像からは大きくかけ離れています。
ショートカットで、シンプルなシャツとすらっとしたパンツ姿。
それでも彼女が全世界から愛されたのは、どんな服を着ていても溢れ出る気品を彼女が持っていたからでしょう。肖像画を前にするとそのことがとてもよくわかります。
また展示後半には、アンディ・ウォーホルによるエリザベス2世の肖像画も展示されていました。
ウォーホルらしい、オレンジやピンクなどの原色で表されたエリザベス2世です。女王としての気高さはもちろん、新しい時代の英国を切り拓く彼女の活力までも伝えてくれます。間違いなく名作だと言えるでしょう。
まとめ
今回は「KING&QUEEN展 ―名画で読み解く 英国王室物語―」のレビューをお届けしました。
数々のエピソードを通じ、きらびやかでありながら時に血腥く、時に愛に溢れた英国王室の世界にトリップできる本展。
美術館を出た後には、まるで壮大な大河ドラマを見たあとのような、そんな充実した心持ちにさせてくれます。気になった方はぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。
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