伊藤若冲絵師
ART

伊藤若冲とは?代表的な作品と経歴を詳しく解説!

伊藤若冲、という江戸時代に活躍した画家をご存知でしょうか。

近年では、開催された若冲の展示に大行列ができることがSNSなどで話題になっているため、彼の名前を聞いたことがある人もいらっしゃるかもしれません。

この記事では、伊藤若冲の生涯と彼の残した作品について、その魅力と独自性をたどっていきたいと思います。

 

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伊藤若冲とは

独学で道を開いた江戸期の天才絵師

伊藤若冲(いとう じゃくちゅう)は、1700年代の江戸時代に活躍した日本の画家です。

独学で絵を学び、1800年に84歳で他界するまでに作品を描き続けた若冲は、生涯にわたり多くの作品を世に残しました。

しかしながら若冲は、近年まで一部の専門家のみが知る江戸中期の異端な画家というのが世間の認識でした。

若冲が注目され始めたのは1990年代以降で、2000年に京都国立博物館にて若冲の没200年を記念した展示が行われるや否や、超絶な技巧と作品の独自性が話題となり、全国の美術ファンから注目され始めます。

そして、2016年に東京都美術館にて開催された「生誕300年記念 若冲展」では、40万人以上の入場者を動員する記録的な大ブームを起こし、SNSなどでも大きな話題になりました。

 

作品の特徴

若冲の作品の魅力は、超絶な技巧から生まれる色彩豊かな綿密な描写と、どこか超現実主義(シュルレアリスム)を感じさせるような幻想的な雰囲気にあるといえます。

また、彼の作品は「奇想派」と称されることがあるくらい、その斬新な発想力や、従来の常識的な画法にとらわれない独特の色彩感覚と形態についても、高い評価を得ています。

若冲は動植物などの自然を題材にした作品を多く残しています。

特に代表作の「動植綵絵」からも見られるように花鳥画を得意としていました。

 

伊藤若冲の経歴

生い立ち

若冲は、1716年(正徳6年)に京の錦小路にある青物問屋「枡屋」の長男として生まれました。

枡屋は、地域の商人や生産者へ場所を提供し売り場の使用料を徴収する流通業を営んでおり、多数の商人を管轄し大きな利益を上げていたことから、若冲は裕福な家柄で育ったと言えます。

そして1739年、若冲が23歳のときに父・源左衛門が死去したことから、若冲は4代目枡屋の当主となります。

このように、若冲の生活には経済的余裕が伺えることから、生活費の工面に苦労することなく好きなだけ画業に没頭できる環境が整っていたと考えられます。

 

狩野派の大岡春卜(しゅんぼく)に弟子入りする

若冲は10代半ばで、狩野派の絵師である大岡春卜へ弟子入りをしたという説があります。

しかし、春卜の厳しい教えには馴染めなかったようで、身の回りの動植物を写生することによって独学で技術を習得していったと言われています。

また、若冲の禅の師である大典顕常の残した記録によれば、若冲は絵を描くこと以外の雑事には全く関心がない人物であったとのこと。商売や芸事には関心がなく、生涯妻を娶ることもせずに、絵を描くことに深く没頭し続けたそうです。

 

40歳で隠居し傑作「動植綵絵」を完成させる

若冲は40歳で家督を弟の白歳に譲り、早々に隠居生活に入ることでさらに作画に没頭していきました。

そして、42歳の頃から「動植綵絵」の制作を始めます。

長い歳月をかけて制作されたこの作品は30幅にも及ぶ大作となり、若冲が50歳のころついに完成しました。

それまでの若冲が積み上げてきた画力を余すことなく発揮した「動植綵絵」は、若冲の最高傑作として名高いだけでなく、日本美術史に残る傑作であると言われています。

 

晩年

若冲が50~60代のときは、地元である錦市場の存続と繁栄に尽くすため、町年寄という要職に就いていました。

したがって、この時期の若冲は、作品を多く残していません。

若冲が作画に対して再び情熱を燃やすのは70歳を過ぎた頃からで、1788年の天明の大火によって自宅を焼失するという不幸に見舞われながらも、大阪に移り住み、絵で生計を立てるようになります。

この時期には「仙人掌群鶏図障壁画」などの大作が描かれたことから、若冲は晩年になっても絵に対する情熱が冷めることはなかったといえます。

そして、1800年、若冲は惜しまれつつ85歳で天寿を全うしました。

 

伊藤若冲の代表作品を解説

動植綵絵(1765年ごろ)

「動植綵絵」は若冲の最高傑作として名高い作品です。

若冲の画力を遺憾なく発揮したこの作品は鳥、鳳凰、草花、魚介類などの動植物が細密極まる筆致で描かれており、完成までに約10年ほどの歳月を要した30幅の大作となりました。

この「動植綵絵」の一部は、相国寺へ寄進され公開されましたが、その完成度は京の人々の度肝を抜き、若冲の名はたちまち有名になり世の中に広く知られることになりました。

 

釈迦三尊像(1765年ごろ)

「釈迦三尊像」は、「動植綵絵」と同時に公開された作品で、東福寺(京都五山の禅寺)に伝来した高麗仏画を模写した作品です。

若冲は模写した原図の劣化を防ぐために、あえて輪郭線や色彩のコントラストを強調した作品として仕上げました。

その結果、鮮やかな色彩は現在でも鮮やかに残っており、驚くべき緻密さで描き込まれた細部の文様などもはっきりと見て取れます。

 

仙人掌群鶏図障壁画

「仙人掌群鶏図障壁画」は若冲が75歳のときの作品です。

晩年の若冲の代表作であり、西福寺の檀家であった薬問屋・吉野五運から依頼を受けて制作された金地の大作。岩絵具を用いて表現された深く鮮やかな色調が見事な作品です。

画面には主に鶏が描かれていますが、「動植綵絵」などで見られた現実と肉薄するような写実描写と現実を超越するような幻想性とは趣が異なります。

高度な写実性は維持しているものの、対象となる鶏は作為的に親しみやすい姿として描かれています。

 

白象群獣図(1787年ごろ)

こちらは若冲の作品の中でも非常にユニークな作品として知られ、描かれた巨大な白像が印象的です。

白、茶、灰色、黒の4色だけが使用され、周囲にさまざまな種類の獣が描かれています。

もともとは二枚折屏風でしたが、現在は額装に改変されています。

ちなみに、この作品は枡目描きという、画面全体に約1cm四方のマス目を引き、それを塗っていくという若冲独自の方法を使って描かれており、非常に手の込んだ根気を必要とする制作過程を経て1787年ごろに完成しました。

 

菜蟲譜(1790年ごろ)

「菜蟲譜」は横約11mの長さの巻物に、珍しい異国の果物や昆虫、爬虫類など約160種類の生き物が描かれた作品です。

裏彩色、という絵絹の裏側からも彩色を施すことにより柔らかい雰囲気を出す技術が多く用いられており、この作品は若冲の生き物に対する慈しむような視線と彼特有のユーモア溢れるものとなっています。

かつての鮮やかな色彩と超現実感によって一世を風靡した「動植綵絵」と比較すると、「菜蟲譜」は若冲晩年の精神的境地の変化がよく反映されている作品といえます。

 

果蔬涅槃図(かそねはんず)(1794年ごろ)

この作品は、野菜と果物で釈迦入寂の場面を描いた水墨画作品です。

種々の野菜や果物で涅槃の様子を表した戯画とも考えられていますが、青物問屋で育った若冲が家業の繁栄を祈ったものであるとも言われています。

無色な水墨画ですが、ふくよかな線や濃墨によるコントラストの強調などを駆使し、どこか活き活きとした生命力とユーモアを感じさせます。

鮮やかな色彩の作品で有名な若冲ですが、「果蔬涅槃図」は若冲が水墨画でも新しい境地を開いた作品であると言われています。

 

伊藤若冲の作品を見ることのできる美術館

東京国立博物館

東京上野にある東京国立博物館には、「松樹梅花孤鶴図」、「松梅群鶏図屏風」が所蔵されています。

両作品とも、若冲が得意とした鳥が描かれており、特に鶏が描かれている「松梅群鶏図屏風」は「鶏の画家」と言われた若冲の真骨頂を体感できることでしょう。

 

東京国立博物館

開館時間:9時30分~17時00分

休館日:月曜日

入館料:(一般)1,000円(大学生)500円 

住所:東京都台東区上野公園13-9

 

東京藝術大学美術館

東京藝術大学美術館には「鯉図」が所蔵されています。

この作品は、若冲が得意とした「筋目描き」という技術が多用されており、墨のにじみをぶつけ合ってその境界線に白い線の節目を作っています。

高等技術を駆使して描かれた鯉の鱗は、ぜひ目の前で鑑賞したいところです。

 

東京芸術大学美術館

開館時間:10時00分~17時00分

休館日:月曜日

入館料:(大人)300円(大高生)100円(中小生)無料 

住所:東京都台東区上野公園12-8

 

出光美術館

東京都丸の内にある出光美術館は、2019年に若冲の得意とした「升目書き」によって描かれた「鳥獣花木図屏風」などの作品を計190件購入したことで話題となりました。

特別展などの開催予定も行っているため、公式HPで詳細をチェックしておくとよいです。

 

出光美術館

開館時間:11時00分~17時00分

休館日:月曜日

入館料:(一般)1,200円(大高生)800円(中学生以下)無料 

住所:東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階

 

宮内庁 三の丸尚蔵館

宮内庁の三の丸尚蔵館には、若冲の代表作である「動植綵絵」が所蔵されています。

この作品は元々、京の相国寺へ寄進されましたが1889年(明治22年)に宮内庁へ献上されました。

当時最高級の画絹と絵具を惜しみなく使用したこの作品は、200年以上経った現在でも保存状態がとても良く、褪色も少ないと言われていて、とても貴重な作品であると言えます。

若冲の一世を風靡した傑作を、ぜひ実際に見に行ってみてはいかがでしょうか。

 

宮内庁 三の丸尚蔵館

開館時間:11時00分~17時00分

休館日:月・金曜日

入館料:無料

住所:東京都千代田区千代田1-1

 

ロサンゼルス・カウンティ美術館

アメリカにある西海岸最大級の美術館「ロサンゼルス・カウンティ美術館」には世界中の名画が所蔵されています。

日本画の収集家であるジョー・プライスによって寄託された200点の作品が日本館に所蔵されていますが、その中には若冲の作品も何点か含まれています。

 

ロサンゼルス・カウンティ美術館

開館時間:(月・火・木曜日)11時00分~17時00分(金曜日)11時00分~20時00分(土・日曜日)10時00分~19時00分

休館日:水曜日・12月25日

入館料:(一般)$15(65歳以上・学生)$10(17歳未満)無料

住所:5905 Wilshire Blvd, Los Angeles, CA 90036

 

もっと伊藤若冲の作品を楽しむ

伊藤若冲大全

伊藤若冲大全は、若冲の200点に及ぶ作品を完全収録した画集です。

2000年に開催された「没後二〇〇年若冲」展を基礎として新撮していますが、事情により展示されなかった作品や展覧会後に発見された作品なども収められているため、決定版として若冲ファンなら持っておきたい一冊です。

伊藤若冲大全

41,800円 (税込)

出版社 ‏ : ‎ 小学館 (2002/10/25)
発売日 ‏ : ‎ 2002/10/25

 

伊藤若冲作品集

こちらは2015年に出版された画集です。

著者の太田彩さんは、「動植綵絵」を所蔵している宮内庁の丸尚蔵館学芸室主任研究官をされている方であるため、その充実した解説も見どころの一つです。

特に「動植綵絵」については、細部まで鑑賞できるように拡大して掲載されています。

伊藤若冲作品集

3,300円 (税込)

出版社 ‏ : ‎ 東京美術 (2015/11/25)
発売日 ‏ : ‎ 2015/11/25

 

もっと知りたい伊藤若冲ー生涯と作品

こちらの書籍では、若冲の主要作品を選び、彼の生涯に沿って配列されて解説が行われています。

作品を古い順から並べているため作風の変化がわかりやすく見て取れることから、熱心な若冲ファン納得のことはもちろん、入門書としてもおすすめできる一冊です。

もっと知りたい伊藤若冲―生涯と作品 改訂版 (アート・ビギナーズ・コレクション)

1,980円 (税込)

出版社 ‏ : ‎ 東京美術; 改訂版 (2011/7/30)
発売日 ‏ : ‎ 2011/7/30

 

まとめ

いかがだったでしょうか。

「奇想の絵師」として知られる若冲ですが、彼が残した多様性あふれるユニークな作品の数々からも、その独創的な人物像が浮かんできます。

若冲の作品は国内の様々な場所で鑑賞できることから、日本美術史に名を残した天才の作品を実際に見に行ってみてはいかがでしょうか。

 

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