フェルメール「牛乳を注ぐ女」に隠された下絵、アムステルダム国立美術館の研究チームが発表
最新のスキャン技術により、名画に隠された下絵の存在が近年次々と明らかになっています。
今回、オランダの巨匠、ヨハネス・フェルメール作「牛乳を注ぐ女(1658年)」にも新たな下絵が見つかりました。
この新事実は、作品を所蔵するオランダのアムステルダム国立美術館が、2023年に開催を予定している「フェルメール展」の記者会見で発表しました。
フェルメールの制作方法や私生活に迫る今回のニュース。
2023年に開催される「フェルメール展」の内容も含め、最新のフェルメール研究について詳しくご紹介します。
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最新技術で高度な分析と再現が可能に
アムステルダム国立美術館は、2023年に開催する「フェルメール展」のため、保存修復師と科学者で構成された研究チームを結成。
最新のマクロXRFとRISスキャン技術を駆使し、フェルメールの芸術性、構図の意味、制作過程など複数の視点から作品を分析しました。
技術の進歩により、X線で絵の下の層に描かれた筆跡が判別可能になり、名画に隠された下絵から、その制作過程を正確に分析することが可能になりました。
この技術は同じくアムステルダム国立美術館が所蔵しているレンブラントの「夜警」(1642年)修復プロジェクトでも活用され、隠された下絵が発見されました。
また、絵の欠損部分を人工知能(AI)によって復元。レンブラントの技法と色の使い方を学習させ、完成当初の絵の再現にも成功しています。
「牛乳を注ぐ女」に隠された下絵を発見
17世紀オランダ黄金時代の代表画家、フェルメールの代表作「牛乳を注ぐ女(The Milkmaid)」。
アムステルダム国立美術館の研究チームは、最新のスキャン技術により、この絵に隠されていた「下絵」を発見。
絵の下の層には、当時の一般的な家庭用品であった「オランダ風の水差し」と「焚火用の籠」の下絵が描かれていました。
「下絵」とは、絵を描き始める際の下描き、アウトラインのことです。
フェルメールの私生活に迫る新発見
完成形の作品を見ると、女性の背後の壁には何も描かれていませんが、絵の下の層には「オランダ風の水差し」と「水差しホルダー」の下絵が描かれていました。
これらのモチーフは、フェルメール自身が自宅の食料庫に同様のものを置いていたそうです。
フェルメールが制作途中でこれらのモチーフを削り、中央の女性に目がいくよう構図を修正したことが伺えます。
研究チームのゴレゴール・ウェーバー氏は、こうした試行錯誤は「真珠の耳飾りの少女」などの後年の作品群にも影響を及ぼしており、フェルメールが「引き算がより効果的だということを学んだ」ことが示唆されているとコメントしています。
また、絵の右下に描かれた「焚火用の籠」は柳の茎で編まれたものと思われ、フェルメールの遺品目録から見つかったものと同じタイプの籠であることが判明。
籠は生まれたばかりの赤ん坊を温めたり、おむつを乾かしたりするために使用されました。
フェルメールには11人もの子供がいたことが分かっており、自宅でも籠を頻繁に使用していたのでしょう。
制作過程の謎が明らかに
フェルメールの制作過程はこれまで謎に包まれていましたが、絵の下の層には黒い絵の具で下絵が描かれており、彼が最初に黒色で明暗を付け、その上から絵を仕上げていったということも今回の研究で明らかになりました。
アムステルダム国立美術館のタコ・ディビッツ館長(Taco Dibbits)は次のように述べています。
『牛乳を注ぐ女』については既に多くの研究がなされており、現代の技術によってこれほど決定的なものが浮かび上がるとは予想だにしていませんでした。
鑑賞者はこの最も神秘的で愛すべき芸術家にますます近づくことができます。
フェルメール生誕350周年を記念する「フェルメール展」
2023年、フェルメール生誕350年を記念してアムステルダム国立美術館で開催予定の「フェルメール展」は、フェルメールの現存する絵画35点中27点が公開され、フェルメール展としては史上最大規模の回顧展となります。
フェルメールはレンブラントとは対照的に、現存する作品が極めて少ない画家として知られています。
アムステルダム国立美術館はフェルメールの作品4点を所蔵しており、同美術館のコレクションの中で最も貴重なものとされています。
フェルメール作品27点が集結
「真珠の耳飾りの少女(1665年)」マウリッツハイス所蔵
「天秤を持つ女(1662-63年)」ワシントンDC国立美術館所蔵
「地理学者」シュテーデル美術館所蔵
「手紙を書く婦人と召使」アイルランド国立美術館所蔵
など、本展のために世界各国の美術館からフェルメール作品が集結。
ニューヨークのフリック・コレクションから貸し出されるフェルメール作品3点は、今回初めてニューヨーク以外の地で展示されます。
「窓辺で手紙を読む女」もオランダ初公開
本展では、ドイツのドレスデン国立古典絵画館所蔵で修復を終えた「窓辺で手紙を読む女(Girl Reading a Letter at the Open Window)」も、オランダ初公開となります。
「窓辺で手紙を読む女」は、1979年のX線調査の時点で、少女の後ろの壁にキューピッドらしきものが描かれていることが判明。
その後複数の化学調査により、完成当初描かれていたキューピッドが、何者かの手によって塗り潰された事実が明らかになり、同館は制作当初の作品に修復することを決定しました。
修復士の中でも限られた、高度な技術を持つ職人が1mmに満たない絵の具の層を剥がし、4年の歳月を費やしてオリジナルの状態に復元しました。
修復を終えた作品は同館で公開され、次いで東京都美術館「フェルメールと17世紀オランダ絵画展」で日本初公開されました。
下絵の存在が明らかになった「牛乳を注ぐ女」をはじめ、現存するフェルメール作品の多くが一堂に集結する過去最大規模の回顧展。
「フェルメール展」(2023年2月10日~6月4日)のチケットは、アムステルダム国立美術館の公式ウェブサイトにて、2022年9月から販売開始となります。
フェルメール展
会期 : 2023年2月10日~6月4日
会場 : アムステルダム国立美術館
公式HP : rijksmuseum.nl/Vermeer
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