エッシャーの作品11選!不思議なだまし絵の世界にひたってみよう
日本でも人気が高い奇想の版画家エッシャー。
一見緻密な写実画のようなエッシャーの作品は、よく見ると現実には存在しえない世界が表現されており、唯一無二の世界観を持っています。
私たちを不思議な世界に誘うエッシャーの生涯、そして版画の魅力をご紹介いたします。
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エッシャーとは?
だまし絵で有名な版画家
エッシャーは、2次元の平面上に3次元の空間を描くだまし絵など錯視を使った作品や、数学的アプローチで無限の循環を描いた作品などが有名です。
エッシャーは版画という手法にこだわり、木版、リトグラフ、メゾティントなどを駆使して結晶学と数学的手法を用いた構成により独自の絵画空間をつくり出しています。
平面の正則分割で描かれたジグソーパズルのような手法や、現実にはあり得ない3次元空間を描いた不可能図形の作品は、アメリカの国際的雑誌TimeとLIFEで紹介されたことにより、アート業界よりも数学者や科学者、一般大衆に注目され、高く評価されました。
エッシャーの人生・経歴
1898年6月17日、マウリッツ・コーネリス・エッシャーはオランダで生まれました。
絵が得意だったため1919年にハールレム建築装飾美術学校に通い、その時の師であったサミュエル・メスキータに才能を見出され、絵画とウッドカットを学んで卒業します。
結婚後ローマに移住していたエッシャーはスイスに移住、その後スペイン南部へ船旅をします。
その時に訪れたアルハンブラ宮殿のモザイク模様を観たことが模様を繰り返す作品に挑戦するきっかけとなりました。
それまで夫婦それぞれの実家からの援助で成り立っていた生活でしたが、1951年にイギリスの雑誌The Studioが、その後アメリカのTimeとLifeがエッシャーの作品を取り上げ国際的な名声を得ます。
1969年、最後の木版画「蛇」を制作後、新作を制作することはなく、1972年3月27日に享年73歳で死去しました。
エッシャーの版画作品の特徴
幾何学的に描かれるオブジェ
旅先で訪れたアルハンブラ宮殿のイスラム文化の幾何学的な装飾モザイク模様に影響を受けたエッシャーは、平面の正則分割の幾何学的なモチーフを用いて作品を制作するようになります。
幾何学的なオブジェを繰り返し描き、非具象的なオブジェが次々と具象に変化するパターンで埋め尽くす作品など、当時の数学学者や結晶学者からも影響を受けました。
版画家人生の後半からは鏡面や遠近法を使い、数理的な世界の構築を研究し続けました。
幾何学的オブジェの反復や不可能図形、無限の循環といった作品を描いていますが、随所にイタリア旅行で触発された自然の造形が埋め込まれていることも特徴です。
視覚に訴える時空のゆがみ
錯視とは、目で見ているものが、実際とは違って見えてしまうことです。
エッシャーは、遠近法を使った錯視効果と、細部まで徹底的にリアルさを追求した表現により鑑賞者に錯覚を起こさせるような絵をたくさん描きました。
現実世界では不可能な立体を、実際にあるかのような3次元の光景が広がる作品が多いです。
無限に続く循環のデザイン
エッシャーの作品には、無限に続く循環を描いたものも少なくありません。
作品のひとつである「円の極限3」では、白い縁取りにより一見四角形で構築されているように見える部分は正八角形で構築され、円盤の縁に行くほど魚が小さくなっていきます。
また、無限に動き続けるような永久運動を描いた「上昇と下降」や「滝」など、エッシャーの興味が秩序ある無限循環の世界にあったことが分かります。
エッシャーのおすすめ作品11選!不思議なだまし絵の世界
やしの木
制作年 |
1933年 |
1920年代、エッシャーは何度もイタリアへ旅行をし、周遊中に訪れた風景や建造物を精力的にスケッチしました。
「やしの木」は繊細ながらも大胆さで躍動感あふれるタッチが特徴的です。
この頃に描いたスケッチを元にした風景版画は、単に自然を映し出すだけではなく自然の造形が描かれており、その後の作品制作の礎になったと言われています。
妻イエッタの肖像
制作年 |
1925年 |
1924年、エッシャーはイタリアで出会ったイエッタと結婚します。
イエッタはおとなしい性格で、エッシャーに献身的に尽くしたと言われています。
百合の花を手に持ったイエッタの肖像画は、聖母マリアのような優しい印象を受け、中世の宗教画をイメージさせます。
彫刻刀やノミの種類を何度も変えて線に強弱をつけ、光沢効果を出した技巧が特徴的です。
写像球体を持つ手
制作年 |
1935年 |
球体を持つエッシャーの手、その球体にはエッシャー自身とその部屋の様子が凝縮して映し出されています。
手は球体、そして眉間を中心に、壁、床、天井、本棚はすべて歪んだすべてを支えており、エッシャーの顔は球体に映った自分自身を凝視している独特な構図の自画像です。
静物と街路
制作年 |
1937年 |
自室のテーブルの上には本やトランプなどが置かれ、街路には人が歩き、洗濯物が干されているという風景画に見えます。
しかしよく見ると、テーブルはその向こう側に広がる街路へとそのままつながっています。
これはエッシャーの内面イメージを表現したもので、テーブルを通して街路が広がる斬新な風景画と静物画の融合作品と言われています。
メタモルフォーゼⅡ
制作年 |
1939年-1940年 |
木版20枚を使った192mm×3875mmの大作である「メタモルフォーゼⅡ」。
この作品はエッシャーの父と母が亡くなり、ナチスドイツがフランスとオランダに侵攻した年に制作が開始されました。
「metamorphose」と書かれた文字から始まり、その文字は市松模様、トカゲ、虫、魚、鳥に変貌し、そして最後にはまた「metamorphose」に戻っていきます。
エッシャーはこの作品で循環の世界観を描いているのです。
空と水1
制作年 |
1938年 |
鳥と魚で構成された正方形の版画「空と水1」。
中央の切り替え部分はまるで水面のようで、空には黒い鳥が飛んでおり、水の中には白い魚が泳いで魚が上向きに進んでいます。
鳥が下向きになると徐々に形が崩れ、それぞれ空と水の均一な背景が現れるというだまし絵です。
抽象的なオブジェが連続的に変形して鳥と魚となりますが、オブジェの要素は同じなので、ジグソーパズルのピースのように互いが融合しているように見えます。
昼と夜
制作年 |
1938年 |
鳥の眼下には田園風景が広がる街が描かれています。
左手の上空を飛ぶ黒い鳥たちに注目するとそこは昼の田園風景が、右手の白い鳥たちに注目すると夜の田園風景が。
中央は昼と夜が融合し、グレーの色で結ばれて鳥たちはここから生まれています。
視点が変われば、見え方も変わる左右対称のだまし絵として知られるエッシャーの代表作です。
眼
制作年 |
1946年 |
よく見ると、目の中にドクロがいるこの作品。
まつげ1本1本や目の潤みの表現が高く評価されている作品で、エッシャー展のポスターにも使用されました。
エッシャー作品特有の循環モチーフではありませんが、エッシャーの版画の技術力が分かる一枚としてエッシャーファンからも高く評価されています。
相対性
制作年 |
1953年 |
建物の外ではお茶をしてくつろいでいる人、カップルが出かける様子など牧歌的な雰囲気を感じさせる一方で、建物の中にいる人々は、まるで重力が無いように階段を上り下りする不思議な光景が広がっています。
この建物には7つの階段があり、各階段には住人が同じ方向に同じ側で同じ階段を使用しています。
しかしそれぞれが階段の異なる面を使用しているという2つの重力源が見える作品。
つい眺めてしまう何とも不思議な魅力を持っただまし絵です。
滝
制作年 |
1961年 |
塔のある水車小屋から滝が流れている様子が描かれている作品。
エッシャーのだまし絵の代表作でもあります。
水は水路を通って下流から上流に流れ、そして高所から滝となって落下し、再び下流に流れて上流にいくという動きを延々と繰り返しています。
下流から重力を無視して上流に水が登っていく、現実の世界ではありえない光景のだまし絵で、永久に循環しつづける静かな水の流れから目が離せません。
蛇
制作年 |
1969年 |
最晩年の作品「蛇」。
エッシャーは最後の作品に蛇を描こうと決めていたと言われており、複雑に絡まりあった3匹の蛇が遠近法表現により連続する模様が描かれています。
互いの尻尾を食べあっている2匹の蛇は「死と再生」「不老不死」の象徴ウロボロスを思い起こさせます。
エッシャーの作品が観られる美術館
エッシャー美術館
エッシャーの母国オランダにあるエッシャー美術館は、オランダの女王エンマ(1858-1934)が冬期滞在していたランへ・フォールハウト宮殿を改装して作られた美術館です。
常設展示ではエッシャーの人生と作品を掘り下げた常設展示室があり、特に目を引くのは長さ7メートルの「メタモルフォーシス III」(1967-1968)の展示です。
2階には錯覚を使った体験型展示室もあり、エッシャーの視覚とその世界観を体験できます。
エッシャー美術館詳細
開館時間:11:00~17:00
休館日:月曜日
入館料: 大人11€ 大学生10€ 13~17歳8€ 7~12歳6.5€ 7歳未満無料
もっとエッシャー作品が読める本
M・C・エッシャー (ちいさな美術館)
エッシャーの作品が31点掲載されており、1枚1枚がポストカードになっている「M・C・エッシャー (ちいさな美術館)」。
「物見の塔」や「上昇と下降」などのだまし絵が掲載されています。
ポストカードサイズで手軽に鑑賞できる作品集としても、身近な人にポストカードをして贈ることもできる1冊です。
Escher Graphic Work 大型本
「Escher Graphic Work」はエッシャー自身によって解説されている作品集です。
1920年代から1940年代、1950年代の作品を中心に76点の作品が掲載されており、どのように作品を制作しているかといった記述も。
迫力のある大型本のため、エッシャーに深く触れたい人や繊細なエッシャーの作品を手元でじっくり鑑賞したい方にぴったりの1冊です。
まとめ
だまし絵という表現方法で、鑑賞者を重力などない異次元空間に引き込むかのような不思議な体験をさせてくれる作品を数多く描いたエッシャー。
版画というジャンルにこだわり続け、独自の着想源を持った唯一無二の版画家と言えるでしょう。
その大胆かつ繊細な表現方法や無限に続く循環の世界観は、現代においてもなお人々を魅了し続けています。
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