レンブラント
ART

旧東ドイツでレンブラントの新たな作品発見?工房制時代の作品が抱える「作者の曖昧さ」とは

旧東ドイツの小さな街、ゴータ市フリーデンシュタイン城。ここから盗まれた5枚の絵画が、約40年の時を経て無事に戻ってきました。

40年間もの間盗まれていたため、これらの作品について本格的な鑑定はこれまで実施されてきませんでしたが、今回そのうちの1枚「老人の肖像画」が、レンブラントが描いた未確認の作品ではないかという新事実が浮上しています。

 

しかし今回の鑑定結果は、レンブラントの作品だと確証できない「曖昧さ」を孕んでいます。

工房制時代の作品鑑定で大きな争点となる「どこまでが画家本人の作品か」という問題について詳しく解説します。

 

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40年ぶりに発見された5枚の絵画

東ドイツ

ソース

今回発見された5枚の絵画は、ベルギーの画家ヤン・ブリューゲルの工房で描かれた風景画、ドイツの画家ハンス・ホルバインによる女性を描いた絵画、オランダの画家フランツ・ハルスの肖像画、ベルギーの画家ヴァン・ダイクによる自画像の模写作品(作者不明)、そして一番左に写っている「老人の肖像画」です。

いずれの作品も16世紀半ばから17世紀にかけて制作されました。

 

「老人の肖像画」はこれまで、レンブラントと同時代の画家ヤン・リーフェンス、もしくはレンブラントの弟子が描いたものだと考えられてきましたが、今回の鑑定で新たに「レンブラントの作品ではないか」という説が浮上しました。

 

オランダの巨匠レンブラント

レンブラント・ハルメンソーン・ファン・レインは、17世紀オランダ絵画黄金期に活躍したバロック期を代表する画家の一人です。

「光と影の魔術師」と言う異名を持つ彼の作品は、明暗を明確にする見事なテクニックと劇的な人物描写で世界中を虜にしています。

レンブラントの最高傑作と言われる「夜警」は現在アムステルダム国立美術館に所蔵されており、門外不出の作品となっています。

 

レンブラント作品にまつわる新発見が続々と浮上

東ドイツPhoto: Martin Schutt/picture alliance via Getty Images.

レンブラントの作品について、同様のニュースが近年立て続け発表されています。

2020年2月には、アメリカ・ペンシルバニア州のアレンタウン美術館にある絵画がレンブラントの作品であることが新たに分かりました。

同年8月にも、イギリス・オックスフォードにあるアシュモレアン美術館で長らく「偽物」と言われていた作品が、鑑定によりレンブラントの工房で描かれた可能性があることが分かりました。

 

有名画家の作品が新たに発見されることは、アート業界では一大ニュースです。

著名な画家が描いた作品は、世界中の富豪やアートコレクターが求めて止まないものです。時には国家同士がその所有権を巡って競い合ったりもします。

作者が判明することで、その所有者や美術館の知名度も大きく変えてしまいます。

 

絵画の謎を明らかにする科学分析

何世紀も前の絵画の謎を解くことは非常に難しく、鑑定には精密な作業を要します。

まず、誰にどのような経緯で作品が渡ったのかを示す記録、何年にもわたる所有者の歴史を調査し、画家の画法と筆遣いなどを調査しますが、肉眼で判別できないものは科学分析を行います。

 

科学分析では、作品表面に赤外線やX線・紫外線を当て、顕微鏡で顔料や素材の年代を細かく分析します。

X線や赤外線で絵画を撮影すると、絵の表面に隠された下の絵の具の層を確認できます。

画家が絵を完成するまでに書き直した跡など、試行錯誤を重ねた様子が確認でき、絵の表面からは知り得ない情報やドラマが浮かび上がってくるのです。

 

科学分析では他の作品からサンプルを取り、本物と比較することで同一の作者であるかを確認します。

しかしレンブラントの作品は現在500点程しか作品が存在せず、圧倒的にサンプル数が少ないことも分析の精度を曖昧にしています。

 

アメリカのハーバード美術館には今回発見された「老人の肖像画」とよく似た肖像画が所蔵されており、この作品がレンブラント本人の作品だと証明されれば、ハーバード美術館の作品もその価値が大きく見直されることになります。

 

18世紀以前の作品が抱える制作者の問題

レンブラントの時代(18世紀以前)の絵画の制作方法には現代と大きく異なる点があり、それが鑑定を複雑にしています。

レンブラントをはじめとする、18世紀以前に活躍したヨーロッパの優れた画家の作品は、美術用語で「オールドマスター」と呼ばれ、十分な修練を詰んだ画家たちは親方として自分の工房を持ち、弟子たちと分担して1枚の絵画を制作していました。

パトロンからの依頼を受け、複数の職人たちで絵画が制作されていたこの時代、画家に求められたものは独創性ではなく、美しい絵画を描く普遍的な技術力だったのです。

 

工房で制作していた時代の作品には、依頼者(パトロン)の地位や報酬の高さなどに応じて、画家本人が実際に絵を描く割合を変えていました。

報酬の低さによっては、弟子が全て描き、画家は監修を意味するサインのみを入れている場合もあったのです。

作品のサインはどの工房で購入したのかを示すものに過ぎず、サインは本物だが描いたのは画家本人ではないことが判明した作品も多くあります。

 

そのためこの時代の作品は、「どこまでが画家本人の作品か」境界が非常に曖昧なのです。

実際、レンブラントの絵画には弟子が描いた作品が多く残されており、どれがレンブラント本人の作品かを見極めるのは至難の業と言われています。

 

工房制時代の作品が抱える「作者の曖昧さ」

今回の作品もハーバード美術館の作品も、レンブラントの工房で描かれたということは確かですが、問題はどこまでがレンブラント本人が描き、どこからが彼の弟子が描いたものなのかということです。

結論、工房制時代の作品において「画家本人の作品かどうか」は研究者それぞれの解釈の問題になってしまいます。

 

アートマーケットでは実際にこうした解釈のトリックが巧妙に利用され、制作者が曖昧な作品がまるで本物かのように宣伝され、高額落札されるケースもあります。

日本ではあまり馴染みの無い問題ですが、時には国家間の問題に発展することもあり、アート業界では非常にシビアな問題となっています。

 

合わせて鑑賞したい映画「レンブラントは誰の手に」

今回の記事に合わせて、2021年2月に公開されたアートドキュメンタリー「レンブラントは誰の手に?」をご紹介します。

新しく発見されたレンブラントの1枚の絵画を巡り、アートコレクター、アムステルダム国立美術館、ルーブル美術館、フランスの富豪・ロスチャイルド家などアートに情熱を燃やす人たちが動き出し、最終的には国家同士の対決にまで発展するという、実際にアートマーケットで起こった出来事を取り上げたドキュメンタリー映画です。

レンブラントの絵画についても詳しい解説があり、絵画の鑑定方法やアートマーケットのミステリアスかつ豪華な世界を知ることができます。

「レンブラントは誰の手に?」を視聴する

 

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