フランシス・ケレとは?2022年プリツカー賞に輝いたアフリカ系建築家について詳しく解説

Lycée Schorge Secondary School, photo courtesy of Francis Kéré
西アフリカ出身の建築家であり、教育者、社会活動家としても知られるディエベド・フランシス・ケレが今年、建築界の最高の栄誉とされるプリツカー建築賞(第51回)を受賞しました。
1979年、ハイアット財団により設立されたプリツカー建築賞は、アイデア、ビジョン、社会貢献を兼ね備えた建築作品を手がけた建築家に授与されます。
プリツカー建築賞の歴史上、ケレはアフリカ出身で初めてプリツカー賞を受賞した人物になりました。
ディエベド・フランシス・ケレのこれまでの経歴と代表作品について詳しくご紹介します。
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アフリカ出身の建築家、ディエベド・フランシス・ケレ

Diébédo Francis Kéré, photo courtesy of Lars Borges
西アフリカ・ブルキナファソ出身の建築家で社会活動家のディエベド・フランシス・ケレ(Diébédo Francis Kéré)。
貧しい環境で育ったケレは、故郷の学校や医療施設の建築プロジェクトを数多く手がけ、建築のプロセスを通じてアフリカの地域コミュニティに大きく貢献した人物として知られています。
私はこれまでの常識や枠組を変えるリスクを恐れず、夢を追う人々を後押ししたいです。
金持ちだからといって、資源や材料を無駄にする必要はありません。
貧しいからといって、質の高いものを作ろうとしないのは違います。
質の良いものや豪華さ、快適さは誰もが平等に触れる享受すべきです。
気候変動や資源不足は、私たち全員にとっての課題なのです。
ーディエベド・フランシス・ケレ
プリツカー賞は、建築界のノーベル賞とも言われる栄誉ある賞です。
これまで日本人では、丹下健三、槇文彦、安藤忠雄、妹島和世、西沢立衛、伊東豊雄、坂茂、磯崎新の8名が受賞しています。
今回の受賞では、ローカルとグローバルを同時に見る視点、建築を通して地域経済の成長を促してきたこと、伝統と先進技術の融合を可能にしていることが高く評価され、ケレの功績は「建築の分野の領域を超えた素晴らしい贈り物」と賞賛されました。
学校がない故郷ガンド市

Lycée Schorge Secondary School, photo courtesy of Iwan Baan
ケレの故郷である西アフリカのブルキナファソ、ガンド市。
ブルキナファソは、世界で最も教育水準が低く貧しい国のひとつです。
この国には建築物はおろか、清潔な飲料水や電気、インフラも存在しません。
ケレは幼少期の思い出を以下のように語ります。
私は幼稚園がない地域で育ちましたが、そこでは皆が家族でした。
近所の人が子供達の面倒をみてくれて、村全体が遊び場でした。
私は毎日、ただ彼らと一緒にいること、会話することで満たされていました。
祖母の部屋へ行くと、私たちは互いに身を寄せ合います。
祖母の優しい声が私たちを包み込み、「もっと近くに来なさい」「安全な場所を作りなさい」と呼びかけていました。
この経験がのちに、私が建築を考える時の重要なイメージとなっていきました。
ケレの生まれ故郷であるガンド市には学校がなく、誰一人として学校に通っていませんでした。
ケレは村長の長男で、教育を受けさせることに熱心な両親であったため、学校に行くために7歳で別の市の学校に通い始めました。
学校の小さな教室はセメントブロックでできており、換気も採光もままならない環境。
100人以上のクラスメートと一緒に何時間もその空間に閉じ込められていたケレは、学校をより良いものにしようと心に誓ったのです。
初の建築作品は故郷のガンド小学校

Gando Primary School, photo courtesy of Erik-Jan Owerkerk
1985年、20歳の時、ケレは大工の職業訓練奨学金を得てドイツ、ベルリンに渡りました。
日中は屋根や家具の製作を学び、夜は夜間学校に通う生活をしていました。
その10年後、1995年に奨学金を得てベルリン工科大学に入学し、2004年に39歳で大学院を卒業します。
故郷のブルキナファソからどんなに遠く離れていても、ケレの心は故郷を離れることはありませんでした。
在学中の1998年には、ガンドの住民に貢献するためのケレ・ファウンデーション(Kéré Foundation)を設立。
故郷で建築プロジェクトを行うために、パートナーシップや資金調達を始めます。

Gando Primary School, photo courtesy of Erik-Jan Owerkerk
彼の最初の建築作品であるガンド小学校(2001年)は、ガンドの人々によって建てられたものです。
その土地の材料と先進技術を組み合わせたケレの独創的なアイデアに導かれながら、地元の人々は各々の意見と労働力、資源を提供し、学校のほぼすべてを手作業で作り上げました。

Gando Primary School, photo courtesy of Erik-Jan Owerkerk
このプロジェクトの成功には、限られた資源で厳しい環境に対応できる現代的な設計プランが不可欠でした。
ブルキナファソは最高気温が40℃以上の猛暑日が続く一方、雨季にはしばしば雷と強風を伴う台風のような豪雨に見舞われる気候条件が厳しい環境です。
激しい環境変化の中で子供達が快適に過ごせるよう、粘土をセメントで固め、内部の冷気を保持しながら、レンガの壁と大きく張り出した屋根から屋内の熱を逃がし、空調無しで室内換気ができる構造を作りました。
ガンド小学校の開校により生徒数は120人から700人に増え、その後も教員住宅や学校の増築、図書館の設立など、故郷に次々と新しい施設を建設しました。
アフリカ国内の教育機関、医療施設の設計を手がける

Benga Riverside School, photo courtesy of Francis Kéré
ガンド小学校のプロジェクトが高く評価され、ケレは2004年にイスラム文化圏の建築賞であるアガ・カーン建築賞(Aga Khan Award)を受賞しました。
2005年にはドイツ・ベルリンに自身のケレ建築事務所(Kéré Architecture)を設立。
その後もブルキナファソ、ケニア、モザンビーク、ウガンダなどアフリカ国内で、教育機関、医療施設の設計を次々と手がけます。

Centre for Health and Social Welfare, photo courtesy of Francis Kéré
2014年、ブルキナファソに建てられた医療施設には、病室に様々な高さの窓が作られ、どの位置からも外の美しい風景を眺められるような構造になっています。

Startup Lions Campus, photo courtesy of Francis Kéré
ケレの建築物は、その土地の気候に対する課題解決力と持続可能性も備えています。
情報通信技術の学校である「スタートアップライオンズキャンパス」(Startup Lions Campu、2021年、ケニア)の設計を手掛けた際には、地元の採石場を活用し、電子機器、精密機械の保管に必要な空調を最小限に抑えました。

Burkina Institute of Technology, photo courtesy of Francis Kéré
「ブルキナ工科大学」(2020年、ブルキナファソ)では、雨水が地下に集められ、敷地内にあるマンゴー農園の灌漑用水として利用されています。
ケレの建築は、子どもたちへの教育や医療提供に限らず、職業機会の提供や技術の伝承など、地域コミュニティ全体を豊かにするという、建築の枠を超えた成果を上げています。
ケレの代表的な建築作品

Xylem, photo courtesy of Iwan Baan
ケレの作品の多くは、ベナン共和国、ブルキノファソ、マリ、トーゴ、ケニア、モザンビーク、スーダンなど、アフリカの国々で制作されており、デンマーク、ドイツ、イタリア、スイス、イギリス、アメリカでは、パビリオンやインスタレーション作品も手がけています。
ケレの建築には、故郷ガンドで育った環境や体験が影響しています。
木の下で会話し、物語を語り、祝うという西アフリカの伝統文化が、ケレの建築作品に共通する重要なコンセプトとなっています。
「サルバレー・ケ」2019年|カリフォルニア州

Sarbalé Ke, photo courtesy of Iwan Baan

Sarbalé Ke, photo courtesy of Iwan Baan
コーチェラ・バレー・ミュージック&アート・フェスティバルで彼が設計した「サルバレー・ケ」(Sarbalé Ke、2019年、カリフォルニア州)。
母国語であるビッサ語で「祝祭の家」を意味し、バオバブの木を元にデザインされました。
「サーペンタイン・パビリオン」2017年|ロンドン

Serpentine Pavilion, photo courtesy of Iwan Baan
「サーペンタイン・パビリオン」(2017年、ロンドン)もまた、木の形からインスピレーションを得ています。
曲線を描く青色の壁。青は、ケレの故郷では強さを表す色として知られています。
また、彼が子供の頃に着ていた青い伝統衣服の模様、三角形のモジュールで建物全体が構成されています。
パビリオン内部には雨水が直接流れ込む構造になっており、世界の深刻な水不足を強調する作品となっています。
ベナン国会議事堂|ベナン共和国

Benin National Assembly, rendering courtesy of Kéré Architecture
現在建設中のベナン国会議事堂(ベナン共和国)もアフリカの木に着想を得ています。
議会は内部で行われますが、地域住民は建物の下の木陰に集まることができるような構造になっています。
他にも代表的な作品として、
・リセ・ショルジュ中学校(Lycée Schorge Secondary School、2016年、ブルキナファソ)
・マリ国立公園(2010年、マリ)
・オペラヴィレッジ(2010年、ブルキナファソ)
・ティペット・ライズ・アートセンターのザイレム(Xylem、2019年、米国モンタナ州)
・レオ医師住宅(Léo Doctors’ Housing、2019年、ブルキナファソ)
などがあります。
数々の建築賞を受賞
・サステナブル建築グローバル賞(2009、フランス)
・BSIスイス建築賞(2010)
・グローバル・ホルシム・アワード金賞(2012、スイス・チューリッヒ)
・シェリング建築賞(2014、ドイツ)
・アーノルド・W・ブルナー記念賞受賞(2017、アメリカ芸術文学アカデミー)
・トーマス・ジェファーソン財団建築部門メダル(2021、アメリカ)
など、ケレはこれまでも数々の賞を受賞してきました。
また、著名な大学で教鞭も取っています。
ハーバード大学デザイン大学院(アメリカ、マサチューセッツ州)、イェール大学建築学部(コネチカット州)客員教授を務め、2017年よりミュンヘン工科大学(ドイツ)の建築デザイン・参加教授の就任講座を担当しています。
カナダ王立建築協会(2018年)および米国建築家協会(2012年)の名誉フェロー、英国王立建築家協会(2009年)のメンバーでもあります。
現在、ケレはブルキナファソとドイツの二重国籍を所有しており、両国を拠点に活動しています。
新しいプロジェクト「ブルキナファソ国民議会」

Burkina Faso National Assembly, rendering courtesy of Kéré Architecture
現在進行中の新しいプロジェクトは「ブルキナファソ国民議会」です。
以前の建物は、2014年、イスラム教主義の反政府勢力によるブルキナベの反乱で破壊されてしまいました。
ブルキナファソの国民からの厚い信頼を得て実現した、ケレにとって近年最も重要なプロジェクトの1つです。

Burkina Faso National Assembly, rendering courtesy of Kéré Architecture
ケレはピラミッド型の建物を設計し、内部には127人を収容する集会所をデザインしました。
敷地内には固有の植物の植樹、展示スペース、中庭、そして旧政権への抗議で命を落とした人々の記念碑を含むことも構想されており、新しい時代を象徴する建物になると注目されています。
アフリカ出身者として初めてのプリツカー賞を受賞したディエベド・フランシス・ケレ。
厳しい気候のアフリカ諸国で、現代的なデザインを持つ持続可能な建築物をいくつも完成させてきました。
ケレの建築は、アフリカの経済の成長をさらに加速させていくことでしょう。
持続可能な建築のあり方を示す、今後も注目すべき建築家の一人です。
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