アートセラピーとは?その歴史と効果・やり方を詳しく解説
絵を描いたり、歌を歌うことで心が軽くなった経験はありませんか?
何かを「表現」することは、心を癒やす力があります。
近年、芸術表現の力を活用した心理療法「アートセラピー」が注目を集めています。
心の治療やメンタルケアだけでなく、自己成長やモチベーションの回復など、さまざまな効果が期待されています。
この記事ではアートセラピーの歴史と効果、やり方などを詳しく解説します。
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アートセラピーとは?
アートセラピーは、芸術を媒体として行う心理療法の一つです。
19世紀末〜20世紀初めのヨーロッパで、子どもや精神病患者の作品に注目が集まり始めたことを発端に、20世紀中頃にイギリスとアメリカを中心に発展しました。
手法の一つに絵画表現があることから「絵画療法」、また医療や介護の現場で用いられることから「臨床美術」とも呼ばれます。
アートセラピーは「芸術行為は治療効果があり、全ての作品には心の内が投影される」という理論に基づいて行われる心理療法です。
芸術活動を通じ、患者が心の奥深くの感情を表現することで、医師やセラピストが作品からその心理状況を読み取り、治療やカウンセリングに役立てます。
アートセラピーの手法は絵画療法が中心ですが、他にも音楽を用いる「音楽療法」や、ダンスで表現する「ダンスセラピー」、コラージュ作成や詩歌の創作など、様々な種類があります。
年齢や心身の状態に合わせたやり方を選べるのが、アートセラピーの大きな利点です。
近年では精神病患者だけでなく、ストレスケアや自己開発を求める一般の人を対象としたワークショップや教室などが多く開かれています。
アートセラピーの歴史
アメリカとイギリスで発展
アートセラピーはアメリカとイギリスで発展しました。
アメリカでは精神分析家のマーガレット・ナウムブルクによってアートセラピーが確立。
彼女は心理療法に芸術を用いた最初の人物とされています。
イギリスでは、芸術家エイドリアン・ヒルが、病からの回復途中に芸術の治療効果を発見したことをきっかけに発展しました。
アートセラピーのパイオニア、マーガレット・ナウムブルク
マーガレット・ナウムブルク(1890-1983)は、「アメリカのアートセラピーのパイオニア」と呼ばれています。
児童教育を学んだ彼女は、フロイトの精神分析論と芸術を教育に取り入れた学校を設立。
その後、芸術が子どもと精神病患者に与える影響を研究し、アートセラピー普及の皮切りとなる書籍『力動指向的芸術療法』を出版します。
80才になるまでニューヨーク大学で教鞭をとり、アートセラピーの確立に大きく貢献しました。
アートセラピーを理論化したエディス・クレイマー
ナウムブルクがニューヨーク大学を退任後、少年院や児童精神科病棟などでアートセラピストとして活動していたエディス・クレイマー(1916〜2014)が教壇に立ちます。
クレイマーは「負の感情や衝動を価値のあるものに昇華させることが、アートセラピーの目的である」と位置づけ理論化した人物として知られ、ナウムブルクと並びアートセラピーの草分け的存在とされています。
エドワード・アダムソンがグループ・アートセラピーを開始
イギリスでは、エイドリアン・ヒルの下で働いていたエドワード・アダムソン(1911〜1996)が、精神病患者を対象にグループ・アートセラピーを開始。その後、多くの精神科病院で取り入れられました。
アダムソンが収集した作品の一部は「アダムソンコレクション」として現在も保管され、アートセラピーの普及だけでなく、疎外されがちな精神病患者の受容を促す重要な作品群として展示されています。
アートセラピーの種類と目的
精神分析を目的としたもの
もともとアートセラピーは精神分析の一つとして始まり、現代でも心理学者や精神科医によって精神分析を目的に行われています。
しかし、アートセラピーが精神分析のメインとなることは少なく、あくまでも他の検査の補助的な役割で用いられる場合がほとんどです。
精神分析を目的とした有名な手法として、自由に描いた一本の木から、心理状態やパーソナリティーをみる「バウムテスト」、箱の中に小さなおもちゃを自由に配置する「箱庭療法」などが有名です。
リハビリ・発達支援を目的としたもの
アートセラピーは、高齢者やリハビリや発達障害を抱える子どもたちの発達支援を目的として行われることもあります。
手のリハビリには粘土を素材にした造形療法、喉のリハビリには歌を歌う音楽療法など、対象者に最適な手法で行われます。
高齢化社会が進む中、特に介護の現場でアートセラピーの認知症の予防・改善効果が注目されており、アートセラピーを取り入れる高齢者施設が増えています。
自己表現・自己成長を目的としたもの
主に医療の現場で発展したアートセラピーですが、近年では自己表現や自己成長を目的として用いられる例も増えています。
大人になると言葉を使ったコミュニケーションが主となり、言葉にできない感情は心に閉じ込められがちな傾向があります。
アートセラピーでは言語化できない感情を表現でき、自分の気づかなかった気持ちや新たな側面、可能性を知ることができます。
メンタルケアを目的としたもの
アートセラピーはメンタルケアにも用いられますが、その理由の一つは、創作に没頭することで無心になれるためです。
無心になり情報量過多でいっぱいになった頭と心がリセットされ、暝想と同じような作用が得られると言われています。
過度に疲れたり、うつ状態になると同じ考えが何度も頭を巡る「反すう思考」に陥ることがありますが、アートセラピーはその負のスパイラルを断ち切る効果があると考えられています。
アートセラピーの効果
感情を解放し、創造性を呼び起こす
アートセラピーは抑圧された感情を解放し、眠っていた創造性を呼び起こす効果があります。
芸術を介して心に閉じ込めていた感情を表現することで、不安や緊張から解放され、隠れていた才能が表れることも。
美術教育を受けていない人や精神障害者による芸術作品アール・ブリュットは、まさにアートによって創造性が開花した例です。
思考を整理する
─ 自分の感情がわからない
─ 何をしたいのかわからない
─ 頭の中がいっぱい
そんな思いに囚われたとき、自分の感情や思考を芸術作品という形でいったん外に出して可視化することで、客観的に自分の気持ちや考えを見つめ、思考を整理できます。
普段から「考えがまとまらない時は、紙に書き出すと良い」とはよく言われていますが、アートセラピーは言語化できない想いや感情も表現できるので、より自分の内面と向き合うことができます。
自尊感情を高める
アートセラピーは一般的な芸術表現とは異なり、人の存在や表現そのものを受け容れる姿勢が根底にあります。
そのため、創作された作品は良い・悪いを判断されず、ありのままの状態で受容されます。
内面が表現されている作品は制作者そのものであるため、作品を受け入れられたことで自分自身も受け入れられたと感じ、自尊感情が高まると考えられています。
モチベーションの回復
モチベーション低下の要因の一つは「心の疲れ」です。
アートセラピーでは、楽しみながら創作をすることで、心がリフレッシュし、モチベーションの回復につながります。
また、抱えている問題やネガティブな感情を作品にすることで視点を変えることができ、前向きな姿勢を取り戻すことができます。
アートセラピーの主な表現手法
アートセラピーには多くの表現手法がありますが、絵画療法が代表的です。
絵画療法のなかにもいくつもの手法があり、そのなかでも家族を描く「家族画」が心理検査の現場でよく用いられます。
他にも「箱庭療法」や、演劇を用いた「ドラマセラピー」などが有名です。
ドラマセラピーは特にアメリカやイギリスなどで広く取り入れられています。
ストレス軽減を目的としたものでは、今の気持ちにあった色のパステルを使い自由に絵を描く「パステルアート」が人気で、ワークショップが多く開催されています。
自宅でできるアートセラピー
パステルアート
今の気持ちで選んだ色のパステルをパウダー状に削り、心のままに指やコットンで画用紙にのせていきます。
上手に描こうとせず、子どもの頃を思い出してのびのびと楽しみましょう。
自由に描くことで抑圧されていた心が解放されるとともに、パステルの優しい色合いから癒やしを得られます。
詩歌療法
湧き出る感情やイメージを俳句や詩歌にしてみましょう。
感情を文字にすることで、内面を見つめ直すことができます。
詩歌療法の利点は特別な道具を必要としないこと。紙とペンがあればどこででも始められます。
コラージュ療法
「なりたい自分」や「理想の生活」といったポジティブなテーマをもとに雑誌やカタログなどから写真を選び切り抜き、台紙に貼り付けていきます。
明るい未来を想像し、モチベーションを高める効果があります。
写真を切り抜くだけなので、創作活動に苦手意識がある方におすすめです。
色で分かる心理状態
自宅で作品を制作したら、どんな色を使ったか確認してみてください。
アートセラピーでは、作品に使用した色から心理状態を読み解くことができます。
例えば、赤を使用するときは怒りを抱えていたり、やる気に満ちてパワーにあふれている状態。
青を使用するときは、心が落ち着いていたり、自分自身に意識が向いている状態。
緑はゆっくりとマイペースに進みたいと思っているときに使用されると言われています。
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この本は、表現アートセラピーを、人が自ら課題に気づき成長することを信じる「パーソン・センタード・アプローチ」の考えに基づき紹介する入門書です。
作品の分析や解釈をせず、表現そのものを尊重するアートセラピーを学びたい方におすすめです。
まとめ
アートセラピーは、幅広い人を対象に行えて、またさまざまな効果が期待できる心理療法です。
日本ではまだ医療行為と認められていませんが、アメリカやイギリスでは医療行為として積極的に取り入れられています。
高齢化社会、ストレス社会化が進み心身のケアの重要性が高まるなか、日本のアートセラピーの今後の発展が期待されます。
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