イギリスベーコン画家
ART

フランシス・ベーコンとは?画家の生涯と代表作品について詳しく解説

フランシスベーコン

ピカソと並び、20世紀最大の画家の1人と称されているフランシス・ベーコン(1909-1992)。

現存する作品が少ないため、オークション等では高値で取引されることも多く、世界の主要な美術館がコレクションしているほど評価の高い画家です。

「ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作」や「キリスト磔刑図を基盤とした3つの人物画の習作」に代表されるように、彼が描く歪められた人物像は見る者に強烈な印象を与えます。

今回はフランシスベーコンの生涯や代表作品を通して、彼の作品の魅力をご紹介します。

 

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フランシス・ベーコンとは?

フランシスベーコンは、アイルランドに生まれたイギリス人の画家です。

世界大戦後、抽象絵画が主流になっていた時代に、ベーコンは具象絵画にこだわり続け、人物画を中心に制作していました。

彼は写真を参考にしながら人物を描くことが多く、対象となるモデルを歪めたり変形させた表現が大きな特徴です。

彼の独特なセンスで描かれた作品を見れば、その世界観に引き込まれることでしょう。

 

20歳の頃に画家として活動を始めるもキャリアがなかったベーコン。彼は36歳の頃にようやく注目を浴びることとなります。

今日では、ベーコン自身も影響を受けたとされるパブロ・ピカソ(1881-1973)と並んで、「20世紀の最も重要な画家の1人」と称されています。

 

上流階級の家庭に育ったベーコンは、幼少期に父親の仕事の都合でアイルランドとイギリスを行き来する生活を送っていました。

幼少期の影響からか、彼は画家になってからも世界各地を巡回しながら活動を続けました。

彼は生前、納得のいかない作品を破棄していたため現存する作品が少なく、市場で高額取引されることが多い画家の一人です。

 

フランシスベーコンの生涯

17歳で父親に勘当されロンドンやパリを放浪

幼少期から女装癖のあったベーコンは、母親の下着を身につけていたのをきっかけに父親の怒りを買い、家を追い出されます。

ロンドンで貧しい一人暮らしを強いられるも、暗黒街で男娼として人気になり、同性愛に目覚めていきました。

2ヶ月ほど叔父とベルリンで過ごした後、パリへ移り住み、パリの芸術・文化に大きな刺激を受けます。

 

20歳頃から独学で絵画を学ぶ

ベーコンはパリ放浪中にピカソの作品と出会い、画家を目指すことを決意します。

しかし彼は興味の赴くまま生活していたため、絵画の知識や技術はほとんど持ちあわせていませんでした。

そのため活動拠点をロンドンに移し、家具デザイナーの仕事のかたわら独学で絵画を学び始めます。

 

初の個展を開催

25歳になったベーコンは、ロンドンにある友人宅の地下で初の個展を開きます。

ピカソの作品をもとにして制作された「磔」が注目を集めるも、大きく取り上げられることはなく個展は終了しました。

思うような評価が得られなかったことに落胆したベーコンは、1930〜40年代に制作した作品の多くを破棄し、画家としての活動も放棄してしまいました。

 

制作の再開と成功

画家としての活動を数年間放棄していたベーコンは、愛人だったエリック・ホールの助けもあり、1937年に活動を再開します。

そして、1944年に制作した「キリスト磔刑図のための3つの習作」が脚光を浴び、成功するきっかけとなりました。

 

《キリスト磔刑図を基盤とした3つの人物画の習作》1944年

「キリスト磔刑図のための3つの習作」は、ベーコンが「自身のデビュー作である」とインタビューで語っています。

 

ヴェネチア・ビエンナーレ英国館代表に選ばれる

ベーコンは、1954年に第27回ヴェネチア・ビエンナーレの英国館代表に選ばれました。

ヴェネチア・ビエンナーレとは、イタリアのヴェネチアに世界中から選りすぐりの芸術家や作品が集まる国際美術展です。

世界的に有名になれる可能性を秘めたこの美術展は、ベーコンにとっても一大イベントだったのではないでしょうか。

 

活発な制作活動と同性愛の日々

1950年代以降、ベーコンは欧米各国で回顧展を数多く開催し、精力的に制作活動を行いました。

 

同性愛者だったベーコンは生涯で5人の男性を深く愛し、彼らは作品のモデルになることもありました。

特に、3番目の恋人ジョージ・ダイアーは「ジョージ・ダイアーの三習作」をはじめ、多くの作品で描かれています。

 

晩年

ベーコンは晩年まで制作活動を続けていました。

持病の喘息に生涯苦しめられていたベーコンは、自分の死期を悟ったかのように、現世とあの世を彷徨っているような作品を描くようになります。

 

ベーコンは旅行先のスペインで心不全になり、83年の生涯を終えました。

医師に止められたにもかかわらず、破局したホセ・カペッロにもう一度会うためにスペインへ旅立った時のことでした。

 

フランシスベーコンの作品の特徴

激しくデフォルメされた人の表情

ベーコンは歪んだ人体や顔、口を大きく開けて叫んでいる人物像などを描いた作品を数多く残しました。

中には原形をとどめていないほどに歪められた肉体や、顔の一部を極端に誇張した作品もあります。

激しくデフォルメされた人体を描いたベーコンの作品に、多くの鑑賞者は不安感や孤独感を抱くことでしょう。

 

このような作風は映画「戦艦ポチョムキン(1925)」に登場する悲鳴を上げる乳母や、二コラ・プッサンの絵画「幼児虐待(1628)」などから着想を得たと言われています。

 

 

不安を掻き立てる荒々しい筆致

スピード感のある荒々しい筆致も、観る者に不安を抱かせる1つの要因となっています。

ベーコンは絵に様々な質感を出すために指やセーター、靴下などを筆の代わりに使うこともあったそうで、表現の幅の広さに驚かされます。

油絵らしからぬ薄さで塗られている部分もあり、同じ絵の中に荒々しさと繊細さが同時に感じられるのも、ベーコン作品の大きな魅力です。

 

固定概念に囚われない独自の画法・世界観は、独学で油絵を習得したベーコンならではの表現といえるでしょう。

 

暗く澱んだ色づかい

ベーコンの作品は暗く澱んだ色が使われていることが多く、特に初期作品にその傾向がみられます。

世界大戦中に制作した作品も暗いものが多いことから、ベーコンが当時の社会情勢に影響を受けていたと考えられます。

また彼は同性愛者であったことから、性的少数者への偏見が強い当時の風潮に抑圧された心情が表れているのかもしれません。

 

フランシスベーコンの代表作品

車から抜け出す人(1939~1940)

「車から抜け出す人」は、第二次世界大戦時のロンドン大空襲を避けるため、郊外のコテージで愛人のエリック・ホールと過ごしていた時期に制作された作品です。

一度完成した後、1945〜1946年の間に「車の光景」とタイトルを変更して発表されています。

 

この作品に描かれている生命体は、ベーコンの出世作「キリスト磔刑図を基盤とした3つの人物画の習作」のモデルになったといわれています。

 

キリスト磔刑図を基盤とした3つの人物画の習作(1944)

ベーコンが自身のデビュー作と位置づけている「キリスト磔刑図を基盤とした3つの人物画の習作」。

この作品は、宗教画で頻繁にみられる三連画(祭壇用の絵画に使用される3つの絵からなる連作)で描かれています。

原形をとどめていない肉体が描かれていることで賛否両論があったものの、ベーコンが脚光を浴びるきっかけとなりました。

 

戦後の不安定な社会を表現しているといわれており、ベーコンはこの作品以降も三連画の作品を数多く制作しています。

 

風景の中の人物(1945)

歪んだ人体や顔、叫ぶ人物像などショッキングな見た目の作品が多いなか、この作品は比較的穏やかで繊細な雰囲気を感じる作品です。

中心に黒く描かれた人物は、エドワード・マイブリッジの写真集『Human Figure in Motion』から着想を得たといわれています。

 

この作品の基礎となった作品として、愛人のエリック・ホールをモデルにした「風景の中の図」があります。

 

絵画(1946)

グロテスクな雰囲気が漂う「絵画」は、第二次世界大戦直後に制作された作品です。

当初はチンパンジーや猛禽類を描こうとしていたものが、描いていくうちにイメージが変容し、偶発的な要素が重なって生まれた作品だとベーコンはインタビューで語っています。

この作品は1946年11月18日〜12月28日までパリ国立近代美術館で開催された「国際現代美術展」に出品され、ベーコンは展示に出席するためパリを訪れています。

その後も複数のグループ展に出品され、ハノーバー・ギャラリーで売却。ベーコンはこの収益で愛人のエリック・ホールと一緒にモンテカルロへ旅行し、その後しばらくモンテカルロを拠点に活動していました。

1948年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)の初代館長アルフレッド・バールがこの作品を所有しますが、劣化が酷く現在は一般公開されていません。

 

頭部Ⅰ(1948)

「頭部Ⅰ」は「頭部」シリーズの一作品で、ベーコンが画家としての成功を収めてから初めて開催した個展で展示されました。

ほぼ人間らしい要素を失った生命体が、牙をむき出して唸っているような様子がうかがえます。

画面右手にある、部屋の構造を表すために描かれた白い線は、この作品以降制作されたベーコンのいくつかの作品にも登場しており、彼の作品を特徴づける要素の一つといえます。

 

人間の体習作(1949)

「人間の体習作」は、情事の場を描いた作品といわれており、男性がカーテンを開けて部屋に入っていく様子が描かれています。

カーテンや男性の身体の一部は薄く塗られており、ぼんやりとした印象を受けるかもしれません。

輪郭線を滲ませた表現は、1950年代頃までのベーコンの作品に多く見られます。

 

ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作(1953)

この作品は、ベーコンがバロック期のスペインの巨匠 ディエゴ・ベラスケスの「インノケンティウス10世の肖像(1650)」を参考に制作した作品です。

教皇が口を大きく開けて叫んでいる表情や、黄色い柵、画面を覆う垂直線が振動やブレを感じさせ、見る者に不安感や恐怖心を与えます。

 

教皇の顔のモデルは映画「戦艦ポチョムキン(1925)」で乳母が叫ぶシーンの写真をもとに描かれたといわれており、写真と見比べてみるのも面白いかもしれません。

 

スフィンクスの習作(1953)

エジプト旅行中、エジプト美術に刺激を受けたベーコンはスフィンクスをテーマにした作品を4点ほど制作しています。

「スフィンクスの習作」はそのうちの1つで、赤色の六角形の枠に囲まれた半透明のスフィンクスが描かれています。

この作品にはバロックの要素が取り入れているともいわれています。

 

部屋の中の三人の人物(1964)

タイトルは「三人の人物」となっていますが、それぞれの絵に別の人物が描かれていたわけではなく、恋人だったジョージ・ダイアー1人をモデルに3連画として描かれた作品です。

この作品は、ベーコンとダイアーが出会って間もない頃の情熱的な関係を表しているといわれています。

 

黒の三連(1972~1974)

「黒の三連」は、3番目の恋人ジョージ・ダイアーの他界にショックを受けたベーコンが、深い悲しみの中で描いた作品です。

事件が起きたのは1971年。ベーコンがパリの回顧展で注目を浴びていた頃に、ダイアーは大量の睡眠薬を飲んで自殺しました。

三連画の構成で、死の直前・死の間際・死後の状態が描かれています。

 

フランシスベーコンの作品を観ることができる美術館

ニューヨーク近代美術館(アメリカ)

ニューヨーク近代美術館は、19世紀後半〜20世紀中頃の欧米諸国の近代アートを中心に取り扱っている美術館です。

ベーコンの作品は「絵画」「ヒヒの習作」「三幅対」など、計6点が所蔵されています。

常設展示室の有名画家の作品や、期間ごとの展示イベントなどを楽しめるので、ニューヨーク観光の際はぜひ訪れてみてください。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)
住所:11 W 53rd St, New York, NY 10019 (5-6th Avenue)
営業時間: 10:30〜17:30(土〜 19:00)
休館日:サンクスギビングデー(11月第4木曜日)、クリスマス (12/25)
公式サイト:https://www.moma.org/

 

テート・モダン(イギリス)

テート・モダンは、20世紀以降の作品がコレクションされているイギリスの近現代美術館です。

発電所を改装して建てられているのが大きな特徴で、発電所の名残がある巨大な空間で作品を楽しめることでしょう。

ベーコンの作品は「風景の中の人物」や「三人の人物と肖像画」などが所蔵されています。

現代美術館のなかでもトップの来訪者数を誇っており、イギリスの観光スポットとしておすすめです。

テート・モダン(イギリス)
住所:Bankside, London SE1 9TG
営業時間:10:00~18:00(金曜・土曜は10:00~22:00)
休日:12/24、12/25、12/26
公式サイト:https://www.tate.org.uk/visit/tate-modern

 

豊田市美術館(愛知県)

豊田市美術館は、19世紀後半から現代までのアート作品や工芸品を中心に、国内外からコレクションしている美術館です。

1953年に制作された「スフィンクス」が所蔵されており、2013年には「フランシス・ベーコン展」を開催しています。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)を設計した建築家 谷口吉生が設計を手がけており、作品だけでなく美術館全体を楽しめます。

豊田市美術館
住所:愛知県豊田市小坂本町8−5−1
開館時間:10:00~17:30 (入場は17:00まで) ※2019年5月31日まで改修工事のため休館中
休館日:月曜日(祝日は除く)
公式サイト:https://www.museum.toyota.aichi.jp/

 

「フランシスベーコン」のおすすめ関連書籍

フランシス・ベイコン・インタビュー

ベーコン自身から語られる、生い立ちや絵画に対する考え方をまとめた貴重な対談録です。

インタビュアーとなったのは、1950年代以降ベーコンと友人関係にあった美術評論家のデイヴィッド・シルヴェスターです。

「写実主義の崖っぷちを歩いているような絵を描きたい」と語るベーコンが、どのような芸術を目指していたのかを探ってみましょう。

フランシス・ベイコン・インタヴュー (ちくま学芸文庫)

1,430円 (税込)

 

フランシスベーコン 感覚の論理学

哲学者ドゥルーズが、ベーコンの作品を通して自らの哲学論をまとめた名著で、彼の唯一の絵画論です。

ベーコンを”器官なき身体の画家”と論ずるドゥルーズは、ベーコンの作品をどのように見ていたのでしょうか?

ドゥルーズのベーコンに対する細かい分析を理解したうえで作品を鑑賞してみれば、新たな発見があるかもしれません。

フランシス・ベーコン 感覚の論理学

2,574円 (税込)

 

まとめ

ベーコンの作品は、戦争や当時の世相、恋人との死別など様々な要因が複雑に絡み合いながら、肉体をモチーフとした一貫したスタイルで見る者を魅了します。

一見ショッキングな作品にも見えますが、モデルとなった人物や、ベーコンの心情を推察しながら見ていくと、さらにベーコンという画家の魅力に取り憑かれていくことでしょう。

動と静が入り混じったベーコンの繊細な作品を、ぜひ間近で鑑賞してみてください。

 

 

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