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「M+」(エムプラス)とは?香港西九龍文化区にオープンしたアジア最大級の美術館

2021年11月12日、20世紀・21世紀の視覚芸術をテーマにしたアジア初の美術館「M+」(エムプラス)が香港に開館しました。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ロンドンのテートモダン、パリのポンピドゥーセンターにも匹敵する面積とコレクションを持つM+。

西九龍文化区の開発の目玉として提案された同館は、当初2017年の開館予定を目指していましたが、工事の遅れや経営陣の入れ替え、税金の追加投入など度重なる修正により、開館まで長い道のりを歩んできました。

世界が注目する「M+」とは一体どんな美術館なのか、その実態について詳しく解説していきます。

 

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西九龍文化区に誕生した香港の新しいランドマーク「M+」

香港の西九龍文化区、ビクトリア・ハーバーのウォーターフロントに位置するM+は、20世紀から21世紀の視覚芸術、デザイン、建築、映像など、芸術文化作品の収集・展示を目的とした美術館で、設立費用は日本円でおよそ865億円を超えます。

コレクションもさることながら、キュレーターや保存修復師、経営陣を含むスタッフ全てにおいて国際的なプロフェッショナルがこの美術館のために集められました。

建築設計は、テートモダンを設計したことでも有名なスイスの世界的建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロンとイギリスの建築会社TFPファレルズ、アラップが共同で担当。

香港の新しいランドマークとなったLEDの巨大なスクリーンは香港の夜景でも一際目立つ存在です。

 

6万5000平米の敷地を持つアジア最大級の文化施設

香港

香港

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6万5000平米の建物には、1万7000平米におよぶ33の展示室に加え、3つの劇場とヴィデオ・アート作品を鑑賞できるメディアテーク、ミュージアムショップ、図書館、アーカイブルーム、美術館オフィス、レストラン、カフェバー、そしてビクトリア・ハーバーを一望することができる屋上庭園が備えられています。

 

アジアを代表する美術館を目指して

M+は、アジア初の視覚芸術をメインする美術館として、世界のトップ5に入ることを目標に掲げています。

当初、香港政府はアメリカのグッゲンハイム美術館やパリのポンピドゥー・センターと交渉し、海外の著名な美術館の香港支部として、西九龍文化区に映像、近現代美術、水墨画、デザインの4つのテーマ別の美術館を建設することを計画していましたが、資金上4つの美術館の建設を断念せざるをえず、視覚芸術をメインとした美術館を建設することになりました。

欧米のトップ美術館と肩を並べるため、他の美術館を参考にしながら、アジアの独立した視点を持つ現代美術館であることがM+の目標です。そのため、香港とその近隣地域に焦点を当てた作品を積極的に収集しています。

 

ウリ・シグの寄贈からなる膨大なコレクション

香港 M+M+ Sigg Collection, Hong Kong. By donation. © Zhang Xiaogang

美術館の展示は6つの構成で成り立っており、スイス人のコレクター、ウリ・シグが寄付した中国の現代美術作品がコレクションの基礎を形成しています。

ウリ・シグの協力により、1950年以降の美術、建築、デザイン、映画、大衆文化に関する5,000点以上の作品と、1万5,000点以上の資料が収蔵されました。

 

彼のコレクションからなる展示エリア「革命からグローバリゼーションへ」では、1970年代初頭から現在まで、中国政府による制限の下で表現の自由を求め制作を続けてきた中国人アーティストの作品が並びます。

コレクションは一部が寄付、一部が購入という形式で収蔵されており、M+はウリ・シグに対して約25億7千万円を支払いました。

 

アンソニー・ゴームリーの巨大インスタレーション作品

「アジアン・フィールド」と題したエリアの一角には、この美術館の見所の一つでもあるイギリス人アーティスト、アンソニー・ゴームリーによる巨大インスタレーション作品が広がります。

ゴームリーが広州市華東鎮に集まった300人の参加者と共に、5日間で約20万個の土偶を作り空間一面に並べた作品です。

土偶はその土地の粘土を使い、地元の人々の協力を得てすべて手作業で制作されました。

この作品は中国の広大な国土と人口の多さを表現しています。

 

倉俣史朗デザインの寿司屋「きよ友」が香港に蘇る

もう1つの見所は、1988年に倉俣史朗がデザインした新橋の寿司屋「きよ友」。

経営難により2004年に閉店し、M+が店舗一式を約2億1千万円で購入し移築したもので、原寸大のまま展示されているこの作品は人気の撮影スポットとなっています。

日本の伝統とモダンさが同居する寿司屋は当時のままの状態で残っており、M+で多くの人が鑑賞できるようになりました。

 

他にも魅力的な展示が多数

「Individuals, Networks, Expressions」と題されたエリアでは、アジアの視覚芸術にフォーカスした作品が多数展示されています。

他にもコンセプチュアルアートをメインにしたエリアでは、マルセル・デュシャン、ジョン・ケージ、オノ・ヨーコ、ナム・ジュン・パイクという4人の先駆者に始まり、27人のアーティストを紹介。

「Design and architecture from Asia and beyond」では、過去70年間にアジアや世界に大きな影響を与えた家具、建築、グラフィックアート、デザインオブジェクト作品500点以上紹介しています。

 

アイ・ウェイウェイの作品を公式サイトから突然削除

元イギリス植民地だった香港は、1997年に「一国二制度」のもと中国に返還され、2047年まで独自の法的・経済的基盤の維持を保証された特別行政区になりました。

しかし近年、一党独裁の中国政府による影響が強くなり、香港国内で抗議活動が活発になっています。

 

香港の民主主義が脅かされる中、M+のオープン前に同館の公式サイトで掲載されていたアイ・ウェイウェイの作品《Study of Perspective: Tian’anmen》(1997)が突然削除されるという事件が起こりました。

アイ・ウェイウェイは、世界的に著名な中国の最も影響力のある現代アーティストであり、社会活動家です。

この写真作品は北京の天安門を背景に、作家自身が中指を立てている様子が撮影されたもので、M+の公式サイトに掲載されるや否や、中国・北京の政治家が抗議をし、全世界のアート業界に衝撃を与えました。

 

艾 未未(アイ・ウェイウェイ)
1957年、中国・北京生まれ。中国の最も影響力のある現代アーティスト、社会活動家。
彫刻、インスターレション、建築、キュレーティング、写真、映像など表現領域は多岐にわたる。さらに社会評論家、政治評論家、文化批評家としても活動している。現在、ベルリン在住。

 

2020年北京で施行された国家安全保障法(国家の安全を脅かす破壊活動、テロリズム、分離独立、外国勢力との共謀を禁止する法律)を背景に、「M+の一部の作品がこの法律に違反しているのではないか」「公金を使用してこの美術館が伝える価値とは何か」という中国当局からの警告は、香港のギャラリーやアーティストたちを団結させました。

ウリ・シグは一連の出来事について、

現代美術は現実を批判し、傷口に指を入れることさえあるかもしれない。

(中略)

現代美術はあなたの良き友人ではない。

この世界の現実に目を向け、その分析や批評に関心を持つことが求められている

と、メディアに答えています。

 

削除された作品は30枚の写真からなるシリーズ作品で、アイ・ウェイウェイは他にも、パリのエッフェル塔や、アメリカのホワイトハウスなど、世界のあらゆる地のランドマークの前で中指を立てた写真を撮影しています。

 

アイ・ウェイウェイの他にも、香港を離れて台湾に亡命したケイシー・ウォンの作品「Paddling Home」(2009年)なども、公式ウェブサイトから削除され、中国政府の検閲の厳しさを物語っています。

 

香港市民から好評の「M+」

M+の開館前には招待制の内覧会が開催され、アートコレクターやパトロン、ギャラリーをはじめとする業界関係者だけでなく、美術館スタッフの家族や友人、旅行業界の関係者やタクシー運転手、有名インフルエンサーなど、一般の人々にも一足先にその姿を披露しました。

内覧会に参加した一般の人からは、

長い年月を経て、ようやく税金の使い道が分かりました。

今まで香港にこのような施設は無く、私たちにとって初めての経験になります。

まさに今の香港に必要な施設だと思います。

と、安堵と喜びに満ちた感想を聞くことができ、アートコレクターからは、

香港の展覧会は、香港在住の私にはとても感動的でした。

西洋人が持つ香港のイメージではなく、まさに現代の香港を表しています。

というコメントも寄せられました。

 

2019年に香港で起きた民主派デモ以降、香港での反対意見の取り締まりを強化する中国政府。

2020年6月に施行された国家安全保障法により、これまで民主派の活動家や野党政治家などが次々と逮捕・起訴されています。

中国当局の検閲に対しM+がどこまで抵抗の姿勢を見せられるのか、政治的にも世界から注目されるアートスポットとなっています。

 

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