「日本芸術院」が新会員を発表、杉本博司・横尾忠則・田渕俊夫など9名が選出
国の栄誉機関である日本芸術院が、令和4年度日本芸術院会員候補者を発表しました。
現会員による投票や会員総会の承認を経て決定した新たな候補者は、田渕俊夫(絵画)、宮田亮平(工芸)、横尾忠則(建築・デザイン)、杉本博司(写真・映像)、観世清和(能楽)、豊竹咲太夫(文楽)、麻実れい(演劇)、白石加代子(演劇)、黒柳徹子(映画)の9名です。
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日本芸術院が新会員を発表
文化庁に設置されている「日本芸術院」は、美術・文芸・音楽・演劇・舞踊等、芸術各分野の優れた芸術家を優遇するため、1907年に創設された国の栄誉機関です。
芸術の発達に寄与する活動を行うとともに、卓越した芸術作品を制作した芸術家や芸術の進歩に貢献した人物に対して、毎年、恩賜賞と日本芸術院賞を授与。
所蔵作品の無料公開や、日本芸術院賞受賞作品展、会員による講演会等の開催といった活動を行っています。
日本芸術院会員は非常勤の国家公務員に当たるもので、任期に終わりはなく、年間250万円の「年金」が支給されます。
2023年3月1日、日本芸術院は現会員による投票や会員総会の承認を経て決定した新たな会員を発表しました。
美術部門会員に選出された4名のプロフィールと推薦理由を詳しくご紹介します。
田渕俊夫(絵画)
現代日本画壇を代表する田渕俊夫は、81歳の現在も意欲的な作品を発表し続ける画家です。
東京都生まれで、東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻を卒業し、1967年に東京藝術大学大学院を修了。
1970年には日本美術院院友に推挙され、日本画家の平山郁夫に師事します。
1970年から愛知県立芸術大学で、1985年からは東京藝術大学で教鞭をとり、2005年には東京藝術大学副学長に就任。
約40年間にわたって多くの後進の指導にあたっています。
推薦理由
東京藝術大学において学び、平山郁夫に師事し、幾多の研鑽を積み、院展の新しい風景画の世界を確立し、今なお前進している。奈良や京都の日本の古典美術、アフリカやインド、中国の古代遺跡をたずね取材し、長い年月をかけて様々な地域の自然のたたずまいと時代を考証して描いてゆく制作態度は堅実性が非常に高い。
「智積院講堂の襖絵[朝陽]・[夕陽]等60面」、「薬師寺食堂の壁画[阿弥陀三尊浄土図]・[仏教伝来の道と薬師寺]」等、数々の作品を寺社に奉納し、それぞれの作品はその空間と共に観る者を静謐な意識へと導き、日本の四季の移ろいを表現した繊細な画面に、自然への畏敬の念と力強さを同時に感じ取ることができる。
日本画家としての功績は極めて顕著であり、描かれた作品はていねいな筆使いと優美な気品を示し高く評価されている。
宮田亮平(工芸)
蝋型鋳金作家・二代目宮田藍堂の三男として生まれ、現在77歳の宮田亮平。
イルカをモチーフとした「シュプリンゲン」シリーズなどの作品で、国内外で多数の美術展に参加しています。
東京藝術大学美術学部工芸科鍛金専攻卒業、同大学院美術研究科工芸専門課程鍛金専攻修了後、文部省在外研究員として、ドイツ・ハンブルグ工芸美術博物館に派遣。
「日本現代工芸美術展」大賞・文部大臣賞・内閣総理大臣賞や「日展」特選・内閣総理大臣賞等を受賞し、2012年には日本藝術院賞を受賞しています。
長年、東京藝術大学学長として大学運営にあたり、2016〜21年まで文化庁長官として日本の文化行政の舵取りも担ってきました。
推薦理由
日本における金工作家の第一人者である。イルカをモチーフにした代表作「シュプリンゲン」シリーズや東京駅の「銀の鈴」など、その作品は多くの人々に親しまれているとともに、作品がメトロポリタン美術館に収蔵されるなど国際的評価を得ている。
東京藝術大学の学長を2期10年の間務めた後の、文化庁長官時代には、皇室ゆかりの文化財を 公開する「紡ぐプロジェクト」を通して文化行政を広くアピールし、地域文化を国内外に発信する「日本遺産」などで日本文化の国際化を推進した。
令和元年には天皇陛下の即位 を祝う内閣からの献上品を制作するなど、これまでの実績と経験を活かし、後進の指導と育成、芸術の発展に貢献している。
豊かな人間力による幅広い交流と数々の要職歴任を通じて、文化芸術の普及に尽力している。
横尾忠則(建築・デザイン)
現在86歳の横尾忠則は、1960年代からグラフィックデザイナーとして、日本の前衛シーンやポップ・シーンを代表する存在として活躍する現代美術家です。
1967年にニューヨークのポスター・オリジナルズ・ギャラリーで個展を開催。
その時展示していたポスターを、MoMA(ニューヨーク近代美術館)が全点買い上げることになったという洗練なデビューを経験し、現在も日本の現代アートシーンを担う作家の一人として活躍。
紫綬褒章、高松宮殿下記念世界文化賞など、日本国内の名だたる賞を受賞しています。
推薦理由
日本のグラフィック・デザイン界において 1960年代前半から独自のイラストレーションを主体とするポスターデザインで注目され、海外の評価は「第6回パリ青年ビエンナーレ」展版画部門グランプリ受賞に始まる数々の美術・デザイン賞、各国公私立美術館個展 招待等に現れている。油画作品を含め劇的かつ物語性を内包する視覚表現はデザイン、アートの領域を超えて一般市民の広く支持する作家の存在を形成した。
令和3年に愛知県美術館、東京都現代美術館ほかを巡回した個展においては初期のデザイン表現を再公開し、現在の主題として注目される「寒山拾得」の作品群に絶妙闊達の技法を展開した。
活発な創作活動は近年の受賞歴にも反映され、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞が続いている。
著作も多く、後進への影響力は計り知れないものがある。
杉本博司(写真・映像)
現在も意欲的に新たな芸術表現を開拓し続ける杉本博司は、日本を代表する写真家、現代美術作家、建築家、演出家です。
2017年に小田原文化財団を設立し、小田原に能舞台やギャラリー、茶室などを備えた文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をオープン。2021年には、京都・両足院大書院に襖絵「放電場」を完成させています。
これまでの受賞歴としては、第30回毎日芸術賞、第21回ハッセルブラッド国際写真賞、第21回高松宮殿下記念世界文化賞、紫綬褒章、フランス芸術文化勲章オフィシエ章、第1回イサム・ノグチ賞、文化功労者などがあります。
推薦理由
この40数年、現代写真の世界のみならず、現代美術の分野においても、高い評価を得てきた作家である。「ジオラマ」、「劇場」、「海景」など初期の代表作から、「建築」、「関数模型」、「放電場」の連作にいたる多様な写真は言うまでもなく、自ら収集してきた古美術や化石、隕石などのコレクションとのコラボレーションや文楽など古典芸能 にも深く関わって、実に多彩な才能を発揮している。
氏は「真実らしさで満ちている世界 では、写真が真実を写し出すことはない」としながらも、「写真には噓をつかせない」というモダニズムの倫理を厳密に守ろうとしている。
写真の起源はもとより、芸術とは何か、 広く物事の根源を考える姿勢を貫いている。
一個人の存在を超えた、悠久の時間の蓄積や流れを独自のコンセプトと表現手段を駆使して、今なお、さらに国際的に活躍している。
その他の芸術部門には、観世清和(能楽)や豊竹咲太夫(文楽)が選出
その他の部門では観世流宗家二十五世左近氏の長男として生まれ、能楽界を牽引する存在の観世清和(能楽)、重要無形文化財「人形浄瑠璃文楽太夫」保持者である豊竹咲太夫(文楽)、宝塚の出身者として日本演劇に大きな存在感を示してきた麻実れい(演劇)、独自の演技の境地を拓き現代演劇の発展に寄与してきた白石加代子(演劇)、70年近く放送界で活躍してきた黒柳徹子(映画)らが新会員に選出されました。
日本芸術院は「芸術上の功績顕著な芸術家を優遇するための栄誉機関」(日本芸術院令第1条)として設置された公的機関である一方で、その在り方をめぐり「推薦基準の不透明さ」などが問題視され、2021年に見直しが提言されました。
それを受けて日本芸術院は推薦基準を公開し、ジェンダーバランスへの配慮や、現代美術・バレエ・現代舞踊・現代演劇など、現代的要素を持つ芸術も推薦対象となることも明記されています。
また対象となる芸術分野も時代と共に変化し、「日本画」「洋画」「彫塑」の分野は、「絵画」「彫刻」に改訂され、「建築」の分科名は「建築」「デザイン」に変更。文芸分野には新たに「マンガ」分科も創設されています。
今回選出された新会員9名を加え、総会員数は109名(定員:120名)となります。
日本芸術院
公式HP : https://www.geijutuin.go.jp/
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